21話 俺の家族に手を出すな!夫はスパダリ!?
「どういうことだ! 報告しろ!!」
レオニスの低く鋭い声が、張り詰めた空気の中に響き渡る。
「失礼致します!」
額に汗を浮かべたふたりの護衛が、部屋の中へと入ってくる。彼らはレオニスの前に跪いた。
「報告致します! 現在屋敷の周りを軍の兵士と思われる集団によって、包囲されております!」
「軍の兵士だと!? ……数は?」
「およそ50名ほどかと……!」
「理由は何だ?」
「彼らが言うには『国家反逆の疑いあり』、とのことです……!」
報告する護衛の声がわずかに震えている。私達は息を呑んだ。
「母しゃま……」
「リオン、起きたの?」
屋敷中の物音に、目を覚ましたのだろう。私はリオンを抱きしめる。
「すぐにマリネとエルマーを呼べ! エリシア、リオンを連れて彼女達の指示に従うんだ、いいな?」
「わ、分かった……」
護衛のひとりが顔を青ざめさせ、転がるように部屋を飛び出していった。
「ねぇ。相手は他に、何か言ってないの?」
「奥様、彼らは旦那様の身柄を拘束させていただきたい、と」
(国家に逆らうなんて、戦場に行っていたレオニスがするはずない……。誰が、こんなことを――?)
「レオニス、あの人が仕組んだんじゃないの……!?」
「……ああ、間違いないだろう。だが相手は正規の兵だ。いま抵抗したところで、こちらが完全に不利だ――」
彼はすでに、覚悟を決めているようだった。
冤罪──。拘束されれば、覆すのには時間がかかる。きっと長い時間が。
叔父はその隙を狙って、私たちを潰しに来る……!
「ずいぶん手荒な真似をするんだな? ヴィクトール」
いつの間にか目の前まで来ていた兵士のひとりに、レオニスが声をかける。
ヴィクトールと呼ばれた男性は、気まずそうな顔をした。
「すまん……。命令には逆らえなかったんだ」
(レオニスの知り合い……みたいね?)
「ご夫人、夜分遅くに失礼します。私はヴィクトール・ダナート、レオニスの親友です。
……しばらく彼をお預かりしますが、どうかご安心ください」
「親友って自分でいうか……?」
「あ、はい。……いや、心配しないわけないでしょう!? しかも、これが親友同士の会話なの……?
そうは聞こえませんけど!?」
私が言い返すと彼は一瞬きょとんとした後、レオニスに視線を移して苦笑する。
「案外、上手くいってるんじゃないか? レオニス」
「まあな。もっと俺を意識してもらうためには、活躍するところを見せないとな!」
そう言い終わると同時に、レオニスはヴィクトールの腰の剣を抜き、彼を壁の方へ突き飛ばす。
今まさに、ヴィクトールを後ろから切り捨てようと、ひとりの兵士が剣を高々と振り上げていたのだ。
レオニスは剣を受け強く弾き返すと、一気に真上から叩きつける。
「貴様ら、何者だ……。よく見ると、知らん顔ばっかりだな? 俺を騙せるとでも思ったか!」
「……へっ、バレたか。じゃあ、しょうがねぇな!」
20名近くの兵士達が鉄兜を脱ぎ捨てる。周囲の正規軍の兵士たちは、目を見張り驚きの声をあげた。
(兜、脱がない方がいいんじゃないの……?)
「ヴィクトール、手伝え!」
「くそっ! 俺まで標的かよ!!」
ヴィクトールは、レオニスが倒した敵の剣を素早く奪い取り、ふたりで背中合わせに立つ。
彼らの周りをジリジリと敵が囲んでいった。
「ヴィクトール、こんな風に追い込まれるのも久しぶりじゃないか?」
「余裕すぎるんだよ……まったく。戦争だって、お前が早く終わらせたようなもんだろ?」
(あれ? レオニスってもしかしてスパダリなの……?)
レオニスは敵のひとりが飛びかかってくるのを華麗に避け、剣を横に振り抜くと相手を弾き飛ばした。
軽く払ったように見えたのに、敵の体は大きく吹き飛び地面に転がる。ひとり、またひとりと敵は倒れ、その数を減らしていった。
正規軍の兵士達は、ただオロオロとその様子を眺めていた。
「おい! お前ら、どっちにつくんだ!? 今活躍すれば、昇進間違いないぞ!」
ヴィクトールの言葉に、兵士たちは我に返り慌てて参戦する。
「ふぅ……。これで全部か」
レオニスが最後の敵を斬り伏せ、息を整えたときだった。
倒れていた敵のひとりが苦しげに唇を歪め、わずかに腕を動かす。
「危ないっ!」
小さな「シュッ」という音。
私は反射的にリオンを抱きしめたけど、次の瞬間、視界を遮る大きな背中が飛び込んできた。
「レオニス……!?」
ヴィクトールが気づいて、大声を出した時には遅かった。吹き矢の針が、レオニスの左腕をかすめるように飛んだ。
しばしの沈黙の後、彼の体が小さく震え、顔色がわずかに青ざめる。
「……レオニス!?」
彼はガクンと膝をつく。すぐに立ち上がろうとするが、足に力が入らないようだった。
「お、俺の家族には、指一本触れさせない……!」
「……レオニス! 貴方……っ!」
私は彼の側に駆け寄り、その大きな身体を周りの兵士に手伝ってもらいながら、何とか横たえる。
「くそっ、この野郎!!」
吹き矢を放った敵の男は、ヴィクトールが怒りを込めて斬り倒した。
「レオニス! レオニス!」
「まずいぞ! 毒かもしれない!!」
私はヴィクトールの声に、ハッと我に返った。
「それ以上動かしちゃダメ! 刺さった場所より心臓側を軽く縛って! ええと……そうだ!
誰か、綺麗な水持って来て! 早く!!」
「君は……詳しいんだな……」
ハッとして声がした方を見ると、レオニスがかすかに笑って私を見上げていた。
その声は、さっきまでの力強さが嘘のように弱々しい。額には汗がにじみ、唇の色がわずかに青ざめていく。
「レオニス……!?」
私が名前を呼ぶと、彼は小さく息を吐き目を閉じそうになる。
(ダメ……! 数値が下がってる! 早く処置しなきゃ!!)
「誰か……。早く医者を呼んできて!!」
額の汗、青ざめた唇、目の前に表示される数値はさらに低下していった――。
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ご理解のうえ、お楽しみいただければ幸いです。




