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第八十二話 向き不向き

「とにかく、絶対に自分では戦わず、部隊の指揮だけをするように」


「だがな、エルオールよ。もし妾が指揮をしくじって、魔獣たちがクロスボウ部隊を襲ったらどうするのだ。魔晶機人改に乗っているとはいえ、クロスボウのせいで両手が塞がっておるぞ」


「そうならないよう、しっかりと指揮をしてください。部隊がピンチの時には、部下たちに指示を出して解決するように。常にリリー様が前に出て魔獣と戦ってなんとかしようとすると、一向に指揮能力の訓練にならないのですから」


「しかしだな」


「言われたとおりにやらないと、指揮の科目は失格と見なしますよ。ここは、サクラメント王国の学校ではないのですから」


「わかった……」




 放課後、補習でリリーにクロスボウ部隊の指揮を指導しているのだけど、この人は自分が強いものだから、できる限り自分が動いてなんとかしようとする癖があった。

 なので私は、とにかく『動くな!』と命じ、補習に付き合ってくれた同級生たちに指示だけ出すことを強要した。

 こうでもしないと、リリーは自分が指揮官なのにすぐに前に出て戦おうとするからだ。 


「っ! 魔物の接近を許してしまったか!」


「動くな! 指示を出せ!」


「しかしだな……」


「指揮官とは、常に部隊全体を見渡す必要があるんだ! 指揮官が一番に前に出て戦いに集中した結果、後方の兵士たちのことを忘れ、危機に陥ったのに対応できずに死んだらどうするんだ?」


「それは……」


 これまでは、ワルム卿のような強者ばかりを率いていたから、指揮なんて執る必要がなかったんだろうな。

 だが集団戦で、そう都合よく精鋭ばかりを指揮できるわけがない。

 いくら未熟者でも数は力で、減らしてしまえば魔物を沢山倒せない。


「大半の操者や兵士たちは、リリー様よりも弱いのです。指揮官ならば、彼らに気を配る必要があります」


「わかっておる……」


「もしや、そんな弱い操者や兵士たちがなんの役に立つのかって考えていませんか?」


「それは……」


「これまで、強いはずの操者たちが魔物を駆逐できなかった理由。それをお教えいたしましょう」


 リリーの代わりにクロスボウ部隊の指揮を受け継ぎ、私が魔物たちの駆逐を開始する。


「いくら強い操者でも、一人で戦えば倒せる魔物の数などたかがしれているが、集団で戦えばより多くの魔物を倒せる!」 


 ぶっちゃけ、部隊の指揮は久しぶりなのだけど、士官学校での教えや、軍人として任官した直後に兵たちを指揮していた経験が役に立った。

 横二列に展開させたクロスボウ部隊で魔獣を半円形に半包囲し、次々と矢を放たせる。

 みんな、クロスボウの扱いに慣れてきて、矢の装填が早くなったから、二段撃ちで問題なさそうだ。

 次々と魔獣たちが倒れていく。


「凄い……」


「指揮官自らが、積極的に戦う必要なんてないんだ」


「あっ!」


 と言っていたら、イレギュラーが発生した。

 矢を受けつつも、倒れなかった魔獣がクロスボウ部隊に突進してきたのだ。


「前列、下がれ! 後列! 二十二番、二十三番! 対応せよ!」


 次に魔獣の群れに矢を放つ予定だった後列の二人に、イレギュラーを仕留めるように冷静に指示を出すと、彼らは無事に仕留めることに成功した。


「エルオール、お主が仕留めぬのか? その方が早かろうに」


「私は指揮官なので、後列の二人で対応できるのであれば部下たちに任せますよ。二人が駄目だったら、そこでようやく私がクロスボウを使うかなってところです。さて、リリー様は補習を続けてください」


 お手本を見せたので、部隊の指揮をリリーに任せた。


「うう……わかった」


「(苦手意識があるんだろうけど、ある程度は覚えてもらわないと)」


 その後も補習を続け、リリーはなんとか指揮で及第点を貰うことができた。

 だが、彼女は優れた操者ではあるが、大軍の指揮には向いていないことが判明したので、私が上官だったら、少数精鋭の切り札として使うと思う。


「(逆にアリスは、大軍の指揮に向いているタイプなんだけど)」


 人の得意、不得意には個性があるなと感じつつ、私は講師としてリリーの補習を終えたのであった。

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― 新着の感想 ―
主力兵器が一騎当千という世界観においては、こうなるのも仕方ないですね。 それに現代でさえ、自分がやったほうが早いって考えて、仕事を抱え込んで自滅する人がいると聞きます。 リリーは、そういうタイプって事…
部隊がピンチになったときに自分が颯爽と助けて主人公に良いところを見せようみたいな気持ちが無意識にあるから指揮に身が入ってない可能性もある。
国を挙げて、個々人がテキトーに攻めてテキトーに敗れてるお国ですからねぇ。全て個々人の采配でおわちゃう。
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