第2話 「影が明らかにしたこと」
夜の冷気が、トムの顔でカァァと燃える屈辱の熱を冷ますには至らなかった。彼は不揃いな石畳の上を、胸の中でムカムカと沸き立つ怒りを響かせるかのようにドスドスと歩く。あの男の不遜な態度…安酒と侮蔑の匂いがまだ体にまとわりついているようで、単純には無視できない個人的な侮辱だった。
「あの野郎、なんで僕を女呼ばわりしやがる…」
凍てつく空気の中で、自身の息が作る白い蒸気に向かってブツブツと文句を言う。
小さな広場に戻ると、ごちゃごちゃした路地の群れが、消えかかった日の光の下で一層息苦しく見えた。トムは無理やり集中し、教えられた道を呪文のように繰り返す。「広場の左手、橋のある通り…」
腐食した金属と朽ちた木々が広がる景色に視線をキョロキョロと彷徨わせ、やがてそれを見つけ出した。まるで疲れ切った老人のように寄りかかる二つの建物の間に押し込まれた、狭い通路。その奥に、鉄橋のシルエットが黄昏の最後の輝きを背景に切り取られていた。「あそこか!」その声は、内心の不安とは裏腹に自信に満ちて聞こえた。
そちらへ一歩進むごとに、下層都市が彼をゴクリと飲み込んでいく。太陽はとっくにキサナトラを囲む不毛な山々の向こうへと沈み、今や闇がまるで鉤爪のように路地裏からジワジワと伸びてきて、灰色の迷宮を影の王国へと変えていた。遍在する金属から放たれるシンシンとした冷気がコートを突き刺す。それは、空気そのものから熱を吸い取るかのような、死んだ冷たさだった。
橋にたどり着いたトムは足を止めた。幾重にも重なった錆でザラザラになった、キンと冷えた鉄の手すりをギュッと掴み、奈落を覗き込む。都市はそこで終わらず、さらに下へ、下へと、悲惨と混沌の層を成して続いていた。弱々しく病的な光が点在する、闇の井戸。橋の向こうに、彼の目的地が見えた。小さな開けた場所があり、そのすぐ先に、金属の蛇の背骨のように螺旋階段が上へと伸び、上階へと続く通路へと消えている。視線を上げれば、上層都市の磨かれた金属の柔らかな輝きがキラリと見えた。すぐそこにあるのに、まるで別世界だ。
しかし、彼の足が橋の向こう側に触れた瞬間、一体の人影が影からスッと現れ、道を塞いだ。ボロボロで汚れた服を着た男で、その顔には自信過剰な、脂ぎった笑みが浮かんでいた。それは、世界共通の厄介者の笑みだった。
「そこを…どいてくれ…」トムは、内に秘めた怒りで抑えられた、ヒリヒリと張り詰めた声で頼んだ。
「ずいぶん遠くから来たなァ。だが、運悪くハズレの街に落ちちまったな、ボウズ…」男はニヤニヤしながら、悪意に満ちた間延びした声で嘲笑った。
トムは顔を動かさなかったが、その視線は背後の微かな動きを捉えていた。穴から這い出るネズミのように、別の二人の男が現れ、逃げ道を塞ぐ。一人は短剣の鈍い輝きをチラつかせて弄び、もう一人は安物のビールの瓶をゴクゴクと呷っていた。酒場と同じ悪臭が漂う。
「こいつ、ファラームから来たんだろ?」短剣の男が、トムの服に欲深そうな視線をギラつかせながら言った。
「ファラームの奴らは、懐に銀貨をジャラジャラさせてるって聞いたぜ!」もう一人が、汚れた手の甲で口を拭いながら付け加えた。
「頼むから、どいてくれ…」トムは最後にもう一度繰り返した。彼の堪忍袋の緒がプツンと切れそうだった。
目の前の男は、ケケケと静寂を引っ掻くような不快な音で笑った。彼は自身の短剣を抜き放ち、その冷たい金属をトムの首筋にピタリと押し付ける。「その服だって、いくらかにはなるだろうぜ」彼はシュルシュルと蛇のような声で囁いた。「全部置いていきな。そしたら、お前に何も起きないようにしてやる…かもしれねぇぜ!」
シャツの長い袖に隠されたトムの右の手のひらが開く。ほとんど知覚できないほどの内的な動きで、三本の磨かれた銀色の金属棒が、前腕に隠された仕掛けからスルスルと滑り出した。冷たい金属が手のひらに触れた瞬間、彼の指はそれをキュッと握りしめた。その動きはあまりに速く、目立たなかったので、威嚇に夢中なチンピラたちは何も気づかなかった。
「もう一度は頼まない!」トムの声が変わった。懇願の響きは消え、代わりに背筋がゾクッとするほど冷たい命令口調になっていた。
「このガキィッー」
チンピラが切りつけようと腕に力を込めたが、その腕はピクリとも動かなかった。時間がピタリと止まったかのようだった。
「なっ…?」男は自問した。皮肉な笑みは顔に凍りつき、今や困惑に歪んでいる。
いつの間に?気配すら感じなかったぞ!
