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第六話 搭乗の儀

「いよいよ搭乗の儀か、本当に楽しみだ。エルオールは必ず魔晶機人を動かせるはず。なにしろ魔力が多いからな」


「そうですよね、あなた。『魔水晶』での測定で、1000を超えていましたから」


 搭乗の儀が行われる日となった。

 屋敷に隣接している倉庫の封印が解かれ、私とラウンデル、両親と、マルコのみが噂の魔晶機人の前に立っていた。

 グラック家の歴史は五百年を超えるらしい。

 この地に設置された結界を維持する代官からスタートし、二百年ほど前にその功績が認められ、サクラメント王国からグラック村を下賜されたそうだ。

 代官から領主になったわけだな。

 そして魔晶機人を手に入れたのだが、父を含めてここ三代は動かせなかったそうだ。

 郷士は結界さえ維持できれば問題ないのだが、郷士も半貴族扱いとはいえ貴族。

 動かせた方が鼻高々なわけで、両親は魔力が多い私に期待していた。

 なお、どうして両親に私の魔力量がわかるのかというと、魔水晶という魔法道具で確認したからだそうだ。

 三年ほど前のことらしい。

 魔水晶は非常に高価な魔法道具のため、数年に一度、王都からこれを持った地方巡検隊が持参する。

 彼らは各領地を視察し、その地方の貴族やその家族全員の魔力を魔水晶で測定するわけだ。

 なぜそんなことをするのかというと、結界が維持できない者を当主にさせないためである。

 結界が維持できない領主だと、領内に魔物が容易に侵入できてしまう。

 そうなれば領民たちに犠牲が出るので、結界を維持できない貴族が出たら、容赦なく次期当主の変更命令か、最悪改易されるそうだ。

 改易までされる家は滅多にないそうだけど。

 一族に結界を維持できる人がいれば、その人を次期当主にすればいいのだから。


 話を戻すが、魔水晶に手をかざすと、魔力は数値化されて表示される。

 魔力がゼロの人はあり得ないそうだが、魔力が10以下ではなにもできないのでないのと同じ。

 300以下だと結界か維持できず、10以上300以下はレベル1と2というわけだ。

 魔晶機人は、魔力が700~1999までないと動かせない。

 必要魔力値の範囲が広いのは、魔晶機人の大きさや、性能、装備、特性などで動かすのに必要な魔力量に大きな違いがあるかららしい。

 高性能な機体だと、動かすのに必要な魔力量が1999なんてものもあるそうだ。

 そして、魔晶機神は魔力量が2000以上なければ動かせない。

 その性能は、魔晶機人を圧倒する。

 魔晶機神を動かせるからこそ、彼らは国を担っているとも言えた。


 話を戻すが、父の魔力量は600だそうだ。

 惜しいが、魔晶機人を動かせない。

 母は郷士家の娘ということもあり、魔力量は500。

 夫婦でグラック村を維持していくのに不足はないであろう。

 私は、三年前の測定で1200だったそうだ。

 そりゃあ、落馬なんてされた日には心配で堪らなかったわけだ。

 そして、現在七歳であるマルコの魔力量は350。

