証拠隠し
「調査はここまでだ。測量局の決定だ」
レーン局長が書類を机に叩きつけた。紙が散り、私の顔にかかった。
……うわ、嫌がらせか。紙の扱いに性格出るんだよ。
「どうしてですか? 塔の“時術核”は暴走してました。調査を止めたら危険です!」
「危険なのは現場に近づくおまえだ」
「今は封印魔術が切れてるんですよ? 放置したらまた崩れるかもしれない!」
「議会が処理を指示する。見習いが口を出すことではない」
「見習いでも、現場を見たのは私です!」
局長が睨みつけてくる。
「ミリア、君は自分の立場をわきまえろ。上層部の判断は絶対だ」
「判断って、現場を見ずに机の上で決める判断ですか?」
ルノが小声で言った。
「ミリア、落ち着けって。局長、もうキレてる」
「ルノ、私はまだ怒ってないよ。でも、もうすぐ怒る」
……よく言えば情熱的、悪く言えば短気。自覚はある。
「ほら、これを見てください!」
机の上の地図盤を操作して、塔の座標を拡大した。
「昨日と位置が違います! 塔が崩れたあと、データが書き換わってる!」
「それは更新だ。上層部の承認済みだ」
「上層部って、誰です?」
「議会だ」
……出た、最強ワード“議会”。それを出せば全部黙ると思ってる。
「じゃあ、崩壊報告も議会の“更新”ですか?」
「ミリア、その言い方は危険だ」
「危険なのは嘘の地図です!」
局長が机を叩いた。低い音が響いた。
「命令に従え。測量データはすでに削除した」
「え、削除?」
画面をのぞき込むと、私のフォルダが次々と消えていく。
「嘘、消されてる!」
「当然だ。公文書として残す価値はない」
「そんな勝手な!」
思わず机を叩いた。書類が跳ね、ルノがあわてて拾う。
「ミリア、だから落ち着けって!」
「落ち着いていられるわけないでしょ!」
……冷静に見たら完全に喧嘩。でも、ここで引いたら二度と真実に届かない。
「局長、塔の時術核は今も暴走中です。魔力値、下がってません」
「データは確認した。異常なしだ」
「その“確認”データが改竄されてるって言ってるんです!」
「根拠を示せ」
「削除されたファイルです!」
「存在しないデータは証拠にならない」
……論破された気がしてムカつく。いや、違う、理屈をねじ曲げられてる。
「なら、現場で測り直します」
「命令違反だ」
「命令より正確さの方が大事です!」
ルノが小声で言った。
「おい、マジで行く気か?」
「当然。塔の座標、まだズレてる」
「夜だぞ? 立入禁止区域だぞ?」
「夜だから都合がいいの。誰も邪魔しない」
局長が立ち上がった。
「ミリア、やめろ!」
「止めたって無駄です。私は行きます!」
ドアを勢いよく開けて、廊下に飛び出した。
背後でレーン局長が何か叫んでいた。
でも、もう聞こえなかった。
廊下の窓から見える砂時計塔が、かすかに光っていた。
「まだ動いてる……あれを止めなきゃ」
ルノが追いついてきた。
「おい、どうする気だよ!」
「測るの。全部、正しく」
「なあミリア……もう引き返せないぞ」
「最初から、引き返すつもり、ないもん」
私はロッドを握り直した。
……塔の核が暴れてるなら、今夜中に確かめるしかない。
「待ってろ、塔。今度こそ、時間を測り切る」




