クリスマスの約束
いい感じに薄曇りの日、琢磨の高校のサッカー部、高円宮杯の試合の当日だ。っつっても俺、目悪いから顔は分かんねえだろうけど。
行ける範囲にスタジアムがある時には、必ず琢磨の応援しに行く事にしてる。
琢磨は視力がいいから、絶対俺がいると見つけるし。
「うわーいるな。思ってたよりけっこう人数多いぞ」
「強豪校やしやろけど、応援しに来てるヤツもそこそこ多いな」
「他校の女子がいるって思うと、ドキドキするぞ」
「オレの隣で女子にドキドキすんな」
「えー女子にはドキドキするもんだろー。しねえのは女子に悪いぞ?」
「彼方とか伊東藤本にドキドキするんけ?」
「ああいうのは女子じゃねえ。女子っつーのはかわいくしようとするものだ。あいつらかわいくしようとしねえだろ」
「見た目やなくて気持ちけ?」
「そうそう。女子はドキドキさせようと頑張って、男子はそれにドキドキする」
「頑張りがないとドキドキはないんや」
「普通そうじゃねえの? 相沢とか女子頑張ってるだろ? 髪したり爪したり色々してるじゃん。そこ大事だ」
「相沢にはそれ、普通ちゃうけ?」
「そなのか? かわいくしようと頑張ってねえか?」
「あいつかわいくするんが仕事やんけ。ファッション誌の読モやし」
「は? 相沢が読モ? あいつコンビニ店員じゃねえのか?」
「読モやで。その上でコンビニバイトや。どう考えてもコンビニはおまえの近くいたいしやろな」
「えー…知らなかったぞ。俺の近くだし?」
「そうやなかったら、あんなとこでレジ打つヤツやない。読モの方が稼げるしな」
「そうなのかー。読モ出来るなら、そっち頑張ればいいのに、なんかちょっと健気だな」
「そういうとこも含めてムカつくヤツや。ええように思われようと頑張りよるし」
「ヤキモチ妬くなってもー。頭撫でてやろう」
「ええな。いっぱい撫でてくれ」
弥勒の頭撫でてたら試合開始するみてえで、互いの選手がグラウンドに出てきた。選手ちっせえ。
やっぱサッカーコートは広いな。
誰が誰とか、俺には絶対見分けつかねえぞ。
ま、琢磨からは見えてるだろうし、頑張って応援してやらねえとだ。
「どっちが遥の幼馴染みの高校やったっけ?」
「青いユニフォームの方だ。これは俺でも見分けられるからな」
ホイッスルが鳴ってキックオフ。琢磨の高校、頑張れ! 頑張って走れっ!
む? なんだなんだ? 選手たちが水飲んで休憩とかしだしたぞ? 前半終了にはまだ早えよな?
もしかして中学といっしょか?
「飲水タイムや。気温が高い場合には、熱中症対策の休憩を挟むねん」
「ふむ。なるほど、熱中症対策に水分補給は重要だもんな」
たしか中学生サッカーにも同じのあったよな。
知らなかった、高校生も休憩挟んでサッカーするんだな。熱中症は怖えもんな。
「………遥、おまえもしかして、あんまサッカーのルール知らんとかけ?」
「ん? 知ってるぞ。いっぱいゴール決めたら勝ちだろ?」
「いや、オフサイドとかもあるやろ?」
「ああ、なんかややこしいルールがあるっぽいな。ポジションとかも色々だって聞いてるし。でも琢磨はキーパーだ」
「ゴールキーパー志望なんや。…一人しかおらんから見分けやすいな、それ」
「だろ? ゴール止める役だし、ゴールキーパーってすげえよな。最後の関門だぞ。琢磨が頑張れば点数入んねえんだ」
「たしかにすごいわ、そいつが頑張ればゴール出来ん、そら強敵や」
「うん。ゴールキーパーはすげえ。たった一人で勝負の行方握るんだから、一番すげえ」
来年、もしここで試合やるなら、絶対琢磨がフィールドにいるはずだ! 琢磨、頑張れっ! 頑張れよ!
前半35分、後半35分、間に10分のハーフタイム。
試合結果は3対1で琢磨の高校の勝ちだった。俺も応援の甲斐があったぞ。
せっかく今日は弥勒がおじさんちに行かねえからっつー事で、練習試合見たあとに、いっしょに遊ぼうってカラオケに行く。
俺、目悪いけど、そのせいか耳はよく聞こえるから、歌はわりと得意だぞ。
どだ? なかなかうめえだろ?