チンピラの腕を鉄のようにガシッと掴んでいたのは、背の高い男だった。長く伸び放題の黒髪に、何年も剃刀を見ていないであろう豊かな髭。その不気味な赤い瞳は半眼に細められ、侮辱に近いくらい深い軽蔑の色を浮かべて、チンピラをジッと見据えていた。
「やめとけ」男は言った。その声は低く、間延びしていたが、疑いようのない威厳を帯びていた。
「おい!ありゃあ、いつも酒場にいる酔っ払いじゃねぇか!」後ろのチンピラの一人が、警戒よりも驚きを込めて叫んだ。
腕を掴まれたリーダーは、苛立ちに叫び、自由な方の手で殴りかかろうとした。しかし、その叫びは凄まじい痛みの呻きへと変わる。手首を掴む力が増し、ゴキッという湿った嫌な音が路地に響いた。短剣がカランと音を立てて石畳に落ち、男は顔面蒼白になって膝からガクッと崩れ落ちた。
「そいつを殺せ!」仲間の一人が叫んだ。
酔っ払いは、ただ苦悶するチンピラの折れた腕を掴んで持ち上げると、流れるような、力みのない動きで、もう一本の短剣を持った仲間の方へヒョイと投げつけた。その体はトムの頭上を飛び越えていく。トムは微動だにせず、前方をジッと見つめたまま、あまりに超現実的な出来事の速さを頭が処理しきれずにいた。
二人の男はドサッと地面にもつれ合って倒れた。三人目、瓶を持っていた男は、仲間があまりにもあっけなく無力化されるのを見て、恐怖に目をカッと見開いて凍りついていた。
「て、てめぇ…!」彼はどもった。彼が瞬きをした瞬間、男はすでに目の前に立っており、その顔には皮肉な笑みが浮かんでいた。
「実を言うと、これを貰いに来たんだ。今日はツケが効かなくてな…」彼は、赤い視線をビールの瓶にピタリと固定して言った。
絶望の叫びと共に、チンピラは瓶を武器に、不格好な一撃を繰り出した。酔っ払いの手が蛇のようにニュルリと動き、その手首を掴んで攻撃を止める。彼は、その見た目と状態を完全に裏切る俊敏さでクルリと回転し、チンピラの背後に回り込むと、肘に的確な一撃を加え、瓶を手放させた。
酔っ払いは、まるで喜劇のように身をかがめ、地面に叩きつけられる寸前の瓶を空中でパシッと掴んだ。痛む腕を押さえるチンピラは、目に涙を浮かべて彼を見ている。すでに立ち上がり、よろめいている他の二人は、怒りと恐怖が入り混じった表情で彼を睨みつけていた。
「シッシッ!とっとと失せな」男はそう言うと、瓶を口元へ運び、グビグビと一気に呷った。
チンピラたちに二度目の警告は必要なかった。彼らは互いに躓きながら、路地裏からドタバタと逃げていった。
「これで終わりだと思うなよ!」
「覚えてやがれ!」
空虚な脅し文句が闇に響き、哀れに消えていった。トムはついに振り返り、自分を救った男――酒場の酔っ払い、ヴェルン――が、何事もなかったかのように盗んだ瓶を空にしているのを黙って見ていた。彼がただの邪魔者として切り捨てた少年は、間違いなく、見かけ以上の何かを秘めていた。
路地に訪れた沈黙は、闇よりも重かった。チンピラたちの空虚な脅しの反響は消え去り、後には恐怖の匂いと、石畳の上に打ち捨てられた短剣がカランと鳴る微かな音だけが残された。ヴェルンは腐食した金属の壁に寄りかかり、瓶を口に運ぶと、満足と純粋な疲労が入り混じったふぅーっと長いため息を漏らした。半眼に細められた彼の赤い瞳が、目の前でピリピリとした空気を纏う姿を値踏みするように見た。
「無事か、嬢ちゃん」彼は尋ねた。声は間延びしていたが、好奇心の欠片が混じっていた。
