成績順位発表
5月の下旬っつーと気温も上がってくるから、今日はブレザーやめてベストでも着て行こうか。
「なんだ、彼方もベストか? 奇遇だな」
「うむり。かなタソ白シャツだけでは眩しきなってしまうなり」
「俺ら白いからな。そういう気遣いも必要だ」
彼方とベストでの登校だ。俺らだけじゃなくて他のヤツらも今日はシャツ多いし、景色が明るくて眩しさに弱い俺らはちょっと辛い。
2人して我慢出来ねえで、色付いた予備のメガネに変更する。
これも俺と彼方の目に羞明っつー症状があるから、しょーがねえ。
「ぬーかなタソ色メガネは嫌なりがー」
「今日はちょっとマジで辛えな、彼方」
俺と彼方は視力があんま良くねえ。
俺も彼方もコンタクト&メガネっつー矯正さらに矯正しても視力は普通以下のメガネっ子だ。
しかも眩しさに弱い羞明の症状っつーのは、目の色が薄いヤツに多いらしいけど、イマイチ原因がハッキリしてねえから不便が多い。
「おはよう、遥。メガネに色付いてんで」
「おはよ弥勒。今日は眩しくて耐えらんなかったんだよ」
「ああ、今日は日差しがちょっとな」
学校に変な色付いたメガネかけて来んの、好きじゃねえんだけど、今日はしょーがねえ。
眩しくてウッカリ事故遭うよりマシだ。
ちっせえ頃はこれのせいでよく揶揄われたけど、さすがに高校生なってまで、個人的な事情を揶揄うヤツは、ほとんどいねえしな。
「弥勒はそういうのねえの? 青いけど」
「オレも黒いヤツほど平気やないかもな。今日ぐらいやと大丈夫やけど。…おまえ黒板見えるんけ?」
「黒板? 見えるわけねえだろ? ノートは勘で取るもんだ」
「ノート勘で取んなよ。見えんでも聞いてりゃ、ある程度イケるけどやな」
「授業ノートはどうとでもなるけど、免許が厳しいんだよな」
厳しいっつーか取れねえ。
基準値以上の視力がねえヤツは、ダメっつー法律あるから、俺と彼方は運転免許はとっくに諦めてる。
「あれはある程度視力が必要やしな。免許欲しいんけ?」
「欲しくねえ? バイクとか車運転してみてえと思わねえか?」
「運転するだけなら免許はいらんやろ。運転は技術やし」
「無免許は捕まるぞ? アメリカでも無免許は捕まるんじゃねえのか?」
「私有地やと捕まらんで? ばばあんちとかな」
「ばあさんち広いのか。田舎のあるヤツはいいよなー。運転してえ」
「ばばあんち、運転出来るん軽トラとかトラクターとかやで?」
「それはそれで楽しそうじゃん」
広い田舎道を軽トラやトラクターの無免許運転で爆走するとか、想像するだけで楽しそうだ。
おれのばあさんは隣の市のおじさんちだし、あんま田舎っつー感じがしねえから、長閑な田舎があるヤツは羨ましいぞ、弥勒。
「ま、免許証は身分証として強いし、オレは誕生日来たら取るけどな」
「弥勒てめえ、やっぱ免許取るんじゃん。この裏切り者ー」
「オレ別にバイク乗ったりはせんで? あると便利そうやし取るだけや」
「なんだよー。取るなら乗れよー。んで俺を乗せろ」
「どっちやねん。バイク乗った方がええんけ?」
「免許取るなら乗れ。弥勒だしデケえのがいいぞ。んでデケえなら乗せろ」
弥勒みてえなデケえヤツは、やっぱデケえバイクが絶対似合うだろ。
そのゴツい身体つきで、ちっせえ原付き乗るより絶対似合うぞ。
んでデケえバイク乗るなら、俺は絶対乗せてくれ。
いっしょ乗ってツーリングとかして、遠くまで遊び行きてえぞ。
「大型はまだ無理やし、デカいっちゅうても中型になるで?」
「ん? 中型免許取るのか?」
「まだ取れへんけどな」
「誕生日いつだ?」
「クリスマス」
「マジ? 24? 25?」
「25。12月25日や。覚えやすいやろ?」
「うわ。それいっしょにお祝いとかされる不幸な日じゃねえ?」
「そうけ? おまえはいつ?」
「4月15日だけど」
「ほな今16で年上なんや。おっさんやな」
「おっさんじゃねえ、大人だ。ダンディな大人の男だぞ?」
「ダンディ………ダンディて、ぷ」
「むー笑うんじゃねえ」
むー弥勒のヤロ。年下のクセしてダンディな大人の俺を笑いやがって。
でも弥勒が免許取ってバイク乗るなら、後ろ乗せてもらおう。
「あ、遥。よかったらこれ使う?」
滝が前触れもなくファミレスの割引券を差し出して来た。
ふむ。ドリンクバーが100円引きとは、なかなかお得な感じじゃん?
