第五十五話 新ゾフ王は?
『エルオール様、真夜中に申し訳ありませんが、緊急事態が発生しました。エルオール様の判断を求めます』
「緊急事態だって?」
『解放された旧ゾフ領の森の中から、王城などを窺う不審者たちが発見されました。しかも不審者たちは、魔晶機人に搭乗しております。規模から言って、偵察部隊の類いかと』
「何者だ?」
『旧ゾフ王国の人たちなのでは? なんらかの理由で結界を維持できなくなり、放棄した旧領に突如結界が張られたので、慌てて様子を見に来たようです。いかがなされますか?』
「それは困った」
『指揮官が迷ったでは困ります。ご判断を』
「相変わらず厳しいな、フィオナは」
『エルオール様が子供になったとはいえ、手加減はできません』
「それはそうだ」
夏休みが終わるまで、あと半月ほど。
寝ていたら、フィオナから緊急通信が入った。
普段、旧ゾフ領とアマギの管理は彼女に一任しているので、なにかあったら通信が入ることになっていたからだ。
指につけている指輪型通信機から、王城などを窺う謎の偵察部隊のことを知らされた。
フィオナの予想では、旧ゾフ王国の連中ではないかと言うのだ。
私も、彼女と同じ意見だ。
放棄していた領地の結界が復活したので、気になって見に来たのであろう。
やっぱり旧ゾフ王国の人たちは、無法者のせいで全滅したわけではなく、領地を放棄してどこかに隠れ住んでいたようだ。
再び結界が張られてからそう時間を置かずに様子を見に来たので、それほど遠くに住んでいなかったらしい。
もしくは、もし王城の結界が復活したらすぐにわかるようにしていたとか?
過去に放棄する羽目になった領地なれど、未練は強かったんだろうな。
いつか必ず故郷に戻りたい。
そう思っていても不思議じゃない。
「今のところは偵察隊のみか……全体の戦力がわからないな」
小国なれど、サクラメント王国と小競り合いをしていたほどの国の人たちで、偵察部隊が魔晶機人を装備として使用していても不思議じゃない。
というか、魔晶機人がなければサクラメント王国と小競り合いなんてできなかっただろうし。
魔晶機神も所有しているだろうから、もし彼らが旧ゾフ王国領の奪還を目指したら……。
「多勢に無勢だ。領地はあげちゃうのがよくないかな?」
元々偶然結界を張ってしまった場所で、しかも無人だ。
アマギさえ逃がしてしまえば、他は特にいらないような気がする。
『それがいいかもしれませんね。アマギを隠す場所さえ確保できれば問題ないですから』
旧ゾフ領は、百年以上も放棄されていたので、復旧に時間がかかる。
『状態保存』の魔法はかかっていたが、さすがに百年以上も経ってしまうとな、である。
それに、あそこに人間が戻ってゾフ王国として活動を開始すれば、サクラメント王国が気がつかないわけがない。
すぐに討伐隊を送られ、旧ゾフ王国の人たちは取り戻したばかりの旧領を奪われてしまうだろう。
そのあと、サクラメント王国が旧ゾフ領をどうするか?