それまで麻痺していたトムは、未使用のアドレナリンでまだ体がこわばっていたが、その言葉でハッと覚醒したかのようだった。三本の銀色の金属棒はまだ彼の手の中にギュッと握られていた。彼はそれを、苛立ちの混じった滑らかな仕草で、袖に隠された仕掛けへとシュルッと戻してから、くるりと振り返った。
「なぜだ」その問いは、スパッと空気を切り裂くように乾いていた。
「なぜって、何がだ」ヴェルンは、獲物が労力に見合うか決めかねている眠たげな捕食者のように、少年を横目で見て問い返した。
「分かってたはずだ。見てただろ」トムは一歩前に踏み出し、苛立ちを仮面のように顔に貼り付けて主張した。「あんたは僕が奴らを始末できたことを知っていた。なのに、なぜこんな真似を?」
ヴェルンは彼を見つめ返した。その表情からはどんな感情も読み取れず、深く、古びた倦怠感がその顔つきに刻まれている。「面倒事が嫌いだからだ。それだけだ」
「はぁ?面倒事だぁ!?」トムは叫び、その声は狭い路地でキンキンと鋭く響いた。
「ああ、そうだよ、ガキ!」ヴェルンは言い返し、壁から背を離してトムの方へ完全に体を向けた。その動きは意図的にゆっくりしている。「お前は奴らに手加減するつもりはなかった。その構え、お前の…その金属のオモチャの握り方。お前は奴らをブチのめすつもりだった。ことによっちゃ、殺してただろうな!で、俺は、街の衛兵が俺の家の周りをクンクン嗅ぎ回るのは、まっぴらごめんなんだよ!」彼はトムの顔に指をビシッと突きつけて言い放った。
男の洞察力はあまりに鋭く、トムの怒りを一瞬で解体し、代わりにヒヤリとした衝撃をもたらした。彼は正しかった。だが、その理由があまりに自己中心的で、あまりに些細だったので、怒りが倍になってフツフツと湧き上がってきた。
「それがお前の『お節介』の理由になるか!」トムはシューッと威嚇するように言った。「それに、言ったはずだ、僕は男だ!」その宣言は、怒りで弱々しく、彼が意図したよりも甲高く、必死に聞こえた。
「ああ、そうかいそうかい…男ねぇ…」ヴェルンは嘲笑った。彼がゴクリと騒々しく酒を呷る間、その言葉の一音一音から侮蔑が滴り落ちていた。
「なんでそう言い張るんだ?顔が女っぽくて、体が小さいから偏見か!?このクソジジイ!」トムは抗議し、紛れもなく甘やかされた子供のような仕草で地面をダンッと踏み鳴らした。
ヴェルンは瓶を口に運ぶ途中で動きを止めた。その目に、わざとらしい理解の光がピカッと灯る。彼は空いている方の手でポンと額を叩き、まるで天啓を得たかのように言った。「ああ、そうか!今分かったぞ!お前、最近の女がキャーキャー言うアレだろ?女みたいに繊細で華奢な男!なんて言ったっけな…」
トムは、顎が痛くなるほどギリギリと歯を食いしばった。血が顔にぶわっと昇り、屈辱の鮮やかな赤色に染め上げた。
「…なんて言ったかな…」ヴェルンは、大げさに思案するポーズで顎に手を当て、呟き続けた。「ああ!アンドロギュヌスってやつか!」彼は、新種の昆虫でも発見したかのようにトムを指差して断言した。
少年はビクッと身を竦め、爆発しそうな自分を必死に抑えた。
「なるほど、なるほど…」ヴェルンは、今度は教授のような口調で続けた。「女にモテるために美を追求する、と…。俺の時代は違ったがな。女は本物の男が好きだったもんだ。背が高くて、強くて、男らしい男をな!」彼は、過去の栄光の自分を語るかのように、エヘンとばかりに情けなく胸を張った。
