第39話「亡霊の苗字」
地下の溶鉱炉から吹き上がる熱風で、重いテントのキャンバス生地がバサッと揺れた。長年の煤と油にまみれたその布は、黄色く息苦しい影を金属の路地に落としている。空気は重く、激しく油が爆ぜるジュウウウという音と、魂まで染みつきそうな古びた揚げ物の刺激臭が充満していた。腹を空かせた労働者の一団が、ささくれ立った木のカウンターの前に群がり、汗ばんだ銅貨を、極めて出所の怪しい揚げ菓子と交換している。その生地は容赦ない熱でパチパチと弾けていた。
「あの、すいません……」ようやく客の群れをかき分け、カウンターの最前列にたどり着いた少女が声をかけた。「グリムさん、でしょうか」イングリッドの声が震え、胸の奥で沸き立つ緊張が漏れ出ていた。
彼女はダボダボのベストの裾を握りしめた。(しっかりしなきゃ。今の僕は……いや、今の『私』はこの変装なんだから)
まだ外にいたヴェルンは、怪訝な顔で少女を見つめていた。(なんであいつ、あんな女みたいな喋り方してやがる?)
蒸気でモワァッと霞むテントの奥。イングリッドの茶色い瞳が最初にとらえたのは、カウンターのすぐ下でゆっくりと揺れる、汗にまみれた長い茶色の髪の塊だった。最初は誰かがしゃがんで床の物を拾っているのかと思えた。だが、その影が振り返った瞬間、現実が突きつけられた。その髪の持ち主は、これで完全に「立って」いたのだ。
「オラァ!なんだよ!?」ゴロゴロと石臼を挽くような爆音が響いた。その小さな体からは想像もつかないほど、深く、しゃがれた声だ。
「えっ?」イングリッドは思わず息を呑んだ。目の前の男は、岩から直接削り出されたような姿をしていた。ずんぐりむっくりとした体型は、まさに爆発寸前の火薬樽。長年の歳月を刻んだ丸い顔には、鉄の輪や雑な三つ編みで飾られた長い髭が、髪と同じくらい汚れ、絡まり合って伸びていた。毛虫のように太い眉毛の下にある、小さく凶暴な目は、何ヶ月も睡眠を奪われたような永続的なしかめっ面を作り出している。
「何だ、小僧!言いたいことがあるならさっさと言いやがれ!」ガンッ!と無駄な力を込めて、金属のお玉がカウンターに叩きつけられる。
イングリッドの後ろで、ヴェルンの戦術的思考が情報を処理し、その目に驚愕が走った。ドワーフだと?こんな下層街の泥の中で?ヴェルンにとって、それは異端中の異端だった。彼の長い人生において、この誇り高き種族が、上層都市を観光する金持ちや大使としてではなく、地下の底辺で労働しているのを見るのは初めてのことだった。
「あなたが、グリムさん……?」あからさまな敵意に怯みながらも、イングリッドは食い下がる。
「おうよ!で、何の用だ、小僧!さっさと吐け、オラァ!」小鼻をふいごのように膨らませ、厨房の熱い息を顔面に吹き付けながらドワーフが怒鳴る。
「親父、できたぜ」ヌッと、煙の奥から二人目のドワーフが現れた。名乗るその若いドワーフは、体格こそ最初のドワーフと瓜二つだが、顔にはまったく髭がなく、赤ん坊のように驚くほど滑らかな肌をしていた。親父の無骨さとは正反対だ。彼は、油で黒ずんだ紙の皿に、煮えたぎる鍋から引き上げたばかりの不格好な揚げ菓子を乗せてカウンターに置いた。
