22話 スパダリ公爵、死亡!?
「どうしたらいい……? このままだとレオニスが――」
彼の手を自身の震える手で、ぎゅっと握り締める。
「父しゃま……?」
不穏な空気を感じ取ったのか、マリネに抱かれているリオンも不安そうに彼を呼ぶ。
(落ち着いて考えるのよ……)
「旦那様……!! 何てことなの!?」
次々と使用人たち――執事のエルマー、台所から駆けつけた見習いのカイも駆け寄ってくる。
「奥様。何かお手伝いしましょうか……?」
「セス、どうしよう……。私、何もできることがないの……。何か、何かしなきゃ……!」
誰かが、医者を呼びに行く声が聞こえる。運悪く出払っていて、到着には時間が掛かるって誰かが言った。
側で見ていたヴィクトールが口を開く。
「吹き矢ですから、毒の類いではないでしょうか。ただ、何の毒が使われたかが分からない……」
「解毒薬を片っ端から飲ませたらダメなの?」
「奥様。種類が多すぎるんですよ……。私が知っているだけでも、30種類はあります」
周りにいる彼らは、見たこともない症状だと言う。
「毒の種類、毒の種類……。もし、成分さえ分かれば……。
セ、セス! 前に実家に帰ったとき、調べてくれたって言ってたよね!?」
「……はい、確かに。でも、特定できなければ……時間が足りません……!」
「それが、分かるの! いいから、ノートを持って来て!」
セスは慌てて駆けだしていった。
「……うっ、苦い」
「よし、全部飲んだ! 次は……、これね!」
私が薬草汁を飲ませる度に、顔をしかめるスパダリ。
「レオニス、これも飲んで!」
「……これ、何杯目だ。苦い……」
「もう! いちいち文句言わないの!!」
「……俺。……ほんとに助かってるんだよな?」
「おいレオニス、死ぬなよ……。いや、別の意味で」
ヴィクトールは、半笑いだ。いや、不謹慎すぎるでしょ!?
(しょうがないじゃん……、どれか分からないんだから……!)
レオニスはうっすら目を開け、弱々しく微笑んだ。
私は震える手でノートをめくり、表示される成分を照らし合わせては、次の薬瓶を掴む。
「レオニス、次はこれ!」
「あ、あの。それ……、たしか笑い上戸になる毒の解毒薬じゃ……」
セスが後ろで声をかけてきたけど、彼が何て言ってるか、もう聞き取れない。
周りからいろいろ言われて、すでにパニックに陥っていた。
「時間ないの!! みんな、ドンドン解毒薬を作って!」
私は叫び返して、迷わずレオニスの口元に薬草汁を押し当てる。
周りでは、使用人達が総出で薬を作ってくれていた。
彼はもう毒が回ってきたのか、意識が朦朧としてかすかに呻いた。
「……俺、は。笑ってない……、ぞ……」
「当たり前でしょ、死にかけてるんだから! 笑える状態じゃないのよ!!」
(お願い……! 間に合って……!)
ヴィクトールがなぜか、頭を抱えて叫んでいる。
「ふ、夫人! 本当にそれ必要なんですか!? ……レオニス、変な副作用で死ぬなよ!!」
レオニスの意識がなくなり、握っていた手に力が入らなくなってパタリと落ちる。
「レオニス! ダメ、ダメ! 死んじゃ嫌!!」
私の願いに反応するかのように、レオニスの指先がわずかに動いた。
それに気付いたのは、私を入れて数名。
屋敷の者達が固唾を呑んで見守る中、人混みに紛れてじっとこちらを見つめる視線。
廊下を小柄な使用人が忍び足で抜け出すのが見えた――。
◆
「報告致します。現在、街道を北へ向かっているようです」
「ご苦労」
低い声が部屋の中に響く。
影に隠れたまま屋敷を離れた使用人を、監視させていた。
「ご推察の通り、侯爵家の屋敷へ報告に向かったようです」
◆
……それからしばらく経って、以前から告知されていた盛大な舞踏会は、いよいよ間近に迫っていた。
「フォルスター侯爵から、手紙が届きました」
「また届いたの? エルマー」
「はい。……あちらは、相当ご執心のようですよ?」
手渡された招待状と手紙を眺めながら、ほくそ笑む。
上等な厚紙に金の封蝋、侯爵家の紋章が煌めいていた。
「そんなに参加して欲しいんだ?
……まったく、しょうがないなぁ。これは行ってあげないと可哀想だもんね?」




