境界線争い
翌朝、塔跡の仮設テントに戻った。
夜の戦闘ログは自動で記録されていて、データ端末の画面が赤く点滅している。
「魔力反応、まだ残ってるな」
ルノがあくびをしながら言った。
「残留波が安定してない。塔の時術核、完全には止まってない」
「一晩経ってもかよ。相当やばいな」
端末の画面を拡大し、昨夜の座標データを重ねる。
点が一つ、わずかに西へずれていた。
「……あれ? この線、変わってる」
「線?」
「都市境界線。王都の正式地図より、石橋ひとつ分ほど西にズレてる」
「誤差じゃなく?」
「誤差にしては不自然。ほら、ここ」
私は地図の境界を指でなぞる。
赤線の上に新しい青線が重なっている。
「青線が今朝のデータ。赤線が昨日。誰かが夜中に書き換えた」
「誰がそんなことを」
「議会以外に、アクセス権はない」
……夜の襲撃。議会の紋章。
偶然なわけない。
「ルノ、王都の北区データを開いて」
「北区? 塔は東区だぞ?」
「いいから。そこにも時術塔がある。双子構造だから、片方が動くともう一方も影響を受ける」
ルノが端末を操作した。画面に北区の地図が表示される。
「……なんだこりゃ。北区の塔、表示が消えてるぞ」
「やっぱり。データごと削除されてる」
「つまり、議会は東区の暴走を隠すために、北区の存在を消した?」
「そう。塔が“時報”を共有してることを、知られたくないんだ」
私は息をのんだ。頭の中で線がつながりはじめる。
「そんなことして何の得がある」
「時間の流れを操作できる。都市の魔力配分をいじれば、税も交易も好きに操作できる」
「うわ、金の匂いしかしねえ」
私は苦笑した。
「測量士って、世界の裏側を測る仕事だったんだね」
「それ、笑って言うことか?」
「笑っとかないとやってられない」
ロッドの先端が微かに光った。
「……あ、また反応した」
「何が?」
「塔の残留魔力。昨日より強い」
端末の針が震えた。波形が脈を打つように揺れる。
「暴走が再開してる?」
「たぶん。誰かが再起動したのかも」
「議会か?」
「可能性、大だね。北区の塔を消した直後に東区の核を動かす理由は、それしかないよ」
「つまり、もう一回崩れるってことか」
「ええ。今度は街ごと」
ルノが息をのんだ。
「なあ、ミリア。これ、本当に測るだけで済むか?」
「測るしかない。止める方法を探すには、正確なデータが必要」
「……やっぱりおまえ、怖いくらい真っすぐだな」
「曲がった地図よりはマシでしょ」
テントの外で風が吹いた。
塔跡の砂が巻き上がり、空に光の筋を描いた。
「ほら、始まった。再暴走の兆候」
「今度は止めるつもりか?」
「塔の暴走を止める。そして、議会の嘘も止める」
ロッドを握り直す。
「行くよ、ルノ。境界の向こう側まで測りに」




