一歩
文化祭が終わってここ1ヶ月で、一番の変化っつーと、やっぱ福原だよな。
女装コンテストで俺が最優秀賞取ったせいか、ようやくヤツは元々の色を隠せとは言わねえように変化した。
もちろん、相変わらず口うるせえヤツではあるから、目立つ分色々言われがちなのは、あんま変わんねえけど、俺も彼方も校則違反だとかの、他の文句は言われねえようにしてるし、そっちは問題ねえ。
その分、気合い入れて、他の生徒たちを注意しまくってるけど、俺には関係ねえし、お好きにどうぞっつー感じだ。
その被害者が相沢であっても、そこはしょーがねえだろ。
だって相沢、スカート丈は見るからに短えし、髪も絶対染めてるし、弥勒に教えられて雑誌チェックしたら、ピアスも開けてたしな。
「もー福原超ムカーっ。あたしピアス取られたの、これで10個目だよー?」
「いや、相沢? ピアスはダメだろ、ピアスは… 体育やる時、引っかけて危ねえから」
「ちゅうか、おまえは絡んでくんなて言うてるやろ」
「ちょっとぐらいグチってもいいっしょー。弥勒くん冷たいーっ」
幸いな事に相沢は、俺が好きになれねえって断った後も、変に避けたりしねえで、こうして普通に話しかけてくるから、ホッとした。
「かわいくありたい女子の気持ちを、福原分かってないって思わんー? 出会いなんて、どこにあるか分からんのにさー」
「うん、まあ、あれだ。オシャレは許されてる範囲で楽しもうぜ?」
「オシャレしたかったんやったら、校則緩い学校いけばよかったやんけ。…てか、おまえ出会い探してるんや?」
「まーね。フラれたのに、いつまでもズルズルってのは、よくないっしょ? 次の恋いかなきゃ」
「そうか。ま、女磨いてる最中やったら、ある程度はしゃーないかもな」
「でしょ? 弥勒くん、次にあたしみたいの出現した時には、もういじめちゃダメだかんね?」
言いたいこと言えたのか、それだけ言うと、相沢はさっさと廊下を歩いてったけど、えぇ〜? 俺、今から弥勒に説明すんのか?
「………遥、相沢フったんけ?」
「あーうん。俺の気持ちが付き合えねえってなったって、ちゃんと言った」
「そうか。オレが嫌がったせいやなく、遥の気持ちが決まったんや」
「うん。気持ち決まったのに、言わねえっつーのも悪いし、ちゃんとしておこうってな」
「気持ち、決まったんけ?」
「や、決まったのは相沢と付き合うのは出来ねえっつーやつで…ごめん」
「謝らんでええ。オレが出来る努力はするから、気にせんとゆっくり考えてくれや」
「むー…」
弥勒の努力が足りねえっつーわけじゃなく、俺の気持ちが足りねえ、こんな場合はどうすりゃいいんだろうな…?
デケえ弥勒の手で優しく頭撫でてもらいながら、俺は足りねえ自分の気持ちを見つめ直すけど、今んとこなんも思い浮かばねえ。
俺、だんだん弥勒が、ちょびっとずつだけど、好きにはなってきてるけど、まだいっぱい好きっつーわけじゃねえし…むー
誰かに話聞いてもらいてえけど、気軽に話せる内容でもねえし、こういう時、普通のマイノリティたちはどうしてるんだろうな?
