第2話「牛乳と麦酒」
路地裏から一歩出ると、下層都市の現実が彼をガツンと殴りつけた。通りはゴツゴツとした不揃いな石でできており、錆びた金属の手すりが、目が眩むような落下への唯一の防護柵として設置されている。都市は幾つもの層を成して築かれ、橋、路地、そして階段が混沌の螺旋を描きながら上へと伸びていた。それは、まさに垂直の迷宮。数分も経たないうちに、トムの自信はスゥーッと消え失せ、増大する方向感覚の喪失感に取って代わられた。
「どこだ……あの階段は……?」彼は呟き、キョロキョロと周りの同じような通路を見渡した。
ここの人々は、グンダーが言った通り、怯えた鼠のように動いていた。フードを被り、顔を影に隠し、彼らは壁にコソコソと張り付き、少しでも注意を引くとサッと姿を消してしまう。小さな広場のように見える場所で立ち止まったトムは、何十もの視線が自分にグサグサと突き刺さるのを感じた。囁き声が、まるで毒虫の羽音のようにザワザワと聞こえる。理解するのに、そう時間はかからなかった。場違いな存在、潜在的な獲物、それは僕自身なのだと。
彼の服は、簡素ではあるが良い生地でできており清潔だった。ブーツは使い古されてはいるが、上等な革製だ。彼はこの場所に属しておらず、ここの住民は皆それを知っていた。トムはゴクリと唾を飲んだ。その音は、カラカラに乾いた喉にやけに大きく響いた。もしかしたら……一人でここを歩き回るのは、一番賢い考えじゃなかったかもしれない。
その時、キンとした緊張を切り裂く、別の音が聞こえた。笑い声だ。ゲラゲラと大きく、しゃがれていて、アルコールにびしょびしょに浸かっている。彼は音の方向へ振り返り、片方の蝶番だけで**ギィ…**と揺れるドアが特徴の、みすぼらしい酒場を見つけた。どんな街にでもある典型的な場所、酔っぱらいとごろつきの巣窟だ。
絶望的な彼の心に、一つの考えがピコンと閃いた。僕は道に迷っていて、上層都市への道順が必要だ。そして酔っぱらいなら、もう少し酒を奢る約束をすれば、必要な情報をくれるだろう。それは単純な取引、言葉と硬貨の交換のはずだった。
少なくとも、トムが無邪気にそう思っていたのは、そこまでだった。
酒場のドアはギイイイッと軋みながら開き、安いアルコールと汗、そして煙の匂いがムワッと立ち込める店内が現れた。隅で弦楽器から音程の外れた音楽がポロンポロンと奏でられているが、下品な笑い声とジョッキがガチャンとぶつかる音をかき消すには至らない。故郷の習慣に従い、礼儀と敬意の印として、トムはできる限りはっきりとした声で自分の存在を告げた。
「ごめんください…」
まるでスイッチがカチリと切られたかのようだった。音楽がジャランという音と共に止まり、笑い声は喉の途中でグッと詰まり、チリンという音も途絶えた。一斉に、その巣窟にいた全ての視線がドアへと向けられ、入り口に立つ細身で若い姿にジロリと固定された。
一つ一つの視線が、まるで捕食者が獲物を追うように彼を追う。トムは背筋をピンと伸ばし、真剣な表情を顔に貼り付け、無理やりカウンターへと歩を進めた。しかし、その内側では、氷のような不快感が血管をゾクゾクと駆け巡っていた。これは僕が慣れ親しんだ種類の注目ではなかった。
「街の外からか、小僧」バーテンダーの声は、ガラガラとした砂利のようだった。
彼は禿頭でがっしりとした男で、染みのついたエプロンの下にシンプルな白いシャツを着ていた。彼はトムを横目で、左目だけで見ていた。その鋭い視線がトムに突き刺さり、彼をさらに小さく感じさせた。この男たちに比べれば、自分はまるで熊の群れに迷い込んだ子熊のようだった。
「ああ。ファラームからだ」トムは答え、使い古された木のカウンターの上に青銅貨を数枚、チャリンと滑らせた。その金属音は魔法を解いたようで、少しずつ音楽と会話がだらしないリズムを取り戻し始めた。
