第3話「麦酒の騎士」
夜の冷気が、トムの顔でカァァと燃える屈辱の熱を冷ますには至らなかった。彼は不揃いな石畳の上を、胸の中でムカムカと沸き立つ怒りを響かせるかのようにドスドスと歩く。あの男の不遜な態度…安酒と侮蔑の匂いがまだ体にまとわりついているようで、単純には無視できない個人的な侮辱だった。
「あの野郎、なんで僕を女呼ばわりしやがる…」
凍てつく空気の中で、自身の息が作る白い蒸気に向かってブツブツと文句を言う。
小さな広場に戻ると、ごちゃごちゃした路地の群れが、消えかかった日の光の下で一層息苦しく見えた。トムは無理やり集中し、教えられた道を呪文のように繰り返す。「広場の左手、橋のある通り…」
腐食した金属と朽ちた木々が広がる景色に視線をキョロキョロと彷徨わせ、やがてそれを見つけ出した。まるで疲れ切った老人のように寄りかかる二つの建物の間に押し込まれた、狭い通路。その奥に、鉄橋のシルエットが黄昏の最後の輝きを背景に切り取られていた。「あそこか!」その声は、内心の不安とは裏腹に自信に満ちて聞こえた。
そちらへ一歩進むごとに、下層都市が彼をゴクリと飲み込んでいく。太陽はとっくにキサナトラを囲む不毛な山々の向こうへと沈み、今や闇がまるで鉤爪のように路地裏からジワジワと伸びてきて、灰色の迷宮を影の王国へと変えていた。遍在する金属から放たれるシンシンとした冷気がコートを突き刺す。それは、空気そのものから熱を吸い取るかのような、死んだ冷たさだった。
橋にたどり着いたトムは足を止めた。幾重にも重なった錆でザラザラになった、キンと冷えた鉄の手すりをギュッと掴み、奈落を覗き込む。都市はそこで終わらず、さらに下へ、下へと、悲惨と混沌の層を成して続いていた。弱々しく病的な光が点在する、闇の井戸。橋の向こうに、彼の目的地が見えた。小さな開けた場所があり、そのすぐ先に、金属の蛇の背骨のように螺旋階段が上へと伸び、上階へと続く通路へと消えている。視線を上げれば、上層都市の磨かれた金属の柔らかな輝きがキラリと見えた。すぐそこにあるのに、まるで別世界だ。
しかし、彼の足が橋の向こう側に触れた瞬間、一体の人影が影からスッと現れ、道を塞いだ。ボロボロで汚れた服を着た男で、その顔には自信過剰な、脂ぎった笑みが浮かんでいた。それは、世界共通の厄介者の笑みだった。
「そこを…どいてくれ…」トムは、内に秘めた怒りで抑えられた、ヒリヒリと張り詰めた声で頼んだ。
「ずいぶん遠くから来たなァ。だが、運悪くハズレの街に落ちちまったな、ボウズ…」男はニヤニヤしながら、悪意に満ちた間延びした声で嘲笑った。
トムは顔を動かさなかったが、その視線は背後の微かな動きを捉えていた。穴から這い出るネズミのように、別の二人の男が現れ、逃げ道を塞ぐ。一人は短剣の鈍い輝きをチラつかせて弄び、もう一人は安物のビールの瓶をゴクゴクと呷っていた。酒場と同じ悪臭が漂う。
「こいつ、ファラームから来たんだろ?」短剣の男が、トムの服に欲深そうな視線をギラつかせながら言った。
「ファラームの奴らは、懐に銀貨をジャラジャラさせてるって聞いたぜ!」もう一人が、汚れた手の甲で口を拭いながら付け加えた。
「頼むから、どいてくれ…」トムは最後にもう一度繰り返した。彼の堪忍袋の緒がプツンと切れそうだった。
目の前の男は、ケケケと静寂を引っ掻くような不快な音で笑った。彼は自身の短剣を抜き放ち、その冷たい金属をトムの首筋にピタリと押し付ける。「その服だって、いくらかにはなるだろうぜ」彼はシュルシュルと蛇のような声で囁いた。「全部置いていきな。そしたら、お前に何も起きないようにしてやる…かもしれねぇぜ!」
シャツの長い袖に隠されたトムの右の手のひらが開く。ほとんど知覚できないほどの内的な動きで、三本の磨かれた銀色の金属棒が、前腕に隠された仕掛けからスルスルと滑り出した。冷たい金属が手のひらに触れた瞬間、彼の指はそれをキュッと握りしめた。その動きはあまりに速く、目立たなかったので、威嚇に夢中なチンピラたちは何も気づかなかった。
「もう一度は頼まない!」トムの声が変わった。懇願の響きは消え、代わりに背筋がゾクッとするほど冷たい命令口調になっていた。
「このガキィッー」
チンピラが切りつけようと腕に力を込めたが、その腕はピクリとも動かなかった。時間がピタリと止まったかのようだった。
「なっ…?」男は自問した。皮肉な笑みは顔に凍りつき、今や困惑に歪んでいる。
いつの間に?気配すら感じなかったぞ!