それは、向こうで決めてくれというわけだ。
「アマギの避難先を選定するから、それまでは連中を刺激しないで監視してくれ」
次から次へと問題が起こっているような気がするが、旧ゾフ領を王国に押しつけることに成功すれば、グラック領の負担は減る。
旧ゾフ王国の連中がどれほど南方に残っているかは知らないが、圧力を受けるのはサクラメント王国になるからだ。
だから、グラック領は安心して領地を発展させられる。
という目論見を立てたのだが、事態は思わぬ方向へと進んでしまうのであった。
「おかしいな? 連中は偵察ばかりで、どうして旧ゾフ領を占領しないんだ?」
『はい。もしそうなれば逃げる算段をしていますが、手は出してこないで、こちらを偵察だけしています』
「どういうことなんだろう?」
あれから一週間。
旧ゾフ王国の住民と思われる人たちは、数機の魔晶機人を用いた偵察部隊で様子を窺うのみだそうだ。
もしゾフ湖や王城を占領して国を再び打ち立てたら、ちょうど姫様がいるので報告して、王国軍に対処してもらおうと思ったのに……。
意外と慎重なんだな。
「様子を見に行こうかな?」
「姫様たちはどうするの?」
「そこなんだよなぁ……」
あとから事情を教えたリンダに相談すると、私が様子を見に行くのはいいが、姫様たちの目をどう誤魔化すかが問題になった。
ここまで旧ゾフ王国領の状況を隠していた以上、今から教えるのは悪手であろう。
「兄様、兄様はグラック家の当主なのです。領内視察という名目で二~三日留守にすることは可能です。これまでの兄様の活躍でグラック領は広大になったので、魔晶機人で移動するのもおかしくないかと。姫様たちとは、僕たちだけで自習するということにしましょう」
「それはいいな」
さすがは、我が弟。
賢くて可愛い子だな。
「戻ったら実力を見るから、ちゃんと自習しておけと言えば、あの姫様のことだから真面目に訓練するわよ」
「それもいいアイデアだな」
姫様は、基本的に魔晶機人の操縦が好きみたいだからな。
私と似ている部分がある。
ただ私の場合、最初は人型兵器の操縦に興味なんてなかったけど。
才能もないと思っていたし。
「じゃあ、頼むよ」
私は、リンダとマルコに姫様たちへの対処を頼んだ。
「視察か……」
「私も一応グラック家の当主なのでね。夏休み中は特に気合を入れて開発を手伝ったんだが、それが領民たちにとって最適なものか視察で判断する必要がある」
「そうなのか。では妾も……」
「いやあ、リリー様は気がつかれてしまうリスクがあるし、これは当主の仕事だからさ」
「それもそうか……」
「戻ってきたら、模擬戦で仕上がりを見るから訓練しておいてくれ」
「それは楽しみだな。頑張って、少しでもエルオールに追いつくぞ」
なるほど。
リンダも魔晶機人の操縦が好きなので、同類である姫様の気持ちがよくわかるのか。
アリバイ工作には成功したので、私は単機で旧ゾフ湖を目指して魔晶機人を飛ばすのであった。
「フィオナ、どんな様子だ? 旧ゾフ王国の連中は?」
「相変わらずこちらを窺っています。それと、エルオール様の存在も知られたはずです」
「隠れて合流は難しいからな」
「アマギも水中から浮揚させましたしね」
私がゾフ湖に到着すると、アマギが浮上して出迎え、私を艦内に入れてくれた。
その際、こちらを窺う旧ゾフ王国の連中(あくまでも予想だが、ほぼ間違っていないだろう)に私の存在がバレたと思うが、それは気にしないことにした。
むしろ、私の登場により向こうが動いてくれるかもしれない。
こうも状況が動かないのであれば、こっちが動いた方がいいと判断した次第だ。
このまま遠くから窺われるだけだと気分が悪いので、相手を誘う意味でも、私はあえて目立つようにアマギに着陸してみた。
「どう出るかな? フィオナ、コンバットスーツの用意を」
「脅しですか?」
「ああ、私のレップウ改は魔晶機神クラスの大きさがある。向こうがそれを見たらどう動くか、このまま膠着状態のままよりはマシだろう」
相手が大軍団を繰り出してきたら、旧ゾフ領は放棄すればいい。
もしそのあと、グラック領に手を出すのであれば、サクラメント王国を刺激するだけだからな。
旧王都を取り戻したばかりのゾフ王国に、サクラメント王国との全面戦争は荷が重い。
多分、しばらくは動かないはずだ。
「ちょうど実機の訓練にもなるからな」
この体になって、初の実機での訓練だ。
シミュレーションでは上手くいったが、三年以上のブランクもあるし、この機会を利用させてもらおう。
