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第七十一話 壊滅

「こりゃあ、俺の出番はないな」


「いいことではないですか」


「暇なんだよ。指揮だけするのは性に合わないんだ」


「今回が初陣の連中も多いんですよ。経験と手柄を譲ってあげてください」


「わかってるから、こうして後方から見ているだけなんだ」




 陛下の作戦どおりになったな。

 ゾフ王国を狙う、サクラメント王国貴族有志の諸侯軍とやらは、魔晶機人の数と性能、操者の質と。

 すべてに劣り、我らゾフ王国軍魔装機人改部隊によって次々と戦闘不能にされ、その動きを停めていた。

 陛下考案の特殊拘束弾により操縦不能とされ、操者たちは地上部隊に機体ごと捕らわれていく。

 魔晶機神にしても同様で、上級貴族たち自身も次々と捕らえられているようだ。

 人はほとんど死なないが、敵諸侯軍連合はすでに壊滅状態であった。

 小数が北に逃げ出し始めているが、これも追撃をかけて確実に仕留める予定だ。


「ルシャーティー侯爵だったか……捕まえられるかな? 随分と臆病なようだが……」


 周囲を家臣たちが乗る魔晶機人に守らせ、すでに後退に入っている。 

 総大将にもかかわらず、次々と操縦席に特殊拘束弾を撃ち込まれ、操縦不能になって落下した他の貴族と家臣たちを見捨ててだ。

 自ら魔晶機神に乗ったにもかかわらず、ろくに戦いもせず、部隊の立て直しをしないで、自分だけが逃げようとしている。

 貴族としては失格、クズとしか言いようがないな。


「大半の敵は捕捉可能だと思います」


「そうか。ならいい」


 もしルシャーティー侯爵が俺たちから逃げ延びたとしても、陛下が最後の網を張っている。

 陛下から逃げることは、ルシャーティー侯爵の腕前では不可能であろう。


「無理に大将首を狙うなよ!」


 そればかりにかまけていると、他の連中を多数逃してしまう。

 操者としてのルシャーティー侯爵など脅威でもなんでもなく、彼自身の身柄よりも、その家臣団を壊滅させた方がダメージも大きいからだ。

 陛下からもそう言われているしな。


「ルシャーティー侯爵を逃しました」


「それはいい。次の作戦に移るぞ」


 今回の迎撃作戦。

 勝利は予想されていたものなので、なんら感慨もない。

 それよりも、陛下より下された、この状況を利用したゾフ王国の力を増す策の方が重要だ。

 これに失敗すれば、俺が陛下からお叱りを受けてしまう。

 そうなれば、今の地位もおじゃんだ。

 それだけは避けなければ……。


「落ち着いて、整然と敵を追いかけるんだ!」


 すでに戦闘不能にした敵機の処置は地上部隊に任せ、味方魔晶機人改部隊は残敵の追撃を開始するのであった。





「見つけた」


「本当に逃げてきたのね……しかも少数でコソコソと」


「リンダ義姉さん、たとえここでみっともなく逃げても、後日汚名を返上できれば……という考えでしょうか?」


「いやあ、ルシャーティー侯爵に限ってそれはないと思うわ。ただ戦況が悪いから逃げてきただけ。大体すでに過半の戦力を失ったのに、どうやって汚名返上するの? 無理に決まっているわ」


