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第五十八話 魔晶機人改

「確かに、王城にはもう多くの人たちが。城下町も普通に生活を営んでいる者がいるな」


「兄様、アマギはゾフ湖にいませんね」


「発掘したキャリアーの改良をやっているから、発掘現場に移動したはずだ。フィオナからそう報告を受けている」


「兄様、キャリアーが実用に耐えるようになったのですね」


「人の移動に必要だったので、フィオナに改良を命じたんだ」


「さすがは兄様です」


「(ああ……。可愛いマルコの尊敬の眼差しが心地いい……)」




 私、リンダ、マルコは、魔晶機人でゾフ湖の上空に到着した。

 すでに改良したキャリアーを用い、多くの人たちが移住を終えて、今は王城と町の改修に取りかかっている。

 私の機体に同乗した父と母は、その様子を上空から見て、私の発言が嘘ではないと確信したようだ。

 ヒルデも同行し、彼女はマルコの機体に乗っていた。


『兄様、魔晶機人が出てきました』


 マルコから魔法通信が入った。

 私たちを見つけた、ゾフ王国軍の魔晶機人が向かってきたようだ。


『おおっ! 陛下でしたか! お早い戻りで』


「運良くね」


『どうぞ、最高執政官がお待ちです』


 ゾフ王国の操者の指示で機体を王城近くの格納庫に下ろし、機体から降りると、すでにアリス最高執政官が待ち構えていた。


「夫君、そう時は経っておらぬが寂しかったぞ」


 アリス最高執政官は、私に駆け寄り抱きつこうとした。

 ところが、それを邪魔する者がいた。


「そうはいかないわ」


「はい、させません」


 リンダとヒルデにより、アリス最高執政官の目論見は阻止されてしまった。

 正直に、私は惜しいと思ってしまった。

 だって私も健全な男子だから。


「そなたたちは……夫君の元婚約者か」


「元じゃないわよ! 今もそのままよ!」


「むしろ、あなたの方が押しかけじゃないですか!」


 アリス最高執政官のあんまりな言いように、リンダとヒルデがムキになって反論していた。


「まあまあ、エルオールはモテモテなのね」


 この世界だとそうかもしれないが、多分、前世だとそういう評価にはならないと思う。

 だってこれは、思いっきり政略結婚だから。


「こういう時に喧嘩をしては駄目よ。エルオールに引かれてしまうから。男の人って、女性のこういうところにウンザリするから」


「「「はい……」」」


 母の一言で、彼女たちはあっさりと争いをやめてしまった。

 母は偉大……なのか?


「とにかく今は、冷静にこれからのことを相談しなければならないから、喧嘩はやめなさい」


「確かにそうでした。お義父様」


「わかってもらえたらいいんだ。では、話し合いを始めるとしよう」


 私たちは、アリス最高執政官の案内で王城に移動するのであった。





「玉座の間の王の椅子かぁ……」


「そこは夫君が座る場所だ。もう少し落ち着いたら、戴冠の儀を執りおこないたいところだな」




 

 王城も王都も、まだ修復、移住途上といった感じで、多くの人たちが忙しそうに働いていた。

 王城地下の水晶柱で張れた結界の範囲内で、ゾフ湖周辺の開発と移住も始まっており、やはり時間が欲しいところだ。

 サクラメント王国にちょっかいを出されたくない。


「しばらくは、二重生活をするしかないな」


「やはりそうですか」


「現状、サクラメント王国は南方に興味を持っていない。西部開発に集中しているからだ。ゾフ王国の復活なんて想像の範囲外で、もしそうなってもグラック家が報告をすると思っている」


