教育実習
「英語教科の教育実習生として来ました、佐原美由紀です。よろしくお願いします」
そう自己紹介する教育実習の先生を俺はあまりのボインっぷりに、思わずガン見する。
いや、だって俺、普段は普通に女子好きだし。
「はー、すげえ教室実習の先生来たよな、弥勒。あのおっぱい見た?」
「まあ、なんか乳牛っちゅう感じやったな。ホルスタイン?」
「おれは彼方が世界で1番だけど? 先生より彼方の方がずっとかわいいしね」
彼方命の滝は置いといて、教室での自己紹介でもザワザワだったし、あちこちでヒソヒソと顔もかわいいとか、噂になっててすげえ。
ちなみに俺、目はよくねえけど、耳はわりといいから、そこは聞き逃さねえぞ。
すげえな、おっぱいあれで、顔もかわいいのか。
「……ああいうタイプが好きなんけ?」
「あーいや…インパクトがヤバかったからな」
弥勒、違うからな? いや、かわいい顔のおっぱいは好きだけど、俺が好きなのは弥勒なんだけど、それはまだ言えねえし、むー…
ま、弥勒はヤキモチ妬きだけど、教育実習の先生がいるのって、たった2週間だし、相沢と揉めたみてえな事も起こらねえだろ。
「ひゃっ」
「うぇっ? 先生」
そんな事考えてたんだけど、この佐原先生けっこうおっちょこちょいらしく、俺が廊下の角曲がろうとしたら、ぶつかってきた。
「ごめんなさい。楠木くん! あわわ、プリントが…」
「あーあ、先生。手伝うよ」
廊下に思い切りプリントばら撒かれたら、さすがに放置っつーわけにもいかねえから、俺も拾うの手伝ってやる。授業用かな?
「先生、今回はお互い様だけど、気をつけて歩かねえとだぞ?」
「はい、ほんとごめんなさい。まだ色々慣れてなくて、ちょっと急いでて」
「先生ってやっぱ、ここの卒業生なのか?」
「はい。4年前にここ卒業して、遅くなったけど教育実習にきたんです」
「遅くなったって?」
「あ、ほんとは6月に来たかったんですけど、家の事情があって、遅くなっちゃいました」
「へえ、実習遅らせてでも来たって、そんな英語の先生なりたかったんだ?」
「はい。大学卒業してから採用されるかは、まだ分からないけど」
「そっか。でも先生なるなら、廊下で生徒とぶつからねえようしねえとだ」
「いつもはちゃんと気をつけてます。今日はたまたま急いでて…でも、ほんとごめんなさい」
「うん。俺みてえに視力よくねえヤツ、他にもいるからな」
「楠木くん、メガネかけてるけど、そんなに目がよくないんですか?」
「0.3でねえぐれえだ」
「ええっ! それってメガネの度が合ってないんじゃ?」
「ううん。コンタクトしてメガネかけて振り絞って0.3だぞ。ちなみにもう1人の楠木も同じぐれえだ」
俺も彼方も歩く時は気をつけてはいるけど、やっぱ周囲の人、特に先生には、校内歩く時はちゃんと気をつけてもらわねえとだ。
「だったら、あんな後ろの席じゃ黒板の字なんか、見えないんじゃないんですか?」
「前の席でも変わんねえし、コツさえ掴めばノートに困る事はねえよ」
「えー? それって、誰かに写させてもらってるとかですか?」
「む。俺ちゃんと授業聞きとってノートは書いてるぞ」
「ほんとですかー? 先生が授業する時、当てても平気なの?」
「全然OK。彼方も当てて平気なヤツだから、俺らに遠慮しねえでいいぞ。それよりほんと気をつけなよ?」
そこはマジで気をつけて欲しいからな。
今回はたまたま廊下で済んだけど、階段とかだったら危険なんてもんじゃねえし。
学校には色んなヤツがいて当然なんだから、せめて先生ぐれえは対応してくれねえと、こっちも全然気が休まらねえからさ。
「そうですね、これからは気をつけて歩きます。ほんとすみませんでした」
「分かってくれりゃいいよ。そんじゃ俺、図書委員だから行くな」
未来の英語教師に教育的指導してしまったな。
喋った感じはそんな悪い先生じゃなかったから、頑張って教職者になれればいいな。
集めたプリントを先生に渡して、俺は図書室に向かった。
◆
Mrock『───ちゅう事があったらしいわ。どう思う?』
K.ta『うわぁ…なんとも評価しづらいね、それ。今のところ、彼方から何も聞いてないけど』
Mrock『そうか…』
K.ta『そんなに落ち込むなよ。おれも明日から気をつけて見るようにはするから』
Mrock『落ち込むなとか言われても無理やろー…』
相手は教育実習生、年上っちゅうてもまだ21で、たった5歳しか離れてへんし、なにより女やし、おっぱいもデカい。
顔は、相沢の方がかわいいけど、まあ、いつものごとく、遥あんま見えてへんヤツやし、何より嫌なんが相沢と違て邪魔しにくい。
K.ta『そりゃ相手は実習生だし必要だって言われたら、声かけて来るのは邪魔出来ないよね…』
Mrock『マジでどうしようー…オレに隠してへんっちゅう事は、遥自身はなんとも思てへんみたいやし』
K.ta『だったら特別遥の好感度が高いわけじゃないんでしょ?』
Mrock『相手がどう思てるかは別やんけ』
K.ta『その通りだけどさ。でも大丈夫じゃない? 変な気は起こしにくい立場だし』
Mrock『オレの立場で慶太やったら、大丈夫て思うけ?』
K.ta『思わない。まず平和的に挨拶や用事で声かけて来たら、おれが受けるようにするね』
Mrock『なるほど、遥の窓口役になるっちゅう事か。それええな』
優等生らしい妨害の仕方を慶太といっしょに相談する。
あからさまな感じやなくて、遥にも気づかせん感じはどやっちゅう事で。
実習の用事は邪魔せんと協力しつつ、遥との接触だけ邪魔していく方針を立てていく。
腹黒いて言われてもええから、挨拶してきたら遥が挨拶するよりオレが先に返して、用事頼んできたら、オレが積極的にやりたがる。
なるべく遥とは喋らさんで済むように、気をつけてくしかないか…実習期間が終わるまで、気が重いけどしゃーない。