「それもそうですか……兄様」


「もう少し引きつけよう」


 ここは、グラック領の少し南にある臨時の結界内。

 私はここに水晶柱を運び込んで結界を張り、自分のレップウ改と、リンダとマルコの魔装機人改を置いて、逃げてくるかもしれないルシャーティー侯爵たちを待ち構えていた。

 逃げてこない可能性……イシュバントたちが捕らえる可能性もあると思っていたが、どうやらすべての味方を見捨てて、一目散に数少ない家臣たちと逃げてきたようだ。

 卑怯な奴だが、後日のために逃げてきた……領民や他のサクラメント王国貴族たちにはそう説明するつもりなのかな。


「合計で八機か……」


 ルシャーティー侯爵が乗っていると思われる魔晶機神一機に、あとは魔晶機人であった。


「リンダ、もしかしてルシャーティー侯爵が凄腕の操者という可能性は?」


「ないわ。魔力が高いだけよ。もし凄腕なら、ちゃんと噂になるもの。ルシャーティー侯爵は別の意味で噂になっているけどね……」


 つまり操者としては下手糞で、貴族としても無能というわけか……。

 逃げ足だけは才能があったのかもしれない。


「とにかく、なるべく捕らえる方向で。ヒルデに作らせた特殊拘束弾はちゃんと効果を発揮したみたいだし」


 ルシャーティー侯爵たちしか逃げてこないということは、他はすべて落とされるか捕らえられてしまったのであろう。

特殊拘束弾が役に立ったというわけだ。


「これね。使えるのならいいわ」


「兄様、頑張ります」


「マルコは初陣だから、そんなに気張るなよ。かえって力が出ないから」


 まだ早いかなと思ったのだが、イシュバント曰く『才能があり、もう実戦に出して経験を積ませる段階』とのことで、今回の奇襲部隊に加えていた。

 なにより、ルシャーティー侯爵たちが全滅して、ここに逃げてこない可能性もあったからだ。

 このあとに別の作戦があるから、マルコに経験を積ませるつもりではあったのだけど。


「いくぞ!」


「任せて」


「行きます!」


 私たちは、結界が張られた森の中から一斉に飛び出した。

 もしかしたら結界に気がつかれるかと思ったのだが、アマギで再合成したとても小さな水晶柱で結界の範囲が狭かったのと、ルシャーティー侯爵たちが逃げるのに夢中で私たちに気がつかなかったのと、こいつらの腕が悪いというのもあるのか。


「えいっ!」


「当たれ!」


 私の目の前で、あっという間に二機の魔装機人が地面に落ちていった。

 リンダとマルコが発射した特殊拘束弾により、操縦席が発泡材で埋まり、操縦できなくなって地面に落下しまったのだ。


「もう一発!」


「リンダ義姉さん、負けませんよ」


 さらにもう一機ずつ、また二機の魔晶機人が地上に落ちていった。


『なにをしているのだ! 麿を守れ!』


 次々と落とされる家臣たちを見てルシャーティー侯爵が怒っているが、彼が乗っている魔晶機神が勿体ないように感じてしまった。

 一番戦闘力があるのだから自分が奮戦すれば……それは無理か……。

 ルシャーティー侯爵を無視して、私も特殊拘束弾を次々と放っており、すでに彼は一人だけになっていた。


「いざ、尋常に勝負!」


『噂に聞くゾフ王か! こんなところに! そうだ! ここはグラック領の近く! 大異動で活躍したグラック卿がいるはず! おーーーい、グラック卿! 麿を助けるのだ!』


 と、魔法通信で叫ぶルシャーティー侯爵。

 魔晶機神に乗る上級貴族が、魔晶機人に乗る下級貴族に助けを求める。

 こんなに恥ずかしいことはなかった。

 それに、ルシャーティー侯爵たちに食料や水を売ってくれた優しいグラック卿は、今目の前でお前を捕らえようとしているんだけどな。


「諦めはついたか?」


『ここでゾフ王を討てば、麿の功績は類を見ないものとなる。麿はついている。覚悟するんだな!