「……弥勒、俺ちょっと話聞いてもらいてえ。放課後いいか?」
「ええで。外でが聞く方がええんか?」
「ううん。弥勒んちがいいけど、メシ作りながらとかじゃやだ」
「…分かった。でも何も食わへんっちゅうわけいかんやろ? 買い物は行こや」
結局、俺は悩んだ末に、弥勒に話を聞いてもらう事にした。
弥勒は当事者だし、これから色々向き合っていくなら、必要かもだしな。
買い物で商品見ても、いつもみてえな食欲をあんま感じねえから、冷凍うどんと白桃ゼリーを選んで、弥勒もそれに合わせてくれた。
弥勒、いつもはいっぱい食うのに、俺に合わせてもらうのが悪いなって思うけど、いっしょに食いてえ気分だったから嬉しい。
「お邪魔しまーす…」
「おう。上がれや」
いつもみてえに弥勒んち上がったけど、買ってきた物は冷蔵庫にしまって、2人でお湯沸かしてパックのドリップコーヒーを淹れる。
「んで? 遥の話したい事って何や」
「うん…あのな俺…どうしたらいいか分かんねえ事があってな…弥勒の事、付き合うほど好きじゃねえのが」
「………そうか」
「琢磨に彼女いらねえの?って聞かれた時、いらねえって言ったら、やっぱ何で?って聞かれるじゃん? 相手がいる、弥勒だって言ったらさ…やめとけって言われると思う。弥勒、相沢と付き合うのやだっつって、俺がそれ聞いたの知ってるから…したら普通に女にしとけよって言われるだろ? 俺が男好きならきっと認めてくれるだろうけど、そうじゃねえならって絶対言われる。それ説得出来るほどの気持ちになってくんねえ…それがどうすりゃいいか分かんねえんだ」
「…つまり、その、気持ちが」
「うん。足りねえ…弥勒と付き合うには気持ちが足りねえ。他にも色々男同士は問題あるけど…」
「えーと…それ、オレも断るって事やんな」
「はぁ? なんでそうなるんだよ! ちゃんと付き合うには、どうすりゃいいか分かんねえっつってんだろ?」
「え? ぁ…え? 付き合うには…? ちゃんと付き合うためにどうするかっちゅう事け?」
「俺らは色々、いっぱい乗り越えねえとムリだろ? でも乗り越えるには足りねえから、俺考えてるのに!」
「そっち? 乗り越えるには気持ち足らんから、無理やとかやなくて?」
「ムリだったら聞いてくれとか言わねえで、ムリって言うだろ! むーっ!」
「すまん。そっちか…オレてっきり説得出来んし、付き合うん無理っちゅう話かと…よかった〜…」
「よくねえ。全然よくねえぞ。それまず解決しねえと付き合えねえんだぞ?」
「そうやけど、よかった。フラれるんかと思た。マジで一瞬息とか止まるかと思た」
「むー酷え勘違いだそれ。俺頑張ってるのに…むー」
「悪かった。でも、オレと付き合うために、いっぱい考えてくれてるんやな」
「うん…でも考えても分かんねえ。気持ち増やす方法とか分かんねえ。いっぱい好きじゃねえとダメなのに…」
「それ、まだいっぱい好きには届かんだけやないんけ?」
「まだ届かねえだけなのか? 待ってたら届くか?」
「オレが前に聞いた時は、ちょびっと好きっちゅうてたやろ? そん時から増えてるやんけ」
「うん。あれから増えたぞ。まだ足らねえけど」
「時間かけるんはあかんのけ? 増えてるなら、乗り越えられるまでオレが口説くし」
「協力してくれるか? 俺が乗り越えられる気持ちになれるように。俺、自分じゃ気持ち増やすとか分かんねえし」
「当たり前や。協力するに決まってるやんけ。オレがもっと口説いて、遥が乗り越えられる好きに届いたら、付き合うんやろ?」
「うん。俺そのつもりで頑張ってるけど…」
「ん? 他に何かあるなら言うてみ? オレが遥と付き合うために、頑張れる事があるなら、聞きたいで」
「むー」
「言うてくれんと、いっしょに頑張れへんやろ?」
「キス…の先は、怖え。どう考えたって怖え…受け入れるの怖え…」
「あー…」
これが俺の最大の問題だよな。そこクリア出来ねえのは致命的だと思うっつーぐれえ、解決しねえとならねえけど、超絶難問だ。
キスしたり、ぎゅってするのは、俺もしてえけど、そこまでしか想像が働かねえし、怖えしか思えねえのが今の俺だし…
「………その…キスはええんや?」
「む。まだダメだぞ? そういうのは付き合ってからだからな?」
「……………いや、そうやなくてな」
なんか弥勒が両手で顔覆って背中丸めちゃったぞ。やっぱしてえんだよな? 男だし、当たり前だけど、俺はムリだけどさ。
「…………………遥の気持ちは、キス、したいて思う好きなんや?」
「そう言ったじゃんか」
「聞いてへんっ! 全然聞いてへんし、それ!」
「言ったじゃんか。ちょびっと好きって前にも何回もっ」
「あれそういう意味で好きて言うてたんけ? オレ最初おまえにキスしたいの好きやないって聞いたで?」
「最初からキスしてえの好きなわけねえだろ? でもちょびっと好きって違う種類もちょびっとじゃんっ!」
「えー? そういう事なん? オレ今までずっとそうやないと…えー?」
「えーじゃねえ。俺はちゃんと言ってただろ。それより、この超絶難問をどうしてくかだろ」
「待ってくれ。ちょっとだけ待ってくれ。確認させてくれや」
「何をだよ?」
「キスしたいの好き、なんやな?」
「だから、さっきからそうだっつってるだろ。弥勒と付き合うって考えるんだし、当然じゃん」
キスしてえとも思わねえ相手なら、こんないっぱい考えたりしねえっつーの。
今さらなに当たり前の事で確認とか取ってんだ?
