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この恋のために  作者: ひなた真水


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29/41

友情努力勝利

 10月の第一土曜日、我が校は文化祭を開催する、

 俺は10時からの、クラス対抗男子女装コンテストに出場のため、絶賛準備中だ。


「───んで、最後にリップを引いたら…」


 目ぇつむって頑張って慣れねえ化粧をやってもらって、そっと目を開けて周囲を確認する。

 どだ? 俺変じゃねえか? イケてる?

 周りの息を飲む気配に、視線をオロオロさせると、伊東藤本が手を取り合いながら、飛びはねて、すげえ勢いではしゃぎ出した。


「遥くんヤバい! 超きれい〜」

「遥くん最高! 超イケてるよ」

「うわー、化けたねえ、遥。これはおれもビックリだよ」

「当然! あたし超研究したもん。知り合いのメイクさんにも、めっちゃ聞いたし!」

「えへ。俺そんないい感じか? 優勝とかイケそう?」

「間違いなく、これうちの優勝だよ!」

「うちのクラス優勝で間違いないね!」

「これは誰も勝てないって感じだよ。おれじゃ、こういうのは出来なかっただろうね」

「2年の男の娘も、遥のきれいさには、びっくりで間違いなしっしょ」


 化粧してもらって紫のロングチャイナドレス着たけど、まだつけ毛つけてねえし、ハイヒールも履いてねえのに、エラく評判いいな。

 ちなみにおっぱいはあえて付けねえで、いかにもな女装男子を演出してる。

 2年の男の娘に勝つためには、女装してるってすぐに分かった方がいいっつー理由で、みんなで出した結論だ。

 つか、これが化粧か…女子ってこんなの毎日やってんのか…すげえ、俺はこんなの毎日はムリだ。

 なんか顔がちょっと重い気がする。


「おーい、そっちの方はどないや〜? そろそろ仕上げん…と……」

「あ、弥勒。女装した俺だぞ、どだ?」

「……………………ヤバっ」

「弥勒?」

「ちょ、マジかこれ。えー? これ相沢がやったんけ? マジかー?」

「ヤバいでしょ、弥勒くん」

「ほんと、激きれいだよね」

「これはいくら弥勒くんでも、あたしに文句つけらんないっしょー?」

「これはすごいわ〜。絶対優勝やで。間違いないっ。今回はオレも褒めたろ、でかした相沢っ!」

「彼方の弟だから、ある程度は当然だと思ってたけど、予想の遥か上を突き抜けたもんね」

「えへ〜。そんな俺すげえ感じか? 後は舞台でトチらねえようにだな」


 弥勒にも誉めてもらえて、俺はすげえ嬉しいぞ。やっぱ好きなヤツの言葉っつーのは、エネルギーがいっぱい詰まってるもんだな。


「はるタソ〜、かなタソ激励きてやったなりよ。女装いかがであるか?」

「あ、彼方見て! 遥今すごいよ、すごくきれいに変身してる」

「やや、これはすごす。うちのウケ狙いでは、到底太刀打ち出来なす出来であるの」

「彼方んとこはゴリラが白雪姫やるんだったよな?」

「うむり。人材乏しき中で頑張ったなりが、やはり美しきには勝てそになすね」

「母さん母さん! うちの子が大変な事になってるよ!」

「あらほんとねえ。わたし娘を2人産んだのだったかしら?」

「あ、父さん母さん。来てたんだ? もう、2人とも来ねえでいいっつったのにー」

「息子の晴れ舞台を見に来ない親がいるわけないだろう?」

「母さん、遥が大変身して、ほんとびっくりだわ」

「母さまともかく、靴下臭すは忘れてたなり」

「滝くん、うちの彼方が酷いよ! 滝くんからも、なんとか言ってくれないか?」

「それよりあなた、写真よ、写真撮らせてもらいましょ」


 父さんと母さんも教室入って来て、着替えに借りた場所がごちゃごちゃしだして、伊東たちが先に舞台のある講堂に向かって行った。

 父さん、俺の写真を撮るっつーのは、記念だしこの際許してやってもいいけどさ、なんで4人揃っての家族写真撮ろうとすんだ!

 恥ずかしいからそういうのはやめろっていつも言ってんだろーが! 見てみろ、カメラ構えてる弥勒も、隣の滝も苦笑してんだろ!


