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第五十二話 キャリアー

『というわけです。父上』


『……しばらくは秘密で。エルオール、ヒルデ、リンダ、マルコ以外の人間には絶対に知らせるな』


『時間を稼いで、その間になんとかするんですね。父上が』


『いやあ、さすがにそれは私を買い被りすぎというか……私は元郷士でしかないからな』


『私も郷士ですけど……』


『王国の偉いさんたちが知ったら、『お前のような郷士がいるか!』と言うだろうな。現状、ゾフ湖など百年以上誰も様子を見に行っていない。そこまで魔晶機人を飛ばすマジッククリスタル代も安くないのでな。王国の関心は、現在姫様たちが援軍に向かった西部開拓と、絶望の穴付近に集中している。内緒にしておくしかないだろう』


『わかりました』



 魔法通信で自分の見解を述べる父上。

 とても消極的というか、対策とも呼べない代物であったが、私も同意見であった。

 さすがに『旧ゾフ王国領に結界を張ったので、ここをグラック領に組み込みます』とは言いにくい。

 面倒だから王国にあげてしまうか?

 とも考えたが、アマギの件もあるからな。

 あの船だけは譲れないし、そもそもフィオナは私の言うことしか聞かない。

 他人には運用できないので、父の言うとおり隠すしかないな。

 どうせ王国は、私が旧ゾフ王国の王城と王都を解放したなんて思いもしないはず。

 父上の言うとおり、しばらくは隠すしかないのだ。


「父上が、秘密だって」


「他の策はないわよ。私は、エルオールの将来の妻だから秘密は守ります」


「私もです」


「兄様、僕は兄様の弟ですから」


「姫様が居なくてよかったわね」


 リンダの一言に、全員が一斉に首を縦に振った。


「幸い、結界の範囲内の管理はフィオナに一任できるから」


「お任せください。正直暇なので……」


 ここでは、反乱軍やテロ組織との戦闘はないからな。

 アマギの管理だけだと暇……アンドロイドに暇という概念はないが、あまりすることがないのは事実だ。

 私もグラック領の統治や、姫様が戻ってきたら相手をしないといけない。

 フィオナは暇そうなので、丸投げ……じゃなくて完全委任することにした。


「エルオール様から聞いておいた、解析、研究、試作、改造、量産などをバランスよくやっておきます」


「任せるよ」


 フィオナに任せておけば、そう変なこともしないはずだ。


「ああ、段々と実家に対し秘密が増えていく私……」


「それはすまない」


 私は、素直にリンダに謝っておいた。


「だから、責任もって最後までグラック家に置いてね」


「はい……」


 秘密が漏れないよう、私はリンダを妻にして一生面倒見るのか。

 『秘密婚』……。

 元はそういう意味じゃないよな。


「わっ、私も死ぬまでエルオール様の傍を離れませんから!」


「頼りにしているよ」


 ヒルデは、フィオナに教わって色々と学んでいる。

 彼女がグラック家を出てしまうと、大変なことになってしまう。

 囲い込みは必須であろう。


「兄様、モテモテですね」


 これは、モテモテなのか?

 前世からさっぱりモテなかった私だが、とてもそうは思えなかった。

 もう少し大きくなったら、確実にイケメンになるであろう、マルコの方がモテモテだと思うけど。




「兄様、ギリギリでしたね」


「本当にギリギリだった……」


「明日だっけ? なにか見せたいものがあるって」


「西部で発掘された品とか? ただ、私たちが見つけた物以上の発掘品が出たとは思えないな」


「もしそんな物が出土しても、郷士であるエルオールに見せてくれるかしら?」


「だよねぇ……」


 旧ゾフ王国領とアマギの件が片付いた……隠しているだけだけど、夏休みが終わって姫様たちが帰るまでなにもできないからなぁ……。

 フィオナに留守を任せ、グラック領に戻ってきたところで、父から翌日姫様たちが戻ってくるという話を聞いた。

 無事西部に出現した無法者を倒し、さらに珍しいものを見つけたので見せてくれるという。

 なんなのかと思いながら翌日まで待つと、空にそれは現れた。


「空を航行する船かぁ……」


 魔晶機人があるので、それを運搬する船がないのは不思議だと思っていたのだが、なくはないようだ。

 ただ、これまで使用可能なものが発掘されなかった……でも、それはおかしいような気がする。

 魔晶機人や魔晶機神が多数が発掘されているのに、それを運ぶ船が発掘されないのはおかしいからだ。


「五十メートル級といった感じかな?」


 空中を進む船は、小型……中型か?