「随分と遠くから来たもんだ」バーテンダーは感情のこもらない声でそう言うと、もう盛りを過ぎたであろう布巾でジョッキを拭いた。「何を飲む?」
「ミルクを、頼む」
バーテンダーは一瞬動きを止め、それから背を向けて何かを取ろうと屈んだ。「冷たいのか?温かいのか?」
「ぬるめで、頼む」
彼は体を起こした。その節くれだった指をパチンと鳴らすと、小さな青い炎が彼の手の上でポワッと踊った。彼は向き直り、トムの前にガラス瓶を置いた。その幻想的な炎が彼の指からフワリと滑り出て、ガラスに触れることなくそれを包み込むと、瓶の口から柔らかな湯気が立ち上り始めた。
トムはボソリと礼を言うと、瓶を手に取った。男の顔を見上げた瞬間、彼の背筋はゾクッと凍りついた。バーテンダーの右目は白く濁った死んだ眼球で、こめかみから頬にかけて皮膚をグニャリと引きつらせる古い傷跡の網の中心にあった。
男は二本の指で青銅貨を二枚だけより分け、残りをトムの方へ押し返した。その仕草を無視して、少年は瓶を口元へ運び、ぬるいミルクをゴクゴクと一気に飲み干した。空いた方の手で、彼は硬貨を押し戻した。
彼は空の瓶をカウンターにドンッと叩きつけ、手の甲で口を拭った。その鋭い視線は、感じた衝撃を隠そうとしていた。「情報が欲しい」
バーテンダーは生きている方の目で、彼を長い間じっと見つめた。「…分かった。何が知りたい?」
「上層都市への道を」
男は**はぁ…**と疲れたようなため息をついた。「ここを出て、広場の左手にある通りを進むと橋がある。それが駅の階段に繋がってる」彼の声は単調で、ほとんど退屈しているようだった。「そのために払う必要はなかった。誰かに聞けば済んだことだ」
「あ…」トムは、顔がカッと熱くなるのを感じながら声を漏らした。
礼を言おうとしたその時、彼はビクッとして後ろへ飛び退きそうになった。隣のカウンターに突っ伏していた男が、グォッという大きないびきと共に目を覚ましたのだ。「誰だ、あんたは!?」トムは不意を突かれて叫んだ。そこに誰かが倒れていることすら、気づいていなかった。
「…そんなにビクビクしてると…いい的になるぜ…お嬢ちゃん…」酔っぱらいは、ネバネバとした声で呟いた。彼の手が瓶に向かって伸びたが、バーテンダーの素早い平手打ちにパシンと叩かれた。
「助言ありがとう、だが僕は男だ!」トムは、意図したよりも甲高い声で宣言した。
「そりゃどうも…」酔っぱらいは呟き、ゴツンという鈍い音を立てて再びカウンターに頭を落とした。
トムは帰ろうと向き直った。「釣りは取っといてくれ。どうも」苛立ちと決まりの悪さで、彼はバーへとズンズンと歩いて行った。
隅のテーブルから、ギラリと悪意のある視線が彼を追った。そしてカウンターの誰かも、それに気づいていた。
「妙なガキだったな」バーテンダーは、トムの瓶が置いてあった場所を拭きながらコメントした。
「あの嬢ちゃんはすぐに面倒事を起こす…俺たちを巻き込んでな…」酔っぱらいは、今度は驚くほどはっきりとした声で言った。
バーテンダーはハッとして顔を上げた。男たちの一団が立ち上がり、ヒソヒソと囁き合いながらトムが出て行った方へ向かうのを見て、彼の目は細められた。突然、彼の表情が変わる。「待て、『俺たち』ってどういう意味だ?それに、あいつは男だと言ったのを聞かなかったのか?」
「俺を信じな…」酔っぱらいは再びモゴモゴと呟いた。
「ヴェルン!」バーテンダーは警告するような口調で咎めた。
「へいへい…分かったよ…」ヴェルンはよっこいしょとスツールから立ち上がり、ポキポキと関節を鳴らしながら伸びをした。彼は一瞬バランスを崩しかけたがグッと踏みとどまり、驚くほど安定した足取りで、出口へと向き直った。




