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相沢花梨

「むーはるタソー代わっておくれよー」

「ムリ言うなって彼方。あっち行け」

「嫌なりむー、かなタソそっちがよろし。代わっとくれ?」

 彼方がさっきから俺に、うるさく纏わりついてくるわけは、今から社会科見学に行くからだ。

 彼方とはクラスが違えんだから、乗る車輌は当然別だっつーのに、滝といっしょに乗りてえらしくて、さっきからすげえうるせえ。

「彼方、乗ってからこっちに来なよ。先生困るしね?」

「うーやはりそれしかなすか? 残念無念なり」

 滝に説得されて、ようやく我慢する事にしたらしい彼方。全く、わがままな姉持つと苦労するよ。

 クラス毎の集合場所に彼方が戻ってくと、俺も先生に出席伝えてクラスのヤツらがいる辺りに適当に待機しとく。

 弥勒や滝なんかのいつものヤツらに挨拶したり、適当に伊東藤本に絡まれたりしてるうちに、出発の時間がやってくるから電車乗る。

 滝とは彼方が付き合いだしたおかげで、けっこう喋るようになったけど、基本的に滝は相変わらずボッチだ。

 悪いヤツじゃねえんだけど弥勒と喋る方が断然楽しいし、基本的に弥勒と一番よく喋るし、滝はボッチが気になんねえヤツだしな。

 友だち欲しいボッチじゃなくて、一人が好きなボッチだから、基本滝は放置してる。

 俺だったら絶対寂しいって思うけど、孤高なヤツ。

 でも弥勒は放置とかムリ。俺が弥勒と色々喋りてえしな。

 弥勒は喋れば喋るほど面白えから、仲良くしねえとか出来ねえヤツだ。

 伊東と藤本はどうでもいい。

 もうちょっとかわいかったら、どうでもよくねえかもだけど、かわいくする気がねえヤツらだし。

「弥勒くん、こっち来ない? ちょっと喋ろうよー」

「行かへん。喋りかけるな」

「………最近、相沢がよく絡んでくるよな」

「オレあいつ嫌や」

「また弥勒はもー。ほんとおめえの理想は高えなー」

「理想とかちゃうし」

 最近よく弥勒に絡んでくる相沢は、けっこうかわいいタイプだっつーのに、弥勒は全然仲良くする気がねえみてえだ。勿体ねえ。

「相沢ってかわいいじゃん? 何で嫌いなんだ?」

「ああいう腹黒いのは好かん。おまえも騙されたらあかんで?」

「腹黒なのか相沢って」

「めっちゃ腹黒。裏ボスとかやるタイプや。気が付いたら色々巻き込まれてるとかあるで」

「えー、見た目はよくても不良物件なのか。そりゃ勿体ねえ話だな」

「おまえも気ぃ付けろよ? 巻き込まれる前に逃げろ」

「俺が何に巻き込まれるんだよ」

「色々。人間関係のいざこざとかな」

 弥勒が言ってる事はよく分かんねえけど、人間関係のいざこざに巻き込まれたくはねえから、相沢には気を付けとこうか。

 裏ボス相沢か。どんなゲームの裏ボスなんだろな?

 電車乗って彼方が滝んとこやってきて、なんとなく4人で適当喋って、目的地の博物館に到着だ。

 縄文と弥生時代の展示物見るぞ。

 今日は見て回って感想文出すだけだし、超絶楽ちんだな。

「弥勒、これ見てえ。俺この勾玉(まがたま)気になる」

「ええで。それ見に行こか」

 パンフレット載ってる、なんか綺麗な勾玉の場所探しながら、あちこち見て回ってて、途中で弥勒がトイレ休憩でいなくなった時。

「あーいたいた。ねえねえ、遥いっしょ回んない?」

「相沢」

「いやもう、弥勒くん逃げるしさー、遥と仲良いじゃん? いっしょ回ってよ」

「なるほど、これが裏での画策っつーヤツか?」

 関係者にこっそり近寄って、そっと袖の下を渡して、色々融通を効かせてもらう。

 古式ゆかしい日本の伝統技能みてえなもんだな。

「えー? 画策とかじゃないしー。いいじゃん、いっしょ回るぐらい。ね?」

「いや、弥勒が嫌がってんじゃん。そりゃムリだ」

「ちょ、冷たくない? 協力してくれたっていいっしょ?」

「あーかりん発見ーっ。いっしょ回ろー」

「友だち呼んでるぞ。弥勒戻る前に行った方いいって」

「覚えてろ、遥のバカっ」

 ……裏ボスっつーよりは、なんか三下な捨て台詞だったな。

 ちょっと涙目だったし、かわいそうな気もするけど、弥勒が嫌がってるんだからしょーがねえよな。

「さっそくなんか絡まれたみたいやな」

「あーうん。でもなんか涙目だったし、三下みてえだったぞ。あれが裏ボスか?」

「めっちゃ裏ボスや。嫌やなー。あいつに惑わされたらあかんで?」

「別に惑わされてねえぞ。かわいそうだったけど、ちゃんと断ったじゃん」

「分かってへんクセに…」

 なんだなんだ? よく分かんねえけど、弥勒がガックリしてんぞ? そんなに嫌いなのか? 俺がかわいそうに思うのも嫌か?

