まだ動かない気持ち
文化祭終了したら当然、あっという間に中間テストがやって来るから、俺は例によって例のごとく、伊東藤本の問題持ってきた。
ほんとあの2人は手がかかってしょーがねえよ。
なんで毎回毎回、俺が数字の問題なんか作ったりしねえとダメなんだよ…ったく。
「ほら、持ってきてやったから、おめえらしっかり解けよ」
「ありがとー遥くーん」
「ほんと感謝してるよ」
「お、今回も懲りずにやっとんなー。おはよう遥」
「あ、おはよ弥勒。おじさん大丈夫だったか?」
「おう。幸いな事にな、怪我は小指の骨折だけやったわ」
土曜日、俺らが文化祭で楽しく過ごしてる間に、弥勒のおじさんは、バイクの運転中に単独ですっ転ぶっつーアクシデントに見舞われた。
連絡受けた弥勒は打ち上げを放り出して、おじさんとこに駆けつけてて、日曜はずっと病院での手伝いに走りまわってたらしい。
「そか。小指っつーのは不便そうだけど、大ごとにならねえでよかったな」
「ほんま人騒がせなオッサンやで。そんでオレ、オッサンのバイクもらえる事なってん」
「は? バイクって…免許持ってねえだろ弥勒。免許取れるのまだ先じゃん」
「免許取ったらもらえるっちゅうか、引き取ってくれてオバハンに頼まれたんや」
「ええー? 免許取ったらおじさんのバイクもらえるっつー事か? おじさんも弥勒にあげるって?」
「オッサンはだいぶゴネとったけど、オバハンが激怒して大人しなったわ。転ぶようなヤツは乗るなて言われてな」
「まあ事故起こされたら、家族はたまったもんじゃねえだろーしな。でもバイクかーいいなー」
「ははは。ええやろー? オレが免許取ったら言うてた通り後ろ乗せたるしな」
「マジかよ。弥勒乗せてくれんのか? やた! 遠出とかしようぜ、デケえか? どんなバイクだ?」
「250ccのクルーザータイプや。えーと、日本やとアメリカンとかも言うやつな」
「うはーいいなー。それ弥勒に絶対似合うやつじゃん。転んで怪我したりだけは気をつけろよ?」
「おう。気ぃつける。オレはオッサンみたいにはならへん」
「遥くん、分かんない」
「さっぱりだよ遥くん」
「またかよ、おめえらーっ! 1問目が分かんねえって、どういう事だ? おかしいだろー?」
「諦めろ遥。こいつらが数学の授業内容なんか、覚えてるわけあらへんって」
四苦八苦しながら俺は、伊東藤本に数学を教えつつ、弥勒の誕生日の事を考える。
せっかくだし、俺もなんか弥勒にやりてえな。
俺、今はバイトとかしてねえ小遣いのヤツだし、今からちゃんと考えとかねえと、間に合うかどうか分かんねえしな。
つか、弥勒な…うーむ。
今のままでも俺、けっこう楽しいんだけど、やっぱ弥勒は、その…ちゃんと付き合うってのしてえのかな?
俺、弥勒の待つって言葉に甘えてるか?
待たせてる間に弥勒が俺待つのがやになったら…それはやだ。
でもさ、色々まだ怖えぞ。
弥勒とキスしてえ種類の好きだとは思うけど、じゃあその先はどうなんだって言われたらさ…ムリだよ〜。
セックスはまだ想像するのも怖え。
知らねえで怖がっててもあれだと思って、色々調べてみてさらに怖くなったし…
色んな準備が必要だとか、その時点でもう辛そうじゃん?
ダメだ…まだ全然乗り越えられる気がしねえ。
だいたい弥勒だって、その…俺をキスとか抱きしめてえは、思ったりするかも知らねえけど、それ以上してえとか思ってるのか?
だって普通しねえ事するんだぞ? 逆流なんだぞ? ムリだろ? 汚ねえだろ?
したくねえって思ってもしょーがねえよな?
