第12話:『災厄の宣告』
シンは、自室のベッドの上で、ただ天井を見つめていた。 脳裏には、自分の手を見つめて恐怖に震えるリリーナの姿が、何度も焼き付いて離れない。
神剣も、古代魔法も、錬金術も、彼女のたった一粒の涙を拭うことすらできなかった。 英雄や賢者、神童、その全てが、虚しい称号に聞こえる。
コンコン、と控えめなノックの音。 入ってきたのは、教師の一人だった。その表情は、いつになく硬い。
「シン君。校長先生が、君に話があるそうだ。至急、校長室へ」
校長室は、薄暗く、古書の匂いに満ちていた。
校長は、シンをソファに座らせると、重い口を開いた。
「リリーナ君のこと、驚いたじゃろう。……そして、君は、自分の無力さを感じておるかもしれん。だが、あれは、リリーナ君のせいではないのだ」
校長は一呼吸おいてから続ける。
「あれは……彼女の血に刻まれた、抗いようのない『運命』なのじゃ」
校長は、シンに、この国の隠された歴史を語り始めた。
リリーナが、かつてこの国を治めていた旧王家の、最後の生き残りであること。 旧王家は、強大な聖属性の力を持つが、同時に、その力が暴走すると、周囲の生命力を吸い上げ、アンデッドと呼ばれるゾンビを生み出す。古の「呪い」をその血に宿していること。
「先日現れた聖獣グリフォンも、世界の調停者として、呪いの元凶であるリリーナ君を討滅するために現れたのじゃ。そして、先日の訓練でのゴーレムの暴走も……おそらく、彼女の力が、無意識に影響を与えたものじゃろう」
そして、校長は、残酷な「真実」を告げる。 その瞳には、シンへの、深い憐れみの色が浮かんでいた。
「彼女の呪いが、今、目覚めかけておる。……その引き金は、おそらく、君の存在じゃ、シン君。君という、規格外の存在の隣にいたことで、彼女の魂が、その力を無意識に増幅させてしまったのじゃ……」
校長は、シンのせいではないとフォローの言葉を続ける。 だが、その言葉は、もはや彼の耳には届いていなかった。 シンの脳裏には、たった一つの宣告だけが、何度も何度も鳴り響いていた。
「―――君が、彼女の呪いを、目覚めさせてしまった」
(自分のせいだ)
(僕が、強すぎたから。僕が、彼女の隣にいたから)
(僕の力が、最も大切な人を傷つけてしまった)
激しい罪悪感が、シンの心を支配する。
「な、治す方法は……! 彼女を救う方法は、ないのですか!?」
シンは、懇願するように叫んだ。 校長は、苦渋に満ちた表情で、ゆっくりと首を横に振った。
「……現状は、ない。それゆえ、これ以上、彼女の力が暴走せぬよう、明日、王国騎士団が迎えに来て、王都の『聖泉の離宮』にて、安静にしてもらうことになっておる」
「治療施設」という言葉に、シンは僅かな希望を見出す。 しかし、それはすぐに、次なる絶望への序章に過ぎなかった。
【コントロールルーム】
モニターに映る、絶望と罪悪感に打ちひしがれるクライアントの姿。 セラフィムは、その光景を見て、静かに言った。
「……聖女を隔離し。離れ離れになることで、彼の傲慢さを取り除く。そういう脚本なのですのね」
「隔離?」
神楽は、馬鹿にしたような笑みを浮かべ。
心底楽しそうに、喉を鳴らして笑った。
「はっ、ははは。そんな天津甘栗よりも甘いような展開を、この僕が描くわけなかろう」
神楽はそういうと、一枚の羊皮紙を、セラの前にひらひらと落とした。 セラフィムはいぶかしげな表情でそれを受け取ると、そこに書かれた、おぞましい計画の段取りに、息を呑む。
「…………火炙り……で、処刑……ですって?」
「さぁて」
神楽は、立ち上がると、両手を広げた。まるで、舞台の終幕を宣言する、演出家のように。
「僕が作った脚本のレールは、ここまでだ。……ここまで彼は、選択と決断を全て他者にゆだねてきた。元居た世界では、親や学校、そして社会に。そして、この世界では、私の脚本に」
「…………」
「彼は、これまで一度も、自分の人生を決める『選択』と『決断』をしたことはないのだ」
セラフィムは、神楽の言葉に反論できなかった。
「ここからは、もはやレールはない。もし、彼がこのまま何もしない、という、これまで通りの『選択』をするなら……」
神楽は冷徹な目でクライアントを見つめて言い放つ。
「彼は、聖女が火炙りにされるのを、その目で見ることになる」
「……」
「さあ、この脚本のクライマックスに、入っていこうか」
第12話、お読みいただきありがとうございました!
ついに明かされた「呪いの真相」、そして神楽の非情な脚本。 レールを外されたシンは、明日、何を選択するのか……。
この展開の先が気になる!と感じていただけましたら、 下の【★★★★★】での評価やブックマークが、作者の物語を紡ぐ、最高の力になります!
また明日の朝6時30分にお会いしましょう。 Studio_13