 だから、グラック領が広がっても王国はなにも言ってこないのか。

 もしゾフ王国が北進したら、簡単に潰されてしまうから。

 実質フィール子爵領が最前線扱いで、ゾフ王国の復活と北進があったら、そこで防衛線を張る。

 グラック領は、もし取り戻せたら功労者に与えてもいい。

 どうせ、ゾフ王国の北進でグラック家は降伏しているか、滅んでいるから。

 サクラメント王国のみならず、国からしたら零細郷士なんて使い捨てのコマ扱いだろうし。


「ゆえに、ゾフ王国の防衛態勢が整うまで、エルオールにはグラック卿も続けてもらわなければ」


 グラック領で、ゾフ王国の存在を隠すわけか。

 だから私は、グラック卿でもなければならないと。


「この策を用いる場合、最悪我々はゾフ王国領に逃げ込まなければならない。受け入れてもらえるのですか?」


 父は、アリス最高執政官に問いただした。


「当然です。あなたは、私のお義父様でもあるのですから」


「ならば、最悪グラック領の放棄も含めて、その方策を進めようと思う。特に、あの姫様には内緒だな」


 もし事実を知ったら、魔晶機神で殴り込みをかけてきそうだからな。


「私と妻は戻るが、エルオールたちは、こっちで協力した方がいいのでは? 姫様が戻ってきたら魔法通信で伝えるよ」


「わかりました」


 こうして私は、ゾフ王国の王様と、サクラメント王国の郷士グラック卿を密かに兼任することになった。

 地方貴族として、のんびりプチリッチに暮らす予定だったのに、どうしてこうなってしまうのか?


 とにかくこれからは、お飾りの王様としてのんびりプチリッチに暮らせるように頑張ろうと思う。

 予定が少し変更になるなんてよくあること。

 最終的に私の希望が叶えばいいので、今は気にせず頑張るしかない。

 

 これも、私のプチリッチでノンビリできる将来のためだ。





「魔晶機神はもういらないかもな。この新型魔晶機人で、大抵の任務が務まるじゃないか。これを我らに気前よく貸与してくれるとは、さすがは陛下」


「あちこちから拾ってきた、魔晶機人の残骸の再生も進んでいる。空飛ぶ天の船アマギといい、陛下は凄い! これならどうにか、サクラメント王国の侵攻があっても、ようやく帰還できた王都を守れそうだな」


「陛下が魔晶機神を改良したら、我々もあの陛下の機体のように活躍できるかな?」


「あの『レップウカイ』に乗った陛下は、無敵ではないのか?」


「ああ、正直勝てる気がしないな」


「俺たちの陛下が搭乗していてよかったぜ」


「ゾフ王国は安泰だな」




 父と母は、マルコの機体でグラック領に戻った。

 できる限り領内の開発をしつつ、姫様たちが戻ってくる気配があったら報告してもらうためだ。

 マルコはすぐこちらに戻ってきて、ゾフ王国開発の手伝いをする予定であった。


「『状態保存』の魔法と、魔物が建物に興味なかったおかげでさほど壊れていないのが幸いしたな」


「爪の砥ぎ跡はあるけど」


 アマギの艦内工場から次々と吐き出されている魔晶機人改に搭乗し、私とリンダは建物の修復を手伝っていた。

 他の操者たちも、王都に戻れた喜びで一生懸命に働いている。

 彼らからすれば、王都は両親や祖父母から聞いた憧れの故郷であり、これの復興を頑張るのは当然というわけだ。


「キャリアーが来たわね」


「もう大分、避難地から移住してきたはずだ」


 王都を捨てた彼らが生活の場にしていた避難地は、ここよりもさらに南方に大小数十箇所あるそうだ。

 サクラメント王国のように各貴族が水晶柱を設置し、これに魔力を込めて結界を張るということはせず、避難地に水晶柱でデカグラムなどを作り、そこに貴族たちが全員で魔力を流して結界を維持していた。

