この恋のために
「母さま、かなタソのはこのよな感じでよろしか?」
「母さん、型紙に沿って切るっつーのは、こんな感じー?」
「あらあら、母さんこんなに名前呼ばれるの、久しぶりだわー」
「母さん、父さんここでコーヒー飲もうかな?」
俺と彼方と母さんの3人で、ただ今絶賛クリスマスケーキの製作中だ。
彼方はボールにスポンジ並べてて、俺は台になるスポンジケーキを型紙に沿って切ってるとこ。
料理はちょこっとの俺と、料理は全くの彼方の2人から、母さん母さん分かんねえって呼ばれるのが、母さんはすげえ嬉しいらしい。
ウキウキしながら丁寧に指導してくれるから、俺も彼方も必死こいて飾り付けてる真っ最中で、同じ材料から違えケーキが出来てくぞ。
型紙通りに切ったスポンジケーキの上に、バットで冷やし固めておいたムースを乗せて、その上にまたスポンジケーキを乗せて。
上の方を徐々にちっせえのにしてけば、立派な三角錐のモミの木のケーキになるっつーわけだけど、フルフルのムースがむずいぞ。
「よ? よよ? よいしょっ! これでだいたい平らな感じか?」
「いい感じよ、遥。次のを重ねてみましょ」
「母さま、かなタソケーキ、何やらみすぼらしきではなすか…?」
「もう彼方。ケーキは最後までお化粧すれば平気よ」
不安になったり、悪戦苦闘だったりしながら、俺と彼方が奮闘してる横で、母さんさくさくっと、父さんのケーキを飾り付ける。
さすが、主婦歴15年以上のベテランは格が違え、俺達に出来ねえ事をさらっとしてくるぞっ! そこに痺れる憧れる〜っ!
ふ。どうだ? あの名言を俺みてえに、ここまでキッチリ正しく使うヤツもそうそういまいよ。
とか、謎の達成感を得たりしつつ、ケーキの外側の飾り付けをやってくぞ。
ケーキ作りやってみて分かった事は、外側をクリームで飾らねえケーキが偉いっつー事だな。
クリーム挟んだだけで、ケーキきれいにするのは、俺には絶対不可能だ。
どう頑張ってみても、かなりみすぼらしい状態に見える。
んなわけだから、母さんのアドバイス通り、あちこちはみ出したムースやらスポンジは、クリーム塗って化粧して隠蔽工作する。
三角錐を出来るだけモミの木に見えるように、母さん指導の通りクリーム塗ってって、キラキラの粒を散らしてみたら…すげえっ!
「母さん! 俺のケーキ、すげえカッコよくなったぞ!」
「当たり前よ。遥すごく頑張ったもの。素敵になるに決まってるじゃない」
「むひょ。母さま、かなタソケーキもかわゆすなったなり〜!」
「彼方もいっぱい頑張ったから、かわいいケーキになって、よかったわね」
「2人ともよく頑張ったな。偉いぞ。父さんも嬉しいよ」
最後にいちご切ってクリーム挟んで作った、ロウソクとかマジパンのサンタよりうめえサンタを、カッコよく配置したら出来上がり。
エプロン外して着替えて、出かける準備に取りかかろう。
財布、携帯、タブレットPC、それと…弥勒への誕生日プレゼントも。
弥勒、喜んでくれるかなー?
ちょっと不安だけど、俺が選んだプレゼント喜ばねえ時は、しょーがねえから、ケンカしよう。
「母さん、俺そろそろ弥勒んち行ってくる」
ケーキ持って玄関先で靴履きながら母さんに声かけたら、無視されっぱだった父さんが、拗ねてぶつぶつ言い出したから慌てて脱出。
商店街の辺り歩くと入ってくる、クリスマスソングにちょっとニヤつきながら、てくてく15分ほど歩いて弥勒んちへ向かってく。
ピンポーン───
「よう。メリクリやな遥、上がれや」
「メリクリ弥勒。お邪魔しまーす。これ、クリスマスケーキだ。ありがたく召し上がれだぞ」
弥勒んち上がって冷蔵庫に持ってきたケーキ突っ込んだら、上着脱いでエプロン付けて、いつものごとく晩メシの準備するぞ。
今日は約束通り鶏のまる焼き焼くから、ちゃんと上手にまる焼きが焼けるか、俺ちょっとわくわくドキドキだぞ。
「あ〜弥勒悪いヤツだ。ビールなんか冷やしてやがる」
「ちょっとだけや。ちょっとだけ。祭りやし、1本ずつぐらいええやろ?」
「ま、ちょっとならいいか。俺はピラフだったな。材料切ってくぞ」
「おう。オレこっちで鶏の下拵えしとくし、そっち頼むで」
「がってん承知の助」
にんじん玉ねぎピーマンのエビピラフ用野菜と、じゃがいもパプリカの付け合わせ野菜を切って、エビの背ワタ取ったらピラフ炊く。
ふふふ。エビの背わた取りも、俺、ちゃんと出来るようになってきてる。
料理が上達してる証拠だなっ!
