撫で撫で
「遥おはー。ねえねえ、今度室内プール行かない?」
月曜日、俺がフったはずの相沢はなぜか復活してて、普通に俺に喋りかけてきた。
いや、諦めねえとは聞いたけどさ、早くね?
「行かへん」
「弥勒くんに聞いてないって」
「あっち行け。なんでおまえ復活してんねん」
「弥勒くんこそ、あっち行ってよ。裏ボスは復活するもんっしょ」
「揉めるな揉めるな。おめえらケンカすんじゃねえ」
「復活早いわ。ちょっとは落ち込めや」
「そんな時間もったいないっしょ。落ち込んでるヒマあったら前進しないとっ」
「えぇー?」
「弥勒くん日曜日はいないんでしょ? だったらあたしと遊ぼ?」
「遥の日曜は家族サービスの日や。おまえと遊ぶ暇はない」
たしかに俺、日曜は父さんの大学の教室に行く事多いけどさ…いや、ほんとなんだよ、この図式は?
はたから見るとどう見えるかしんねえけど、俺を弥勒と相沢が取り合うの図っつー事で、1人の男を男女で奪い合う謎な三角だ。
普通、男子2人に女子1人なら、男子同士がライバルになって女子奪い合う三角のはずだろ?
なんでこんな謎な事なったんだ?
「いや、相沢? 俺ちゃんと言ったよな?」
「でも遥の気持ち変える努力するくらいはいいっしょ? て事で遊び行かない?」
「行かねえってー」
「ほら見ろ。おまえはあっち行け」
「ちぇ、じゃまた誘うねー」
相沢のヒットアンドアウェイ戦法再びだ。
ささっと来てささっと帰る。呆気に取られるほど明るくて、めげてる様子が全然ねえ…
いや、ほっとしたけどな。
傷つけたのはやっぱ俺、心苦しかったから、避けられるよりグラハム数倍マシな事だけどさ。
「はー…あいつほんまもー」
「しつこくねえし、しょーがねえじゃん」
「おまえは…惑わされんなよ?」
「それずっと言ってんな。最初から知ってたのか?」
「まあな。気づいてへんのおまえだけやったで」
「なんだってー! そんな分かる物か?」
「相沢は特に分かりやすいしね」
「滝も知ってたのか…俺って鈍感?」
「鈍感だね」
「むー む? …相沢は特に?」
「このクラスやと田中とかもそうやろ」
田中? 田中って、リボンがデケえ田中由香里?
俺、あの女子は美化委員の人っつー認識しかねえけど…喋ったの数回だぞ?
「あと、おれの見立てじゃ鈴木もだね」
鈴木? 鈴木って、スポーツレディ鈴木美穂子? たしか陸上部だったよな?
こっちは喋った記憶が全くねえ…何だそれ?
「待て待て。それじゃまるで俺がモテモテみてえじゃん」
その話は異議ありだ。モテモテだったなら、なんで俺は告白の一つもされた事がねえんだよ。
俺はモテねえただの理系男子だって。
「遥はモテモテだろ? 彼方の弟だしね」
「遥はモテモテやな。むしろモテへん要素がない」
「えー? 俺、中学じゃ全然そんな感じなかったぞ?」
「そう? 彼方の話じゃ違うけど?」
「やっぱモテたんや、こいつ」
「おれは、ほとんどアイドルの扱いだったって聞いたよ」
「なんだそれ。俺、中学の時って女子とあんま喋れるヤツじゃなかったぞ?」
部活はモテ要素のねえ卓球部員だったし、琢磨が女子から敬遠されがちだったのもあって、ほんと女子と仲良いっつーのはなかった。
「勝手に遥には話しかけないように、女子同士が牽制しあってたって聞いてるけど?」
「えーウソだー」
どこの作家が書いたラノベ作品のチーレム野郎の話だそれ。
もしくは少女マンガの王子さまか何かの話か?
そんなのあり得ねえよ。
「事実やろ。どう見ても事実や」
「弥勒の方はどうなの?」
「見ての通り、中途半端状態やで」
「え? ええ? 滝、知ってたのかおめえ…」
えぇ? もしかしてその事、相沢も知ってるのか?
ダメだ…それはさすがに恐ろしくて、とても確認なんかする気になれねえ。
「弥勒も分かりやすいしね。ま、ライバルいっぱいだし頑張んなよ」
「ちょ弥勒? どういう事だ? 俺、他に誰かに何か言われるとかねえだろーな?」
俺もうこれ以上、特になんとも思ってねえ女子に、いきなり告られたりすんのお断り状態なんだけど?
弥勒もこれ以上はやだろ?