 王都を失ったゾフ王国は、国としても力を落としてしまい、領地を失う貴族が続出したからだ。

 その結果、領地を持つ貴族の割合がかなり低くなっており、貴族が避難地の管理者に命じられ、これを守るケースが多かったと聞く。


 多くの貴族が、家禄と職禄を貰って生活している法衣貴族だとアリスが教えてくれた。

 そんな中で、操者に選ばれることは非常に名誉なのだそうだ。

 そして腕がよければ、たとえ下級貴族、郷士でも尊敬される。

 平民でも、魔力が高くて魔晶機人が動かせれば、操者に選ばれて爵位を与えられるらしい。

 サクラメント王国や他の国なら、考えられない話だ。

 もっとも魔力が多い平民の大半は、元々先祖が貴族だったが平民に没落していただけ、というケースが大半だったけど。

 それでもごく稀に、代々平民にもかかわらず、突発的に魔力が高い子供が生まれることもあるらしいけど。


 とにかく、ゾフ王国では実力本位というわけだ。

 だから私がゾフ王国の操者たちに腕前を見せたら、王としてすぐに認められたという事情もある。

 アリス最高執政官を婚約者にしたから、というのもあるけど。

 

 ああ見えて彼女、実は操者としてもかなりの腕前だった。

 姫様には少し劣るかな、くらいだ。

 魔晶機神にも乗れる魔力があるが、それでも王城地下の水晶柱に魔力を注げなかった。

 それにしても、魔力量が三十万ないと魔力を注げない水晶柱って……。

 アリス最高執政官によると、ゾフ王国の初代王は、魔力が四十万を超えていたそうだ。

 どんな化け物だよって思うが、実は私もすでに魔力が四十万を超えている。

 どうやら、ケンジ・タナカの魂と、エルオールの肉体。

 双方の魔力が上がると、乗算方式で魔力が増えるようだ。

 共に、魔力量が二千を超えたのであろう。

 普段の鍛錬や、姫様たちとの模擬戦が役に立った?

 エルオールの体は十三歳なので、成長期というのもあるのか。


「そういえば、エルオール」


「はい?」


「よくも私を謀ったわね! 魔力量を少なく見せるなんて反則よ!」


 リンダに、これまで魔力量を誤魔化していたことで叱られてしまった。

 だが、サクラメント王国で魔力量が多い下級貴族なんて、不幸な結末へのフラグでしかない。


「都合よく扱き使われて、嫉妬で上級貴族に殺されるかもしれないのに、魔力を隠さないなんて選択肢はない」


「ううっ……そこは否定できないわ……」


 魔力量が多くても、相性の問題で魔晶機神に乗れない人もいる。

 そんな連中を差し置いて、私が魔晶機神に乗れてしまったら、最悪暗殺されるかもしれない。

 上級貴族に恨まれても、なにもいいことはないのだから。


「私も、アマギにある魔晶機神に乗りたいわね」


 残念。

 それらは一応魔晶機神ということになっているけど、実はコンバットスーツなんだよなぁ……。

 魔力はなくても乗れるけど、前世の私のように厳しい訓練をしなければ、とにかく操縦が難しいのだ。

 慣れれば、私のように念波でも動かせるけど、それにはコンバットスーツの操縦を完璧に覚えなければいけなかった。

 優れた科学技術の産物だから、適当に念じれば動くという代物ではないのだ。

 

「操縦が難しいのね」


「ああ、アマギにシミュレーションマシンがあるから試してみればいい」


 高性能だからこそ、コンバットスーツは操縦が難しい。

 どうして、前世の私がパイロットに選ばれたのか?

 本当に不思議なくらい、競争率が激しかったのだから。

 多分、念波のせいなんだろうけど。


「今のところは、魔晶機人改でいいかも。これもかなり高性能よね」


 魔導炉を始め、多くの部品をアマギの艦内工場で作り直したからだ。

 冶金、成形技術などが圧倒的に優れているので、そこを改めるだけで魔晶機人の性能は大幅に上がった。

 魔晶機人改に乗った操者たちは、みんな大幅に性能が上がった愛機に大喜びであった。

 多分、二~三機で戦えば魔晶機神に対抗できるはず。

 なにより喜ばれたのは、燃費の大幅な上昇だ。

 マジッククリスタルの消費量が大幅に減ったので、他の魔法具に回せるのが大きい。


「こっちは順調だけど、あとは姫様がいつ戻ってくるかよね。ライムとユズハも厄介だし……」

 