老グリムが息子の手から盆をひったくる。彼がイングリッドの隣にいた労働者に向き直った瞬間、その態度は豹変した。チャリン!とタコだらけの掌に小銭が落ちる音。それを聞いた途端、しかめっ面は溶け去り、黄色い歯をむき出しにした商売人特有の傲慢な笑みに変わった。大げさな身振りで礼を言うと、次の瞬間にはまたイングリッドの方へ首を回し、顔面を純粋な怒りで歪ませた。
「さっさと言えってんだよ!!」
「ひぃっ!あ、えっと……その、私は……」イングリッドはあまりの声量にたじろぐ。
「あんたが『金属の亀裂』の優秀な案内人だって聞いてな」ヴェルンの低く間延びした声が、少女の緊張を切り裂いて空気を支配した。元騎士は、危険なほどの退屈さを漂わせながらカウンターに歩み寄る。
「ちょっと!勝手に割り込まないでください!」イングリッドが振り返り、子供っぽい苛立ちを込めて傭兵を睨みつけ、両拳を握りしめた。
「案内人だと?」ドワーフは馬鹿にしたように復唱し、汚れたエプロンで手を拭った。「なんだ?テメェら、鉱山に入りたいのか?あの鉱山のことなら、ワシのこのタコだらけの手のひらよりよく知ってるぜ!ギャハハハハ!」喉をかきむしるような金属音の爆笑が響き渡る。
「あの、鉱山が目的じゃな……」宮殿について訂正しようとするイングリッドの言葉は、またしても一刀両断にされた。
「あそこにはヤベェ虫がウジャウジャいるんだよ!」老ドワーフは太く短い指を振り回した。「犬みてぇなデカさの虫だの、酸を吐く毒コウモリだの、いろいろだ……。正直なところ、今さらあのネズミの穴に潜るために案内人を雇う理由が分からねぇな」
イングリッドは眉をひそめた。混乱と苛立ちが入り混じる。「どうしてですか?」
「オラァ?」ドワーフは顔をしかめ、まるで答えが天井の煤にでも書かれているかのような目で彼女を見下した。「あそこの、なんだ、あの男爵だよ……」
「ヴィセントだ」奥から若いドワーフ・リリムドールが単調な声で訂正を入れる。
「おう、そう、ギンセントだ」老人は正確な訂正を無視して続けた。「あいつが鉄のビジネスを丸ごと独り占めして、骨の髄まで搾り取りやがってからというもの、あいつの会社の社員にならねぇ限り、あの鉱山に入っても一文の得にもならねぇんだよ!ツルハシで一山当てようってんなら、三年遅かったな」
「じゃあ、もう鉱山では働いていないのか?」ヴェルンの声に懐疑の念が滲む。
「ハァ?ワシがこんな揚げ菓子売りを好きでやってると思ってんのか、ええ?」グリムは現実を直視させられたことに腹を立て、鼻息を荒くした。ちょうどその時、息子がまた湯気の立つ盆を運んできた。今度は、ヴェルンの横に忍び込んでいた油まみれの少年にそれが渡された。「ほらよ、坊主」
少年は笑顔で汗ばんだ硬貨を渡し、口いっぱいに頬張りながら礼を言った。老ドワーフは金を受け取る。その小さな目が、くすんだ金属の反射で強烈に輝いた。髭面の顔に、深く、純粋な愛が刻まれる。
「へへへ……子供は大好きだ」ドワーフは突然甘ったるい声で呟いた。
イングリッドとヴェルンは完全に沈黙し、顔を見合わせた。太い指先で硬貨を撫でるドワーフを見つめながら、二人の脳裏に同じ残酷な確信がよぎった。 (子供が好きなのか……それとも、子供が持ってくる『金』が好きなのか?)