ピラフは楽ちんメニューだ。
野菜切ってエビ用意したら、後は味付けして炊飯器にぶち込んで、炊き上がるのを待つだけでいい。
「弥勒、鶏の方は順調か? 今日はそっちがメインだぞ」
「ふ。成長したなー遥。オレの様子伺う余裕まであるやんけ。こっちは順調やで」
「えっへっへ〜。ほんと毎日やってりゃ出来るようになってくるもんだな」
エビピラフが炊き上がったら、鶏のお腹にピラフを詰め込んで、温めたオーブンレンジで、付け合わせ野菜といっしょに焼いてく。
「おっしゃ、途中何回か鶏に油かけたりするけど、やる事だいたい終わりや」
「やった。わくわくするな、早く焼けねえかなー?」
「オレも楽しみやで〜。遥、映画何観るか考えてきたけ?」
「俺は定番だけど、クリスマスだしホームアローンが観てえぞ。弥勒は?」
「オレはクリスマスっぽいのっちゅう事でポーラエクスプレスや」
「明後日から弥勒はフランス行きだよな。お土産欲しいぞ俺」
「シャネルとかそんな高い物は無理やで?」
「そんな高えのはいらねえ。フランスっぽい文房具がいいぞ」
「その程度ならなんかええの探すわ。土産っぽいええ感じのやつな」
「ふふ。明日は誕生日だな、弥勒。16歳だぞ?」
「おう。明日さっそく免許取りに行ってくるから、帰ったらちょっと付き合えや」
「うはー。ついにあのバイク乗せてくれるのかー。超絶楽しみだ、試験絶対落ちるなよ?」
「任せろ。教習所でバッチリ勉強もしたし、落ちるわけあらへんで」
「あ、メシ食ったら、プレゼント渡していいか? クリスマスの方のやつの」
「お? ちゅう事は誕生日のもあるて事け? 2個も?」
「誕生日のは当日がいいだろ? それに毎年2個っつーわけじゃねえぞ? 今年は特別だ」
「それでも2個あるんは嬉しいで。そんだけ遥がオレの事考えたっちゅう事やしな」
「えへ。ま期待しとけよ。つか、プレゼント喜ばねえ時はケンカだ」
「ははは。ケンカは嫌やな。期待しとけて言われたら期待すんのに、ガッカリしたらケンカけ?」
「そうだぞ。特別2個のプレゼントなのに喜ばねえなんて、絶対ケンカだろ?」
「なんかそう言われたら怖なるやんけ。までも、期待しとこっ」
途中2回、オーブンレンジの扉を開けて、様子見たり、鶏に油かけて、じっくり焼き上げたら、豪快に皿に盛り付けて揃って食う。
「うまっ。ヤベえうまっ。まる焼きって香ばしジューシーうめえっ!」
「めっちゃうまいな! ヤバうまい! あビール飲もうや、ビール」
高校生のこっそりビールで、クリスマスの乾杯して、ケーキと鶏のまる焼きを2人でわけながら、ばくばくたっぷり食ってく。
腹に詰めたエビピラフが肉汁吸って、ヤベえうまさになってやがるし、ただ焼いただけの付け合わせも、すげえうめえっ。
俺の持ってきたクリスマスケーキは、切り分けたりしねえで直接フォーク突き刺して食うぞ。1度やってみたかったケーキ直食いだ。
「ケーキも気合い入れて食うぞ弥勒! 甘えうまっ!」
「おまえがおかんと焼いたケーキを残すわけいかんからな! うまいっ」
2人で腹いっぱいになって、並んで洗い物片付けたら、お楽しみのプレゼント交換タイムだ。
うーすげえドキドキするなー…
◆
ついにプレゼント交換の時がきた。
プレゼントが何かっちゅうドキドキとは、違う意味でめっちゃドキドキするな。カード、くれるやろか?
