28話 「リオンが笑ってるなら、それでいい」
朝食のあと、リオンはお気に入りの木馬のぬいぐるみを抱えて、部屋の中をとことこ歩いていた。
まだあどけない顔には眠気が残っていて、まぶたをこすりながら、ふらふらと私の足元にやってくる。
「母しゃま、これ見て? くるまの馬しゃん」
「ふふ、かっこいいわね。リオンの馬しゃん、大冒険中?」
しゃがんで目線を合わせると、リオンはにっこり笑ってうなずいた。
──そこへ、不自然なまでにややゆっくりした足取りで現れる影がひとつ。
「……それは、馬なのか?」
聞き慣れない声に、リオンがふいっと顔を上げる。
レオニスだ。
彼はどこかぎこちない動きで、リオンの傍らにしゃがみ込もうとして──。
盛大にバランスを崩して尻もちをついた。
「……っ、な……」
なぜか本人が一番恥ずかしそうにしている。
(……何やってんの、この人)
思わずため息を吐きそうになるのをこらえて見ていると、
リオンは少しだけ目を瞬かせ──それから、にこっと笑った。
「とーしゃま、ころんだの?」
あまりにもナチュラルな口調に、レオニスが一瞬フリーズする。
「……と、父、しゃま?」
「うん。今日もいる?」
「…………まあ、いる」
明らかにうろたえた様子のレオニスとは対照的に、
リオンはなんてことないようにぬいぐるみを差し出した。
「じゃあ、これ、貸してあげる」
それは──リオンがいつも手放さない、お気に入りの木馬。
(……ぷぷ。めっちゃ嬉しそうにしてるじゃない)
ちょっと構ってもらえただけで、
リオンはすでに嬉しそうにぴょこぴょこと跳ね回っている。
ああもう、ほんとに……。
「……急に『父親らしく』なろうとしなくていいのに」
ぽつりと漏らすと、レオニスが一瞬だけこちらを見る。
だけど私は、それには応えなかった。
リオンが笑ってる。
それだけで、今はもう──十分だと思った。
……ここで生きていくって、決めたんだから。
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