私は、フィオナが用意したコンバットスーツで出撃した。
久しぶりのコンバットスーツだが、それほど違和感はないかな。
アマギの上空を飛び回っていると、フィオナから通信が入った。
『偵察部隊が引き上げました』
「魔晶機神相手に、不利だと悟ったのかな?」
『そうでしょうが……』
「問題はこれからだな」
このまま旧ゾフ領を諦めるか、それとも偵察部隊の戦力では対抗できないと感じて本隊を呼び出すか。
どちらにしても、あとはもう相手の出方次第だ。
「フィオナ、敵の軍団が接近してきたら頼む」
『お任せください。艦長は、もう少し訓練を続けますか?』
「ああ。久しぶりのコンバットスーツはいい。実戦がなければなおいい」
それから数時間、私は久しぶりのコンバットスーツの操縦を楽しんだ。
勘が鈍ったということはないと思うが、このところ小型の魔晶機人ばかり操縦してきたので、コンバットスーツとの大きさの差で違和感が出るのは仕方がないか。
それもじきに慣れると思うけど。
訓練を終え、アマギの艦内で久々の待機任務に就いていると、翌朝フィオナが私を起こしにきた。
どうやら、旧ゾフ王国の連中が大軍を率いてやってきたようだ。
「フィオナ、数はわかるか?」
「魔晶機人だけで三百機以上はいます。しかも、それが全軍だという保証はありません」
小国とはいえ、国だからな。
「アマギは、いつでも逃げられる用意を」
「了解しました」
私の命令で、アマギはゾフ湖の上空に浮かび上がった。
そして私もコンバットスーツで出撃し、アマギと旧ゾフ王国軍と思われる軍団の間に立ち塞がる。
単機で、三百を超える魔晶機人の軍団を相手にする。
普通ならそんなことをする奴はアホだが、元々これはブラフで、逃げる前にかましているだけだ。
そう無謀な行動というわけでもなかった。
「魔晶機人は、すべて飛行パーツを装着しているのか……」
百年以上も昔に王都を失い、どこかに避難していた割には戦力が整っているな。
もしかしたらではなく、サクラメント王国にとって、かなり厄介な敵国かもしれなかった。
『艦長、敵が一機だけで前に出てきます』
「一騎打ちでもするつもりなのかね?」
『この世界の状況から察するに、なくもないですね』
フィオナは、それもあり得るかもと思っているようだ。
私に勝てれば、損害を出さずに旧ゾフ領を取り戻せる利点もあるからな。
『貴公に問う! 我が名は、アリス・フレンダー・ゾフ。ゾフ王家の血を引く、ゾフ王国の最高執政官である!』
広域魔法通信で声が入ってきた。
やはり、技術力はサクラメント王国に劣るものではないか。
声が女性のもので、しかも随分と声が若い。
ゾフ王家の血を引いているのに、王女ではなく、最高執政官を名乗るのか……。
ちょっと不思議な感じがするな。
「女王か、王女ではないのか?」
『我らは、旧王都とゾフ湖を魔力不足で放棄してのち、たとえ旧王族でも、王や王族を名乗れないのだ。不運が重なり、今では余しか王族は残っていないがな……』
避難先での生活は大変だったのか、ゾフ王家の生き残りは彼女だけなのか。
例の水晶柱に魔力を注入できなくなって、ゾフ王国は旧王都を放棄して百年以上も避難生活をしていた。
たとえ王家の人間でも、例の水晶柱に魔力を注入できなければ王族を名乗れないから、最高執政官を名乗っている?
リーダーは必要だから、苦肉の策というやつか。
『さて、貴公に問う。先日、放棄した旧王城の地下にある水晶柱に魔力が注入され、結界が復活した。これは貴公の仕業か?』
これはまずい。
もしここで正直に『そうです』と言った場合、また面倒のタネが増えてしまうではないか。
もしかしたら、この最高執政官は私を殺そうとするかもしれない。
ゾフ王家の人間でもない私が、あの水晶柱に魔力を注入した事実が知れたら、それは最高執政官の権力が失墜してしまうからだ。
最高執政官としては、ゾフ王家以外の人間が、例の水晶柱に魔力を注入するなんてことがあってはならないのだから。
「いやあ、誰なんでしょうね?」
ここは誤魔化すしかない。
どうせ私は、魔力測定装置の数値すら誤魔化せる男。
魔法使いで魔力量の探知ができる人に会ったこともないし、このまま誤魔化した方が安全だ。
今の私は魔晶機神に乗っているように見えるが、その程度であの水晶柱に魔力を篭められないはずだ。
誤魔化すことは容易なはず。
『おかしいな? 我らの独自技術『魔力スカウター』により、貴公から尋常でない魔力が探知されているが……』
なんだよ!