「もーっ、恥ずいし頼むからはしゃぎ過ぎるな!」

「遥、父さん母さんが子どもの成長見て喜ぶのは当たり前だろう?」

「だからはしゃぐなっつってんじゃねえ、ジジイはしゃぎ過ぎだっつってんの!」

「かなタソ恥ずかしき。靴下臭すだけでなす。恥ずかしき靴下臭すなり」

「あなた、舞台に行けば写真も心置きなく撮れるでしょ?」

「母さん早くこのジジイ連れてって!」

「遥、あとで母さんにサインしてちょうだいね?」

「俺はアイドルとかじゃねえっ! サインとかするわけねえだろ、この大ボケババア!」


 彼方にわーわー騒ぐ父さん母さんを引っ張ってってもらって、やっと更衣室がちょっと、落ち着いた雰囲気を取り戻した。

 ったく、とにかくつけ毛つけて仕上げしねえと…まだ完成してねえのに、文化祭だからってはしゃぎ過ぎだよ、ジジイとババアは…


「あ、つけ毛つけるなら、おれ手伝うよ」

「さんきゅ、滝。後ろのやつは俺、上手くつけれねえし、やってくんね?」

「ほなオレは両サイドのやつ付けたろ。……にしても遥、おまえほんまきれいやで」

「えへ。みんなのおかげだ。みんなすげえ頑張ってくれたしな」


 後ろの薄い紫のふんわりしたシニヨンを滝に、両サイドのアイスブルーのつけ毛を弥勒に任せて、じっとしながら俺は笑う。

 鏡で自分でも確認して自画自賛してみる。ほんと、ちょこっと顔描くだけで、こんな変わるっつーのはすげえ、メイクマジックだ。


「遥の素材がよかったから、ここまで出来たんだよ。やりがいがあったのが一番大きいって」

「ロングソックスも履くんやろ? もう時間やし履いてまえや」

「だな。伊東藤本が言うには、スリットから見える絶対領域がミソらしいぞ」


 透けてるタイプのニーハイソックスで、色っぽさを追加して、髪飾りで派手さを、10センチのハイヒール履いて強さを、ふわふわストールでゴージャスを、最後の小道具、煙管持って妖しい魅力を、それぞれ追加して、チャイニーズマフィアの女ボスの完成だ。


「うわ、ヤバ。めっちゃカッコええな、まさにマフィアの女ボスや」

「中華街仕切ってるように見えるか?」

「綺麗でカッコよくて強そうで妖艶で、ほんと中国の暗黒街を支配してそうだよ。行こうか」


 滝は俺の付き添いで、舞台までの案内役だから、俺と弥勒を先導して、移動してく。

 弥勒は、ちょっと中国語が出来て、声が低くてカッコいいから、声の出演。


「いい? 遥が中央に歩いてくから、その間に弥勒がセリフ、中央で遥はポーズして自分のセリフ、だよ」

「大丈夫や。オレ今日のためにめっちゃ練習したし」

「俺も頑張る。練習通りやればいいんだよな?」

「そう、特に遥は気をつけなよ? うちのは雰囲気が重要なんだから、出だしでコケたりしないようにね?」

「がってん承知」


 舞台袖で、順番が来るまで、出場者たちはしばらく待機するから、その間にちょっと敵情視察してみると、レベル高えのが一人いる。

 あれが2年生のガチ男の娘か…すげえな、あれじゃほんとに女子と見分けつかねえだろ…俺のは女装だって分かるもんなー…


「あそこのがガチの先輩だろ? マジですげえな、勝てるかな?」

「あれはあれですごいけど、うちだって負けてないよ」

「オレらのは、作り物、偽物やから出る、女装ならではの良さやしな」


 クラスごとに順番に呼ばれて舞台に向かって歩く…なんか俺、ちょっと緊張してきたぞ。

 だ、大丈夫だ、今はちゃんと設定を思い出せ。思い出したらいいんだ。


 俺は中国マフィア、「紅龍珠(コウリュウシュ)」の女ボス「香主(シャンシェ)」幹部の名前は「紅棍(ホングン)」裏切り者の下っ端は「马仔(マザイ)

