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この恋のために  作者: ひなた真水


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36/41

決心

「ふむ。なるほど、弥勒のプレゼンデーか」

「おう。努力するなら、そういうのもいるやろ?」


 弥勒に、自分を好きになってもらうためには、自分のいいとこを見せるのもしてえって言われて、遊びに誘われた。なるほど。

 その発想がすでに素敵だと思うけど、行けば弥勒のいいとこが見れるっつーなら、行かねえ手はねえな。



 そんなわけで、いつもはいっしょにいねえ土曜日の昼間、いわゆるデートっつーのをやってみる事になって、待ち合わせに出かける。

 男同士だけどデートはデートだから、俺もちょびっとだけオシャレする感じで、お気に入りの帽子とか被って行こうか。


「遥ー、ここやここや。オレここやでー」


 駅前の待ち合わせ場所に着く前に、弥勒が遠くから手ぇ振って合図してくれた。

 なるほど、弥勒は視力いいんだもんな。

 弥勒、デケえから分かりやすいけど、先に見つけて声かけてくれるのは嬉しいぞ。

 弥勒のいいとこ、さっそく1個ゲットだ。


「よっす弥勒。見つけてくれるの嬉しいぞ」

「おまえは見つけやすいしな。今日は帽子か、カッコええやんけ」

「えへ。デートっつーから、俺もオシャレだ」



 まずはガッツリ昼メシ食って、腹ごしらえしようぜっつー事で、弥勒が連れてきてくれたのは、赤い暖簾が渋いラーメン屋だ。


「む。ここは味噌としょうゆか…どっちがいいかなー?」

「こだわり自家製味噌のと、あっさり醤油味、どっちもうまいし、好きなん選び」


 自家製味噌っつーのに惹かれて、俺はチャーシュー味噌の野菜マシマシ大盛りを、弥勒は鶏豚盛りの醤油ラーメン野菜マシ特盛だ。

 もちろん餃子とチャーハンのセットもそれぞれ忘れず頼んで、こんだけいっぱいでもすげえ安い! すっげえお得だ!


「うはー、弥勒の、ほんと特盛!っつー感じだなっ!」

「せやろ? ここは味もええけど、大盛り特盛のコスパが最強やねん」


 俺は小遣いのヤツだけど、腹いっぱいなって、こんぐれえの出費なら、全然OK!

 しかも味もキッチリうめえのがいいな。

 前から思ってたけど、弥勒の金銭感覚は俺にフィットしてて、背伸びしねえ感じでいられるのがいいっつーのはあるな。

 気張り過ぎねえけど、貧乏くさくもねえっつーのか?

 人によってその辺りの感じ方って違うだろうけど、安くてうまくて腹いっぱいの、このラーメン屋は当たりだ。ナイスチョイス。



「弥勒、ラーメンすげえうまかったな」

「せやろ? 遥やったら絶対喜ぶて思てん。次行こか」


 弥勒と次にやって来たのは、総合スポーツ施設。

 いっしょに身体動かして遊ぶなら、絶対ここは楽しいに決まってる!


「ダーツ、ビリヤード、バッティング色々あるんだなー。うは、卓球まであるのかっ」

「せっかくやし、卓球やろうや」

「いいのかー? 俺、元卓球部の部長さんだぞ?」

「せやしやで。遥の頑張ってた事も知りたい。オレはそういうヤツなんや」

「なるほど。その気持ちはあれだ、ピロリン“遥の好感度がアップした”っつー感じだぞ」

「お? アップしたか。ええ感じや、いっしょにやって、もっとそのパラはアップさせんとな」


 弥勒にまずはラケットの握り方から教えてやろう。

 シェイクハンドとペンホルダー、それぞれ利点はあるけど、どっちがいい?