「ナイショや、ナイショ。今はオレ分が悪いし」
「分が悪いってなんだよ? ちゃんと教えろよ弥勒っ」
あんな風に誰かを傷つけるのは、俺もうこりごりなんだけど?
いや、断るなら傷つけるしかねえけどさ、心構えが必要だろ?
昼休みに彼方がいつも通り顔出したから、とっ捕まえて聞いてみる。
おい彼方、俺モテてたって聞いたんだけど、どいうことだ?
「む? 知らなすだったなりか? はるタソかなタソアイドルだったではなすか」
「……おめえもか? おめえまでアイドルとか、もっとあり得ねえぞ?」
アイドルっつーのはもっとこう…キラキラしてて、かわいい服着て、かわいい事言うもんだろ。鼻タレって言われるヤツじゃねえ。
「む。かなタソお手紙いっぱいだったなりよ?」
「ええー?」
「ま、彼方もこの顔やし、普通そうやろな」
「かなタソかわゆすからの」
「それ自分で言ってるだけだろ…」
こいつはちっせえ頃から、自分をかわいいと豪語して憚らねえヤツだけど、それはモテとは全く関係ねえ自己評価っつーやつだろ?
「彼方はかわいいじゃない。誰よりもかわいいのが彼方でしょ?」
「いや、滝にとってはそうかもだけどさ」
「冷静になって見ろって遥。くりくりの赤い目にふわふわの白い髪やで?」
「……ブスじゃねえけど、かわいいかー? 彼方だぞー?」
彼方をかわいいとか美人っつーのは、家族親戚か滝ぐれえだって。
こんな変テコな喋り方する着ぐるみパジャマが、そんなわけねえ。
いや、彼方も学校じゃ普通に制服着てはいるけど…
むーかわいいか? ほんとはそれ、変わってていいね、とかじゃねえの?
「はるタソ失礼なり。して、ミロクは撃退に成功したなりか?」
「まだや。まだ狙っとるで」
「大変なりのー」
「なんでおめえが知ってんだよ⁉︎」
「見れば分かるなり」
「手強いわ…」
「もっと手強すいるなりから、頑張るよろし」
「誰だよそれー。心当たりがねえぞー?」
「ナイショなりよ。それプライバシーの侵害ね」
「今のうちリードしときたいねんけど、彼方なんか策ないけ?」
「む。かなタソさすがに中立なりよ。手助けは出来なす」
「やっぱり遊びに誘ったりじゃないの? こういう場合にはね」
「いっしょに遊びには行ってるで。でもそれだけじゃ足らんやろ?」
「なんだよ。むー。俺の知らねえ事言いやがって〜」
俺が鈍感なだけなのか? それとも隠してるヤツで、断れねえような手強いようなのがいるのか?
むー分かんねえ〜誰だよそれ…
疑問が解決しねえうちに今日も晩メシの準備の時間だ。
今日は豚肉でさっぱりなのをっつー事で、きざみネギの塩ダレらしい。
「だんだん暑なってきたからな。さっぱりがうまい季節や」
「それはそうだけど、むーだぞ」
「そのうち判明するやろ、たぶんな。気にすんなって、遥はオレの口説き聞いてたらええ」
「んな事言われても、気になる。相沢みてえに傷つけるかと思ったら、痛えじゃん」
そう言いつつも材料を準備してく。豚肉は鶏肉ほど切りにくくねえのがいいな。
モヤシもたっぷり用意するぞ。プチプチ…
む。根っこいっぱいだな、モヤシっつーのは。プチプチ…そっちのキャベツ切るのは弥勒でいいか?
プチプチ、終わんねえぞ。
「こっち切っとくし頑張って根っこ取ってくれ」
「了解だ。これが不味いの元なんだろ?」
根っこ取ってきれいにしたモヤシとキャベツ、豚肉といっしょにフライパンへレッツゴー!
ジュージューすんのも少し慣れたぞ。
気がつくとなぜか味噌汁と副菜が出来てるっつー謎はあるけど、とにかく熱いうちに食うぞ食うぞ!