その某大昔に大人気だった漫画、アニメの戦闘力を測る機械は!
もしかして、ゾフ王国独自の技術……今、そう言っていたよな?
「故障じゃないですか? 私は郷士なので……」
『貴公は、魔晶機神に乗っているではないか』
しまった!
ここは魔晶機人で出撃すればよかったか?
脅しになると思ってコンバットスーツで出撃してしまったばかりに!
私のバカ!
「私は郷士にしては魔力が多いので……」
こうなれば、とことん誤魔化すしかない。
『我らとて、サクラメント王国他、すべての国の情報を集めているぞ。郷士が魔晶機神に乗れるわけがない。その魔力があっても、郷士家で魔晶機神を所持などできない。乗せてももらえない。違うか?』
この最高執政官、若いのに鋭いではないか。
『このままでは埒があかんな。貴公、顔を見せてくれないか?』
「交渉ですか?」
旧ゾフ領は放棄してもいいんだが……。
もしその過程で私が最高執政官と交渉してしまうと、あとでサクラメント王国にバレたら辛い。
『郷士風情が、なに勝手に他国と交渉しているんじゃ! ボケ!』と怒られ、私は処罰されてしまうであろう。
そして、グラック領でプチリッチに暮らす計画が頓挫してしまう。
このまま素早くトンズラしてしまおうか?
『我らに戦闘の意思はない。もしその気があれば、多勢に無勢で貴公を袋叩きにすればいいこと。貴公があの水晶柱に魔力を注入した人物かどうか、ゾフ王家最後の生き残りとして知りたいだけなのだ』
「わかりました……」
魔法通信越しでもわかるほど、ここまで真剣に言われてしまうとな……。
とはいえ、いきなり顔を出した途端、魔晶機人で攻撃されたら死んでしまう。
「アマギの甲板に降りられるか? あなた一人で」
私は、最高執政官が一人でアマギの甲板に降りるよう条件を出した。
アマギの上なら、私が降りた途端旧ゾフ王国の連中がなにか企んでも、対空火器で落としてしまえばいいのだから。
私は一人なので、そのくらいの条件を受け入れなければ顔など見せられない。
これでも前世で実戦経験ありなので、敵かどうかもわからない連中に対し隙を見せるわけがなかった。
『よかろう、余がその船の上に降りればいいのだな』
最高執政官は、すんなりと私の条件を受け入れた。
誰か後ろの連中で反発する者が出ると思ったのだが……若いながらもカリスマに恵まれ、旧ゾフ王国の人たちをちゃんと従えている証拠か。
『では、降りるぞ』
アマギの甲板に着地した最高執政官は、そのまま魔晶機人から降りてきた。
「若いな……」
「貴公も、そう年は変わらないではないか」
年齢は、今の私と違わないであろう。
まるで吸い込まれるような黒髪と黒い瞳で、和装に近い格好をした美少女がアマギの甲板に立った。
私の要求を受け入れ、一人で敵かもしれない船の上に降り立つ。
最高執政官を名乗っているが、彼女が実質ゾフ王国の女王なのであろう。
向こうが私の要求を受け入れた以上、約束は守らなければならない。
私も、コンバットスーツから降りて彼女と対面した。
「待ちわびたぞ。我が夫にしてゾフ王国の王よ」
「はい?」
最高執政官による突然の発言に、私の頭上にはクエスチョンマークが浮かんだ。
私が夫?
私が王?
どうしてだ?
