表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この恋のために  作者: ひなた真水


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/41

クリスマスの約束

 いい感じに薄曇りの日、琢磨の高校のサッカー部、高円宮杯の試合の当日だ。っつっても俺、目悪いから顔は分かんねえだろうけど。

 行ける範囲にスタジアムがある時には、必ず琢磨の応援しに行く事にしてる。

 琢磨は視力がいいから、絶対俺がいると見つけるし。


「うわーいるな。思ってたよりけっこう人数多いぞ」

「強豪校やしやろけど、応援しに来てるヤツもそこそこ多いな」

「他校の女子がいるって思うと、ドキドキするぞ」

「オレの隣で女子にドキドキすんな」

「えー女子にはドキドキするもんだろー。しねえのは女子に悪いぞ?」

「彼方とか伊東藤本にドキドキするんけ?」

「ああいうのは女子じゃねえ。女子っつーのはかわいくしようとするものだ。あいつらかわいくしようとしねえだろ」

「見た目やなくて気持ちけ?」

「そうそう。女子はドキドキさせようと頑張って、男子はそれにドキドキする」

「頑張りがないとドキドキはないんや」

「普通そうじゃねえの? 相沢とか女子頑張ってるだろ? 髪したり爪したり色々してるじゃん。そこ大事だ」

「相沢にはそれ、普通ちゃうけ?」

「そなのか? かわいくしようと頑張ってねえか?」

「あいつかわいくするんが仕事やんけ。ファッション誌の読モやし」

「は? 相沢が読モ? あいつコンビニ店員じゃねえのか?」

「読モやで。その上でコンビニバイトや。どう考えてもコンビニはおまえの近くいたいしやろな」

「えー…知らなかったぞ。俺の近くだし?」

「そうやなかったら、あんなとこでレジ打つヤツやない。読モの方が稼げるしな」

「そうなのかー。読モ出来るなら、そっち頑張ればいいのに、なんかちょっと健気だな」

「そういうとこも含めてムカつくヤツや。ええように思われようと頑張りよるし」

「ヤキモチ妬くなってもー。頭撫でてやろう」

「ええな。いっぱい撫でてくれ」


 弥勒の頭撫でてたら試合開始するみてえで、互いの選手がグラウンドに出てきた。選手ちっせえ。

 やっぱサッカーコートは広いな。

 誰が誰とか、俺には絶対見分けつかねえぞ。

 ま、琢磨からは見えてるだろうし、頑張って応援してやらねえとだ。


「どっちが遥の幼馴染みの高校やったっけ?」

「青いユニフォームの方だ。これは俺でも見分けられるからな」


 ホイッスルが鳴ってキックオフ。琢磨の高校、頑張れ! 頑張って走れっ!

 む? なんだなんだ? 選手たちが水飲んで休憩とかしだしたぞ? 前半終了にはまだ早えよな?

 もしかして中学といっしょか?


「飲水タイムや。気温が高い場合には、熱中症対策の休憩を挟むねん」

「ふむ。なるほど、熱中症対策に水分補給は重要だもんな」


 たしか中学生サッカーにも同じのあったよな。

 知らなかった、高校生も休憩挟んでサッカーするんだな。熱中症は怖えもんな。


「………遥、おまえもしかして、あんまサッカーのルール知らんとかけ?」

「ん? 知ってるぞ。いっぱいゴール決めたら勝ちだろ?」

「いや、オフサイドとかもあるやろ?」

「ああ、なんかややこしいルールがあるっぽいな。ポジションとかも色々だって聞いてるし。でも琢磨はキーパーだ」

「ゴールキーパー志望なんや。…一人しかおらんから見分けやすいな、それ」

「だろ? ゴール止める役だし、ゴールキーパーってすげえよな。最後の関門だぞ。琢磨が頑張れば点数入んねえんだ」

「たしかにすごいわ、そいつが頑張ればゴール出来ん、そら強敵や」

「うん。ゴールキーパーはすげえ。たった一人で勝負の行方握るんだから、一番すげえ」


 来年、もしここで試合やるなら、絶対琢磨がフィールドにいるはずだ! 琢磨、頑張れっ! 頑張れよ!



 前半35分、後半35分、間に10分のハーフタイム。

 試合結果は3対1で琢磨の高校の勝ちだった。俺も応援の甲斐があったぞ。



 せっかく今日は弥勒がおじさんちに行かねえからっつー事で、練習試合見たあとに、いっしょに遊ぼうってカラオケに行く。

 俺、目悪いけど、そのせいか耳はよく聞こえるから、歌はわりと得意だぞ。

 どだ? なかなかうめえだろ?


