中間考査準備
「やや、はるタソ。あそこいるデカすはミロクでなす?」
「ほんとだ。校門の前で何してんだ、あいつ」
朝いつもの道を彼方と登校中、校門のとこで立ってる弥勒を見つけた。デケえから見分けやすいな。他の生徒より頭一つ分デケえ。
もしかして、今日の生活指導は福原が当番か? あのバカ教師、いい加減モノの道理っつーのを理解すればいいのに、ほんとバカだ。
「彼方、行くぞ」
「了解なり」
俺と彼方は急いで弥勒のとこまで向かう。やっぱ福原だ。あれは弥勒の目にイチャモン付けてやがるな? ふふん、参戦してやろう。
「弥勒おはよー」
「おう。遥」
「こら、よそ見するんじゃない、高嶺!」
「なんだよ? 福原、またイチャモン付けてんのか?」
「楠木たちもだ。今日という今日は許さんぞっ!」
「なんで? 何許さねえつもりだ福原先生様?」
「うむり。かなタソ達、校則違反何もなすよ?」
「きさまらというヤツは〜っ!」
「なんだよ。デケえ声で言ってやろうか? 福原が俺らに校則違反して、髪染めてこいっつってんぞーっ!」
「福原酷すーっ! お目々お色隠すため、カラコン付けるよろし言うなりよーっ!」
「き、きさまらいい加減にしろ! 校内の秩序を乱すな!」
俺と彼方がデケえ声で、生徒指導教師が校則違反推奨してるって言い出したせいで、登校中の生徒たちが校門とこで足を止めだした。
「福原先生、今日のところはもう、予鈴のチャイムも鳴りますので」
「杉崎先生、くっ、そうですね…」
ナイスタイミング杉崎ちゃん。さすが我らの担任だ。こういうタイミングの見極めは杉崎ちゃんが1番頼りになるな! グッジョブ。
「楠木遥くん、彼方さん、それと高嶺くんも、教室へ急ぎなさい」
「了解なり〜杉崎ちゃん」
「またホームルームでな〜。行こ弥勒!」
「おう。行こか遥」
「こら、杉崎ちゃんではなく、杉崎先生でしょう?」
杉崎ちゃんのいつものお小声も聞き流して、彼方と俺と弥勒の3人で教室へ向かうと、廊下の途中から弥勒が爆笑しだした。
「わははは! おまえら、めっちゃ手慣れてっ! 手慣れ過ぎやっ! あかん! 見事過ぎて!」
「む? あれ、かなタソ達の日常であるなりよ?」
「だな。あれはいつも過ぎる事だし。バカだろ福原って」
「いやいや、担任までタイミング見てたやんけ! 見事過ぎっ! おっかっしーっ」
「言っただろ弥勒。生活指導の教師にはとっくだって」
「聞いてたけど、普通あそこまでと思わんやろ? あかん、おかしいっ! 正面切ってやるて思わんかったわ」
相当面白えのか大笑いする弥勒と、教室入るといつもの風景だ。クラスのヤツらに挨拶しながら席に行くと、滝が話しかけてきた。
「何? 朝からエラくご機嫌じゃない、弥勒」
「いや、遥が校門とこで色々するしや。あーおかしー」
「いつもの事だよ、滝」
「ああ、福原? 弥勒は初体験だったんだ?」
「あれがおまえのしょっちゅうなんけ?」
「まあな。福原はバカだから、弥勒も適当しとくといいぞ」
「おれみたいに、もうちょっと早く学校くれば揉めないのに、楽しんでさ」
「あれは娯楽にしねえと、勿体ねえだろ?」
「たしかにや。楽しみにしたなるイベントやったで」
実際、揉める手間かける気のねえ生徒は、滝みてえに早めに登校してるんだけど、かまいたくなるバカだしって生徒はいるはずだ。
「タキお昼なりよ、おべんといっしょ食うよろし」
「あ、彼方。今日おれ、焼きリンゴ持ってきたからね」
昼休み、彼方が滝んとこくるのは、すっかり定番になって、今日もラブラブしてやがる。チクショウ。羨ましいヤツらだ。
「遥、メシ食うで」
「うん。今椅子寄せるよ」
俺と弥勒が椅子寄せて食うのも、当たり前の光景になったけど、今日は当たり前じゃねえヤツらが混ざってやがる。伊東と藤本だ。