 裏切り者を見つけた報告を受けた俺が、制裁を決定してセリフを言うんだ。たったそれだけ、舞台で喋るのは2個だけだ、大丈夫。



『続いて1年8組、楠木遥。テーマは“中国暗黒街の一幕”です! どうぞっ!』


 きた! 行くぞ、気合い入れて行く…う〜


「遥、行って来い。大丈夫や、オレが見てる」

「弥勒… だな。行って来る」


 背筋伸ばして、練習した通りに歩く。このためだけに俺、毎日ハイヒール履いて、モデルさんのウォーキング超練習したからな。


 カツカツカツカツ───


『香主、裏切り者の马仔の潜伏先が分かりました。既に付近には配下を配置してますが、このまま突入してよろしいでしょうか?』


 カツカツカツカツ─── カツ


 ここで司会者のマイクを借りて、セリフを言うんだ。精一杯偉そうに、暗黒街の女ボスっぽく、ふんぞり返った感じで、キメろ。


『紅棍か。その場で马仔を殺すなんて優しい事はしちゃダメだよ?』

『それでは香主、马仔は確保してくればよろしいのですね』

『紅龍珠のボスである、この香主の顔に泥を塗ったんだ。生き地獄をたっぷり味合わせてから、あたしの前に引きずって来な』

『かしこまりました。全て香主のご意志の元に───』



 一瞬鎮まり返った講堂内に、一拍遅れて湧き上がる歓声、よかった、ちゃんとウケてる…ライトで見えねえけど、盛り上がってる。


「これはすごいっ! 去年に引き続きものすごいハイレベルな女装です! 女装であると丸わかりなのが返っていいですね‼︎」

「えへ。ガチでやってるヤツに対抗するには、女装男子っつーのを押し出さねえとだろ?」

「さらにその上でハイレベルを目指したんですね? 素晴らしい戦略です!」

「そだろ? なんせクラスみんなで一生懸命考えたんだからな」

「この女装のポイントはどこになりますか?」

「俺の白い髪を生かした事と、みんなで作ったこの髪飾りだ。他のは買ったけど、これだけは手作りだぞ」

「なるほど、まさに我が校の文化祭のための女装、ということですね?」

「うん。個人でやってるヤツなんか目じゃねえ。こっちはクラスのみんなで勝負だ!」

「ありがとうございました! 1年8組、楠木遥くんでした!」


 すげえいっぱいの拍手喝采をもらって、客席に向かって手を振りながら、舞台から下がった俺はやっとひと息吐いた。

 トチらねえで、ちゃんと出来てよかった…これなら、みんなの期待に応えられたかな? 緊張したー…


「お疲れ遥、めちゃくちゃよかったで、最高にウケてた!」

「弥勒、俺頑張ったぞ。やり切ったっつーのは、きっとこういう事だって思う」

「遥くんお疲れー! うちのクラス最高だったよ」

「お疲れ遥くん! うちのクラス最高だったね!」

「伊東も藤本も、当日まで色々お疲れ。髪飾り作ったり、ドレス直したりで、すげえ頑張っただろ?」

「お祭りだから全然楽しかったよね」

「せっかくだし優勝はしたいけどね」


 舞台袖にいた弥勒に続いて、伊東藤本、滝や相沢、他の、クラスのヤツらも次々やってきて、口々によかったって誉めてくれる。

 みんなよかったって、お疲れって、最高だったって誉めてくれるから、頑張って練習して、ほんとよかったって改めて思った。

 舞台では、まだまだ女装コンテストが続いてて、2年のガチ男の娘がちょっと気にはなったけど、今はちょっと休憩しとこっと。



 着替えてちょっとだけ休憩してから、客席に行ってみたら、ちょうど2年のガチ男の娘が、舞台に上がるとこだった。


「続いて2年6組、早川真純。テーマは“現役ガチ女子高生”です! どうぞ!」


 うお、向こうはカラオケ歌いながらの登場か…これも気合い入ってんなー………

 あ、でもさすがに歌声まで完璧っつーわけじゃねえな。

 女声パートでも歌がすっげえ上手だけど、時々声が男子だ。

 これじゃかわいいけど、現役ガチ女子高生とは、言えねえかもしんねえ。


「去年の優勝者ですが、今年の思わぬ対抗馬はどうですか?」

「毎日やってる男の娘ガチ勢の身としては、負けてられないって感じです〜っ」

「なるほど、今年もやる気いっぱいですね。いや〜それにしても可愛いっ! ほとんどもう女の子ですね!」

「そうでしょ? これでも毎日、手間かけてやってますから!」

「今日のポイントはどこでしょうか?」