「百年以上も昔、ゾフ王国は南下を試みるサクラメント王国と対等に渡り合っていたが、一つ問題が発生した。王城の地下にある水晶柱に魔力を注入できる者がいなくなったのだ。結界は消え、我らは王城と王都を放棄した」
だから、一晩にして滅んだと言われたのか。
『一晩で人が消えた』は、サクラメント王国側の誇張だろうな。
以前から逃げ出す用意をしていて、ある日一人も住民がいなくなったのでそういう風に思ったのであろう。
「ちょうどその頃、無法者の侵入があって、それを倒すと言って残った貴族もいたそうだが……」
それが、あの無法者に操者が殺されたと思われる魔晶機人か……。
「余たちは南方に避難したのだが、やはり望郷の念は強かった。元々我が国は、あの水晶柱に魔力を籠められる人物こそが王に相応しいと考えている。ゆえに、余はゾフ王家の血筋でも、最高執政官を名乗っておるのだ」
あの水晶柱に魔力を篭められる人物こそがゾフ王国の王に相応しい。
だが、いきなり余所者が王となっても軋轢が強いはず。
そこで、この美少女最高執政官が王の妻になれば、ゾフ王国の人たちは安心するということか。
なるほど。
合点がいった……って!
その夫って、まさかの俺かよ!
「なにかの間違いでは? 私はサクラメント王国の郷士なので。貴族としては最下級だから、水晶柱に魔力を篭めたのは別の人物では?」
そんないきなり王様にされて堪るか。
私は、田舎郷士グラック卿として、領地でプチリッチに生きる予定なのだから。
王様になるとか、そういうのは人生の予定にはない。
「だが、この魔力スカウターによると、貴公の魔力量は四十万を超えている。しかも、魔晶機神を動かしてここまで来たのだ満タンとは思えないな」
確かに、ここに来るまでに魔晶機人で移動して、しかも私はマジッククリスタルを使わない。
今の魔力量は四十万を超えるのか。
急に増えた……姫様たちを厳しく鍛えたせいで、俺まで?
なんてこった!
「王城地下の水晶柱だが、魔力量が三十万以上なければ、反応すらしないのだ。ゆえに、水晶柱に魔力を補充した者が貴公以外であるとは思えないな」
最高執政官は、私にグっと顔を近づけた。
もの凄い美少女で、しかも前世が日系人である私と同じ黒髪と、和装によく似た服装。
さらに年齢の割に発育もいいようで、私はかなりドキドキしてしまった。
こういう時、恋愛経験値の低さが仇となるな。
女性に弱すぎるというか、耐性が低いのだと思う。
「貴公は、自分に対する評価が低いようだな。安心なされよ、夫殿。余たちゾフ王国の王族と貴族は、本拠を失いその奪還を百年以上も目指して苦労した身。どこぞのバカ王国とは違って、血筋や家柄だけで人を判断せぬ。夫殿は、ゾフ王国の王として堂々としていればいいのだ」
「あの……私はグラック卿なので……」
「みなの者! ゾフ王国百二十年の悲願である、王都の奪還は成った! 新しい王の誕生ぞ! 余はこれより陛下の妻として、この国を支えようと思う!」
「「「「「「「「「「うぉーーー! ゾフ王国万歳ぃーーー!」」」」」」」」」」
「「「「「「「「「「ゾフ王国復活万歳ぃーーーー!」」」」」」」」」」
最高執政官と共に来ていた者たちも、彼女の宣言を聞いて大喜びしている。
とても『私にそんなつもりはありません……』と言える空気になかった。
こういう時、日本人というのは損だ。
空気を読んで、決して『違います……』だなんて言えないのだから……。
「よく見れば、なかなかに精悍な顔つきの男だな。優れた操者でもある。名はエルオールであったか。余のことはアリスと呼び捨てにしてくれ。なにしろ、エルオールはゾフ王国の王なのでな」
「はい……」
まさか『嫌です』とはとも言えず、私はなぜか郷士なのに一国の王にされてしまった。
もしサクラメント王国に知れたら、討伐軍を差し向けられるかも。
なんとかしなければ……ってどうするんだよ!
誰か教えてくれ!