「男だと言ってるだろ!お前のために言っておくが、僕はー」純粋な苛立ちに満ちたトムの声は、唐突に断ち切られた。
瞬く間に、ヴェルンが動いていた。二人の間の空間が消える。男の顔がグッと目と鼻の先に迫り、安酒と汗の匂いが彼の感覚を侵した。その眼差しはもはや嘲笑的ではなく、ただ虚ろで、退屈していた。そして、何の抑揚もない呟きが放たれた。
「お前が本当に男なら…ここでズボンを下ろしてションベンしてみろ」
トムの世界が止まった。空気が肺の中で凍りつく。その侮辱はあまりに生々しく、あまりに下品で、あまりに直接的だったので、彼の脳はフリーズして処理を拒否した。彼はただそこに立ち尽くし、目をカッと見開いたまま、ガチガチに固まっていた。
ヴェルンは、もう一秒、絶対的な沈黙の中で彼を見つめた。トムの顔は、可能ならば、さらに赤くなっていた。
「…だろうと思ったぜ」
そう言うと、ヴェルンは先ほどと同じ無関心な緩慢さでくるりと背を向けた。瓶をもう一口呷ると、その足音が闇の中に響き、消えていきながら、歩き去っていった。
そして、トムは置き去りにされた。信じられない、というように口をぽかんと開け、純粋な屈辱からくる呻きは、形になる前に喉の奥でうぐっと詰まる。刃でも拳でもなく、どこかの酔っ払いが吐いた四つの下品な言葉によって、最も屈辱的な方法で丸裸にされ、吟味されたような気分だった。
ヴェルンは静かにスタスタと歩いていた。静まり返った路地には彼の足音だけが響く。彼は瓶を持ち上げ、最後の一口のために傾けた。安酒の、束の間の慰め。だが、その液体が彼の喉に触れる時間はほとんどなかった。背中に、ドンッ!という暴力的で突然の衝撃。驚きのあまりグフッ!と肺から空気が押し出され、彼は前方へ投げ出され、汚れた石畳の上にドサッと無様に倒れ込んだ。瓶は**パリン!**と甲高い音を立てて砕け散り、まるで銃声のように響き渡った。
グルルッと唸りながら、彼は振り返った。その赤い瞳には怒りがギラギラと燃えている。彼の後ろでは、トムが両足での飛び蹴りを放った後、スタッと猫のようにしなやかに着地し、体勢を立て直していた。
「てめぇ、何しやがるんだ、このガキがァ!?」ヴェルンは叫んだ。その声に含まれた真の怒りは、転んだことに対してではなく、彼の飲み物が悲劇的な損失を被ったことに対するものだった。
「こっちのセリフだよ!」トムは爆発した。彼のすべての冷静さが、剥き出しの感情の奔流となってドッと溢れ出す。「あんたは突然現れて!可能な限りの方法で僕を辱めて!僕が何者で、何者でないかなんて勝手に決めつけて!あんたに他人をそうやって裁く権利がどこにあるんだ!?」彼は叫び、ブルブルと震える指をヴェルンに向けた。顔は真っ赤に染まり、その瞳は純粋な悔しさの涙でキラキラと輝いていた。
ヴェルルンは一瞬、その少年が崩壊していく様を目の当たりにして、自身の怒りがスゥーッと消えていくのを感じた。「おいおい…さっきまでの『僕は男だ』って威勢はどこ行ったんだよ?」彼は、少年がヒステリーに陥っていくのを見ながら、感情のこもらない声でコメントした。彼はゆっくりと立ち上がる。「悪かった、悪かった…ちと言い過ぎたのは分かってる…」と言ったが、その口調はあまりに無関心で、謝罪というよりは侮辱に聞こえた。
「謝罪だけじゃ足りない!」トムは、声を詰まらせながら宣言した。
