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第14話:『たった一人の戦争』

「――行かせない!」


神剣グラムを抜き放ったシンが、リリーナを乗せた囚人用の馬車に向かって突撃する。 周囲の生徒や教師たちは、信じられないものを見る目で、その光景をただ見つめていた。


シンの前に、二人の騎士が立ちはだかる。 先ほど、彼に絶望を告げた、因縁の二人だった。


騎士の一人が短刀を抜き、シンの懐に潜り込む。だが、シンは卓越した反射神経でその柄を蹴り飛ばした。


「……身体強化の魔術さえかければ、さっきのような不意打ちは食らわない」


シンが神剣を構えて言い放つと、騎士は面倒くさそうに剣を抜いた。


「余計な仕事を増やしやがって」


騎士とシンの激しい剣戟が始まる。 剣が衝突するたびに火花が散り、衝撃波が周囲を陥没させる。 シンの腕のブレスレットが蒼く光り輝くと、神剣はさらに威力を増していく。


「……っ!」


騎士はついに一撃を防ぎきれず、切り伏せられた。 それを見ていたもう一人の騎士が、拍手しながら前に出る。


「すごいっすね。ああ見えても、あの人、王国騎士団でトップ3に入る腕前なのに。……でも、英雄ごっこもここまでっすよ。これ以上邪魔をするなら、あなたは反逆罪で死罪となります。まさか、たった一人でこの王国に戦争をしかける気ですか?」


「…………」


シンは「死罪」という言葉に、一瞬動きを止める。


「しかし、その腕は惜しい。どうです? 剣を下ろし、引くならば、今の行動は不問にします。……合理的に考えてください。どちらが得か」


「……合理、的、か」


シンが剣を下ろすと、軽薄な騎士が笑みを浮かべた。


「さすが、アルカディア学園の神童様。君は正しい選択をしま……」


騎士が言い終える前に、神剣が投げ飛ばされ。 騎士の頬をかすめる。


「……なっ!」


騎士は驚きの表情をすると同時に、シンが背後に回り込み。投げ込んだ神剣を掴み。


「合理的で感情が定まるんだったら、元の世界で、もっとうまく生きれたよ!」


シンの叫びと共に振り下ろされた神剣が、とっさに構えた盾もろとも、騎士の鎧を砕き、戦闘不能に陥らせた。 シンは、因縁の二人を、そして、過去の自分を、力づくで打倒した。



【馬車周辺】


「いいか、セラよ。君の役目は、無様にやられる王国騎士団員だ。間の抜けた声でやられてくれると非常におもしろ……助かる」


黄金の鎧を纏った神楽が、鉄製の鎧を着たセラフィムに指示を出す。


「……私のだけ、鎧も武器も粗雑すぎませんか。鎧は鉄一枚ですし、剣に至っては、模造刀ではないですか」


「予算には限りがあるんだ。文句は聞かん」


「まあ、いいでしょう。で、これからどうするのです」


「あの二人が倒されれば、私が前に出る。『王国騎士団長、神楽正義! この呪われた聖女は渡さん!』とな。ふっ、ふははは、私の迫真の演技に、期待したまえ」


神楽が腕を組んで悦に入っていると、シンが言い放った魂の叫びが、セラフィムの耳に届く。


『合理的で、感情が定まるんだったら、元の世界で、もっとうまく生きれたよ!』


「…………」


セラフィムはシンの覚悟が決まった目を見て釘付けになっていた。


シンは、他の騎士を打ち倒しながら、馬車に向かって駆けてくる。


「よし、私の出番だな!」


神楽が、シンの前に立ちはだかろうとした、まさにその瞬間。 セラフィムが、神楽の肩を、背後から鷲掴みにする。


「ん? どうした、セラ……」


「――どきなさい、三流役者」


セラフィムは、氷のような声で言うと、神楽の体を、そのまま囚人用の馬車の壁に叩きつけた。 ゴシャッ、という、とても演技とは思えない鈍い音が響く。


そして、彼女は、シンの前に、静かに、しかし、絶対的な存在感を放って、立ちはだかった。



【シン視点】


馬車に向かうと、黄金の鎧を纏った騎士が、壁に叩きつけられて伸びている。 そして、その前に、白銀の鎧を纏った一人の騎士が、静かに立っていた。


「……聖女を救いたいというのなら、王国騎士団長である、この私、セラフィム・レイを打倒してみせなさい」


セラフィムは模造刀を抜き、切っ先をシンに向ける。


「……さぁ。私に見せなさい。その剣が、誰かのために振るわれるのかを」


彼女は、その模造刀に自らの膨大な魔力を注ぎ込み、刀身をダイヤモンドのように硬化させ、神々しい純白の光をまとわせた。 シンが振るう、規格外のパワーを持つ「本物の神剣」と、セラフィムが振るう、卓越した技量と魔力だけで「聖剣級に昇華された模造刀」が激突する。


