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第五話 郷士グラック家

「グラック家が治めるグラック村は、人口五百人ほどの農村です。主な産業は、農業と狩猟ですね」


 私の目の前には、広大な畑が広がっていた。

 これまでの私が慣れ親しんでいた機械などまったくない、中世ヨーロッパ風な農村が広がる田舎の村。

 それが私というか、エルオールという子供が跡を継ぐグラック村であった。


「狩猟も主産業なのか」


「ええ、魔物の体内から採れる『マジッククリスタル』が高く売れますので。毛皮や肉も採れますから」


「魔物かぁ……」


「旦那様がこの村の猟師たちを引き連れ、領地に張られた『結界』の外で定期的に狩猟を行っております。お坊ちゃま、結界の内側だと示された木杭の外に出ないようお気をつけください」


 父が私につけてくれた従士ラウンデルによると、ここは魔法も存在するファンタジー風な世界で、魔物が跳梁跋扈しているそうだ。

 人間が安全に暮らすには、張られた結界の内側で暮らすしかない。

 グラック家の領地、グラック村全体には結界が張られ、その内側ならば魔物は入ってこれないらしい。

 もっとも、とても強い魔物ならば王都に張られた結界でも破って入ってくることもあるそうだが。


「結界の維持も、その地を治める領主の仕事なのです。旦那様が定期的に魔力を補充しています」


 人々が安心して暮らせるよう、魔物が入ってこないようにするためには結界が必要で、その維持には魔力が必要となる。

 この地で領主になるには、魔力が必要なわけか。


「ラウンデルも魔力はあるの?」


「私は大昔に改易された貴族の子孫だそうで、多少は魔力があります。ですが、結界の維持も、ましてや魔晶機人を動かすのも難しいです。少々魔法が使えるくらいでしょうか」


 魔力がある人は、それも沢山ある人は王族や貴族に多いのか。

 魔力があれば魔法が使え、一定量以上あれば結界を維持できる。

 そして、もっとあれば魔晶機人?


「ラウンデル、魔晶機人ってなんだ?」


「魔晶機人とは、魔力とマジッククリスタルで動く巨人です」


 なんと。

 この世界にも、人型のロボット? が存在するのか。


「詳しく教えてくれ!」


「お坊ちゃまも男の子ですね。魔晶機人とはですね……」


 魔晶機人とは、古に滅んだとされる超文明国家が残した遺産であった。

 魔物の体内や、この世界に数ヵ所しかない鉱山から産出される高濃度魔力の結晶マジッククリスタルを燃料に動く巨大な人形で、これを動かせる人は『操者』と呼ばれ、世間から大きな尊敬を受けるそうだ。


「一定量以上の魔力がないと動かないので、ほぼすべての操者は王族か貴族ですね。ましてや、魔晶機神ともなると、滅多に動かせる者はいません」


「魔晶機神とは、魔晶機人の上位機種と見ていいのか?」


「お坊ちゃまはご理解が早くて助かります。大凡の区別方法ですが、全高十メートル以下が魔晶機人で、十メートル以上が魔晶機神だそうです。ちょうどそこを境に、戦闘力に大きな差があるそうでして」


 戦闘力ねぇ……。

 やはりそれだけの巨人。

 国家が戦争の兵器と見なさないわけがないのか。


「グラック家には代々魔晶機人が一機伝わっていますが、旦那様も先代様も、先々代様も動かせませんでした。旦那様は自分よりも魔力が多いお坊ちゃまに期待しておられるのです」