「はいはい…」ヴェルンはやれやれと溜息をつき、転んだ際についた埃をパンパンと払い落とす。「ただ、お前から感じたんだよ…その見た目も、お前自身がそれに納得してないって感じがなー」彼の言葉は途切れた。
「待って。『感じた』って言った?」トムは彼を遮った。その目の怒りは、すっと好奇心に満ちた強い困惑に取って代わられていた。
ヴェルンはピシッと固まった。彼の視線が一瞬だけ横に逸れる。「おっと、口が滑ったか…」彼は「何も言ってない」と言わんばかりの表情を作ろうとしながら、ボソリと呟いた。「そろそろ俺は行かせてもらうぜ…」
「待って!」トムは叫んだ。シュタッと一瞬の動きで、彼はヴェルンの目の前に現れ、両腕を広げて道を塞いだ。その速さに、年上の男は虚を突かれる。「あんたも、そうなんだろ?」
「何のことだか、さっぱり分からんな…」ヴェルンは答えた。その声は今や真剣で冷たく、少年を通り過ぎようとした。
「あんたも『賢者』なんだ」トムは尋ねではなかった。断言だった。その言葉を聞いてピタリと足を止めた男の背中に向かって、彼は向き直る。
ヴェルンは面白くなさそうにフンと鼻で笑った。「そりゃあ俺は賢いさ、なんせ年寄りだからな」
「そういう意味で言ったんじゃない!」トムは苛立ちのあまり叫んだ。
「俺が賢者だなんて、本物の賢者たちに失礼だろ」ヴェルルンは、トムにというよりは自分自身に言い聞かせるように呟いた。
そのコメントを無視して、トムは近づき、彼から数歩のところで止まった。顔を上げると、子供っぽい苛立ちは消え、揺るぎない真剣さと決意の表情に変わっていた。
「僕と一緒に来てほしい」彼は宣言した。
ヴェルンは黙って、純粋に混乱しながら少年の顔を見ていた。「は?」
「僕はファラームから来た。『セレスの王冠』を探してー」トムの言葉は、ゲラゲラという哄笑にかき消された。それは嘲りの笑いではなく、純粋な侮蔑からくるグロテスクでけたたましい爆笑だった。ヴェルンは腹を抱えて笑い転げ、その声は路地に無慈悲に響き渡った。
「なっ?王冠…セレスの?」彼は笑いの合間に、ぜぇぜぇと息をしながら言った。
トムの顔は再びカァァと緋色に染まり、決意は羞恥心に溶けていった。「それは存在する!僕は知ってるんだ!」
「待て!息をさせてくれ…」ヴェルルンは頼み、はぁーっと大きく息を吸って、努力して体勢を立て直した。彼は目尻の涙を拭う。「お前、ファラームから来たってのか…子供を寝かしつけるためのおとぎ話に出てくるような代物を探して?」
「そんな風に言われると…」トムはバツが悪そうに視線を逸らした。「でも、僕はそれが存在することを知ってる!僕はそれを見たんだ!」
「どうやって見たってんだ、具体的には?」ヴェルンは尋ねた。一瞬だけ、その好奇心は本物のように見えた。
「信じてくれるの?」トムの目が希望にパァァと輝いた。
「いや。だが、一応聞いとくべきだと思っただけだ」彼は答え、その声は再び単調で空虚なものに戻っていた。彼は再び去ろうと背を向けた。
「あんたは傭兵だろ?」トムは必死に叫んだ。「金なら払える!あんたの腕を雇いたいんだ!」
「そして俺はその仕事を断る…」ヴェルルンは振り向かずに答えた。彼は立ち止まり、深く息を吸い、肩越しにトムを見た。「だが、なんで俺にお前と組んでほしいんだ?神話の遺物を探すためにか?」
「それだけじゃ…」トムは、罪悪感に満ちた視線で認めた。「この街の『番人』の件で、僕を助けてくれる強い人が必要なんだ」