一合。 二合。 三合。


甲高い衝突音とは裏腹に、その衝撃波は真空を作り上げ、剣戟の中枢では無音が支配していた。 圧倒的な技量により、セラフィムはシンの猛攻を悉くいなしていく。


「どうしたのです。まさか、この程度の力で反逆を企てたのですか」


「……っ!」


シンが反論できずに歯を食いしばると、セラフィムは彼の懐に潜り込み、蹴り飛ばす。


「気迫は十分ですね。ですが、それだけで勝てるほど、私は甘くありませんよ」


セラフィムは肩についた埃を払いながら言い放った。



【舞台裏】


「……っ。セラめ、本気で叩きつけやがって……」


神楽は目を覚まし、馬車にもたれて立ち上がる。


「まあ、良い。あいつも馬鹿ではない。ほどほどで切り上げて、やられてくれるはず……ん? 日が暮れかけていないか。一体どれだけ戦っているんだ?」


神楽が馬車の中にいるリリーナに小声で尋ねると、彼女は苦い表情で返した。


「……多分、三時間ぐらいは戦っています」


「はっ? あ、あの、馬鹿セラァァァッ!! ほどほどに切り上げろよ! 人件費! 光熱費(魔力)! 設備修繕費! ありとあらゆるリソースが一秒単位で消し飛んでるんだぞ! というかリリーナ、お前もなぜ止めんのだぁ!」


「……だって、クライアントが、何度膝をついても、諦めずに立ち上がってくるんですもの。敵わないと分かっていながら、それでも私を助けようと……。いえ、もう、私なんて関係ないのでしょうね。自分から逃げないために、必死に食らいついているんです。……そんな姿を見て、止めるなんて野暮なこと、できませんわ」


「……はぁ。あの監査官は三流役者だが、お前は一流の役者だよ、エルザ。もういい。神剣を、第三段階まで開放しろ。このセット(舞台)も使い物にならんだろうし。あのバカ(セラ)を、このセットごと吹き飛ばしても構わん」



【セラフィム視点】


(素晴らしい。あの濁り切った魂が、ここまで鮮烈な光を放つとは。……悔しいですが、あのディレクターのやり方は、否定しきれません)


セラフィムは模造刀に込めていた魔力を抑え、次の一撃で膝をつくように調整する。 その時、馬車の中から、神楽の怒声が耳に入った。


(神楽の目が覚めましたか。五月蠅く言われる前に、さっさと膝でも付きましょう……。へっ? 神剣の第三段階を開放?)


「う、嘘、でしょ……?」


セラフィムが間の抜けた声を漏らすと、目の前で、シンが握る神剣が、これまでとは比較にならない、世界そのものを歪ませるほどの、禍々しいほどの聖なる息吹を上げ始めた。


シンは、神剣に意識を奪われるのを必死に抵抗しながら、剣を天高く構える。


(あんの三流ディレクタぁー……! 後で覚えておきなさいよ!)


セラフィムは感情を露わにして、手にしていた模造刀を投げ捨てた。 そして、何もない空間から、一冊の、白銀に輝く書物――『聖典』を顕現させる。


「―――『原初の光は、混沌を律し、秩序を成した』!」


彼女が、聖典の一節を、朗々と詠み上げる。それは、もはや「魔法」ではない。世界の理そのものに干渉する、最上位の天使にのみ許された「権能」。


彼女の前に、幾重にも連なる、神聖な文字の障壁が展開された。


「聖典律法 序章 第3節《絶対秩序アブソリュート・オーダー》」


次の瞬間。 シンの振り下ろした神剣グラム「第三段階」の、純粋な破壊の奔流が、セラフィムの作り出した絶対的な防御壁と激突した。


その一瞬――。


世界から、音が消えた。


光と光がぶつかり合い、空間が悲鳴を上げる。


「おお、聖典律法か。久しぶりに見た。これはいい絵になるぞ」


神楽はスタッフに、この映像を取り逃さないように厳命していた。 やがて、光が収まる。セラフィムの防御壁は、全面に亀裂を走らせながらも、その役目を果たし、そして、緩やかに光の粒子となって砕け散った。


