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月の斑(はん)  作者: エーテル
第一幕・隣接する夜: 『鋼鉄と月光の奔流』
51/52

第51話「堕ちた神の残響」

 銀色の杖が正確に振り下ろされ、エスパーの背中で脈打つ青白い輝きを粉砕した。


 パァァンッ!


 六本の筋骨隆々とした腕を持ち、八本の指を持つそれぞれの手に巨大な武器を握りしめていたその怪物は、ヴェルンを古い岩の床に叩きつけようとしていた。だが、その動きは唐突に凍りついた。巨大な体は虚空に力なく浮かんでいる。それを包んでいた濃い赤紫色の霧が**パチンッ!**と乾いた音を立てて消え去り、重苦しい空気に酸っぱく金属的な匂いだけが残された。


 ズシンッ!


 フェンリーは重々しく着地し、冷たい石の上に膝をついた。従順な羽音を立てて、杖が彼女の掌へと戻ってくる。彼女の茶色い瞳は、潜在的な警戒心を抱いて異星の異形を睨みつけ、どんな不意打ちにも対応できるよう眉をひそめていた。広間は墓場のように静まり返っていた。勝利はまだ、確信には至らない。


 少女が痛む膝を伸ばし、立ち上がろうとしたその瞬間だった。次元生命体は不自然な動きで彼女の方向へ振り向いた。ギギュッ!


 再び瘴気が噴出した。今度こそ、紫色の煙は飢えた渦を巻き、怪物自身をその中心へと吸い込んでいく。巨大な肉体が激しく振動し、半透明な質感を帯び始める。その姿から光る粒子が剥がれ落ち、差し迫った崩壊を暗示していた。


 その衝撃に、フェンリーの体は麻痺した。


(体が……動かない!僕の筋肉が反応してくれない……!)


 筋肉は防御態勢をとることを拒絶した。盲目的な怒りに任せ、六本の腕が彼女に向かって振り下ろされる。


「グォォォォォォッ!!」エスパーの異星の言語を孕んだ、理解不能な咆哮が響き渡る。それは人間の理解の壁を引き裂く、奇妙でグロテスクな不協和音だった。


 ドガンッ!!


 衝撃と共に土煙が舞い上がった。ヴェルンは少女を守るため、絶望的な跳躍を見せたが、二人を隔てる残酷な距離を計算し損ねた。


(くそっ、俺の速さじゃ届かねぇ!)


 ドワーフたちの顔が純粋な恐怖の仮面に歪む。


 土煙が晴れると、本能的に腕を上げて身を縮めるフェンリーの姿が露わになった。彼女の頭上では、煌めくエネルギーのドームがエスパーの兵器による壊滅的な前進を阻んでいた。


 先触れの頭上には、片腕を突き出したグンダーが威風堂々と宙に浮いていた。彼の表情は致命的な厳格さを漂わせ、猫のような瞳は抑えきれない怒りの炎で燃え盛っている。


「もはや、余の魔法は吸収できまい」


 裁判官の木槌の音のように、彼の声が響き渡った。


 魔法の衝撃が連鎖反応を引き起こした。怪物の武器が宙を舞う灰へと崩れ始める。ヴェルンが握っていた奪われた大剣でさえも、致命的な突風に吹き飛ばされ、彼の手の中でボロボロと崩れ去った。サラサラ……


 瘴気は休むことなくその働きを続け、怪物の本質を少しずつ喰らっていく。エスパーは終わりにあらがうように咆哮し、暴れ狂った。その腕は精霊の神々しい存在を無視し、苦痛に目を逸らし、六つの手足を直接フェンリーの防護障壁へと押し付けた。


 黄金の仮面にこもった怪物の叫び声は、死にゆく世界の悲鳴のように響いた。その音は無限の哀歌のように伸び、眩い光の爆発とともに最高潮に達した。


 カァァァァッ!!


 その肉体の残骸は完全に消滅し、紫色の渦に飲み込まれた。


 そして、再び沈黙が戻った。


 怪物が残した真空の中心で、光が凝縮された。無重力状態の中、ゆっくりと回転しながら、巨大な宝石が実体化した。それは大人の背丈ほどもある、きらびやかな結晶だった。紫色の表面には、彫刻が輝き始める。金色の模様が形作られるのを見て、グンダーはその古代の文様を認識し、目を細めた。


「農業の神の印か……」


 忘れ去られた時代の重みを帯びた声で、彼は呟いた。


 巨大な結晶のモノリスが新たなエネルギーの波と共に脈打った。光の束が石の内部を貫き、光る蜘蛛の巣のように広がる深い亀裂を生み出す。巨大な構造はその圧力に耐えきれなかった。


 ピキィッ……パリーンッ!