「この絶妙なスカート丈に、男子全員がドキドキするように頑張りましたっ」

「なるほど、男子の考える憧れの体現、というわけですね?」

「そうなのっ! みんなーっ! 今日は2年6組のますみんを応援してねーっ!」

「「「まっすみーん!」」」

「ありがとうございました! 2年6組、早川真純くんでした!」


 すげえ、クラス上げてのますみんコールかよ。

 人気者だなーあの先輩…なんかどっかのアイドルみてえじゃん。

 俺、目がよくねえっつーのもあるけど、あの先輩なら、普通の生徒でも女子生徒と間違いそうな気がするな。普通にかわいい女子だ。


「ふ。勝ったな、遥。あれではおまえの敵にはならんで」

「弥勒。こっち来てていいのか? 肉巻きおにぎりの方が忙しいんじゃねえの?」

「あと5分ほどで戻るけど、まだ大丈夫や」

「そか。あの先輩は強敵だぞ、俺のクラス勝てるか?」

「絶対大丈夫や。あんな普通程度の女子の女装に、あのカッコええ女装が負けるわけあらへん」

「弥勒がそう言うんだったらいいや。クラス戻って店番頑張ろうぜ」


 クラスに戻って店番してたら、俺の女装見てくれた人が応援に来てくれてるみてえで、時々応援してるって声かけてもらえた。

 昼メシ時は目が回るような忙しさだったけど、おかげで文化祭終了時間前に、肉巻きおにぎり700個全部売れてみんなで万歳した。


「これでラス1や! 肉巻きおにぎり700個完売やでー!」

「やった! 完売だって! 全部売れたの?」

「すごい! 完売だって! ほんとに全部?」

「やたー! すげえじゃん! みんな、万歳しようぜ! 万歳三唱しよう!」

「完売、うちは完売ですよー! そこ、うちのクラスに入ろうとしないでくださーいっ!」

「あたしのおススメ、大当たりっしょー! やったねー」


 担任の杉崎ちゃんも交えての、クラス全員揃って万歳三唱して、メニューや看板や販売所なんかを片付けていく。盛り上がったなー。

 みんなでゴミ捨てたり、掃除済ませて、全員揃って男子女装コンテストの結果発表を、聞きに講堂へ行く。


『今年も我が校の文化祭は最高に盛り上がりましたねー!』

『ええほんとに! 特に男子女装コンテストは最高でした! さてそのコンテストの結果ですが!』


 舞台の上では生徒会の実行委員の司会者が、スムーズにコンテストの結果発表会を進行させてる。

 まずは大爆賞。大爆笑じゃねえぞ。


『大爆賞、1年4組、金剛寺猛くん、テーマは“ゴリマッチョ白雪姫の嘆き”です! みなさん拍手ー!』

「あ、彼方のクラスじゃん。すげえな、賞取ったぞ」

「ははは。あそこはクラス代表がもらいに行くみたいやな」

「あたしたちは優勝狙いだもんね」

「大爆賞なんかいらないもんねー」

『続いて、あんたが大賞、2年6組、早川真純くん、テーマは“現役ガチ女子高生”です! 拍手拍手ー!』

「やっぱりあの2年のガチな先輩も賞取ったね。あそこは本人がもらいに行くんだ」

「でも、遥が最優秀賞っしょ? うちらのクラスの勝ちじゃん!」

『そして、映えある最優秀男子女装賞には、1年8組、楠木遥くん、テーマは“中国暗黒街の一幕”です! みなさん大きな拍手を!』

「やたーっ! わーいっ! 行こうぜみんな!」


 俺らのクラスは全員揃って舞台へ上がると、担任もいっしょになって、みんなで客席に向かって手を振って、拍手と声援に応える。

 誰かだけが頑張ったわけじゃねえし、誰か一人が代表じゃ寂しいだろ、盛り上がっていこうっつー事で、全員揃って舞台挨拶だ。

 残念ながら俺から客席はよく見えねえけど、舞台にはみんないて、みんながすげえ喜んでるのは俺もよく分かるぞ。


「やったね、遥。最優秀だよ、頑張った甲斐があったね!」

「おめでとう、あたしたちっ!」

「あたしたちおめでとうだね!」

「これぞ文化祭って感じっしょー! 遥おめでとう!」

「おまえが1番頑張ったしやで。よう頑張った、おめでとうさんや」

「おめえらのおかげだってー、賞もらえてよかったなー!」


 賞品の美術部製作のちょっと変テコな形したトロフィーもらって、みんなで大はしゃぎしながら舞台を降りた。楽しかったー!

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