 だから、落馬した私……エルオールが目を覚ましたらあれだけ大喜びしていたのか。


「で、その我が家伝来の魔晶機人を動かせるかどうか試すのが、私の十歳の誕生日だと」


「はい。家に魔晶機人が伝わっているところは、子供が十歳になると、魔晶機人が動かせるかどうか搭乗の儀を行って確認するのです」


 でも、全員が動かせるわけではないようだ。

 貴族は、特に最下級の郷士は、結界を維持できればそれで事足りる。

 それでも、魔晶機人が動かせれば誉という扱いなのかな。


「旦那様は、お坊ちゃまに期待しておられます」


「実際に動かしてみないとなんとも言えないけどね」


 その後もラウンデルから情報を収集し、夕方になったら屋敷に戻って夕食をとった。

 あっそうそう。

 魔晶機人だけど、それらしきものを格納している倉庫は屋敷の隣にあった。

 入り口に槍を持った警備兵が立ってて、搭乗の儀までは私でも入れられないと言われてしまったので見ることはできなかったけど。

 先祖伝来の大切な品なので、厳重に保管されているようだ。


「搭乗の儀が楽しみだな」


 夕食は、意外にも豪華だった。

 なんの肉かはよくわからないけど、ステーキは大きく、味も悪くなかった。

 多分、魔物の肉なのであろう。

 この世界の父は、私よりも搭乗の儀を楽しみにしているようだ。


「実際に乗ってみないことにはわからないです」


「なあに、エルオールの魔力量なら大丈夫さ」


 父は、私にえらく期待をかけているようだ。

 現当主を含めて三代続けて魔晶機人を動かせないので、私に大きな期待を寄せているのだと思う。

 ラウンデルによると、郷士は結界を維持できる魔力があれば問題ないとされ、魔導機人を動かせる人は半分にも満たないという。


レベル1、魔力で身体能力を強化できる。

レベル2、魔法が使える。

レベル3、結界を維持できる(結界自体は、高度な技術を持つ魔法技術者にしか作れないそうだ)。

レベル4、魔晶機人を動かせる。

レベル5、魔晶機神を動かせる。


 少なくとも、レベル3以上のことができなければ、郷士にはなれないわけだ。

 魔力が多ければ多いほどレベルが高いことができ、レベルが高い人は大貴族と王族に集中している。

 逆に、王族や大貴族家の人間なのに、レベル3に届かない人は一族を追われることもあるらしい。

 嫡男が魔晶機人を動かせず、逆に弟が動かせたりすると、問答無用で廃嫡されるそうだ。

 もし私が魔晶機人を動かせず、逆にマルコが動かせたら、私は廃嫡されてしまうわけだな。

 共に動かせるのであれば、家督は長男優先らしいけど。

 西洋ファンタジー風な世界で、巨人を動かせるかどうかは、武人でもある貴族や王族にとって大きな問題というわけだな。


「エルオール。搭乗の儀まで体を大切にな」


 病み上がりのうえ、体が子供に戻ってしまったので、私は早めにベッドに入った。

 そして、これからのことを考える。


「(現実問題として、私はこの世界でグラック家の嫡男として生きていかなければならない。夢なら……それはそれで、ケンジ・タナカ上級大佐に戻るだけだ。問題ない)」


 それに、軍人稼業よりも今の生活の方がいいかもしれない。

 田舎領主として、スローライフを満喫する。

 可愛い嫁さんが来るといいな。

 軍人は仕事で家を空けることが多く、人並みに結婚願望がある私は少ない休日で婚活パーティーなどに参加してみたのだが、高給なのに軍人の人気のなさといったら尋常ではなかった。

 退役してそこそこの転職先を見つけた人は、貯金も多く、年金にも軍人恩給で色がつくため、とても人気だったけど。

 私が退役しようと思った大きな理由の一つである。


 おっと、話が逸れたな。


「(そして、魔晶機人かぁ……コンバットスーツみたいなものだよな)」


 奨学金の免除を得るために入った軍で、私が適性があると言われたコンバットスーツのパイロットになった理由。

 それはやはり私も普通の男子で、ロボットが好きだったからだ。

 実戦は大変だったが、実は訓練などは嫌いではなかった。

 もし魔晶機人とやらが動かせれば、これはいい趣味になるであろう。

 巨人だから、訓練がてら重機代わりに領地の開発を手伝うのもいいな。

 狩猟にも使えるかもしれない。

 領民たちから敬意を受け、上がった税収でちょっとリッチに暮らす。

 結婚もできる。

 うん、これはきっと転職みたいなものなのだ。


 殺伐とした特殊部隊の仕事から、田舎貴族の次期領主に転職する。

 悪くないな。


「(魔晶機人が動かせたら……別に動かせなくてもいいか。結界が維持できればいいのだから)」


 あまり文明の利器がない不便な世界だけど、人間は環境の生物だ。

 そのうち慣れるであろう。


「(もう報告書を書かなくてもいいし、体も子供に戻った。むしろ私は勝ち組かもしれないな)」


 かえってよかったくらいだな。

 なんて考えていたら、やはり体が子供なので眠たくなってきた。

 まずは搭乗の儀だなと思いながら、私はそのまま寝入ってしまうのであった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 1話見た限りではダメだったみたいですね…(憐れみ
[一言] 勝ち組…そう思っていたときが私にもありました 前世と違って貴族ってことは、義務もあるし稼いだから退役とか難しいだろうな
[良い点] と思うじゃん?
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