転校生
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「お邪魔するなりよ。はるタソ〜」
入学式から1ヶ月ちょっと、高校生活も落ち着いてきた、特に予定の入ってねえ天気のいい5月中旬の日曜日の午前中、いつものように俺の部屋に、ノックもしねえで姉の彼方が入ってきた。
せっかくゆっくり余暇の時間を楽しんでる俺を、いつものごとく邪魔しにきたらしい。
今日は何だ? 買い物なら付き合わねえぞ。
「何だよ彼方。なんか用か?」
「うむり。かなタソただいまよりおデート行ってくるなり」
「ああ、晩メシまでにはどうせ帰ってくるんだろ?」
「うむ。おやつは、はるタソだけで食うよろし」
彼方は入学して速攻、俺のクラスの斜め前の席にいる、滝慶太っつーヤツに告られて、絶賛お付き合い中なのだ。
未だに俺は滝が彼方のどこがよくて告ったのか理解しかねてるけど、毎日うちのクラスまでやってきて昼メシいっしょに食ってる。
見るからにラブラブ、呆れるぐれえラブラブな、典型的健全高校生カップルをやってやがる。羨ましい…
彼方の彼氏、滝慶太は、真っ直ぐ真っ黒な背中までの長え黒髪で、異国風の浅黒い肌で、背が高くて引き締まった体躯の超絶美形と言う、ちょっと特徴的な見た目のせいか、遠巻きにされる事が多いけど、無口なだけでわりといいヤツだ。
もちろんそれは、滝が彼方と付き合いだしたおかげで、知った事だけど、ラブラブする姿はリア充爆ぜろのひと言に尽きる。
まぁ、俺も彼方も、目立つ見た目って意味じゃ、他人の事あんま言えねえけどな。
なんせ俺ら双子で、真っ白な髪色に真っ赤な目の色だし、見た目が目立つっつー意味じゃ、鬼目立つ2人だからな。
白い髪に赤い目の彼方なら、たしかにあいつの隣でも気後れとかしなさそうな気がするし、滝もそこがよかったのかもしんねえ。
喋り方変で、普段着に着ぐるみパジャマ着る彼方だけど、それでもいいっつーヤツを見つけたんだし、祝福はしてやってもいいか。
月曜日の朝、ホームルーム前に俺の席にやって来た2人の女ども。
はぁ〜あ……また迷惑なヤツらが、絡みに来やがったぞ。
「聞いて聞いて、遥くん。転校生がくるんだって!」
「あたしたち見ちゃった。すっごいカッコいいの!」
こいつらは同じクラスの伊東と藤本。
おかっぱメガネとそばかすおさげのコンビで、いつもセットで喋る漫研のオタクたちだ。
描く作品の筋や発想は面白えヤツらなんだが、普段の言動がとにかく腐女子だから、俺は何かと対処に困ることが多い。
「へえ、5月に転校生? 学期途中なのに珍しくね?」
「これであたしたちの心の栄養がまた」
「うんうん。遥くんの新しいお相手が」
「うっせえ。腐女子思考を生の人間に当て嵌めるのは、いい加減にしやがれ」
こいつら伊東藤本は、アニメやマンガのみならず、生の男同士のあれこれを妄想するという、迷惑極まりねえ性癖を持っている。
「滝くんが彼方ちゃんと付き合ってからずっと!」
「あたしたちがどんなに辛かったと思ってるの?」
腐女子のこいつらにとって、俺と滝は白と黒っつーオイシイ見た目が格好の獲物に見えるようで、彼方よりも俺が滝とくっついて欲しいってうるせえんだよ。滝は彼方の彼氏だっつーの!
