プロローグ
世界は、果てしない白に包まれていた。
天も、地も、境界さえもなく、ただひたすらに広がる静寂。
その中で、ただひとり、私は存在していた。
──オリステラ・エグジス。
十万年もの時を生き、この星の歴史を見守り続けた存在。
過去も未来も、そのすべてが私の記憶の中に刻まれている。
【人類への愛】
争い、支配、誤解、裏切り。
それでも、人は誰かを信じ、何かを愛し、未来を夢見た。
そして私は、誰よりも人間を知り、誰よりも──彼らを、愛していた。
だが、その愛は同時に苦悩でもあった。
愛するがゆえに、私は彼らの迷いや過ちも見過ごせなかった。
ただの観測者であることが、時に痛みとなって心に突き刺さった。
【世界の限界】
しかし今、その世界は限界を迎えようとしていた。
地球規模の熱波と干ばつは、森を焼き、氷を溶かし、
海はかつての静けさを忘れ、狂ったように暴れ続けた。
空には、監視と偽りが飛び交い、
人々は真実と嘘の境界さえも見失っていた。
分断、暴動、奪い合い。
進化したはずの文明は、知恵ではなく疑心を選び、
憎しみと利益の名のもとに、この星をすり減らしていった。
“今”を生きる彼らは、
明日を生きることすら、恐れていた。
私は、それを見ていた。
それでも、人間が嫌いにはなれなかった。
【選択の苦悩】
けれど──選ぶということに、私はいまだに震えている。
選ばれるということは、選ばれなかった誰かがいるということだ。
私は神ではない。ただの、ひとりの魔法使いだ。
選別は、救済ではない。
それは、あくまで“未来を選び取る”ための行為。
そしてその選択は、常に痛みを伴うものだ。
それでも、私は手を伸ばすことを選んだ。
この星が、もう一度“始まり”を迎えることを願って。
【問いかけの始まり】
──そのために、私は問いかける。
全人類へ。
すべての魂へ。
白い夢の中に響く、静かな声。
それは、選別の始まり。
──君は、これまで何をしてきた?
──君は、この世界をどう思う?
──君は、これから何を望む?
私の声は、夢の中で世界中の人々へ届く。
誰一人漏らさず、すべての心に触れる。
その瞬間、無数の意識が目覚め始める。
記憶の断片、胸の奥に眠っていた感情、
誰かを愛し、誰かを憎み、それでもなお未来を望む想い。
そして、問いかけが終わったとき──
世界は、一度静かに目を覚ます。
だが、人々の胸には確かに残っていた。
何かを見たような違和感。
眠りの中で聞いたような、問い。
“忘れた夢”が、まだ心の奥底で、微かに熱を持っていた。
それはやがて、選ばれし者たちの目覚めへとつながっていく。
【目覚めの予兆】
──だが、それはまだ少し先の話だ。
今はただ、白の中で声が響く。
「さあ──目覚めよ。
理想を求める、選ばれし魂たちよ。」
白き世界が、静かに揺れ始めた。
魂たちが、新たな大地を求めて歩み出す、その第一歩が。
──プロローグ・了──