うまっ。ネギ塩ダレうめえ。
「うま、うめえな、弥勒」
「おう。さっぱりでうまいわ」
「あそだ。日曜、昼間大丈夫か? おじさんち許してくれたのか?」
「ああ、高円宮杯やったな。大丈夫やで。元々毎週はええっちゅう話やったし」
「っつってもグラウンド広いから、俺顔分かんねえけどな」
「やっぱ1年でいきなり試合には出られへんか」
「さすがにムリだ。どんなに才能あっても2年3年いるしな」
「まあでも、応援したいっちゅうなら付き合うで。なんせ幼馴染みやろ?」
「うん。なんか超絶頑張ってるみてえだぞ。話聞いてるだけでエラいって思うしな」
毎日すげえ遅い時間まで部活やって、さらに早朝も帰って来てからも自主練は欠かさずやってるとか、ほんとすげえって思うぞ。
「そうか。遥の最近あった事とかの話もしたんけ?」
「告られたのは言ったぞ。弥勒と折り合いが悪いから断るっつったら、そりゃしょーがねえって」
「オレの事は?」
「さすがにまだ言えねえよ。軽々しく言いたくねえし弥勒もやだろ?」
「せやな。まあでもオレを好きになったら言えよ?」
「言ったらビックリすんだろなー。ただでさえ付き合うとか縁のねえヤツだし、気持ち悪いとか言わねえだろうけど」
「オレの事ちょっとは好きになったけ?」
「元々ちょっとは好きじゃん。弥勒に口説かれてもいいぐれえだし」
「ほなもっと好きになってくれや。オレが好きなぐらい」
「ええ? そりゃまだ早えよ。キスとかしてえっつーのは思わねえし」
「思わんか。そら残念やな」
「弥勒はやっぱキスとかしてえ?」
「まあな当然やろ。言うてもあれやで? 触れてみたい触りたいで、性欲だけっちゅうわけやないしな」
「む。俺に触りてえのか。ふむ…ちょっとぐれえなら触っても怒らねえぞ?」
「マジ? どこ? どこやったらええ?」
「頭とか? 撫でるぐれえなら怒ったりしねえな」
「頭撫でるか、ええな。ちょっと頭撫でさせてくれや」
「ん。いいぞ」
弥勒に俺の頭撫でさせてやる。俺の頭って撫でやすいらしいから、弥勒も嬉しいんじゃねえか?
どだ? 頭形いいって言われるぞ。
「たしかに形のええ頭やな。撫でたがるヤツ多いんけ?」
「母さんと彼方が時々と、あと琢磨がしょっちゅうな。あいつ4月9日が誕生日で年上ぶるのが好きなんだよ」
「それ微妙な年の差やな。おっしゃ、ほなオレもいっぱい撫でたろっ」
「ふふふ。弥勒、撫でるのうめえな。気持ちいい撫で方だ」
「お? オレの撫では気に入ったけ?」
「うん。これはいい撫でだ。撫でソムリエが保証しよう」
「ソムリエって、そんなしょっちゅうやったんか。撫でられまくりやんけ」
「彼方とか今でも時々、学校で俺の頭撫でてるだろ?」
「ああ、たしかに彼方はわりと頭撫でるヤツやな。よしりよしりとか言うて」
「あいつも何かっつーと、俺を弟扱いしやがるしさ。琢磨と2人がかりで撫でたりあったな」
「ははは。2人から撫でられるんや? かわいがられてるやんけ」
「しかし彼方がかわいいとは思わなかった…そんな事言うヤツは親親戚か滝ぐれえだとばかり」
「かわいい顔やと思うで。おまえの姉やし当然やけど」
「えー? だって琢磨も鼻タレっつってたしさ」
「ぶ。タレてたんか、鼻…」
「いや、ちっせえ頃だとあるだろ? くしゃみしてズルってやるぐれえ。それを琢磨はずっと言ってさ」
「鼻タレたら普通かむやんけ」
「鼻かむまではタレてるから、それを琢磨が鼻タレたっ、やーい鼻タレっつって、それから彼方はずっと鼻タレだ」
琢磨のヤツはちっせえ頃から、その辺全然変わらねえで、女子に酷えあだ名つけがちだから、そのせいでよく嫌われてるけどな。
彼方も琢磨見ると、むーってなってる事多いし、あれじゃ彼女作るのは難しいだろうけど、俺は正鵠射てるし面白えって思うんだ。
「それけっこう酷い話やで、いや言うてる事は分からんでもないけど」
「そうやって鼻タレって言われてるの聞いてたら、そのイメージがつくだろ?」
「そうなんけ?」
「その上彼方はなりなり言ってるし、弥勒も見ただろ? 着ぐるみパジャマ、あれが普段着だぞ」
「ああ、あれはちょっと、オレもえって思ったわ。しっぽ? って」
「なりなり言う着ぐるみパジャマの鼻タレって、かわいい要素がねえじゃん」
「まあ、あれや。字面だけやるとかわいくはないな」
「俺と琢磨の中じゃ彼方はかわいいじゃなかったんだよ。アイドルとか、ねえだろー」
