第八十四話 技術格差
「毎日いくらでも、魔晶機人改を動かせるのはいいね。訓練内容も、魔獣狩り、魔獣を駆逐して結界を張り直した土地の整地、農地の開墾、同級生たちとの模擬戦と、色々できて、故郷とは大違いだ」
「動かすと、沢山のマジッククリスタルや部品を消耗してしまうので、仕方がありませんわよ。『魔晶機人は、お金で動かす』。我がラーベ王国のとある貴族が言った言葉ですわ」
「マジッククリスタルの消費量を大幅に抑えた魔晶機人改だからこそ、学園の学生である俺たちが毎日目一杯使っても怒られないんだろうけど。マーカス帝国では、週に二回動かせれば多い方だったからなぁ……。それも一時間も動かすと、マジッククリスタルを管理する軍政官たちの顔が途端に渋くなるんだ」
「魔晶機人改の関節や消耗部品が従来の物よりも圧倒的に高品質で、交換頻度が少ないというのもあるのでしょうね」
「欲しいなぁ。魔晶機人改」
「マーカス帝国の貴族たるあなたが盗むと、国際問題に発展するどころか、私たちまでとばっちりを受けて学園で学べなくなります。やめてください」
「やらないよ! というか、クラリッサさんは喋れたんだ!」
「失礼な人ですね。喋る必要もないのに喋る人が浅はかなのです。ゾフ王国の技術力は、他国を遥かに凌駕しています。盗んで調べた程度でどうこうなるとは思いませんので、まずは地道に技術力を上げるしかありません」
「それもそうだ。俺の祖国が大量のクロスボウを輸入したおかげで、魔獣の討伐数が大幅に増えたとか。今は、このクロスボウを再現しようと研究をしているそうだ」
「アーベルト連合王国もです。他の国もすべてそうでしょうけど」
「それしか手がありませんからね。もしくは、ゾフ王の妻となって、技術供与をしてもらうとか?」
「俺には無理な方法だな」
「ゾフ王にはアリス宰相がいる。難しい」
「確かに……」
「その代わり、グラック男爵から種をいただくことはできる」
「……あんた、見かけによらず大胆だな」
「そうかな? アーベルト連合王国の王族と貴族は、これまでずっとそうやって生きてきたのだ」
「アーベルト連合王国って、当主が全員女性だからね。そのせいで他国に嫌われて、長年鎖国していただけのことはある」
「その鎖国のせいで、アーベルト連合王国の技術力は低い傾向にある。同じく、他国から長年認知されていなかったのに、隔絶した技術力を得たゾフ王国が羨ましい」
「ゾフ王国は謎が多いからねぇ」
俺たちは、出身国である外国からゾフ王国にある学園に入学した。
ゾフ王国には、実用性が高い空中運搬船キャリアーや、燃費と性能が桁違いな魔晶機人改、世界に先駆けて量産配備された魔晶機人用遠距離兵器クロスボウなど。
いくつも優れた技術があり、我々学生たちは学園に通いつつ、それらの情報を集める目的も課せられていた。
それは、他国出身で貴族や王族である生徒なら全員がそうであろう。
ただ我々学生は、魔晶機人改に乗せてもらったり、クロスボウを使わせてもらっているが、技術者ではないから構造などはまったくわからなかった。
高性能で使い勝手がいいのはわかるのだが。
そういう分析は整備科の領分だと思うのだが、同じ帝国出身の整備科の生徒たちによると、魔晶機人改には自分たちでも整備できない箇所が複数あるものの、大半の仕組みは魔晶機人と差がないらしい。
唯一わかった大きな差は、各パーツの工作精度と素材の品質らしいが、それが原因でそこまで性能に差が出るとは思えないそうだ。
「(しかしながら、実際に大きな性能の差が出ている以上、帝国が魔晶機人改を作れるようになるには、相当な時間がかかるはずだ)」
なぜなら、両国の間には大きな技術力の差があるからだ。
もし技術を盗めたとて、それを解決するには時間がかかる。
その技術を自国で再現できなければ意味がないからだ。
「(幸いにして、帝国は大国だ。今のうちに。地道に技術力を上げるしかない)」
義務なので報告書はあげるが、それを帝国政府のお偉いさんたちが受け入れるかどうかはまた別の話だけど。
「(もし帝国がゾフ王国に潰されても、俺は操者として売り込めばいい)」
俺は別に、帝国の要職にあるわけでもないからな。
適切なタイミングで、仕える国を変えればいいだけのことだ。