「遥、ペンホルダーなんけ? ほなオレもそれにするわ」

「そお? じゃ持ち方はこんな感じだ。あんまギッチリ握らねえようにな」


 ペンホルダーの特徴、片面だけでボール打つことを教えて、二手に分かれて、気楽な感じでラリーをやってみると、なかなか楽しい。


「お? おぉ? こ、こんな感じけ? ほっ、はっ」

「上手い上手いっ。だんだん慣れてきたみてえじゃん。じゃこれはどだ?」


 弥勒が慣れてきたから、ちょっとずつ意地悪な位置にボールを打ってみると、弥勒、すげえ必死こいて返してくるから面白えっ。


「ちょ遥! こんなキワにっ! くそっ! はっ」

「あはは。弥勒もギリギリ責めてもいいぞー? やってみなよ」

「オレがやるとコートから外れるやんけっ! ムカつくっ」

「大丈夫大丈夫。弥勒の運動神経なら出来るってー。外してもいいから狙ってみなよ」

「言うたな? おらっ! あーくそっ。やっぱ入らんやんけっ」


 何度か挑戦してみて、上手くボールコントロールが出来ねえから、弥勒のフォームを修正して教えてみる。

 そうそう、そんな感じ。


「お? 見た? 見た今の! めっちゃキワ入ったで!」

「見た見たっ! すげえな、ちょっと直しただけで、すぐに打てるようなったじゃん」

「うわ、狙ったとこ打てるようなったら、めっちゃ楽しいな、これっ」


 新しいこと、知らねえことに一生懸命な弥勒、すげえいいな。

 弥勒、運動神経いいから、吸収早えし、いっしょにやってて楽しいぞ。


「よし、弥勒も打ちてえとこ打てるようなったし、いっちょ試合もやってみるか?」

「おう。ちょっと練習もしたし、簡単には負けへんからな?」


 試合形式は11点先取の3ゲームマッチで、先に2ゲーム取った方が勝ちって一番簡単なやつ。

 さぁ、弥勒はどんぐれえ粘るかな?


「遥、オレが試合勝ったらジュース1本奢れや」

「む。だったら負けるわけいかねえな。俺も勝ったらジュース1本だぞ」


 最初は弥勒のサービスで開始して、まったりムードのラリーしてたけど、弥勒の勝ったらジュース1本の言葉で、勝負に火がついた。

 弥勒のガタイのデカさを活かしたパワー溢れるプレイを、経験と技術でいなす俺で、試合は一進一退して、2ゲーム目のマッチポイント、上手く隙をついてコート前方にボールを落とした俺の勝利!