ノーマル性癖な俺にとっても、何故か彼方命っつーぐれえ彼方ラブな滝にとっても、ほんと困ったヤツらなのだ。
「だから〜、俺が好きなのはかわいい女子なんだっ! 野郎にキョーミはねえっ」
「職員室で偶然見ちゃったけど」
「すっごいカッコよかったよ!」
「話聞けって! 野郎の見た目はどーでもいいって言ってんだろ? いいヤツなら嬉しいけどな」
こいつらの腐女子的趣味についてまで、細けえ事とやかく言う気はねえけど、俺を生贄だとか餌食にしようとすんじゃねえよ。
それさえなきゃ貸してくれる本はけっこう面白えし、描く作品も悪くねえから、こいつらが嫌いっつーわけじゃねえんだけどさー。
「そんなツレない事言わないで」
「もっと創作活動に協力してよ」
「うっせえ。先生来るぞ。席に戻りやがれっ」
「みなさーん、席に着いてくださーい」
先生と一緒に教室に入ってきたのは、超デケえヤツ。
デケえ…いや、うちの担任はかなりちっせえけど、それにしたってデケえ…
絶対2mぐれえあるだろあれ。すげえな、何食ったらあんな育つんだよ。
レスラーでもあんなのなかなかいねえって。
クラス中がちょっとザワザワして、あちこちからデケえデケえっつー囁き声が聞こえてくるぐれえ、とにかくデケヤツだ。
「ニューヨーク市のコロンビア大学近くから転校してきました。弥勒高嶺です。よろしく」
はー、ニューヨークの帰国子女か、通りでデケえはずだ。
でも帰国子女っつーわりに日本語上手じゃねえ? なんにしてもデケえ。
俺があまりのデカさに見とれてたら、ぱしっと弥勒と目が合った。…気がした。
あー…俺、じろじろ見過ぎたかな?
いやでも、しょーがねえよなーこれは…俺、かなり視力が悪いからさ。
あとで何か機会があれば説明しとこ。
転校生弥勒の席は俺の隣の列で、同じ一番後ろだ。
ま、こいつが前にいると黒板見えなくなるだろうし、当然だろうけど。
俺が一番後ろの席にいるのは、最前列の席に座っても、黒板なんか見えねえぐれえ視力悪いし、意味がねえからクジに従っただけだ。
「よろしくな、弥勒。俺は楠木遥だ」
「よろしくやで、遥」
うわ、握手だよ。さすが帰国子女、スキンシップの国アメリカ帰りだ。
すげえ〜、手もデケえ〜。つか、こいつ関西訛りなのか。
すげえ声低いな。これは低音イケボっつーヤツだ。
俺の事、いきなり下の名前呼びなのは、やっぱアメリカ帰りだからか?
初対面なのに、なんかとにかくインパクトがすげえ。
分厚くてゴツい手に目を白黒させながら、挨拶を済ませて黒板向き直る時、気のせいか滝がこっち見てたような気がした。
「悪いけど、教科書見せてくれるけ? まだあらへんねん」
「ん? いいぞ。教科書ねえって、転校って急に決まったのか?」
「おう。決まったんけっこう直前でな、おかげで制服以外が色々足らんわ」
「教科書以外も?」
「体育服もや。今日買い行くねん」
「そっか。せっかくのお隣さんだし、出来る事は手伝うぞ」
「そら助かるわ。ありがとうな」
授業中、時々弥勒と喋りながら、板書してく。
見た目デカくてイカついヤツだけど、弥勒って結構感じのいいヤツかもしんねえ。
ん? 板書は授業聞いてりゃ出来るもんだ。
別に黒板見えねえからって、不真面目にして、ノート取ってねえわけじゃねえぞ。
「タキお昼なり、おべんといっしょ食うよろし」
昼休みになると教室に彼方がやってきた。今日も滝といっしょにメシ食うつもりか。
なんて思ってたら、珍しいことに俺まで誘ってきやがった。
「そなた見かけぬ者なりね。噂の転校生はそなたなり? いっしょおべんと食うなりか?」
は? しかも彼方、弥勒まで誘ってやがるぞ。
いいのか? 滝がヤキモチとか妬いたりして、ケンカになったらどうすんだ?