「えへ。弥勒メリクリ、1個目は通常だし普通のプレゼントだぞ」
「おう。オレからも、クリスマスのプレゼントや」
遥とプレゼントの包みを交換する。大きさはカード以上で、1個だけや。
もらえるとしたら、この中に入ってるはずやけど…
「ネックウォーマーだ! すげえあったかそう! わーいっ、さんきゅな弥勒っ」
「ああ、うん…オレもマフラーか。ありがとうな、ええ趣味や」
カード、入って、なかった…
あかん、ガッカリすんな。遥はひと言も、カードくれるなんて言うてへんのやし、仕方がないんや…
「すげえな、弥勒これ! すげえカッコいいカードもあるっ! ほんとさんきゅなっ」
「遥もありがとうな。これ、学校にして行くゎ…………っ…」
「弥勒…?」
ヤバい。涙腺が…嬉しいのに、プレゼントは嬉しいのに、カード…でも、欲しかった…仲良えヤツにしかやらん、カードがオレ…
「どした弥勒? なんで? マフラー気に入らねだったか? 弥勒?」
「…………っ………なんでも、なぃ……マフラー………嬉しぃ…から…………」
「弥勒? むー、泣くなよ。嬉しくなくてもケンカしねえから、な? だから泣くな」
「ちょっとだけ……ちょっと…だけ、待ってくれ………っ…」
「うーそんな気に入らねだったか? むー趣味じゃねえのだったか?」
「ちが、違うから…嬉しい、からっ……う、嬉しいからやしっ……マフラー嬉しいからやしっ……」
誤魔化せ、マフラーが嬉しくて感動した事にせえ、こんな事でオレが泣いたって分かったら、負担かかる。嫌われる。その方が嫌や。
込めたい気持ちがないんや。それは仕方がないんや。
頼んでもらう物やないから、それじゃ意味ないから…祝いなんやし泣くな。
オレが必死こいて涙止めようと堪えてたら、首からかけてたマフラーが急に引っ張られて、遥の腕ん中に抱きしめられた。
「むー嬉しいからって泣くなよ、もー。こんぐれえで泣いてちゃ弥勒持たねえぞ?」
「すまん…感動、感動したんや。マフラー…マフラーとネックウォーマーで似てたから、だから…」
「バカだなー、プレゼントが似てるぐれえで、もーっ。俺びっくりしたぞ?」
「ぃや、ほんますまん…っ…こんなええ物、ありがとうな……」
「えへ。大していい物じゃねえよ。少ねえ小遣いから買ったヤツだし、でも、も一個は絶対嬉しいはずだぞ?」
ちょっと待っとけ、すぐに絶対嬉しなるはずやし、そう言うて後ろ向いてカバンごそごそ漁った遥が、取り出したのは、紺色の封筒。
「ほんとは誕生日当日に渡す予定だったけど、今渡すから。これ受け取ってくれ、弥勒」
「封筒…?」
受け取って裏表見るけど、何も書いてへん、金色の封蝋がしてある、紺色のちょっとオシャレな封筒。中身、これ…もしかして…?