「へへへ……」ドワーフはご機嫌だった。チャリチャリと硬貨がぶつかり合う音は、彼の尖った耳にとって神聖なる調べのようだった。くすんだ金属を宗教的なまでの献身で撫で回していたが、ふと、その猜疑心に満ちた小さな目が再びイングリッドの華奢な姿に向けられる。テントの熱気の中で、商売用の愛想は瞬時に蒸発した。「で、買うのか買わねぇのか、どっちだ!!」
「私たちは、案内人としてあなたを雇い――」
「さっさと消えな!シッシッ!」老グリムの怒声が、商店街の喧騒を、そして背後の激しい揚げ油の音をも掻き消した。太い眉毛が額の中央でくっつきそうになっている。交渉は始まる前に終わったかのように見えた。だが、ヴェルンは裏社会の共通言語を知っていた。
元騎士は、顔の筋肉の端々に疲労を滲ませながらため息をつき、重い足取りでカウンターに近づいた。だらしない手首の動きで、油まみれの板の上に銅貨を二枚、チャリンと落とした。
「二つ、くれ」
イングリッドは瞬きをした。最初の苛立ちは、憤りを伴う混乱へと変わった。傭兵の擦り切れたコートに顔を近づけ、囁く。「何をしてるんですか?」
「文句を言うな……」ヴェルンは老人の反応から目を離さず、小声で返した。
変化は一瞬だった。銅の輝きが、再びドワーフの強欲スイッチをオンにした。
「リリムドール!あと二つ揚げな!」老グリムは煙が立ち込めるテントの奥に向かって叫んだ。そしてヴェルンに向き直ると、そのしかめっ面は純粋な商業的承認によって和らいだ。「アンタ、気に入ったぜ」黒い油が滴る金属のお玉で、元騎士を指差す。そして、その批判的な視線がイングリッドに戻った。「見たか、小僧?親父さんを見習いな!へへへ……」
ブチッ。イングリッドの血が沸騰した。彼女は何も答えなかった。ただそこに立ち、カウンターの木材に指を食い込ませ、カウンターを飛び越えてこの髭面をぶん殴りたい衝動を、全身全霊で抑え込んでいた。ギチチチと、澱んだ空気に火花が散りそうなほど強く歯を食いしばる。乱れた真紅の髪の下にある顔は、抑圧された純粋な怒りの仮面と化していた。
(僕が……この酔っ払いオヤジの『娘』だって……?よくも言ったな、こいつ!!)
「鉱山へ行きたいわけじゃない」ヴェルンが低く実用的な口調で話を元に戻そうとした。
「オラァ?鉱山じゃねぇ?じゃあ何だ?」グリムは心底混乱したように鼻を鳴らした。まるで人間が忘れ去られた言語でも喋っているかのような目でヴェルンを見る。
「ある任務でな――」
「断る!!ワシが奈落なんぞに降りるわけねぇだろうが!テメェら、頭おかしいんじゃねぇか!?」ドワーフは爆発した。その目には本物の恐怖が浮かんでいる。彼は空中で手を振り回し、カウンターに油をビシャッと飛び散らせながら傭兵の説明を遮った。
今度は、立場が逆転した。ヴェルンの顔に究極の苦悩が浮かび、純粋な絶望の中で白目を剥いた。一方、イングリッドは静かに笑い始めていた。酔っ払いの顔に浮かぶフラストレーションを極上のワインのように味わいながら、肩をククッと震わせて。
モワァッと煙が晴れ、若いリリムドールが揚げたての菓子を二つ運んできた。老ドワーフはその熱々の食べ物をひったくり、ヴェルンとイングリッドの目の前のカウンターにドンッ!と叩きつけた。茶色い包み紙はすでに油を吸って透けている。「ほらよ!食ったらさっさと消えな!」
ヴェルンが揚げ菓子を手に取る。指先に焼けるような熱さが伝わり、彼の燻っていた怒りに油を注いだ。彼は素早く、そして攻撃的な動きで、獣のように菓子に噛み付いた。ガブッ!と乱暴に咀嚼しながら、その目はドワーフを睨み据える。原始的な優位性を示そうとする威嚇行動だ。
「……秩序の番人の任務だっつってんだよ!この耳の遠いドワーフが!まずは話を聞きやがれ!」ヴェルンは唸ったが、口の中に熱い食べ物がいっぱいに入っているため、声はくぐもっていた。ゴクッとそれを飲み込んだ瞬間、彼の険しい表情がふっと溶けた。傭兵の目が見開かれる。「おお?なんだ、これ結構うまいじゃねぇか」
「本当ですか?」イングリッドの子供っぽい好奇心が、怒りに勝った。彼女はもう一つの菓子を手に取り、フーフーと湯気を吹き飛ばしてから一口かじった。