 魔力量は二十前まで増えるそうなので、マルコはもしかしたら魔晶機人を動かせるかもしれないらしい。

 父が七歳の時、魔力量は200しかなかったそうなので、マルコは郷士家の子としては優秀な方なのだ。


「兄様、頑張ってください」


 と言いながら、純真な目で私を見つめるマルコ。

 彼は、魔晶機人を動かせるであろう私を心から尊敬しているようだ。

 いやあ、可愛らしい弟ってのもいいものだな。


「エルオール、操縦席に座ればいいのだ」


「わかりました」


 よく見ると、屋敷よりも頑丈に作られている倉庫に真ん中に鎮座する、我がグラック家伝来の魔晶機人は、全高五メートルほど。

 甲冑を着た騎士のような外見をしていた。

 馬はないけどね。

 武器は機体の大きさに合わせたように作られた大剣と、予備の武装であろう大斧が専用のラックに置かれていた。

 飛び道具とか、火器とか、そういう洒落た武器はないみたいだ。

 それでも、いまだ農民が馬で畑を耕している世界において、人間の身長の三倍近い鋼鉄の巨人が大剣を振るうのだ。

 魔物はわからないが、これに普通の人間が勝てるわけがない。

 ましてや、魔晶機神はその倍以上の大きさだ。

 これに勝てる兵器などというものは、この世界に存在しないのであろう。

 魔晶機人と魔晶機神は、この世界で王族や貴族が国を統治するのを助ける、戦術・戦略兵器扱いというわけだ。


「(簡素な造りだな……)」


 初めから空いていたハッチから操縦席に入ると、内部は球体でツルツルしており、中心部にクッションを備えた椅子が置かれていた。

 左右のひじ掛けの先端に、スティック状の操縦棹が二本配置されていて、あとはなにもなかった。

 複雑な動きをする人型兵器をこれだけで動かせるのであろうか?

 コンピューター制御なのか?

 古代の超文明の遺産なので、その可能性もなくはないのか。


「父上?」


『声が聞こえるか?』


 ハッチは閉じていたので父の声は聞こえないはず……と思ったら、通信機特有の篭った声が操縦席の中からも聞こえた。

 外部の声をちゃんと拾っているのだ。

 席に座ったから、通信機が使えるようになったのか?


「はい、聞こえます」


『こちらも目が光って稼働したのを確認した。エルオール、『起動』と頭の中で念じるのだ』


「わかりました。(起動)凄い!」


 父に言われたとおりにすると、今度は操縦席円形の壁に外の映像が映し出された。

 まるで、コンバットスーツの『360度全周囲スクリーン』みたいだ。

 仕組みは……魔法技術というやつなのかな?

 これだけ視界がよければ、機動と戦闘で不利益になることはないはず。


『我々が見えるか?』


「はい、見えます」


『わかった。もう降りていいぞ。『ハッチを開けろ』と念じればいい』


「わかりました。ですが、試しに動かさなくていいのですか?」


『その辺の説明もするので、まずは降りてきてくれ』


「わかりました」


 私が頭の中で『ハッチを開けろ』と念じると、本当に閉じていたハッチが開いた。

 どういう仕組みなのであろうか?