「遥、おまえ歌上手いなー」
「えへ。俺なかなかだろ? 弥勒、英語の歌、歌えよ」
「おう。英語の歌なら任せろ」
弥勒の英語の歌はまずビートルズソング、すげえカッコいい…なんだ? 低い声がいいのか、ちょっとプロみてえに見えるぞ。
「すげえ〜! 弥勒超絶カッコいいじゃん! 声のいいヤツはお得だな」
「オレの声、なかなかええ声やろ?」
「ほんといい声だ。その声でラブソングとか歌ったら、クラクラしそうだな」
「遥のためやったら、いくらでも歌うで?」
「ダメだぞ。次は俺が歌うからな。何歌おうかなー?」
「おまえもラブソングがええ。オレにラブソング歌ってくれや」
「ええ? 歌うだけなら歌ってやってもいいけど、その前にこっちだっ」
カラオケで歌うには、ちょっとテクのいるボカロの難曲を歌う俺。
テクがいる分、キメて歌うと気持ちいいんだよ、これ。
「はは。このスピードでこれ歌うか。ほんま遥歌上手いな」
「だろ? これ歌うのも気持ちいい曲なんだ。弥勒は次どれ歌う?」
「せやな。遥リクエストのラブソング歌おか。カッコええやつ」
「だったらこれとかどだ? 今夏前だしちょうどいいだろ?」
「これか、ええな。おまえのために歌ったろ」
弥勒の低い声活かした夏のラブソング。
すげえ、ヤベえ、カッコいい…こんないい声、俺ちょっとウットリ聴き入っちゃうぞ。
「どやった? オレのラブソング」
「弥勒すげえカッコよかった…聴き入る良さがあったぞ。俺ウットリだ」
「ウットリやったら、そのままオレの事、好きになってくれや」
「うっかりウットリですっかり好きになるのか? それってどうなんだ?」
「ええやろ? うっかりでええから、好きになれって。好きやで遥」
「ほんと弥勒は俺が好きでしょーがねえヤツだな。でもその声にはドキドキの魅力がある」
「お? ちょっとはドキドキするけ? ほなオレいっぱい歌うで」
「うん。次も弥勒の歌うの聴きてえ。順番譲ってやるから歌って弥勒」
俺のリクエストで弥勒は次も歌うことに、俺のリクエストは英語のラブソングだ。
これは弥勒の魅力が超絶爆発するな。
「すげえー! 弥勒超絶カッコいいー! すげえっ」
「次はおまえも歌えよ。何歌う?」
「よし、何歌おうか? 何がいいかなー?」
俺も弥勒といっしょに選んで、往年のアイドルソングを歌ってみる。
どだ? 俺それっぽく見えるか? アイドル遥だぞ?
「めっちゃ似合う。めっちゃええ感じやで。こんなアイドルおったらみんな恋するわ」
「えへへ。スポットライトが眩しくて、お客さん見えねえだろうから、ステージで歌っても緊張しねえぞ?」
「でもオレは独り占めしときたいで。アイドル遥はオレ専用がええ」
「俺を独り占めがいいのか。弥勒は贅沢なヤツだな。俺を独り占めするのは大変だぞ?」
「全然かまへんで。おまえのためやったら、オレいくらでも頑張れるし」
「いくらでも? 次のテストで滝に勝つのでも出来るか?」
「全然余裕。おまえが好きになってくれるなら絶対1番なったるし」
「ええ? ほんとかよー、ほんとに1番なれるのか?」
「余裕。次のテスト1番なったるし、オレの事好きなってくれや」
「む。それはダメだ。でも1番にはなれ。好きとか置いといて1番は弥勒のために取れよ。その方カッコいいじゃん」
「カッコええけ? 自分のために頑張る方が?」
「弥勒はそう思わねえ? 俺はそう思うぞ」
「はー、分かった。次のテスト頑張る。…でもちょっとぐらい褒美は欲しいで?」
「ご褒美か。たしかにそれはあった方はが気合い入るな。ふむ…」
「テスト終わったら1回オレんちで宿泊映画大会とかどや?」
「む。宿泊映画大会か。いいな、それ楽しそうじゃん」
「せやろ。おまえツレんちとか泊まりに行ったりするし、オレもそれやってみたいんや」
「ただしあれだ。夜中に悪代官になってご無体したりはダメだぞ?」
「それはオレの嫌われルートや。せえへん。誓うから」
「そか。んじゃ次何歌う?」
「その前にちょっと飲み物取ってくるわ。遥ウーロン茶?」
「うん。俺カラオケの時はウーロン茶だ。それが一番声出るだろ」
弥勒といっしょに2時間たっぷりカラオケ歌って、夕方からはいつものメシ作りだ。
エビ、イカ、豚肉、キャベツ、卵に粉とソース。
今日は弥勒がおじさんからもらったホットプレートで、お好み焼きをジュージュー焼こう。
ホットプレートなら俺も平気だ。
「フライパンとどう違うんや?」
「全然違えだろ。温度低いぞこれ」
「そうか。ほなオレキャベツとか切るし、遥そっちでエビの殻剥いてくれるけ?」
「了解。お好み焼きいっぱい焼いていっぱい食うぞ〜」
エビの殻を足持ってくるっと回すと、中身がプリって出てきて面白え。
しっぽは上手く潰して引っ張ると抜けるっつーけど…
「む。しっぽちぎれたっ」
「えぇ? 気にすな、そういう事もある」
殻剥いたら背ワタを取ってくぞ。爪楊枝刺してグイっこう引っ張る…
むー。なぜ俺がやると背ワタが途中でちぎれるんだ?