 他に手はないのだが、ルシャーティー侯爵は私に襲いかかってきた。

 しかし、魔晶機神乗りとは思えない下手さだな。

 それでも指揮能力があればいいんだが、彼の場合それもないので悲しいことだ。


「勝てると思っているのかね? ルシャーティー侯爵は……」


 油断しているつもりはない。

 だが、こちらに突撃してくるルシャーティー侯爵の操縦を見ると、本当にただ魔力が多いから魔晶機神が動いているだけにしか見えなかった。

 同じ操者が見れば、動きがぎこちないのがあきらかなのだ。


『ゾフ王国の魔晶機神! 恐るるに足りず! 死ね!』


「お前がな!」


 と言いながら、私はルシャーティー侯爵機の攻撃を余裕でかわしつつ、高周波ブレードで剣を持った右腕を切り落とした。

 思わず、『死ね!』という発言に言い返してしまった、当然その気はない。

 ルシャーティ侯爵が非常に優れた操者なら別だが、捕らえて身の代金を貰った方が、ゾフ王国の懐も温かくなる。

 戦争をするにはお金がかかるのだから。


『やるではないか! だが次は!』


「次もクソもなぁ……」


 ルシャーティー侯爵機は残った左腕で殴りかかってきたが、素人が武器を使わない格闘戦などしても、そう当たるものではない。

 しかも私は、リーチが長い武器を持っているのだ。

 そんなこともわからず、私に攻撃してくるとは……。

 本当に彼は素人のようだな。

 督戦だけしていればよかったのに……。


「もう終わりか? 逃げないのか? あんたの国の王様に言いつけに行くか? 『下手な僕ちゃん、やられちゃったの。仇を取って』ってな」


『バカにしおってぇーーー! 麿を誰だと思っているのだ! 王国創設時より、その藩屏として王国に貢献してきたルシャーティー侯爵に向かって!』


「だから、それは先祖がだろう? 祖先が墓の下であんたの不出来を見て泣いてるぞ。じゃあな」


 私は、両腕を斬り落とされたルシャーティー侯爵機の操縦席前のハッチ部分に、特殊拘束弾を投げつけた。


『なんだ! これは? 動けないぞ! 誰か麿を助けるのじゃ!』


 操縦席中に空気で膨らんでから固まる発泡スチロールが広がり、操縦できなくなったルシャーティー侯爵機が地面へと落下していく。

 ふと周囲を確認すると、もう飛行している敵機は一つもなかった。


「リンダ、損害は?」


『ないわ。ねえ、マルコ』


『はい、無事任務を達成しました。兄様』


「それはよかった。じゃあ、連中を回収しようかな」


 と思ったら、すでにグラック家の警隊の面々が、地面に墜落した敵機から操縦者を回収していた。

 不思議なもので、これだけの高度から機体を落下させても、操者は死んでいなかった。

 完全に機体のコントロールを失い、高高度から地面に叩きつけられたら死んでしまうけど、特殊拘束弾ならどうにか死なない程度に落下することはできるのか。

 ただそうなると、操縦席内が発泡剤で埋め尽くされ、視界がゼロになり、体が動かなくなっても動揺せずに戦える超凄腕には通用しないかもしれない。

 とはいえ、そんな操者相手でもかなりの戦闘力を奪えるから、やっぱり特殊拘束弾は使えることがわかった。


『エルオール、全員捕らえたって』


「じゃあ、次の作戦だ」


『兄様、ゾフ王国の魔晶機人改部隊が接近してきます』


「ようし、これで仕上げだ」


 私を先頭に、ゾフ王国の魔晶機人改部隊がグラック領上空を覆い、これにてサクラメント王国貴族有志によるゾフ王国征服は失敗に終わったことが世間に知らされることとなったのであった。

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― 新着の感想 ―
大量の身代金と大量の機人・機神を献上してくれてグラック領を(表向き)ゾフ王国が占領するという口実まで用意してくれた。 実にゾフ王国にとっての有能な金の卵でしたね?w メンツ丸潰れな上に、身代金と領地割…
無能な敵はなるべく生かして身代金取って返却。 有能な敵は、下らせるか殺す。 うむ、理想的な戦後対応。
謝罪と友好のためという建前で姫様嫁いでくるのかね
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