「でもラブレターいっぱいもらってたらしいやんけ」
「まだそれ信じらんねえ。マジカルミラクル不思議な生き物彼方なのに」
日曜朝8時頃やってる魔法少女物のアニメに出てくる、マスコット的不思議生物、それが俺の中での彼方のキャラ性なのにさ。
絶対主人公の魔法少女じゃなくて、どうやって生きてるのか生態がはっきりしねえ、かわいらしいけど間抜けなとこもある謎生物だ。
「ちょ、酷い酷い。なんやそのマジカルミラクルて」
「これも琢磨が付けた彼方のあだ名だ。あいつ言動が面白えヤツでさ、弥勒の事も色々言ってたぞ」
「ああ、アメリカ帰り195の青い目で料理上手の格闘家…やったっけ?」
「そうそう。俺がどやって女子に話かけるんだっつった時もお嬢さん高等数学について語り合いませんかっつーヤツだし」
「それ女子に言うのはおかしいやろ。それで好かれるん無理やで。むしろ嫌われるって」
「そだろ。そういう言動のせいか、女子には受けが悪いな。よくあっち行けとか言われてた」
爽やかな笑顔ワザと作って芝居っ気たっぷりに“やぁ、おはようっ。胸筋!”とか挨拶したら、思春期女子には嫌われて当然だけど。
「あー…なるほどな。そういう事するヤツてたまにおるよな」
「それよりさ、そろそろ撫ではやめてメシ食わねえ?」
「………そうやな。名残り惜しいけど食うてしまおか。手ぇ離すん嫌やけど」
「撫ではまた今度にしようぜ。弥勒なら、撫でぐれえだったら俺も怒らねえからさ」
「分かった。食うてまおか。その代わり、次から隙見て撫でるしな?」
「む。隙見てか…なら隙見せねえように気をつけねえとだな」
「いや、見せろや。オレには隙見せまくりになれって」
「えー? それ俺の頭が撫でられまくりっつー事だろ? 煙出てハゲたらどうすんだよ」
「ハゲぐらい責任取ってオレがもらったるから、オレには隙見せとけって」
「むー。パララパッパー“遥の警戒レベルが上がった”だぞ?」
「警戒すんな。警戒せんといてくれ。オレには無警戒でおれって、無体な事はせんから」
「えぇー? 気がついたら、ヒッヒッヒ〜良いではないか良いではないか〜あ〜れ〜ってなってそうじゃん」
「えーと、悪代官…け? ない。ないから安心しとけって」
「アメリカ帰りには分かりにくかったか? あと手篭めにされる町娘だ」
「町娘? 姫ではないんや? なんで町娘?」
「身分を傘に着て逆らえねえヤツに無体を働くっつったら、相手は町娘だろ」
「オレはそんな極悪人やないっ。無体は働かんから無警戒でいろって」
「むー…こっそり俺の縦笛舐めたりしねえ?」
「縦笛?」
「あ、アメリカじゃそゆのねえんだな。縦笛は音楽の授業で使うんだよ」
「?」
「俺の使う縦笛をキスの代わりっつって…」
「ちょ、せん! せんって! オレそんな変態やないっ。キスしたいっちゅうてそんな事はせんからっ!」
「さすがにそれはねえか」
「ないからっ。そんな怪しげな事はせん。どういうシチュエーションやねんそれ…」
「学校って忘れ物置きっぱとかあるだろ? 好きな子の忘れ物をっつーのを聞いた事がある」
「そこは舐めんと届ける一択やろ。どう考えても嫌われる行動やんけ、それ」
「そこはおバカな小学生だと分かんねえんじゃねえ? 俺もやられたら嫌いになる自信があるけどさ」
「せやろ? 家届けたら顔見れるんやで? 普通はそっちやって。舐めるのは頭おかしいヤツや」
「ふむ。学校の忘れ物は届ける一択な弥勒なら、少しは信用してやろう」
「少しか…いっぱい信用がええで?」
「キスしてえっつーヤツをいっぱい信用しちゃダメだろ。ウッカリキスされたらどうすんだ」
「ウッカリ?」
「弥勒はウッカリでも、チャンスがあればキスしてえヤツだろ?」
「オレは遥にキスしたいて思われたいヤツや。キスすんのはその後やで」
「む。それはあれだ。グググっ“遥の信用度が上がった”だな」
「さっきとなんか音がちゃうで?」
「“信用度”と“警戒レベル”はパラメータが違うからな」
「両方ええのつけろって。警戒も下げろや。信用度100%で警戒レベル0がええ」
「それはまだ早えよ。弥勒は仲良くなってから日が浅いだろ」
「やっぱ時間も必要か…」
「当たり前だ。そういうのは一朝一夕に出来るもんじゃねえって」
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