「遥、おまえ歌上手いなー」

「えへ。俺なかなかだろ? 弥勒、英語の歌、歌えよ」

「おう。英語の歌なら任せろ」


 弥勒の英語の歌はまずビートルズソング、すげえカッコいい…なんだ? 低い声がいいのか、ちょっとプロみてえに見えるぞ。


「すげえ〜! 弥勒超絶カッコいいじゃん! 声のいいヤツはお得だな」

「オレの声、なかなかええ声やろ?」

「ほんといい声だ。その声でラブソングとか歌ったら、クラクラしそうだな」

「遥のためやったら、いくらでも歌うで?」

「ダメだぞ。次は俺が歌うからな。何歌おうかなー?」

「おまえもラブソングがええ。オレにラブソング歌ってくれや」

「ええ? 歌うだけなら歌ってやってもいいけど、その前にこっちだっ」


 カラオケで歌うには、ちょっとテクのいるボカロの難曲を歌う俺。

 テクがいる分、キメて歌うと気持ちいいんだよ、これ。


「はは。このスピードでこれ歌うか。ほんま遥歌上手いな」

「だろ? これ歌うのも気持ちいい曲なんだ。弥勒は次どれ歌う?」

「せやな。遥リクエストのラブソング歌おか。カッコええやつ」

「だったらこれとかどだ? 今夏前だしちょうどいいだろ?」

「これか、ええな。おまえのために歌ったろ」


 弥勒の低い声活かした夏のラブソング。

 すげえ、ヤベえ、カッコいい…こんないい声、俺ちょっとウットリ聴き入っちゃうぞ。


「どやった? オレのラブソング」

「弥勒すげえカッコよかった…聴き入る良さがあったぞ。俺ウットリだ」

「ウットリやったら、そのままオレの事、好きになってくれや」

「うっかりウットリですっかり好きになるのか? それってどうなんだ?」

「ええやろ? うっかりでええから、好きになれって。好きやで遥」

「ほんと弥勒は俺が好きでしょーがねえヤツだな。でもその声にはドキドキの魅力がある」

「お? ちょっとはドキドキするけ? ほなオレいっぱい歌うで」

「うん。次も弥勒の歌うの聴きてえ。順番譲ってやるから歌って弥勒」


 俺のリクエストで弥勒は次も歌うことに、俺のリクエストは英語のラブソングだ。

 これは弥勒の魅力が超絶爆発するな。


「すげえー! 弥勒超絶カッコいいー! すげえっ」

「次はおまえも歌えよ。何歌う?」

「よし、何歌おうか? 何がいいかなー?」


 俺も弥勒といっしょに選んで、往年のアイドルソングを歌ってみる。

 どだ? 俺それっぽく見えるか? アイドル遥だぞ?


「めっちゃ似合う。めっちゃええ感じやで。こんなアイドルおったらみんな恋するわ」

「えへへ。スポットライトが眩しくて、お客さん見えねえだろうから、ステージで歌っても緊張しねえぞ?」

「でもオレは独り占めしときたいで。アイドル遥はオレ専用がええ」

「俺を独り占めがいいのか。弥勒は贅沢なヤツだな。俺を独り占めするのは大変だぞ?」

「全然かまへんで。おまえのためやったら、オレいくらでも頑張れるし」

「いくらでも? 次のテストで滝に勝つのでも出来るか?」

「全然余裕。おまえが好きになってくれるなら絶対1番なったるし」

「ええ? ほんとかよー、ほんとに1番なれるのか?」

「余裕。次のテスト1番なったるし、オレの事好きなってくれや」

「む。それはダメだ。でも1番にはなれ。好きとか置いといて1番は弥勒のために取れよ。その方カッコいいじゃん」

「カッコええけ? 自分のために頑張る方が?」

「弥勒はそう思わねえ? 俺はそう思うぞ」

「はー、分かった。次のテスト頑張る。…でもちょっとぐらい褒美は欲しいで?」

「ご褒美か。たしかにそれはあった方はが気合い入るな。ふむ…」

「テスト終わったら1回オレんちで宿泊映画大会とかどや?」

「む。宿泊映画大会か。いいな、それ楽しそうじゃん」

「せやろ。おまえツレんちとか泊まりに行ったりするし、オレもそれやってみたいんや」

「ただしあれだ。夜中に悪代官になってご無体したりはダメだぞ?」

「それはオレの嫌われルートや。せえへん。誓うから」

「そか。んじゃ次何歌う?」

「その前にちょっと飲み物取ってくるわ。遥ウーロン茶?」

「うん。俺カラオケの時はウーロン茶だ。それが一番声出るだろ」



 弥勒といっしょに2時間たっぷりカラオケ歌って、夕方からはいつものメシ作りだ。

 エビ、イカ、豚肉、キャベツ、卵に粉とソース。

 今日は弥勒がおじさんからもらったホットプレートで、お好み焼きをジュージュー焼こう。

 ホットプレートなら俺も平気だ。


「フライパンとどう違うんや?」

「全然違えだろ。温度低いぞこれ」

「そうか。ほなオレキャベツとか切るし、遥そっちでエビの殻剥いてくれるけ?」

「了解。お好み焼きいっぱい焼いていっぱい食うぞ〜」


 エビの殻を足持ってくるっと回すと、中身がプリって出てきて面白え。

 しっぽは上手く潰して引っ張ると抜けるっつーけど…


「む。しっぽちぎれたっ」

「えぇ? 気にすな、そういう事もある」


 殻剥いたら背ワタを取ってくぞ。爪楊枝刺してグイっこう引っ張る…

 むー。なぜ俺がやると背ワタが途中でちぎれるんだ?