パリッ!と、生地が完璧な音を立てて砕けた。中から、ジューシーな肉と砂漠のピリ辛いスパイスの香りがジュワァッと味覚を埋め尽くす。その豊かで心安らぐ味の爆発は、この薄汚れたテントとはあまりに場違いだった。「美味しい……」彼女は呟き、茶色い瞳を純粋な食の幸福で輝かせた。
「へへへへ……当然だ。旨くなけりゃ、揚げ菓子屋なんてやってねぇよ、オラァ!」グリムは答えた。奈落の恐怖は消え去り、代わりに自尊心がその広い胸を張り、髭に結ばれた鉄の輪がチャラチャラと鳴った。「で……『秩序の番人』の任務だと?」
「その通りです!」イングリッドは両手をカウンターに突いた。口元はまだ油で汚れていたが、態度は真剣そのものだ。
ドワーフは目を細め、彼女のダボダボの服と、ヴェルンのつぎはぎだらけのコートを品定めした。「お前ら、どう見ても『番人』には見えねぇがな……」
イングリッドはため息をついた。疑いを晴らす時だ。彼女は革のベストの懐に手を入れ、身分証明のアイテムを引き出した。
キラッ……その紋章は、ランプの弱々しい光を捉え、まるで光そのものを吸収するかのように輝いた。それは神聖な白金で鍛造されていた。下層街の酸性腐食すら寄せ付けない、希少で眩い金属。そのデザインは帝国の金細工の傑作だった。中央には、幅広の剣の上に完璧なバランスで乗せられた『秩序の天秤』。正義の象徴を縁取るように、王冠をかぶった二頭のグリフォンが高浮き彫りで立ち上がり、翼を広げて紋章を守護している。底辺には小さなルビーが埋め込まれ、殉教者たちの血を模しており、所持者の神聖な権威を証明していた。
「私は『先触れ』です」彼女は宣言した。その澄んだ力強い声が、テントの煙を切り裂く。
ドワーフは一目で悟った。それは辺境の駐屯部隊が持つような、ありふれた紋章ではない。帝都直属の『先触れ』の記章、絶対的な権力の象徴だった。
イングリッドを見るドワーフの目が一変した。粗野な苛立ちは消え、はっきりと微かな敬意の光が宿った。目の前の「小僧」が、ただの小僧ではないことを彼は理解したのだ。この繊細な手の中に、帝国の重みが握られていると。
「おい、小僧。名前はなんだ?」グリムは太い眉の片方を上げ、疑念を上回る好奇心で尋ねた。
「ト――フェンリエです!」イングリッドは咄嗟に古い変装『トム』の最初の一音を飲み込み、新しい名前を鋭い確信とともに放った。
だが、ドワーフは汚れた髭を掻きながら、深い疑念の表情を浮かべた。「それ、女の名前じゃねぇか、小僧!?」
ギクッ!!ヴェルンが完全に凍りついた。心臓の鼓動が一つ飛ぶ。傭兵のタコだらけの手が反射的に宙を舞い、口が開いた。グンダーが要求した「男の変装」を維持するため、女性名であることを誤魔化す咄嗟の嘘を必死に捻り出そうとしたのだ。
「だって、私は女ですから……」フェンリエは言った。極めて穏やかに、落ち着き払って、信じられないほど自然に。
ヴェルンの周りで、世界がピタリと止まった。
(変装を続けるんじゃなかったのかよ!?)ヴェルンの脳内で絶叫が響き渡った。その精神的爆音は耳を劈くようだった。彼は恐怖と驚愕、そしてこの場を焼き尽くさんばかりの途方もない怒りが入り混じった目を見開き、フェンリエを凝視した。
彼女はパチパチと瞬きをし、首を傾げて彼を見つめ返した。傭兵の無言の絶望を前に、フェンリエの目は純粋に困惑していた。自分が今、どれほど致命的なミスを犯したのか、微塵も理解していないかのように。
(……もういい。知るか、クソが……)ヴェルンはすり減ったコートの重みに任せて肩を落とした。彼は単純に、諦めた。精神的な疲労が、あの変装を維持するという生存本能を上回ったのだ。彼は泥船が沈むのを黙って見届けることにした。
「ふうむ……」しかし、ドワーフは引かなかった。小さく輝く目は、偽物の宝石を鑑定する職人のような精密さで少女を分析している。「フェンリエか……どこのフェンリエだ?」
「『どこの』とは……?」彼女は聞き返した。ツー……と冷たい汗がうなじを伝う。引きつった不自然な笑みが唇に浮かぶ。
「苗字だよ、オラァ……」グリムは太い腕を胸の前で組んで鼻を鳴らした。「『先触れ』サマにも家族はいるだろうが」
「えっと……私は……」フェンリエの声が消えた。(どうしよう……僕、自分の設定なんて考えてないよ!)