 姫様は生まれがいいせいか、あまり人を疑うような真似はしなかったが、あの二人に怪しいと思われると、探られるかもしれない。

 彼女たちは姫様から離れないから、長時間独自にこちらを探れはしないだろうけど、王国に報告されると面倒だ。


「夫君」


「アリス最高執政官か……」


「また最高執政官がついておるぞ。そういう堅苦しい肩書きはいらぬというのに。余は夫君の妻なのだから、呼び捨てにすればいいものを」


「はははっ……慣れなくてね」


 リンダの前でアリスと呼び捨てにしたら、あとでなにを言われるか。

 ちょっとそれを考えてしまったら、つい……というやつだ。


「夫君やフィオナ、ヒルデ、リンダの手伝いもあって、王都と城下町は、もうすぐ国として最低限の動きが取れるようになる。避難地も、人口が大幅に減ったので維持が楽になったし、この王都やゾフ湖の周辺の土地も結界の範囲に入った。開発できる土地が増えたので、あとは時間が欲しいところだ」


 となると、やはり連合軍への参加が急務であろう。

 サクラメント王国が文句を言っても、他の国々が認めてしまえば問題ないのだから。


「サクラメント王国との戦争はなさそうね」


「それはわからぬ。余たちは人口を増やし、未開地の開発で国力を上げられるから、無理に戦争などしたくはない。だが、サクラメント王国側がどう考えるかまでは予想できない。我が国の併合を目論むやもしれないのだから」


「困った話ね」


 リンダはサクラメント王国の貴族令嬢なのに、アリスの発言を否定しなかった。

 上級貴族の中には、酷い奴もいるからな。

 たとえば、以前私に決闘を挑んできた連中とか。

 『もっと領地が欲しい』という軽いノリで、戦争を吹っ掛けてくる可能性も否定できなかったのだ。


「もうしばらくは隠すしかないな」


 とにかく今は、サクラメント王国が容易に手を出せないよう、ゾフ王国の体制を強化するに限る。

 というわけで私たちは、アマギの艦内工場を用いて魔晶機人を魔晶機人改に改良し、稼働できなくなった機体をグラック領や放棄地などからも集めて再生した。

 アマギでは高性能な魔導炉が作れるので、ゾフ王国が所有していた魔晶機神のうち、魔導炉の故障で稼働できない機体も再生されている。


 燃費の大幅な向上により、小型船キャリアーも人と物の移動に大活躍し、これも発掘品の再生を進めていた。

 中~大型の空中船も発掘されていると報告されていたが、今は魔物の住処となっている廃墟に放棄されていたので、これも現在再生中であった。


「そういえば、東部で無法者退治をしている、サクラメント王国の姫様はどうなった?」


「案外苦戦しているみたい。逃げるのが上手な無法者なんだって」


 グレゴリー王子の魔晶機神を撃破した無法者だが、勝てない相手に対し無理はしないらしい。

 姫様たちから逃げてしまうそうで、しかもなかなかの逃げ足なので、姫様たちは大苦戦しているそうだ。


「それは大変よな」


「こちらとしてはありがたいじゃないか」


「確かに」


 とはいえ、姫様が苦戦して戻って来るのが遅ければ遅いほど、こちらとしては都合がいい。

 そう思っていたら……。


『エルオール、姫様がエルオールに援軍で来てほしいそうだ』


「……無理なら、できる奴に頼む。姫様は間違っていないな」


「そうね」


 まさか姫様からの頼みを断るわけにもいかず、私、リンダ、マルコ、ヒルデの四人は、新型飛行パーツを装着した魔晶機人改で東部へと向かうのであった。

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― 新着の感想 ―
結局最初の361万は無かったことになったのだろうか? あとは動力炉も製造できるのに機体自体が生産できなさそうなのは何が生産できないんだろうか? 500人の村で1機動かせなかった機人が5000あるなら国…
リンダは最悪家族と敵になるんだが 実家に報告できないから夜逃げの準備もできない
[一言] この作品のコンセプトは、プチリッチなスローライフを望む主人公がそれと真逆の状況に放り込まれ続けるギャップを楽しむのがメインだと思うので、いくら働いても楽になるわけがないw 女難もその一環だろ…
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