チンピラの腕を鉄のようにガシッと掴んでいたのは、背の高い男だった。長く伸び放題の黒髪に、何年も剃刀を見ていないであろう豊かな髭。その不気味な赤い瞳は半眼に細められ、侮辱に近いくらい深い軽蔑の色を浮かべて、チンピラをジッと見据えていた。
「やめとけ」男は言った。その声は低く、間延びしていたが、疑いようのない威厳を帯びていた。
「おい!ありゃあ、いつも酒場にいる酔っ払いじゃねぇか!」後ろのチンピラの一人が、警戒よりも驚きを込めて叫んだ。
腕を掴まれたリーダーは、苛立ちに叫び、自由な方の手で殴りかかろうとした。しかし、その叫びは凄まじい痛みの呻きへと変わる。手首を掴む力が増し、ゴキッという湿った嫌な音が路地に響いた。短剣がカランと音を立てて石畳に落ち、男は顔面蒼白になって膝からガクッと崩れ落ちた。
「そいつを殺せ!」仲間の一人が叫んだ。
酔っ払いは、ただ苦悶するチンピラの折れた腕を掴んで持ち上げると、流れるような、力みのない動きで、もう一本の短剣を持った仲間の方へヒョイと投げつけた。その体はトムの頭上を飛び越えていく。トムは微動だにせず、前方をジッと見つめたまま、あまりに超現実的な出来事の速さを頭が処理しきれずにいた。
二人の男はドサッと地面にもつれ合って倒れた。三人目、瓶を持っていた男は、仲間があまりにもあっけなく無力化されるのを見て、恐怖に目をカッと見開いて凍りついていた。
「て、てめぇ…!」彼はどもった。彼が瞬きをした瞬間、男はすでに目の前に立っており、その顔には皮肉な笑みが浮かんでいた。
「実を言うと、これを貰いに来たんだ。今日はツケが効かなくてな…」彼は、赤い視線をビールの瓶にピタリと固定して言った。
絶望の叫びと共に、チンピラは瓶を武器に、不格好な一撃を繰り出した。酔っ払いの手が蛇のようにニュルリと動き、その手首を掴んで攻撃を止める。彼は、その見た目と状態を完全に裏切る俊敏さでクルリと回転し、チンピラの背後に回り込むと、肘に的確な一撃を加え、瓶を手放させた。
酔っ払いは、まるで喜劇のように身をかがめ、地面に叩きつけられる寸前の瓶を空中でパシッと掴んだ。痛む腕を押さえるチンピラは、目に涙を浮かべて彼を見ている。すでに立ち上がり、よろめいている他の二人は、怒りと恐怖が入り混じった表情で彼を睨みつけていた。
「シッシッ!とっとと失せな」男はそう言うと、瓶を口元へ運び、グビグビと一気に呷った。
チンピラたちに二度目の警告は必要なかった。彼らは互いに躓きながら、路地裏からドタバタと逃げていった。
「これで終わりだと思うなよ!」
「覚えてやがれ!」
空虚な脅し文句が闇に響き、哀れに消えていった。トムはついに振り返り、自分を救った男――酒場の酔っ払い、ヴェルン――が、何事もなかったかのように盗んだ瓶を空にしているのを黙って見ていた。彼がただの邪魔者として切り捨てた少年は、間違いなく、見かけ以上の何かを秘めていた。
路地に訪れた沈黙は、闇よりも重かった。チンピラたちの空虚な脅しの反響は消え去り、後には恐怖の匂いと、石畳の上に打ち捨てられた短剣がカランと鳴る微かな音だけが残された。ヴェルンは腐食した金属の壁に寄りかかり、瓶を口に運ぶと、満足と純粋な疲労が入り混じったふぅーっと長いため息を漏らした。半眼に細められた彼の赤い瞳が、目の前でピリピリとした空気を纏う姿を値踏みするように見た。
「無事か、嬢ちゃん」彼は尋ねた。声は間延びしていたが、好奇心の欠片が混じっていた。
それまで麻痺していたトムは、未使用のアドレナリンでまだ体がこわばっていたが、その言葉でハッと覚醒したかのようだった。三本の銀色の金属棒はまだ彼の手の中にギュッと握られていた。彼はそれを、苛立ちの混じった滑らかな仕草で、袖に隠された仕掛けへとシュルッと戻してから、くるりと振り返った。
「なぜだ」その問いは、スパッと空気を切り裂くように乾いていた。
「なぜって、何がだ」ヴェルンは、獲物が労力に見合うか決めかねている眠たげな捕食者のように、少年を横目で見て問い返した。
「分かってたはずだ。見てただろ」トムは一歩前に踏み出し、苛立ちを仮面のように顔に貼り付けて主張した。「あんたは僕が奴らを始末できたことを知っていた。なのに、なぜこんな真似を?」