「やたーっ! ジュース1本ゲットー!」

「くっそぉー! あんな前に落とされるとは思わんかった〜」

「ふっふっふ。ブランクがあるとは言え、部長さんが初心者に負けちゃカッコ悪いしな」

「でもおまえ、オレがジュース言わんかったら、1ゲームぐらい譲る気やったやろ?」

「まあな。後輩に卓球楽しいって思ってもらうのも、部長の仕事だし、勝ち気が強えだけじゃ務まらねえよ」


 彼方も卓球は強かったけど、あいつは負けるの大嫌いだったから、部長さんには全然向いてねえヤツだったぞ。

 ヤツは初心者相手でも容赦しねえヤツだ。

 後輩コテンパンにし過ぎて泣かせたこともあるから、女子の部長はやってなかったしな。


「やっぱ卓球部員て多かったんけ?」

「他の中学よりは多かったな。うちの中学は部活やらねえとダメな学校だったし」


 サッカー部みてえに全国大会行くほど強くはなかったけど、地区予選でベスト8ぐれえまでは頑張る部だったから、活気あったんだ。

 その分、練習が厳しいっつって、辞める新入生も多かったけど、俺の学年で7人、下は8人とか9人いたから、他校より多かった。

 近くの中学じゃ、全部で3人とか4人しかいねえ卓球部が、けっこうザラにあったからな。

 おかげで練習試合組むのが大変だって教師がボヤいてたし。


「運動部やったし、マネージャーとかいたんけ?」

「卓球部に? まさか。いるわけねえじゃん。そゆのは高校生なってからだよ」


 うちの高校の卓球部にもマネージャーいねえのに、中学の卓球部にマネージャーなんて、贅沢な生き物がいるわけねえじゃん。


「ほなスコア付けたりは誰がやってたんや?」

「部長さん。後輩の指導する役目だし、能力の把握は部長の仕事だったぞ」


 人数多いから、よくマネージャー欲しいって思ったけど、雑用係やりたがるような奇特なヤツがいるわけねえから、それは諦めてた。


「へえ、マネージャーは募集とかせんかったんけ?」

「うん。サッカー部にもいねえのに、うちでやりたがるヤツいねえだろ」


 サッカーみてえに女子部ねえならまだしも、卓球が好きなら、女子部やるだろうし、部長っつーのは雑用で忙しいヤツの事だった。


「そうか。ジュースはコーラけ?」

「えへ。分かってんじゃん弥勒。コーラ飲みてえっ」


 弥勒に勝利のコーラを奢ってもらって、休憩タイム。

 なるほど、アメリカじゃ季節によって、参加出来るスポーツが変わるのか。


「ええっ! しかも上手じゃねえと部活メンバーに入れてもらえねえのか?」

「せやで。だからわりと選抜メンバーは羨望の的やったりするな」

「うへぇ。さすが競争社会アメリカだ。弥勒も色々誘われたんじゃね?」

「誘われるのは色々あったで。この通り体格良かったからな。家事あったしあんまやらんかったけど」


 中学行く頃になると、弥勒は家事のほとんどを任されるようになってたから、部活はあんまやってなかったみてえだ。勿体ねえ。



「そろそろええ時間やし、ちょっとあっち行かへんけ?」

「む? いいけど、何か催し物でもあるのか?」


 弥勒に着いてくと、ローラスケート場になんと、ゴーカートが並んでいやがる!

 3時間に1回ここはレース場に変身するらしい。


「うはー、俺が運転出来るのか? マジ? やっていいのか?」

「おう。ここなら免許はいらんから、遥でも運転出来るで」


 被ってた帽子は腰につけて、安全対策のヘルメット被って、シートベルト装着して、ドッキドキでスタート切った。楽しいっ!

 子どもがいるから、スピード出過ぎるってわけじゃねえけど、ほっぺた風切る感覚あるし、弥勒と競争するのも他の人追い抜くのも面白え! ヤベえ、楽しいっ! 運転面白えっ! 俺、運転してるっ! 自動車じゃねえけど運転してるっ!

 なんの変てつもねえO字のコースをぐるぐる走るだけだけど、普段自転車すら運転出来ねえから、テンション爆上がりの俺!

 ハンドルがあって、アクセルとブレーキもあって、シートベルトもあるんだから、もはやこれは車だ! 俺にとっちゃ車でしかねえ。


「む! コンニャロ、アウトからインに攻めるつもりだな! させねえよ!」

「ははは。上手く防御出来るかな? 運転はオレに一日の長があるで?」

「むっきーっ! 抜かれたっ! 待てコンニャロ! 絶対抜き返してやんよっ!」


 俺も負けず嫌いなとこあるけど、弥勒もけっこう負けず嫌いだから、すげえ熱い勝負を繰り広げることになった。

 周りのゴーカート乗ってる子どもが、コースの周りにいる親とかに手ぇ降ってるけど、そんな余裕、俺らにはまるでナッシング!

 ひたすら弥勒といかにスピードの出る走り方させるかを、追求して必死こいてしまった。

 気分はすっかりレーサーだなっ。



「おまえハンドル持つと人格変わるタイプやったんやな」

「違えぞ? たまたまだ、たまたま景色見て楽しむより、走り込む方が面白かったからだぞ」

「いや、ええけどな。楽しかったみたいやし」

「すげえ楽しかった! 俺でも安全に運転出来るってすげえっ」

「どや? オレと付き合うと、諦めてたことでも出来ひんか、いっしょに探したるで」

「むむ。それはあれだ。ピコピコン“遥のお付き合いしたいが上昇した”だぞ」

「お? ええのが上がったな。もっとそれはいっぱい上げよ。上げんとや」


 弥勒がずっと俺といっしょにいると、俺はきっとずっと嬉しいと楽しいがいっぱいだろうな。

 しょんぼりな時も、弥勒のおかげで元気になれる事がいっぱいあるし。

 でも、弥勒はどうなんだろう? 俺がいるといい事あるか?


「当たり前や。遥とおると工夫すんのも楽しいっ。何でも頑張る元気が出てくるで」

「俺、弥勒に元気あげてるのか? 頭撫でたりあんましねえぞ?」

「それでもおまえが“すごい”とか言うとオレは元気になる。“楽しい”て言うと嬉しなるで」

「そっかー。弥勒も俺といると、いい事いっぱいなんだなっ」


 俺のためだけじゃねえ、弥勒のためにも、いい事いっぱいのこの関係、一歩踏み出す。

 俺はようやくその決心を出来たぞ、弥勒。

もしよければ、ブックマークや⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎を付けてくださると作者は泣いて喜びます(๑>◡<๑)ノ

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