「誘うんやったら直接誘えや、慶太」
「いいでしょ? 初日でいっしょにメシ食う相手いないクセに」
「え、もしかして滝、弥勒と知り合いなのか?」
「おう。一応遠縁…っちゅう事になるんけ? ババアとババア従姉妹やし」
「血の繋がりって言うより、地域の繋がりじゃない? 弥勒とおれ、おばあちゃんちが近くなんだよ」
「なんと、タキと転校生ご親戚だったなりか」
「転校生言うな。弥勒や。弥勒高嶺」
「了解なり。ミロクなりね。かなタソは彼方なり。気軽にかなタソと呼んでよろしよ?」
「彼方な。遥はやっぱ、彼方と、兄妹とか、双子とかなんけ?」
「そなりよ。かなタソが双子のねえさんなり」
「ん?…………姉が、彼方? あれ? オレの日本語がおかしいんけ? 遥か彼方が普通やなかった?」
「弥勒の日本語はおかしくねえよ。合ってる合ってる。地方の風習のせいなんだ」
彼方っつーのは俺の姉、ねえさんだけど同じ歳。つまり俺と二卵性双生児っつーやつだ。
弟の俺が遥。その理由は父方の祖父にある。
父親の田舎の風習には、双子は後から生まれた方が年上っっていう、謎な掟があるそうで、今は亡きじいさんが俺が兄だって言い張ったせいだ。
おかげで先に生まれた彼方は妹、後から生まれた俺…遥が兄だってなって、戸籍では逆の姉が彼方、弟が遥っつー事になったらしい。
もうちょっと名前に工夫してくれたら、違和感も少なかったはずなんだと思うけど、親は名付けのセンスがイマイチだったみてえだ。
どっちが年上とか微妙だし、俺はわりとどうでもいいんだけど、彼方はこだわりがあるらしくて、よく姉である事を主張してくる。
帰国子女に首傾げられる名前っつーのも珍しいよな、なんて思いながら名前の事情を説明して、それぞれの弁当をつつき始める。
つか、弥勒の弁当デケえな、これが弥勒のサイズを作る秘訣なのか。とか、謎な感心したりしながら、弥勒と色々喋る。
ふむ。親の仕事の都合で引っ越が決まったのが1ヶ月前で、日本に到着したのは3日前なのか。すげえバタバタしてやって来たんだ。
「引っ越し大変だっただろ。急な転校だったんだったらさ」
「まあ、すごいバタバタしたわ。親はオレ放って、さっさと自分の仕事場に飛んでったし」
「両親たしかパタゴニアだったっけ? すごいよね、息子日本に置いてくなんてさ」
「えぇ? もしかして弥勒一人暮らしなのか?」
「おう。僻地過ぎて学校がないし、しゃーないから親戚のおる日本来てん。今はオッサンの持ってるマンション借りてる」
「なんと、もしやミロク、これお一人様で作ったなりか? お料理お上手ねー」
弥勒のデケえ弁当袋の中から出てきたのは、手作りっぽいサンドイッチとか、から揚げとか、焼いた玉子にサラダもある。
ちょっと洋風だけど、ちゃんと料理してあるっぽいメニューで、肉と野菜のバランスもいい。
すげえな、これ1人で作ったのか。
「元々両親は留守がちやったしな。ひと通りなんでも出来るで」
「すげえ。俺は料理なんか全然出来ねえぞ」
いや、家庭科の授業はやった事あるし、飯盒炊飯に行った事もあるから、経験ゼロじゃねえけど、1人で作れる自信は全くねえ。
「全然って。遥…少しは出来ないと、大学行ってから苦労するよ?」
「タキはお料理お上手なりからのー」
「滝、彼方だって料理は全然出来ねえぞ?」
いやまあ、高校出たら俺、遠くの大学に進学予定してるから、近い将来を滝が心配するのはすげえ分かるんだけどさ。
うちの母さん台所は自分の城で、他人に触られるの嫌いだし、やらせてくんねえんだよ。…そのうち料理教室でも通うつもりだけど。
「彼方はおれの料理を食うから、出来ないでいいんだよ」
「うひょひょ。かなタソ、愛されなりからの」
滝も彼方の言葉通り、弁当は手製らしい。意外だけど、滝の趣味は料理だそうだ。彼方はほんとよく出来た恋人捕まえたよなー。
成績首席で料理が趣味で見た目が超絶美形。彼方には出来過ぎな恋人だよ。しかもなんか、すげえ愛されてるみてえだしさ。
「遥、料理練習する気があるんやったら、オレが教えたるけど?」
「え、マジ? いいのか弥勒。俺、全く出来ねえんだけど」
そりゃ助かる。高校出るまでには出来るようなんねえとって思ってたから、教えてくれるっつーなら、願ってもねえ嬉しい申し出だ。
「ええで。オレのメシ作るついででええなら、やけどな」
「遥、教えてもらったら? 弥勒、見てる限りだとちゃんと作れるみたいだし」
「マジ頼めるのか? 弥勒が教えてくれるならすげえ嬉しいんだけど、いつから頼める?」
「まずはおまえの親に相談せえや。オレんちで晩メシ食うなら、相談せんと」
「それもそっか。今日帰ったら相談してみるよ」
俺が弥勒に料理教えてもらうって言うなら、別に反対はされねえだろ。
料理の稽古するんだし、材料費出してもらわねえとだ。
料理の練習か…自分で作った物、友だちといっしょに食うのは、なんか楽しそうじゃん?
高校入って中学の時やってた部活も辞めて、新しいこと何かやろうと思ってたとこだったし、時期的にもほんとちょうどよかった。