「ねえ遥くん、お願い」
「数学教えて、遥くん」
「やだよ。おめえらには教える甲斐がねえもん」
「そういや、テストがあるんやったな」
「弥勒くん、数学出来る?」
「弥勒くん、数学教えて?」
「英語やったら出来るけど、なんや不得意なんけ?」
「こいつらは数学っつーレベルじゃねえから」
「こいつら、そんな出来ひんのけ?」
「算数の分数でつまづいたヤツらだしな」
4月の実力テストの時、こいつらの面倒見させられて、俺は酷え目にあった。記憶領域に川でも流れてんじゃねえかって思ったし。
いくらなんでも忘れ過ぎだよ。もう、水かけて洗い流してでも、いるんじゃねえのかっつーぐれえ、教えた事が抜けてくから。
「そこまで? おまえらどうやって高校入ったんや」
「知らねえよ。替え玉でも雇ったんだろ。弥勒はテストどうなんだ?」
「ん? ちょっとはやってるけど、ちょっとだけやな」
「そか。いっしょに勉強すっか?」
「かまへんで。おまえは何が得意や?」
「2人きりの勉強部屋」
「絡み合う視線と視線」
「「いいよね〜萌えるね〜っ!」」
「……………遥、こいつら何言うてるか訳してくれんか?」
「やめろ弥勒。あれは理解しちゃいけねえ世界だ。得意っつーか、俺はわりと数学が好きだぞ」
「数学か。こっちはレベル高いて言うしな。オレは英語得意かも」
「それ当たり前だろ。この帰国子女が」
「環境作るんにはやっぱ図書館とか行くけ?」
「図書館か。俺はある程度飲み食いしてえから、ファミレスがいいけど」
「ねえねえ遥くん無視しないで」
「弥勒くんも無視は酷いって!」
「うっせえな。おめえら、そこに学年1位がいるだろ?」
「学年1位て誰や?」
「滝だよ。前回の実力テスト1位」
「そうなんけ? ふーん、慶太が1位か…」
「弥勒くん、ちなみに遥くんは3位だよ!」
「遥くん3位だし勉強しなくていいよね?」
「ほな2位は?」
「「彼方ちゃん!」」
「たまたまだよ。たまたま。次は勝つ」
俺は前回の汚名を返上するためにも、今回は勉強ちゃんとしねえとなんだよ。今回から彼方には、滝っつー強力な味方がいるからな。
彼方のヤロ、自分が負けた時は知らん顔するクセに、勝つとほんとに勝ち誇った顔しやがるから、超絶ムカつくんだよ。
「へえ、遥けっこう頭ええんや?」
「この学校基準だし、うち進学校じゃねえだろ?」
「そんな頭いい遥くん」
「数学教えてよ遥くん」
「オレも教えてくれや遥」
「弥勒も? 弥勒はいいぞ、おめえらはダメだ」
「「や〜ん! あたしたちだけに冷たい事言わないで〜っ! こうなったら変な噂流しちゃうよ〜?」」
「おかしな噂は流すなよ…分かった。弥勒と同レベル帯の質問なら聞いてやんよ」
くそ、また今回もこうやって、なし崩し的にこの2人の面倒見て、点数落とすんじゃねえだろうな、俺。くそぅ。手間のかかる。
「ほな、上位10位以内やったら、何か奢ってくれ」
「お? けっこう強気じゃん? いいぞ。俺の懐で出せる範囲ならな」
「ちょっと、10位レベルじゃ質問出来ないよ」
「あたしたち向けのレベルも作ってよ。遥くん」
「あーもーうっせえなー。分かったよ。おめえらの授業中やれる分、また作りゃいいんだろ?」
こいつらどうせ、家じゃ絶対勉強とかしねえだろうし、授業中やれば赤は回避出来るだろ。はー…ほんと手間かかるヤツらだ。
「「やったー! これで赤点回避〜!」」
「うひょ? はるタソよろしのか? かなタソには今回タキがおるなりよ?」
「うっせえぞ彼方。おめえはちょっとは手ぇ抜くとかしろ」
「おい。伊東も藤本も授業中しかやらんつもりなんけ? マジか?」
「学校以外にいる時は学校でやれない事をやる物でしょ?」
「そうだよ弥勒くん。青春は待ってくれないんだからね!」
「どう思うよこれ? 弥勒」
「かなり重症やな」