空気が一瞬で張り詰めた。ヴェルンは完全に振り返り、体をガチガチに硬直させる。「おい!おい!おい!待て待て待て!」彼は、まるで物理的な攻撃を止めようとするかのように両手を上げた。「お前、軍の『番人』と関わってるのか?」
「そうだけど、それが何か?僕は番人に相応しくないように見える?」トムは、声に再び苛立ちを滲ませて言い返した。
「そうじゃねぇ」ヴェルンの顔から嘲笑は完全に消えていた。その表情は石のように硬い。「さっきは、お前の仕事を断るつもりだった。だが今は、お前の仕事を絶対に断る。じゃあな」彼は、以前にはなかった決定的な態度で背を向けた。
「はぁ?なんで!?」トムは、その暴力的な反応に混乱して抗議した。
「俺は番人とは関わらねぇんだよ、嬢ちゃん」彼の声は警告だった。
トムはもう一度走り、彼の前に立ちはだかった。「また『嬢ちゃん』って…」
「どうして?なんで興味がないの?あんたは強い!賢者だろ!なんでそんなに拒むんだ?」トムの声は混乱と懇願が入り混じっていた。彼には、どうしても理解できなかった。
ヴェルンは、ふぅーっと重く、疲れた溜息をつき、手で顔を覆った。「いいか、誰もが自分の功績を認められたいわけじゃねぇんだ」彼は言った。その声には古びた疲労が滲んでいた。「それに、子守りごっこをする気もねぇしな…」
「自分のことは自分でできる!」トムは抗議した。
「知ってるさ…そういう意味じゃねぇ…」ヴェルンは彼を見つめ、そしてトムの表情に目を固定した。子供っぽい視線、苛立った目、抑えられた不満のうめき声と共にぷくーっと膨らんだ頬。ふと、彼は少女のように見える少年から、男の子っぽい特徴を持つ少女へと変わったように見えた…ヴェルンはそう思った。
「もう変装を続ける気もなくなったようだな」彼は声に出してコメントした。
「それで何かが変わるの?」トムは苛立って言い返した。「あんたは最初からずっと僕が女だって言い続けてた。それに、『感じた』って言ったじゃないか!」
「ああ、俺が感じたのは、お前が自分の見た目を好いてないってことだ。そんなもんは誰だって感じる」
その言葉は、トムの腹にズシンと重い一撃を与えた。「どういう、こと?」彼は囁いた。その声は突然、か細くなった。
ヴェルンは彼を見た。そして初めて、その目に嘲りや退屈はなく、ただ残酷で正直な静けさがあった。「男のフリをしたいなら、まずお前自身が自分を男だと認めなきゃな」
それが、とどめの一撃だった。トムの足からフッと力が抜けていくようだった。彼女はガクッと膝から崩れ落ち、冷たい石畳の上にうずくまると、両手で顔を覆った。彼女の声は、深い苦悩と、自身の愚かさへの罪悪感によって打ち砕かれ、震えていた。彼女がこれほど憎んでいた偽りとは、身にまとった外見だけでなく、内に抱えていた疑念そのものだったのだ。
トムのくぐもった泣き声が、路地の静寂の中で鋭い刃のように響いた。ヴェルンは立ち尽くし、彼のいつもの鎧である皮肉が粉々に砕け散っていくのを感じた。彼の小さな挑発ゲームの勝利は今や、口の中で灰のようにじわりと苦い味がした。彼はもはや意地っ張りなガキではなく、彼自身が深めた痛みの中で溺れている、壊れた子供を見ていた。
やりすぎちまったか… 彼は思った。後悔という、奇妙で望まぬ感情が胸に宿る。「悪かったな、嬢ちゃん…」彼は言った。その声はしゃがれており、言葉が驚くほど困難に出てきた。
「黙れ!」彼女の声は手の中から、くぐもって詰まりながら聞こえた。「やれることは全部やった!いつもこれを変えようとしてるんだ!」彼女は訴え、その一言一言が苦悶の嗚咽だった。