むー。ダメだなー俺、ここでいつも思考停止してるな…
他の事考えてみようか…俺の周りの事とか、やっぱ認めてもらいてえしな。
なぜか彼方と滝は認めてるっつーか、弥勒を応援してるみてえだけど、普通は反対するだろうから、そっちも考えねえとだ。
言いふらす気はねえけど、俺が彼女作らねえってなったら、なんでって言うヤツは出るよな。
父さん母さんとか琢磨はさ…今はねえけど、いずれは言う。
彼方がいるから、孫が見れねえわけじゃねえけど、それでも隠し通すのは辛そうだし、バレたらどうしようっつーのはあるな…
琢磨とかも絶対言いそうだ…彼女作らねえのっつーのだったら、琢磨が一番最初に言うかもしんねえ。
だって高校生だし俺も琢磨も、彼女欲しい年頃だもんよ。
彼女いらねえって言ったら、なんで? ってなるのが普通だ。琢磨にそんな事聞かれたら、なんて言う?
そん時、俺は実は彼女じゃなくて、彼氏いるっつーのか?
むー。弥勒が彼氏だっつったら、どう思われるかなー…むー
弥勒、相沢とのこと邪魔したっつーのがあるから、琢磨は反対するかもしんねえよな。
男が相手っつーのは引かねえかもだけど。
下心があって、彼女が出来そうなの邪魔するような男はよくねえっつーかもしんねえ。
俺が性的少数者っつーのは許せても、そこは怒るかもしんねえな。
琢磨からしたら、それは弥勒が俺を引き込んだっつーことになるだろうし、目ぇ覚まして女と付き合えって言われる可能性はある。
俺、別に他の男を魅力的に感じたりしねえもん。
今でも俺は、自分が男を好きなヤツだとは思ってねえ。
弥勒以外のヤツとか絶対やだって思ってるし、普通にグラビアアイドルは好きだ。
弥勒が特別だっつって、琢磨に分かってもらえる自信はねえ。
俺がどうしても好きだって言ったら、そっかってなるかもだけど、今はまだ、琢磨説得するぐれえは好きって言えねえし、そんなじゃダメだ。琢磨説得してやるって思わねえと、付き合えねえよな。
父さん母さんは…あとでいいか。琢磨説得出来るぐれえ好きなら、きっと父さん母さんも説得するだろ。
そこは未来の俺に期待だ。
むー、弥勒は別に、2年のガチ男の娘の先輩みてえに、なんでこいつに、おっぱい付いてねえんだ?ってタイプじゃねえし…
195以上ある格闘技経験者だし、弥勒におっぱい付いてたら気持ち悪いし、むー
見た目だとどこがいいんだ? だよな。
いや、弥勒はカッコいいんだけどさ、それは女子が男に美形でカッコいいって言うっつーより、男が男を見てうわーって思うカッコよさ?
男なら誰でも1回ぐれえ、こういうヤツになりてえって思うようなカッコよさで、女っぽいとこなんか全然ねえんだよな。
実際それなりにモテるヤツだし、女子に告られたりもしてるし…なんで弥勒は俺なんか好きなんだ? 分かんねえ。
俺がなんで弥勒好きかも分かんねえし…むー…分かんねえけど好きだって思うな。
好きだって思うけど、付き合うのは、まだむーだ。
だったら今後の方針はどうしていけばいいかだ。
これ以上好きになんねえで、こっそり気持ちがなくなるよう努力するか、もっと弥勒をいっぱい好きになって、みんなを説得するか。
好きにならねえように努力して、弥勒の悲しい顔見るのはやだから、きっとみんな説得するの大変だろうけど、そっちしかねえか…
でもいっぱい好きになるっつーのは、まだ出来ねえな…もうちょっとまた自分の気持ちが動くまで、俺も待つしかねえか。
「弥勒、頑張れよ」
「? おう。テスト頑張るわ」
俺は弥勒の頭を撫でて応援する。
弥勒の悲しい顔は見たくねえけど、自分じゃどうにも出来ねえから、弥勒と俺をこっそり応援だ。
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