 結晶は無数の魔法の破片に砕け散り、床に落ちる前に空中で溶けて消えた。


 その繊細な破壊の震源地には、小さな物体だけが残されていた。細い銀色の鎖からぶら下がる、控えめなネックレス。ペンダントは欠けた宝石だった。外殻は柔らかなライラック色をしており、ダメージを受けた構造の隙間からのみ見える、深く催眠的な紫色の核を隠していた。


 そのアーティファクトは、表面の周囲で残留エネルギーの小さな火花をパチパチと弾かせながら、自由に宙に浮いていた。分析的な視線で軌道を追うグンダーを無視し、ネックレスは空間を滑るように進み、フェンリーの目の前で静かに止まった。


 先触れは、畏敬の念を抱きながら両手を差し出した。宝石は重力に身を委ね、彼女の開いた掌の上に羽のような軽さで降り立った。


「エスパーってのは、こういう終わり方をするのが普通なのか?」重い足取りで距離を縮めながら、ヴェルンが集団のトランス状態を破った。


「エスパーは別次元の存在だ。奴らは我々の現実に自らの存在を繋ぎ止めるため、魔法の伝導体を利用する」精霊はフェンリーへと視線を移し、少女の顔に浮かぶ瞑想的な魅了の色に気がついた。「あれは、余がフェンリーに貫くよう指示した核だ。どうやらこの怪物は、数え切れないほどの世紀にわたってこの世界に囚われ、元の世界へ戻るために必要な力を完全に失っていたようだな」


「あの化け物が、これになったって言うのか?」グリュムが斧を下ろし、息子の隣に近づきながらぶつぶつと呟いた。


「己の形態を維持していた錨へと退行したのだ。『失墜の叙事詩』時代の奴の力の栄光は、もはや存在しない」グンダーは先触れの元へ浮かんでいき、慰めるように実体のない手を彼女の肩に置いた。「我々の義務は、そのアーティファクトを破壊することだ。怪物は活動を停止しているが、我々定命の者の生や死といった概念を完全に欠いている。その器が無傷である限り、エスパーは必然的に蘇るであろう」


 フェンリーの茶色い瞳が、純粋なショックで見開かれた。


「なるほどな。再構築するために、こいつは寄生虫みたいに環境から魔法を吸い取るってわけか」ヴェルンが暗い事実を口にし、少女に向けて無骨な手を差し出した。「こっちに渡せ。俺が今すぐ叩き割ってやる」


 フェンリーは防衛的な素早い動きで、欠けた宝石を両手で包み込み、自身の胸へと引き寄せた。彼女の顔には、本能的な恐怖が反射していた。


「ダメ、私……!」


 その断固たる拒絶は、驚きと共に一行を凍りつかせた。傭兵は片眉を上げ、差し出していた手を握りしめると、一歩後ろに下がって空間を譲った。一方グンダーは、その予期せぬ反応を、解読不能な好奇心の光を宿して分析していた。


「儂には、嬢ちゃんが戦利品を抱え込みたい気持ちも分かるわい。そのガラクタ、しかるべき市場に持っていけば、ちょっとした財産になるじゃろうて」グリュムは肩をすくめ、前方にある巨大な扉の方へ踵を返した。「嬢ちゃんが化け物を仕留めたんじゃ。所有権はすべて彼女にある。それが『斧の掟』じゃよ」


「俺の直感も、宝石の破壊についてはグンダー様に同意する」リリムドルはバックパックの紐を直しながら、父親の跡を追う前に熟考した。「だが、最終的な決定権はフェンリーさんにのみ属するものだ」


 グンダーはヴェルンと意味ありげな視線を交わした。元騎士はその無言のメッセージを受け取り、それに合わせるように首を振った。


「今日はここまでってことだな」ヴェルンはため息をつき、背を向けてドワーフたちと共に広間の奥へと進んでいき、先触れと彼女の守護精霊だけをその場に残した。


 他の者たちが遠ざかると、空気中の緊張感は触れられるほどになった。


「なぜだ?」グンダーが説明を求めた。


 フェンリーは、堕ちた神を宿すアーティファクトへと視線を落とした。最近の記憶が彼女の心を爆撃する。苦痛に満ちた咆哮、歪んだ霧から放たれる絶望。


(あの声……普通の人にはただの雑音にしか聞こえなかったあの音が、僕の魂には恐ろしいほどはっきりと届いていた)


 彼女はその超自然的な音節を、なんの苦労もなく解読してしまっていたのだ。


『ありがとう……戦の末裔よ……』


 深い共感が、先触れの若き顔を曇らせた。


「彼は……何時代もここに閉じ込められていたのよ……」フェンリーは、猫の精霊に向けて懇願するような目を向けた。「破壊するしか、私たちに選択肢はないの?心の底で、あそこに残っていた唯一の意志は、ただ家に帰りたいという願いだけだったのに」


 グンダーの縦長の瞳孔が、厳しい叱責の細い隙間へと変わった。


「あれは我々の手の届かぬ次元から生じた宇宙の異常だ。あのような忌まわしき存在の中に、人間の感情や現世の概念を見出すのはやめておけ」


「そんなこと、私は百も承知よ!」銀色の鎖を指の間で握りしめ、彼女は抗議した。「それでも……」


(それでも、僕は……)


 幽霊のようなグンダーの唇から、長く疲れたため息が漏れた。


「今のところは、そのアーティファクトの存在を容認しよう」明確な渋々さを含んで、彼は宣言した。「だが、不安定な兆候や脅威の兆しが少しでも見えたら、余自身の手で、その無価値な石を火山の腹の中に投げ込んでやるからな!」

おはようございます、こんにちは、こんばんは、わるー……コホン! エーテルです!


最後までお読みいただき、ありがとうございます。


もし物語を楽しんでいただけましたら、ブックマークや評価をいただけますと幸いです。皆様の応援が執筆の大きな励みになります。


またねー!! ヾ( ̄▽ ̄) Bye~Bye~

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