シンは過呼吸になりながら、強大な魔法を放ったセラフィムを見つめている。


「……合、格、です」


そう、か細い声で呟くと、彼女の体から、すっと力が抜けた。 糸が切れた人形のように、セラフィムは、その場に、ゆっくりと崩れ落ちた。


シンは、目の前で起こった衝撃的な光景に、ただ立ち尽くす。 だが、すぐに我に返った。彼の目的は、勝利ではない。リリーナを救うことだ。 彼は、倒れたセラフィムを一瞥すると、一直線に囚人用の馬車へと駆け出した。


馬車の前では、神楽が剣を抜いて名乗りを上げようとしていた。


「よくぞ、ここまで来た。だが、あの伸びている三流は偽物だ。この私こそが、本物の王国騎士団長、かぐぅら……ごふぅ!」


リリーナが、神楽の鉄兜を掴み、馬車の角に全力で打ち付けた。


彼女は、崩れ落ちる神楽を踏み台にして馬車を降り、演技を始める。


「……な、なぜ、来てくださったのですか、シン様。私は、聖女として処刑された母と同じ、この運命を受け入れるつもりでしたのに……」


「君が諦めても、僕が諦めない!」


シンの決意に、彼女の心に、初めて、運命に抗いたいという火が灯った。 シンはリリーナを抱きかかえ、逃走を始める。


神楽は頭を押さえながら立ち上がり、叫ぶ。


「逃がすな! 包囲せよ!」


神楽の指示により、王国騎士団が一斉に動き出す。 数多の魔術の弾丸が放たれる中、シンはリリーナを守りながら走るが、瞬く間に完全に包囲され、絶体絶命の状況に陥る。


神楽は一歩前に出て、勝ち誇ったように言う。


「ここまでだ。君たちの身柄は、この王国騎士団長、神楽ジャスティス様が、こうそ……ごっふう!」


巨大な岩壁が突如として隆起し、閃光と共に爆発。


神楽も騎士団もろとも吹き飛ばされた。


煙幕の中から馬が現れ、シンはリリーナを乗せ、全力で逃走する。 馬上にて、リリーナが、高台で連続して浮かび上がる魔法陣を見て、小さく呟く。


「……あれは、アルパス様の魔術」


シンは、前だけを見据え、視線も合わせない。ただ、必死に馬を駆る。 その口から、誰にも聞こえないような、しかし、確かな感謝と懺悔を込めた一言が、風に溶けた。


「……師匠」



【戦場の後】


戦闘が終わり、負傷した(フリをしている)天使たちが立ち上がる中、神楽は満足げに兜を脱いだ。


「カット! 素晴らしい! 最高のシーンだったぞ! 特にアルパス、いいタイミングでアシストした。流石だ!」


医療班が、意識を失ったセラフィムの治療にあたっている。 神楽は、シンたちが消えていった暗い森の奥を見つめ、その顔から笑みを消した。


「最高のシーンだった。……だが」


彼は、全部署に、新たな指示を飛ばした。 その声は、先ほどまでの興奮が嘘のように、冷え切っていた。


「――本当の地獄は、ここからだ」


「全職員に通達。シナリオのフェイズ3に移行。クライアントとヒロインの追跡を開始。……ただし、決して捕らえるな。彼らに、逃れきれない『絶望』を、心ゆくまで味わわせろ」


第14話、お読みいただきありがとうございました!


師の助けを得て、ついにリリーナと手を取り、逃げ延びたシン。 しかし、神楽の口にした「本当の地獄」とは……?


この展開の先が気になる!と感じていただけましたら、 下の【★★★★★】での評価やブックマークが、作者の(睡眠予算と戦いながら)魂を込めて執筆する、何よりの励みになります!


また明日の6時30分にお会いしましょう。 Studio_13

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