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後妻はもう恋をしない。愛をくれたのは、この子だけでした  作者: 秋月 爽良


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第8話後半 禁じられた薬草に疑念の扉が開く

 エルマーのいる執務室に向かう途中、私は深呼吸を繰り返した。


(大丈夫。エルマーなら、きっと力になってくれるはず)


 何の確証もなかったけど、そう信じるしかなかった。彼の普段の行動が、私にそう感じさせていた。


 控えめに扉をノックすると、すぐに「どうぞ」と低い声が返ってくる。

 重厚な扉を開き、私は中へと足を踏み入れる。


 執務机に座るエルマーは、相変わらず無表情だったが、私を見るとほんの少しだけ目を細めた。


「これはエリシア様。ご用件は?」

「……お願いがあるの」


 私は真っ直ぐに彼の目を見つめた。


 リオンの体調が悪化していること。食事に使われている薬草に、すり替えられたような違和感があること。

 そして、薬草資料を閲覧したいこと――。


 全てを短く、けれど包み隠さず話した。


 エルマーは黙って聞き終えると、ゆっくりと立ち上がる。


「……承知致しました。旦那様が戻られましたら、私からお伝え致しましょうか?」

「いいえ。私から話してみる」


 それだけ聞くと、彼は執務机の引き出しから別室の鍵を取り出して手渡してくる。


「ありがとう、エルマー」


(こんな私を信じてくれる……。以前とは雰囲気も変わっているのに)


 信頼も何もお互いになかった私に、彼はほんのわずかに微笑んだ気がした。

 それだけで、心がふわりと軽くなる。


 ◆


 別室――普段は使用人も立ち入らない、小さな資料庫。私達は連れ立って、鍵が開かれた扉を静かにくぐる。

 モワッと埃の匂いが鼻をかすめた。棚には薬草や薬品について書かれた、古びた資料がずらりと並んでいる。


「たしかこのあたりに、記録があったはず……」


 書庫の青年が、手慣れた様子で棚を探り始めた。


「僕、こっちも見てみます!」


 料理見習いの少年が、張り切って手近な資料に飛びつく。


 マリネと私は顔を見合わせ、自然と笑みを浮かべた。

 今までひとりで心細かったけど、こうして一緒に動いてくれる仲間を見つけた。


「そういえばあなた、名前は?」

「僕はカイです!」

「私はセスと申します……」


 ふたりとも、少し怪訝な表情をして私を見る。それもそうだろう、この屋敷の使用人の名前を知らないなんて。

 最終的に雇い入れる決定を下したのは、過去のエリシアなのだから。


「ごめんなさいね。最近記憶が曖昧なのよ」


 あれから少しずつ記憶は混じり合うけど、全て思い出せてはいなかった。


(とにかく、今は全部リオンのためだけに……)


 ──数十分後。


「エリシア様、これを……」


 セスが静かに差し出してきたのは、薬草に関する記録だった。


「最近使用され始めた薬草について、注意書きが書いてあります」


 私は資料を受け取り、ページをめくった。そこにはこう記されている。


 『体力のない幼児・病弱者への使用は控えること』。


「……!」


 目の奥がじん、と熱くなる。あれはリオンには、使ってはいけない薬草だった。


(だとすると、一体誰が何のために……?)


 胸の奥で静かに怒りが芽生える。


(必ず……、見つけ出してやるから)


 私は資料に跡が残るほど、両手で強く握りしめた。

 小さいけど、でも確かな第1歩。リオンを守るための戦いが、確実に始まろうとしていた。

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