グイっとこう引っ張る。グイっとこう引っ張る。グイっとこう引っ張る…勝率3割ぐれえか?
弥勒、これで方法合ってんの?
「方法は合ってる。慣れの問題や、慣れの」
「むー。慣れか、料理道は険しいな」
俺がエビ剥いてる間に他の材料も用意が出来て、なぜか粉も混ざってるっつー状態だ。
お好み焼きは準備万端、さぁ焼くぞ!
「あちっ。油ちょっと飛んだ」
「ちょっとや。どうもないって、本体流すで」
「謎だ。弥勒は熱くねえのか?」
「大して熱ないで」
「やせ我慢か? ちょっとぐれえは熱いだろ?」
「慣れや。ええ加減おまえも油に慣れろ」
「まだ無理だ。熱した油はそう簡単に慣れちゃいけねえ。100度とか余裕だぞ? 危険だ」
下が焼けてきたらひっくり返してくんだけど、これ、ドッキドキだな。
俺上手くひっくり返せるか? よ、よいしょ…わーっ!
「おい。誰や、ホットプレートは大丈夫て言うたヤツは…」
「むーすまねえ」
「まあええ。形悪いけど食える状態やし、整えて蓋や」
「弥勒はなんで料理こんな出来るんだ?」
「ん? ああ、オレは最初サバイバルで練習したしな。スパルタや」
「ええ? サバイバルってキャンプとかか?」
「キャンプっちゅうか、演習? やらんとどつかれる」
「殴られる演習ってなんだよ。殴んなだ」
「あー格闘技教えたおっさん、元軍人やねん。ついでっちゅうてな」
「親放置の3年間か?」
「おう。毎日ビッチリ、スパルタでやらされて。そら出来るようになる」
「むー。ちっせえ子どもになんてことを」
「おかげで色々出来るようになったし、あんま文句はない」
「俺は文句あるぞ。ちっせえ弥勒を大事にしねえのは、文句だ」
「でもある意味、大事にっちゅうか目はかけられてたで? オレ優秀やて」
「そなのか? でも弥勒は辛かったろ?」
「その代わりこうやって遥に料理教えて、いっしょにメシ食える。悪いばっかりやない」
「あ、撫でられた」
「おう。こういう時は撫でんとや」
蒸し焼きにしてた蓋取ったら、ちょっとグチャってしてるけど、いい感じのお好み焼きが焼けた。
ソースとマヨネーズかけるぞ。
「カツオブシに青のりに紅しょうがもや」
「うはーいい匂いだっ。食うぞ食うぞ〜お好み焼き食うぞ〜」
「このカツオブシが踊んの見たら、やっぱテンション上がるよな」
ふよふよ踊るカツオブシが、たっぷりかかったお好み焼きを、ヘラで切り分けて食うぞ。
うめえ。ふかふかだ。うまっ。うめえ。
「うめえな、弥勒」
「おう。めっちゃうまいっ」
「弥勒はじゃあさ、もしかして魚とかも捌けるのか?」
「出来るけど魚はあんま得意やないな。鶏はさんざん捌いたけど」
「鶏捌けるのか? まるっと1匹? すげえな」
「こっちやとあんま1匹で売ってへんし、やらんけど」
「すげえ。鶏のまる焼きとか作れんじゃん」
「クリスマスにやるけ? 鶏のまる焼き、アメリカじゃターキーやけど、あれデカいし」
「いいな。弥勒の誕生日だし、盛大に祝おうぜ」
「いっしょに誕生日祝ってくれるんや? そら楽しみやなー」
「クリスマスってやっぱ、アメリカは派手だったか?」
「派手…どうやろ。たいがい家におらんかったし」
「誕生日に放置⁉︎ 酷え親だぞ、それ。普通はやだっつっても家でお祝いだろー」
「遥んちやと放っといてくれっちゅうても無理そうやもんな」
「俺んちはあれだ。お祝いは親の権利だと思ってやがるし、やらせねえわけいかねえじゃん」
「オレはおまえが祝ってくれりゃ十分や」
「そか? じゃ2人で盛大に祝おう。弥勒が生まれた日だからな」
「約束やで? 他所で予定入れんなよ?」
「あ、また撫でられた」
「おう。いっぱい撫でるで」
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