「開けて見てくんね? 金はかかってねえけど、いい物だから」
Hの刻印が押された金色のきれいな封蝋を、そっと剥がすと、中身は2枚入ってた。青いカードと赤いカードが。
青い方には、きれいなきれいカリグラフィーで“Happy BirthDay! Mrock 16th”の文字が書いてある。
金と銀の縁取りも白い飾り文字も、背景の雪の結晶まで全部手書きで、綺麗で丁寧に書いてある。遥の手書きのバースデーカード…
クリスマスカードやなくて、オレの誕生日のためだけに書かれた、世界で1枚だけの、ものすご凝った綺麗なバースデーカード。
赤い方には“Mrock&HaLLca 1st Anniversary!”て書いてある。こっちもめっちゃ綺麗な文字や。
華やかな金色の縁取りも、クリスマスらしい緑のアクセントも、全部全部手書きで、めっちゃ綺麗で、めっちゃ丁寧に書いてあって。
どっちも心込めて書いてある、ゴッツ綺麗な手書きのカードやけど、どっちもクリスマスカードやないから、だから、だから…
「弥勒と初めての記念日だからな。今年は2枚にした。特別だぞ?」
「初めての記念日て…」
オレと遥の間で、その言葉の意味することて、一個しかないけど、それで合ってるけ?
えーと、記念日…? 記念日て…? その…?
「うん。俺と付き合う記念日だ。嫌とは言わせねえぞ。こっちは泣いたりしたら本気でケンカだ」
「オレと…付き合う記念日?」
「そだぞ。そのために俺、必死こいて頑張って、琢磨とケンカしたんだからな?」
「琢磨とケンカてなんで…?」
「言っただろ? 付き合うの反対されるって。案の定だったから、説得するの大変だったんだぞ」
「え、もう説得済みっちゅう事け?」
「うん。さんざん反対されたけど、最後は折れてくれた」
遥は嬉しそうに笑いながら、琢磨と毎日電話して説得試みて、最後は会いに行って直談判までしたって、自慢気に話してくれた。
オレと付き合うために、そんなに頑張ってくれたんや。オレがカード欲しいとかほざいてる間に、そんなカッコええことしてたんや。
「弥勒と付き合うなら、認めて欲しかったから、頑張ったぞ俺。俺の彼氏なるだろ?」
「なる…彼氏にしてくれ。オレと付き合うてくれ、遥」
「うん。ただし、付き合うのは1個だけ条件があるからな?」
「…条件てなんや?」
「結婚を前提にしろ。俺と結婚して、生涯の伴侶にするっつーなら付き合う」
「する。一生愛するて誓うから、付き合うてくれ。オレの生涯の伴侶になってくれ! 結婚を前提に付き合う」
「ふふ。どだ? 嬉しいプレゼントだろ? 感動で涙引っ込むだろ?」
「めっちゃ嬉しい…めちゃくちゃ嬉しい! 涙完璧に引っ込んだ。オレ今から遥の彼氏やで?」
1番欲しかった物もらえた。遥の手書きのカード以上に欲しかった物、めっちゃ欲しかった遥の気持ち、オレもらえた!
手書きのカードが欲しくて、情けなく泣いた事とか、吹っ飛ぶぐらい嬉しい物もらえた。だからナイショや、情け無い自分は秘密や。
「弥勒、好きだぞ。もうちょびっとじゃねえ、いっぱい好きだ」
「オレも好きや。めっちゃ好きやで。オレこんなカッコええ彼氏出来て、最高に嬉しい誕生日や!」
「な、弥勒。このカードって弥勒が作ったのか? すげえカッコいいのに俺の名前入ってるぞ」
「おう。オレ字は上手いことないけど、デザインはPCで出来るから、頑張ってみてん」
遥と互いの贈り合ったカードの感想を言い合う。
嬉しそうにオレの贈ったカードを眺めて褒めてくれる遥に、オレも言う。
いやマジできれいなカードやわ。オレは手書き舐めてたわ。
こんなカッコええカード、めっちゃすごい! きれいな字てすごい!
彼方が彼方らしいカードやったように、遥のカードも遥らしくて、色づかいもデザインも、めっちゃ綺麗でカッコええカードや。
慶太が待ち受けにしたなったん分かるわこれ、オレもこれは絶対待ち受けにする。
宝物にしてずっと大事に取っとく。
そんでオレも気持ち届けるために、来年の遥の誕生日こそは絶対手書きのカードや‼︎
ようやく、やっと、遥と恋人同士になれた。
オレ、大してカッコええわけやないけど、これからも精一杯頑張る。
この恋のために!
これにて完結です。
拙い作品ではありましたが、読んでくださった方、評価やブックマークをしてくださった方、ありがとうございました。
また書くかもしれませんが、その時はどうぞよろしくお願いします。