彼女はゆっくりとヴェルンの方へ顔を向けた。その茶色い瞳には、純粋な絶望が浮かんでいた。無言で助けを求める視線。計画の壊滅的な崩壊だった。いつもなら、グンダーが官僚的な手続きや複雑な嘘の網を構築し、彼女を守ってくれていた。だが今、耳元で答えを囁いてくれる精霊はいない。煙に巻かれたテントの中で、彼女の沈黙は「有罪」を叫んでいた。
「ハラーだ」ヴェルンの低く力強い声が、海に投げ込まれた錨のように、重苦しい空気を切り裂いた。
「ああん?」ドワーフが唸り、再び混乱で眉を寄せた。
「フェンリエ・ハラー。それがこいつの名前だ」ヴェルンは老人の疑り深い視線を真っ向から受け止め、瞬き一つせずに言い切った。
「へえ?お前ら、デュランダル『南部』の出か?」グリムは髭を掻いた。遠い昔の記憶の中で、南部の金属的な訛りが反響する。
イングリッドは目を見開いた。ショックのあまりヴェルンを見つめ、彼女の頭の中でようやくパズルのピースがカチッとはまった。ハラー。それは彼の苗字だ。この老傭兵は今、自らのアイデンティティを彼女に貸し与えたのだ。彼女を奈落の底から救うため、自身の匿名性を危険に晒して。
「ああ。俺はデュランダルの土地で生まれ、娘は帝都で生まれた」ヴェルンは恐ろしいほど自然に、その半真実を紡ぎ続けた。シニカルな態度は、その言葉の持つ重みを隠している。
ドワーフは低く口笛を吹き、傭兵の顔に刻まれた傷跡と疲労の皺を評価した。「その死にぞこないみてぇなツラから察するに、アンタ、『デュランダル包囲戦』の時も生きてたクチだな。焦げた火薬と、古い血の匂いが、まだアンタに染み付いてやがる」
「ああ」ヴェルンの声のトーンが一段下がった。イングリッドの腕の鳥肌が立つほど、鋭く重い哀愁がその声に乗る。「俺は、帝国との戦争の中で生き、育った」
「で、今じゃテメェの血を分けた娘が、帝国の『先触れ』か……」グリムは頭を振り、分厚い唇から信じられないというような笑いを漏らした。「世の中ってのは、おかしな回り方をするもんだな」
「運命ってやつは、本当に俺たちを驚かせるのが好きらしいな」ヴェルンは皮肉で返した。その唇が、空虚で苦々しい作り笑いを浮かべる。
沈黙が続いたのは一瞬だった。ドワーフの金銭的興味は、戦争の郷愁や死の匂いなど瞬く間に凌駕した。
「へへへ……」ゴソゴソと、グリムは油まみれの手をエプロンで擦り合わせた。客に狙いを定めた強欲の輝きが、その目に完全に戻る。「で……ハラーの旦那。金はいくら出せるんだい?」