 その後は普通に見学して回って、目的の勾玉も見るけど、これすげえなー…弥生時代でどうやってこれ穴開けたんだ? 技術ヤベえ。

 感想文書くなら、テーマはこれ一択だろっつー事で、弥勒とどうやってこれに、ちっせえ穴開けたか想像してみる。

 周りは削ったらちっさく出来るけど、中に穴は難しいだろ? ちょっと失敗したら、すぐパキッていくぞ? 根気いっぱいだな。

「削るしかないけど、削り方が想像出来んな」

「石だもんな。謎だよこれ。百個ぐれえあるしさ」

「土器土偶より勾玉やな」

「間違いねえ」

 博物館出る途中、何故か弥勒菩薩が展示してあって、仲間発見っつって弥勒と大ウケ。何でこんなとこに弥勒菩薩があるんだ?


「あれがテーマのヤツは絶対いるやろな?」

「いやあれがテーマっつーのは怒られるんじゃねえ?」

「でも一応展示物やったで?」

「そうだけど、この博物館の展示テーマは縄文弥生じゃなかったか?」

 ウケ狙いであれテーマの感想文書くヤツは、絶対いるっつって笑いながら、見学から帰って買い出しして、弥勒んちでメシ作る。

 今日はついに“揚げ”に挑戦だ。から揚げだから、気合い入れて味付けて、いっぱい揚げようぜ。

「言うて揚げんのオレやけどな」

「しょーがねえだろ? 油はねは俺まだ怖えんだから」

「ええからそっちで、ナムルやれって」

 弥勒がから揚げ揚げてる間に、俺は野菜でナムルに挑戦する。

 切りと茹では俺の分担だし、張り切ってやってこう。味付けの決めてはごま油だ。

 …にしてもすげえ、油あんなジュージュー言ってんのに、弥勒は平然として、から揚げ揚げてやがる。

「普通や普通。騒ぐ方が油はねる」

「えー? 醤油とかは騒がねえでもはねるって。油だぞ?」

「さて」

「は? 何してんだ弥勒」

「二度揚げせんと。から揚げやし」

「から揚げって二回揚げる物なのか?」

「おう。低温で中に火通して、カラッとさせるのに仕上げすんねん」

「知らなかったぞ。から揚げって危険で手間かかるんだな」

「危険やないって。横で色々見てるんやし、そろそろ慣れろや」

「えーまだムリだ」

 とにかくから揚げを2回揚げたから、どっさり盛り付けて、弥勒とバクバク食うぞ。やっぱ男子高校生は揚げ物大好きな物だしな。

「うめえ。肉、から揚げっ。うまっ」

「揚げ物はうまいけど、部屋が汚れるのが嫌やわ」

「汚れって粉だしか?」

「いや、油で部屋ギトギトなるやろ」

「? ギトギトなってるか? この部屋」

「意外となる。家とか後で油くさって思わんけ?」

「考えた事ねえな」

「そうか。幸いここ二間やし、匂い許せるけど、けっこう匂うで」

「贅沢だよな。高校生一人暮らしで二間とか」

「たしかに。親戚がええの持っててラッキーやと思う」

「あそだ。母さんが今度うち来いって言ってたぞ。メシ食いにな」

「遥んちでメシか。何作りゃええやろ?」

「いや、作んねえでいいだろそこは。普通に食いに来いよ」

「食わせてくれるんか、そら嬉しい。たまには他人のメシも食いたいしな。遥て母さん呼びなんやな」

「弥勒は違えのか? 母ちゃんか? お袋か?」

「おかんとおとん、もしくはクソ親やな」

「親をクソって言ってやんなよって思うけど、やってる事クソだよな。置き去りだし」

「おう。あいつらはクソて言われる勝手過ぎな親や。おまえは親罵ったりせえへんのけ?」

「クソ親は言わねえけど、時々はババアとかジジイっつーな」

「それ家やと祖父と祖母の呼び方やしな。親の罵りに適してへんわ」

「なるほど。じいさんとばあさんそう呼ぶなら、ムリだな。4人とも生きてるか?」

「ピンピンしてる。けどなぜか家はばばあんちて言う。自分でも謎やけど」

「周りがばあさんちが多いしじゃね? 俺んとこばあさんしか生きてねえしな」

「あーそういえば、ばばあはじじいより長生きやもんな」

 から揚げ食いながら、色々喋る。弥勒は俺と違う事いっぱいで、違ってるのが面白えな。俺は油の匂い意識した事なかった。


 帰り道でコンビニ寄ったら、相沢がいた。制服着てレジ係やってるっつー事は、ここのバイトなのか。こいつ別に家近くねえよな?

「あ、遥」

「よっす。バイトなんでここ?」

「たまたまだよ。学校と家の間で探したから」

「そうなのか。ま、しっかり稼ぎなよ」

「そう思うならもっと買って」

「歩合じゃねえんだし、おめえに売り上げは付かねえだろ?」

「消しゴム1個じゃやる気でないっしょ」

「わがまま言うんじゃねえ。他欲しい物ねえよ」

「ちぇ。ありがとうございましたー」

 消しゴム買って金払ってコンビニを出る。弥勒、裏ボスはコンビニバイトらしいぞ。なんて思いながら俺は家に向かった。

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