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この恋のために  作者: ひなた真水


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31/41

積み重ねてく

「ねえねえ弥勒くん、これ読んでみてくれないかな?」

「あたしたちの超おススメだから、読んで欲しいな?」

「お? おぉ…なんかエラい薄い冊子やな。これがおまえらのおススメか?」

「こらー! てめえら弥勒におかしな物読ませようとすんじゃねー! 弥勒が染まったらどうすんだバカやろー!」


 季節はすっかり秋に変わって、ブレザーの毎日も板についてきた今日この頃でも、伊東藤本両名の腐教活動が途絶える事がねえ。

 なんでも日曜に行ってきたイベントで、神に出会ったとか言って、そいつの書いた冊子を俺やら弥勒やら時々滝にまで勧めてくる。

 俺は日本で生まれ育ってるから、そういうヤツがいるっつーのぐれえ知識あるし、滝は彼方担当だからかまわねえが、弥勒はダメだ。

 ただでさえ俺と弥勒の関係は、微妙なバランスで成り立ってるっつーのに、こういう物を弥勒が読んで、変な刺激受けたら困るぞ。


「もう、遥くんってば偏見強すぎだよ?」

「ほんとにいいから遥くんも読んでよ!」

「「芸術にジャンルは関係ないってきっと理解出来るから!」」

「ええやんけ遥。こんだけ奨めてくるんやし、ちょっとぐらい付き合ったっても」

「むー分かったよ。一応読んでやるけど、つまんねえ本だったら文句だ」


 弥勒に取りなされたらしょーがねえけど、読むだけ読んで、あとで絶対難癖つけてやるぞって、意気込みながら薄い冊子を借りた。

 ふむ…これは所謂オリジナル作品っつーやつか…どっかのキャラ借りてきた、2次創作っつーわけじゃねえんだな…ふむ…


 キーンコーンカーンコーン───


「伊東藤本、オレこれの続きが気になる。貸してくれや」

「俺も気になるぞ。おめえら責任取って続き貸せ」

「ね? 言った通りすごくいいでしょ?」

「明日絶対持ってくるから、待ってて!」


 放課後、俺も弥勒も、伊東藤本両名の腐教活動の餌食となって、薄い冊子の続きが気になってしょーがねえ状態になってしまった。

 いや、男同士っつーのはあれだけど、普通に面白え作品なんだもんよ。あれは誰でも続きが気になるってもんだ。

 今のところの登場人物は3人の少年がメインだけど、まだどいつとどいつがいい感じっつーわけじゃねえし、普通の青春物なんだよ。


 今どきのラノベみてえにぶっ飛んだ設定で、転生したり超能力使ったりして戦うことはねえし、俺、あれ系が苦手なんだよな。

 どうもああいうとんでも設定読むと、その世界の仕組みの方が気になって、物語の中に入り込めねえんだ…自分で損だと思うけど。


 ま、とにかく続きが気になるぞ。

 特に文章に使われてる言葉も心地いいっつーのが、俺のポイント高えよ。


「あの2人に借りた中やと、今回のが一番ええな」

「だな。思ったより面白そうな話だし、明日が楽しみだ」

「あ、ババアが野菜送ってきたし、今日は肉類だけ買って帰るで」

「了解。今日は何食う? 鶏豚牛魚、どれする?」

「合い挽きミンチいってみよか。おまえは予定通りカボチャやで?」

「ふっふっふー。煮物かー、俺もついに煮物とかするようになってしまったな」


 弥勒が転校してきたのが5月で、今はもう10月の末だ。

 そりゃこんな毎日丁寧に教えてもらえれば、誰でも少しは出来るようなる。

 俺がエラいんじゃねえ、きっと弥勒の教え方がいいんだよ。

 俺がそう言うと、頑張るヤツが偉くねえわけねえぞって弥勒が頭撫でる。

 弥勒んち着いて煮物置いて上着脱いだら、エプロン付けてメシの準備していくぞ。

 今日はカボチャの煮物だ。煮っ転がしだな。


「にしても弥勒ってマメだし、料理に詳しいよな」

「オレの田舎が日本とフランスやっちゅうのは影響デカいな。両方とも食うの好きな国やし」

「そか。今度フランスの家庭料理も作ってみてえな。難しいか?」

「家庭料理はそんなでもない。エスカルゴとか、こっちじゃあんま食わへんのもあるけど、そこまで凝ってへんで」

「そなのか? フランス料理っつーと、俺の中じゃ美食なイメージがあるぞ」

「味付けが日本と変わるだけで、基本はいっしょやで。ま、アメリカのメシみたいに適当過ぎる事はないけどな」

「アメリカ人のメシはやっぱ適当か? ポテトとハンバーガーか?」

「まず見た目が適当なメシが多いな。もうちょい、うまそうに盛り付けろやて思う」


 アメリカのメシっつーのは、ハンバーガーやポテト食うのはいいけど、皿から溢れそうだったり、1種類がやたら多かったりらしい。

 ハンバーガーとポテトがデケえ皿にいっぱい乗ってるっつーのは、イメージ通りだけど、アメリカって家でもそのままな感じなのか。


「オレ一人暮らしの適当メシでも何品かは食いたい方やのに、晩メシにミートパイだけはないて思うで」

「えー…それ子どもはキレていい案件なんじゃねえか? 晩メシ1個は適当過ぎだろー…」

「あと、メシ時に甘いジュース飲むヤツが多い。大人でもわりとコーラとかガブガブやし引く」

「いや、ハンバーガーにコーラは分かるけど、家で晩メシにそれやるのか?」