彼女が話している間、何かがヴェルンの注意を引き始めた。空気の揺らぎ、アスファルトの上の陽炎のように微かな乱れ。彼は常にこの子供の真実を知っていたが、物理的には、まだ彼女を痩せた少年として見ていた。しかし、今や、そうではなかった。
始まりは髪だった。軍隊式に刈り込まれた緋色の髪が、スルスルと伸び始めた。それは速い成長ではなく、まるで時間そのものが彼女のためだけに加速しているかのように、ゆっくりと、しかし不自然にセンチメートルを解き放っていく流れだった。同時に、髪の根元が色を失い、頭皮から広がる純粋な雪のように白んでいった。それは、肉体的に現れるほど強烈な魔術的ストレスの兆候だった。
変化は彼女の体全体に広がった。細く痩せたシルエットが再定義され始める。肩が微妙に狭まり、腰にはふわりと柔らかさが生まれ、粗末な服の下に小さな女性的な曲線を描き出した。偽りはただ剥がれ落ちているのではなかった。彼女の苦悩が解放した内なる力によって、解体されていた。
「おい…お前…」ヴェルンは、目をカッと見開いて呟いた。酒場の喧嘩と刃物の脅威に慣れた彼の脳は、この光景を処理できなかった。これは魔法、不安定で危険な変身だった。彼は手を上げた。本能的で、混乱した、何が起きているにせよそれを安定させようとする、純粋な助けの試みだった。
彼の手が彼女に届くことはなかった。
紫色の影がシュバッと空気を切り裂き、地面の埃を巻き上げるほどの風を伴って二人の間に現れた。一瞬の瞬きで、泣いていた少女はもはや膝をついていなかった。
「ちょっと!離してよ!」彼女は、まだ涙声で抗議しながら、今や複雑な金色の装飾が施された紫色の外套に身を包んだ男の腕の中にいた。ゆったりとしたフードが彼の顔に影を落とし、短い黒髪と、猫のような縦長の瞳孔を持つ一対の鋭い目だけが見えた。その場所にはあまりに丁寧すぎる、張り付けたような笑みが顔に浮かんでいた。
「グンダー!」少女は、効果なく彼の胸をポカポカと叩きながら叫んだ。
「余が愛し子が引き起こした困惑の数々、お許しいただきたい」グンダーは、穏やかで洗練された声で言った。彼はヴェルンに向かって深く頭を下げた。その場にまったくそぐわない敬意の表明だった。「では、これにて失礼!」
「は?」それがヴェルンがかろうじて口にできた全てだった。彼の心はまだ出来事の速さに追いつこうとしていた。
ありえないほどの俊敏さで、グンダーは、まだ暴れる少女を抱えたまま、ヴェルンの差し出された手に重い小袋をポイと落とした。ヴェルンの指がそれを握りしめる前に、グンダーはすでにタタタッと駆け出し、下層都市の灰色の闇の中へ消えていった。彼の「愛し子」の叫び声と平手打ちの音が響き、そして金属の迷宮に消えていった。
ヴェルンは、路地の中央で呆然と立ち尽くしていた。手の中にある硬貨の熱と重みだけが、この出会いがアルコールによる幻覚でなかったことの唯一の証拠だった。彼は革袋を見つめ、それから奇妙な二人が消えた闇を見つめた。
だが、彼は覚えていた。あの紫の男が現れた一瞬、その刹那に、彼らの視線は交わっていた。言葉を交わす時間はなかったが、そのやり取りは完全なものだった。言葉の必要性を超えた、互いの本能的な評価。
その瞬間、ヴェルンとグンダーは、同じことを悟ったのだ。彼らの目は、静かで絶対的な理解のうちに、スッと細められた。
この男…ヤバイ