「頼むからちゃんと答えてくれ。……オレが好きか?」
「好きだぞ。これから乗り越えねえといけねえ事でいっぱいなの、どうしようっつーぐれえ、弥勒が好きだ」
「オレも好きや。めっちゃ好きや。たまらん好き……っ すまん、ちょっとたんま…」
「弥勒?」
「胸がいっぱいで、オレ……いっぱい過ぎて、ちょっと無理……休憩させてくれ」
「うん、休憩はしていいぞ。コーヒー、も一杯飲むか?」
「頼む」
なんかよく分かんねえけど、一人であーとかうーとか唸りながら弥勒が悶えてるから、その間に俺はお湯沸かしてコーヒー淹れる。
紙パックのドリップコーヒーの香りが、ふわっと部屋に漂って、なんかほっとするな…さっきは考え込んでたから余裕なかった。
「弥勒、コーヒー入ったぞ、ちょっとは休憩出来たか?」
「まだ無理。まだ頭からなんか出そうや。ぴゅーとか言いそうでヤバい」
「大げさだぞ。前から何回も言ってるのに」
「そこ、オレの認識とは全然違ったから…いきなり道のりがめっちゃ短なった気がする」
「早死にするみてえに言うんじゃねえ。まだ何も乗り越えてねえじゃん」
「この状況にたどり着くまでが、もっと長いて思てたんや。告った時は全然そういう意識されてへんかったし」
「そこから俺もちゃんと考えた。いっぱい、色々。いっしょにいてえかとか色々な」
「めっちゃ嬉しい。ちゃんとオレの気持ちと向き合って考えてくれたん、めちゃめちゃ嬉しい」
「えへ。そんな嬉しいか。弥勒は俺の事がほんと好きだな」
「おう。めっちゃ好きやで、遥。 ……さっきの話やけどな、オレ別にええで。受け入れでも」
「は? いやいやいやいや待て待て。それはダメだ。弥勒がされてえならともかく、そうじゃねえんだろ?」
「まあ…いやでも、それやと遥が負担負う事になるやんけ。それでは…」
「ダメだ。弥勒がそう言うなら最終どうするかは置いとくにしても、その覚悟がねえのはダメだろ」
「そうなんけ?」
「俺と弥勒は男同士だ。負担を負う気もねえっつーのはダメだろ。最終どっち選ぶにしたってそれは絶対ダメ。せめて弥勒みてえに、さらっと大丈夫って言えねえとだ。俺は男だからこそ、そこは譲れねえ。2人で負う責任だろ?」
「オレらが精神的に対等であるためにか。そうかもしれんな」
「まだ全然大丈夫じゃねえけど、それでもなんとかしねえとって思う。怖えけど…思う」
「ほなそれ、付き合ってく間に考えるっちゅうのはどや? 急ぐ必要はないし、その…触れたら分かる事もあるかもしれんし」
「む。すげえ時間かかるかもしんねえぞ」
「時間かかるんなんか全然かまへん。いっぺんに何もかも乗り越えるより楽やろ?」
「でも待たせたあげくにっつー事もあるかもだぞ?」
「キス以上せん高校生カップルもザラにおるし、だいたいオレは遥がええんであって、出来んでも他のをとは思わん」
「付き合ってから考える、でいいのか? また俺、弥勒に甘えても怒んねえ?」
「怒るわけない。オレの事ちゃんと考えててくれたやんけ」
「ん。じゃあ一旦保留にしとく。まずは自分の気持ちがいっぱいになる方目指すな」
「おう。オレもそれ目指すわ。好きやで遥。めっちゃ好きや」
「俺も好きだぞ。まだいっぱいじゃねえけど、もうちょびっとじゃねえ好きだ」
弥勒に話聞いてもらってよかった。弥勒が頑張ってくれるなら、きっと俺の好きはいっぱいになれるはずだ。
気持ちがちょっと軽くなったな。やっぱこういう時は話聞いてもらって、いっしょに考えるのが一番近道なんだ。
一人でじっくり検討するのも重要だけど、2人の事なんだから、煮詰まった時は2人で考えよう。
弥勒と2人で冷凍うどんと白桃ゼリー食って、やっぱこれだけじゃ全然足りねえっつって、もう一度買い物に出かける。
今度は何かちょっとした物でいいから、いっしょに作って食おうって、笑いながら2人で出かけてった。
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