「昼メシに甘いドーナツ食うたりとか、不健康な体型のヤツが多いわけやて思うな」

「日本でもたまに菓子パンだけのヤツいるけど、アメリカじゃそっちが普通か。そりゃ太るな」

「オレ小学校っちゅうの行ってへんかったし、余計に衝撃的やったわ。こいつらメシがまともやない…て」

「ちっせえ頃からずっとだと違和感なかったかもしんねえけど、ある程度育ってからそれはキツいな」

「おう。あと一家揃ってヴィーガンとか、マジか? やで、こっちは」

「菜食主義だっけ、一家揃ってっつーのはすげえ…もっと普通の家っつーのはねえのか?」

「たまにある。けど、そういう家でもメシがワンディッシュで出てくる時あるからな」

「せめてスープも飲もうぜ。肉野菜をまとめるのはいいけど、スープが欲しくならねえのか?」

「パンもいっしょの一皿や。どんだけ皿洗いが嫌いやねんって思うけどな。そいつんち食洗機あるクセに…」

「一皿に肉パン野菜か。味移りしそうだぞ、それ。味噌汁飲んで米は茶碗で食う国としては、衝撃的な光景だな…」

「極めつけが家で全く料理せんっちゅう家庭な」

「は? 家でメシ食わねえのか? 全く? その友だちは全部外食か? 金持ち?」

「いや、メシは家で食うけど、全部レンチン。アメリカではワンプレートで一食っちゅう冷凍食品が売ってるし」

「ヤベえ。親の愛を感じねえ〜…そんな家やだなー、なんか変な子どもが育ちそうだ…」

「ま、そんなメシ食う生活する国と比べたら、日本とフランスはメシが豊かや」

「料理しねえとか皿1枚じゃ比べたくもねえよ。俺、弥勒の親がちゃんと食わせてくれたの感謝だ」

「オレもあのクソ親どもはたいがいな親やけど、メシだけはまともな親やと思うわ」


 家にいねえ事も多かったっつー弥勒の親は、きっと忙しい親なんだろうけど、その間をぬって弥勒にちゃんとした物食わせてくれた。

 手間かける事が惜しいと思ってたら、それは絶対出来ねえ事だから、俺はそれが嬉しいぞ。

 弥勒がいっぱい大事にされたの嬉しい。

 弥勒が親に大事されて育ったって分かるたびに、嬉しくなる自分の気持ちに、俺ってやっぱ弥勒が好きなんだなーって感じる。

 カボチャの煮物をコトコト煮込みながら、俺の気持ちも、ちょっとずつ、ちょびっとずつ、なんか柔らかくなっていく気がするぞ。


「遥のおかんも料理は上手やな。コロッケも筑前煮もうまかったし」

「ああ見えて母さんは、時々すげえの料理するぞ。聞いた事もねえような外国の料理とか」

「そうなんけ? 聞いた事ないっちゅうても、あの腕やったらそんな酷いことにはならへんやろ」

「それでやらかすのが母さんクオリティだ。今じゃ慣れたけど、トムヤムクンとか最初はすげえ不評だった」

「あー日本風のアレンジされる前に作ったんやな。他にはどんな物食わせられたんや?」

「油っぽいバインセオ食わせてきたり、肉をコーラで煮込んだり、不味すぎるピクルス漬けたりだぞ」

「意外とチャレンジャーやな、おまえのおかんって」

「量が多いやつの時が大変なんだよ。ちょっとでもやなのに、まだいっぱいあるっつーのが」

「みんなで我慢しもって食うんか。なんかそれ、めっちゃ大変そうやな」

「俺はわりと我慢する方だけど、さすがにデケえ鍋一杯残ってるとかだとムリだ。彼方なんか一口以上食わねえし」

「最終的な犠牲者はおとんか」

「俺と彼方が食わねえなら当然そうなるな。母さんは自分の失敗あんま食わねえし」

「いや、そこは食えや。自分で責任取ってもらわんと」

「主婦の舌がおかしくなったらダメだろっつーのが、母さんの逃げ口上だ。ズルいだろ?」

「チャレンジ料理やめるわけにはいかんのか?」

「母さんの言い分は数学者が数学好きなのいいのに、主婦が料理好きなのはダメなのかだぞ」

「あー…それ言われると反論は難しいな。おとんがあれだけ数学好きやし」

「その上母さんは他人に台所触られるのが好きじゃねえから、不味いからって勝手に捨てたりは出来ねえしな」

「おかんが台所触られんの嫌いやし、料理やった事なかったんや?」

「そだぞ。あそこは基本、母さんの部屋みてえなもんだから、勝手に入って物使うと怒られる」

「それやったらしゃーないな。おかん料理好きやのに何で?って思ってたんや」

「俺とかが勝手していいのは飲み物だけだ。おやつは勝手しちゃなんねえんだよ。厳しいと思わねえ?」

「いやそれ、遥とか彼方が決まった時間以外にもおやつ食うしちゃうけ? おやつ食うて晩メシ食えへんでは困るやろ」

「でもちっせえ頃はそれがやだった。琢磨んちみてえに台所解放しろって思ってたな」

「専業主婦と働くおかんはまたちゃうし、しゃーないって」


 俺も弥勒に自分のちっせえ頃の事いっぱい喋る。

 たくさんありすぎて全部はムリだけど、弥勒が俺を知ってもっと好きになるように。

 弥勒と俺とでちょびっとずつでいいから、ちっせえ好きっつー気持ちを積み重ねて、いつかちゃんと好きって面と向かって言いてえ。

もしよければ、ブックマークや⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎を付けてくださると作者は泣いて喜びます(๑>◡<๑)ノ

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