 少なくとも科学技術由来の仕組みではないはずだ。

 そして、ハッチが開いた先では父たちがとても嬉しそうな表情を浮かべていた。


「エルオール! 魔晶機人の起動成功おめでとう!」


「エルオール! あなたはグラック家の誉れよ!」


「兄様、凄いです!」


「お坊ちゃま! 私は感動しました!」


 実際に動かしていないので実感はないが、魔晶機人の稼働に成功したようだ。

 私は家族とラウンデルから祝福を受け、そのまま昼食を兼ねたお祝いの宴が始まるのであった。





「あの……父上?」


「ああ、実際に魔導機人を動かさなかった件か。まあ、これには切実な事情があってな。火が入ったのを確認したので、エルオールは魔導機人を動かせるとも」


 私が魔導機人を動かせたお祝いではあったが、内輪の宴のため参加者は家族以外ではラウンデルのみであった。

 彼は、他の領民たちともちょっと扱いが違うようだ。

 いつもより少しご馳走な昼食を食べながら、父は魔導機人を動かさなかった理由を説明する。


「魔導機人を動かすのに必要な魔力量だがな。あれは、あくまでも起動させるのに必要な魔力量という扱いなのだ」


「お坊ちゃま、魔導機人の稼働にはマジッククリスタルが必要なのです」


 魔物の体内から出るやつか。

 だから高く売れるんだな。


「あれは、高純度の魔力の結晶なので。自前の魔力だけで動かした場合、お坊ちゃまの魔力量が三年前の量だとすると、三十分動かすのが限界だと思います」


「燃費が悪いんだね」


 あれだけの巨人。

 重機代わりに領内開発に使ってもいいはずなのに、それをしないのは燃費の問題だったとは。


「ちなみに、魔物の体内から出るマジッククリスタルですが、これです」


 狩猟の名人だというラウンデルがマジッククリスタルを見せてくれたが、青く透明な水晶の欠片といった感じだ。

 一個は数ミリ程度の大きさしかない。


「グラック村近辺の魔物を倒しても、一体につきこれしか手に入らないのです。もっと大きくて強い魔物を倒せば、大きなマジッククリスタルが手に入りますけど、よほど魔力がある人間でなければ手に余ります」


 優秀な魔法使いでなければ、大きなマジッククリスタルを内包している魔物は倒せない。

 そして、その優秀な魔法使いとは、魔力量が多い操者であることが確実なわけで。

 魔晶機人でもこの燃費の悪さだとすると、魔晶機神ではもっと運用コストが高いはずだ。


「この欠片一つで、我が家の魔晶機人はどのくらい動くの?」


「これ一つなら数分でしょうね」


「ラウンデルは、頑張って一日に何体の魔物が倒せるのかな?」


「今まで一番倒したのが十五体です」


 ラウンデルが一日頑張って集めたマジッククリスタルで、我が家の魔導機人は一時間動くかどうかなのか。


「マジッククリスタルは魔法道具を動かすための需要もあるので、すべてを魔晶機人の稼働に回すことはできません。グラック村は田舎なので魔法道具は少なく、近隣の都市部に売却する方が多いですね。貴重な外貨獲得手段なので」


 魔晶機人でも、この世界では大きな戦闘力を持っている。

 だが、動かすのにコストがかかる。

 それと今、もう一つ問題があるのに気がついてしまった。


「父上。魔晶機人ですが、動かすと関節などの部品が損耗するのでは?」


「するな。マジッククリスタルほど厳しくはないし、先祖が壊れた魔晶機人などから予備のパーツを手に入れているので、すぐに部品不足で動かなくなることはないはずだ」


「操縦席から会話をする装置とか、外の様子を映し出す装置もですか。あれの部品も確保しているのですか?」


「交換できる部品とできない部品があるそうだ。整備の本が、グラッグ家にも残っている。それと、消耗の激しい部品もあるが、大半の部品には『状態保存』の魔法がかかっているから、魔物と戦って壊れたとか、転んで装甲に傷が入ったとか、そういうことがなければ、かなりの年月保つと聞く」


 『状態保存』の魔法か。

 動かすと摩耗する部品以外は、外部からダメージを受けて壊れない限り、メンテナンスフリーの部品が大半というわけだな。

 そうでなければ、この世界の技術力でオーパーツは保てないか。


「幸いと言うべきか、我がグラッグ家は、私も含めて三代が魔晶機人を動かせなかった。パーツの在庫は多めで、他から手に入らないわけでもない。高額だがね。動かせるのに訓練もしないで無様な姿を世間に見せるわけにいかないから、明日から好きに使っていいぞ。ただ……」


「ただなんですか?」


「一日に使えるマジッククリスタルの量が決まっているので、一日一時間訓練できるかどうかだな。あとは、この三年でエルオールがどれだけ魔力を増やしたかだ。これで数分は稼働時間に差が出るはずだ」


「頑張って乗りこなします」


「頼むぞ」


 父の許可を得て、明日から魔晶機人による訓練を始めることになった。

 問題は、マジッククリスタルという高価な燃料代だな。

 早く魔晶機人を使いこなし、自分で強い魔物を狩ってマジッククリスタルを確保しないと。

 燃料不足で動かせないなんて、そんな勿体ない話はないと思うのだから。

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[一言] 主人公の根が真面目なせいで自分の願ってる未来から外れていってるな
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