ヴェルンは彼を見つめ返した。その表情からはどんな感情も読み取れず、深く、古びた倦怠感がその顔つきに刻まれている。「面倒事が嫌いだからだ。それだけだ」
「はぁ?面倒事だぁ!?」トムは叫び、その声は狭い路地でキンキンと鋭く響いた。
「ああ、そうだよ、ガキ!」ヴェルンは言い返し、壁から背を離してトムの方へ完全に体を向けた。その動きは意図的にゆっくりしている。「お前は奴らに手加減するつもりはなかった。その構え、お前の…その金属のオモチャの握り方。お前は奴らをブチのめすつもりだった。ことによっちゃ、殺してただろうな!で、俺は、街の衛兵が俺の家の周りをクンクン嗅ぎ回るのは、まっぴらごめんなんだよ!」彼はトムの顔に指をビシッと突きつけて言い放った。
男の洞察力はあまりに鋭く、トムの怒りを一瞬で解体し、代わりにヒヤリとした衝撃をもたらした。彼は正しかった。だが、その理由があまりに自己中心的で、あまりに些細だったので、怒りが倍になってフツフツと湧き上がってきた。
「それがお前の『お節介』の理由になるか!」トムはシューッと威嚇するように言った。「それに、言ったはずだ、僕は男だ!」その宣言は、怒りで弱々しく、彼が意図したよりも甲高く、必死に聞こえた。
「ああ、そうかいそうかい…男ねぇ…」ヴェルンは嘲笑った。彼がゴクリと騒々しく酒を呷る間、その言葉の一音一音から侮蔑が滴り落ちていた。
「なんでそう言い張るんだ?顔が女っぽくて、体が小さいから偏見か!?このクソジジイ!」トムは抗議し、紛れもなく甘やかされた子供のような仕草で地面をダンッと踏み鳴らした。
ヴェルンは瓶を口に運ぶ途中で動きを止めた。その目に、わざとらしい理解の光がピカッと灯る。彼は空いている方の手でポンと額を叩き、まるで天啓を得たかのように言った。「ああ、そうか!今分かったぞ!お前、最近の女がキャーキャー言うアレだろ?女みたいに繊細で華奢な男!なんて言ったっけな…」
トムは、顎が痛くなるほどギリギリと歯を食いしばった。血が顔にぶわっと昇り、屈辱の鮮やかな赤色に染め上げた。
「…なんて言ったかな…」ヴェルンは、大げさに思案するポーズで顎に手を当て、呟き続けた。「ああ!アンドロギュヌスってやつか!」彼は、新種の昆虫でも発見したかのようにトムを指差して断言した。
少年はビクッと身を竦め、爆発しそうな自分を必死に抑えた。
「なるほど、なるほど…」ヴェルンは、今度は教授のような口調で続けた。「女にモテるために美を追求する、と…。俺の時代は違ったがな。女は本物の男が好きだったもんだ。背が高くて、強くて、男らしい男をな!」彼は、過去の栄光の自分を語るかのように、エヘンとばかりに情けなく胸を張った。
「男だと言ってるだろ!お前のために言っておくが、僕はー」純粋な苛立ちに満ちたトムの声は、唐突に断ち切られた。
瞬く間に、ヴェルンが動いていた。二人の間の空間が消える。男の顔がグッと目と鼻の先に迫り、安酒と汗の匂いが彼の感覚を侵した。その眼差しはもはや嘲笑的ではなく、ただ虚ろで、退屈していた。そして、何の抑揚もない呟きが放たれた。
「お前が本当に男なら…ここでズボンを下ろしてションベンしてみろ」
トムの世界が止まった。空気が肺の中で凍りつく。その侮辱はあまりに生々しく、あまりに下品で、あまりに直接的だったので、彼の脳はフリーズして処理を拒否した。彼はただそこに立ち尽くし、目をカッと見開いたまま、ガチガチに固まっていた。
ヴェルンは、もう一秒、絶対的な沈黙の中で彼を見つめた。トムの顔は、可能ならば、さらに赤くなっていた。
「…だろうと思ったぜ」
そう言うと、ヴェルンは先ほどと同じ無関心な緩慢さでくるりと背を向けた。瓶をもう一口呷ると、その足音が闇の中に響き、消えていきながら、歩き去っていった。
そして、トムは置き去りにされた。信じられない、というように口をぽかんと開け、純粋な屈辱からくる呻きは、形になる前に喉の奥でうぐっと詰まる。刃でも拳でもなく、どこかの酔っ払いが吐いた四つの下品な言葉によって、最も屈辱的な方法で丸裸にされ、吟味されたような気分だった。