「…割引券? なに? 滝これ使う予定ねえとか?」
「ううん。使うとエンドレスになって困ってる割引券なんだよ、それ」
「へえ、エンドレス割引券てお得やんけ」
「いや、最初はおれも得だと思ったけどさ。使うだろ? そこでまたもらう、んでまたそこって、だんだんそこしか行かなく…」
「そこしか?」
「そう。おれと彼方。そこでばっかりで遊ぶから、ちょっと誰かに押し付けて他に行こうって」
「ええ…? それ何かの呪いっぽいなー。そこ以外で遊べなくなるって」
「ええやんけ。得ならもらっとけや遥」
「まあ、もらうけど…さんきゅ滝。でもちょっと怖えかも?」
「そろそろテスト順位出てるやろうし、オレがよかったらそこで奢れや」
「ん! それ名案だ。とにかく順位見に行くか」
昼休みに発表された成績順位見に行くと、俺と滝は順位変わらず、彼方が4位で、なんと弥勒のヤロ、2位取ってやがった。
勉強出来るなら勉強出来るって最初から言えっての。
もー、出来ねえふりしてたのか。むーだ。俺むーだぞ? 騙された。むー
「あー慶太が1位やっちゅうてたし、オレでもイケるか思たんやけどなー」
「ふ。彼方がいるのに、おれもそうそうカッコ悪いとこは見せられないからね」
「そんなわけで遥、奢ってくれや」
「むー」
「怒んなや。ここのレベルが分からんかったし、様子見ただけやんけ」
「俺むーだぞ。むー。騙された。むー」
「分かった。黙ってて悪かった。代わりに奢るし、許せ」
「ん? 弥勒の奢りか? どこで奢り?」
「さっき慶太にもらった割引券のとことか、どや?」
「む。なら、俺が弥勒奢るから、実質は割り勘…? それはお得感が減るからやだ。弥勒は別で奢ってくれ」
「そこでは遥が奢ってくれるんけ?」
「約束だし奢ってやる。弥勒は他でよさそうなとこ探して奢れ」
「分かった。許してくれっけ?」
「うん。弥勒だし特別に許してやんよ」
騙されてちょっとむーだったけど、弥勒が奢ってくれるらしいから、俺も特別に許してやろう。
これで弥勒とケンカはなしだ。
幸いな事に伊東藤本の両名も、補習受けるハメにならずにすんで、よかった反面、あいつらは補習受けて反省する方がいい気もする。
彼方のヤローはいつものごとく、負けたから姿現して来ねえな。
滝がいるから、顔ぐれえ見せるかと思ったのに。別にいいけどさ。
俺いつも勝ってもそんな言わねえんだけど、どうもあいつは負けたら、自分の存在を隠しやがる癖がある。
ほんと勝手なヤツだよ。
今回はたぶん、俺が弥勒んちでメシも食うから、明日ぐれえまで顔見せて来ねえだろ。ステルス彼方だ。