 グイっとこう引っ張る。グイっとこう引っ張る。グイっとこう引っ張る…勝率3割ぐれえか?

 弥勒、これで方法合ってんの?


「方法は合ってる。慣れの問題や、慣れの」

「むー。慣れか、料理道は険しいな」


 俺がエビ剥いてる間に他の材料も用意が出来て、なぜか粉も混ざってるっつー状態だ。

 お好み焼きは準備万端、さぁ焼くぞ!


「あちっ。油ちょっと飛んだ」

「ちょっとや。どうもないって、本体流すで」

「謎だ。弥勒は熱くねえのか?」

「大して熱ないで」

「やせ我慢か? ちょっとぐれえは熱いだろ?」

「慣れや。ええ加減おまえも油に慣れろ」

「まだ無理だ。熱した油はそう簡単に慣れちゃいけねえ。100度とか余裕だぞ? 危険だ」


 下が焼けてきたらひっくり返してくんだけど、これ、ドッキドキだな。

 俺上手くひっくり返せるか? よ、よいしょ…わーっ!


「おい。誰や、ホットプレートは大丈夫て言うたヤツは…」

「むーすまねえ」

「まあええ。形悪いけど食える状態やし、整えて蓋や」

「弥勒はなんで料理こんな出来るんだ?」

「ん? ああ、オレは最初サバイバルで練習したしな。スパルタや」

「ええ? サバイバルってキャンプとかか?」

「キャンプっちゅうか、演習? やらんとどつかれる」

「殴られる演習ってなんだよ。殴んなだ」

「あー格闘技教えたおっさん、元軍人やねん。ついでっちゅうてな」

「親放置の3年間か?」

「おう。毎日ビッチリ、スパルタでやらされて。そら出来るようになる」

「むー。ちっせえ子どもになんてことを」

「おかげで色々出来るようになったし、あんま文句はない」

「俺は文句あるぞ。ちっせえ弥勒を大事にしねえのは、文句だ」

「でもある意味、大事にっちゅうか目はかけられてたで? オレ優秀やて」

「そなのか? でも弥勒は辛かったろ?」

「その代わりこうやって遥に料理教えて、いっしょにメシ食える。悪いばっかりやない」

「あ、撫でられた」

「おう。こういう時は撫でんとや」


 蒸し焼きにしてた蓋取ったら、ちょっとグチャってしてるけど、いい感じのお好み焼きが焼けた。

 ソースとマヨネーズかけるぞ。


「カツオブシに青のりに紅しょうがもや」

「うはーいい匂いだっ。食うぞ食うぞ〜お好み焼き食うぞ〜」

「このカツオブシが踊んの見たら、やっぱテンション上がるよな」


 ふよふよ踊るカツオブシが、たっぷりかかったお好み焼きを、ヘラで切り分けて食うぞ。

 うめえ。ふかふかだ。うまっ。うめえ。


「うめえな、弥勒」

「おう。めっちゃうまいっ」

「弥勒はじゃあさ、もしかして魚とかも捌けるのか?」

「出来るけど魚はあんま得意やないな。鶏はさんざん捌いたけど」

「鶏捌けるのか? まるっと1匹? すげえな」

「こっちやとあんま1匹で売ってへんし、やらんけど」

「すげえ。鶏のまる焼きとか作れんじゃん」

「クリスマスにやるけ? 鶏のまる焼き、アメリカじゃターキーやけど、あれデカいし」

「いいな。弥勒の誕生日だし、盛大に祝おうぜ」

「いっしょに誕生日祝ってくれるんや? そら楽しみやなー」

「クリスマスってやっぱ、アメリカは派手だったか?」

「派手…どうやろ。たいがい家におらんかったし」

「誕生日に放置⁉︎ 酷え親だぞ、それ。普通はやだっつっても家でお祝いだろー」

「遥んちやと放っといてくれっちゅうても無理そうやもんな」

「俺んちはあれだ。お祝いは親の権利だと思ってやがるし、やらせねえわけいかねえじゃん」

「オレはおまえが祝ってくれりゃ十分や」

「そか? じゃ2人で盛大に祝おう。弥勒が生まれた日だからな」

「約束やで? 他所で予定入れんなよ?」

「あ、また撫でられた」

「おう。いっぱい撫でるで」

もしよければ、ブックマークや⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎を付けてくださると作者は泣いて喜びます(๑>◡<๑)ノ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