 全長は五十メートルほどで、動きはかなり遅かった。

 時速二~三十キロメートルといった感じか?


 これが最高速度なのか、巡行速度なのかはわからない。

 次第に近づく空中船を見ると、武装の類は一切ついていないようだ。

 ちょっと前線には出せないかな。

 あくまでも運搬用という扱いか。

 商船として運用した方が役に立つかも。


「久しいな、エルオール」


 私を見つけた姫様は、船のタラップから降りてこちらにやって来た。

 相変わらず、その両脇にはライムとユズハもいる。


「姫様、無事無法者を退治なされたそうで。おめでとうございます」


「エルオールとの特訓のおかげか、言うほど強くなかったがな。どうだ? 魔晶機人用のキャリアーは」


「使い方次第ではかなり便利かもしれませんね。ですが、疑問は残ります」


「さすがだな、エルオール。して、なにが疑問だ?」


「魔晶機人と魔晶機神は今でも度々発掘されますけど、運搬用のキャリアーが発掘された話を聞いたことがないからです。まさか、今回初めて発掘されたとは思えず、となると、どうして世間に普及していないのかなって」


「確かに、度々発掘はされるが普及はしておらぬな。それには理由がある」


 この手の空中船は、魔晶機人ほどではないが、これまで各国で数百は発掘されてきたそうだ。

 だが、儀礼用、研究用以外では使用されていないらしい。

 しかも、国と限られた大貴族が所有を独占しているそうだ。 


「まず小型のキャリアでも、魔晶機神を動かせる魔力量の持ち主でなければ動かせぬのだ」


「艦長と思えば、上級貴族でも船の操縦をする方はいるのでは?」


「上級貴族たるもの、魔晶機神の操者たれ、という伝統に長々と縛られておってな。キャリアーの艦長職は人気がない。ゆえに、置物になっている船が大半なのじゃ。他にも理由があって、そちらの方が深刻かの」


「マジッククリスタルのコストですか?」


「正解だ。この小型のキャリアでも、魔晶機人の数十倍のマジッククリスタルを消費してしまうのでな」


 燃費は悪い。

 速度はそれほど出ない。

 かなりの量の荷を運べるが、重くなればなるほど燃費は悪化する。

 武装がないので、魔物、無法者、異邦者に襲われるとなす術がない。

 そのため、燃費向上の研究はしているが、実験艦以外は稼働していないそうだ。


「飛行パーツを装備した魔晶機人で飛んだ方が早いし、運搬コストがかからない時点で今のところは出番がないの」


 どの世界でも、なにをするにしても、コストの問題が必ず出てくるものだな。


「実はこの船も、王都に運び込んで研究材料になる予定だ。酷いケースだと、魔導炉が魔晶機神に使えるという理由で取り外されてしまうこともあるからな」


 燃費の悪い船よりも、魔晶機神の稼働数を増やした方が利になるというわけか。


「そんなわけで、この船は王都に戻る」


 姫様たちが魔晶機人を降ろすと、キャリアーは王都を目指してゆっくりと出発していった。


「遅いわね……」


「さすがに最高速度はあの倍出るが、それをするとマジッククリスタルの消費量の問題がのぉ……」


 船体が大きい分、動かすとマジッククリスタルのコストが劇的に上がってしまうようだ。

 西部で活躍したとはいえ、グラック領に姫様たちを送ったので遠回りもしているはず。

 スピードを上げて、マジッククリスタルの無駄遣いはできないのであろう。


「姫様、行きと同じく魔晶機人で飛んでくればよかったのでは?」


「所定の性能試験のついでだそうだ。妾が同乗したのは、船がグラック領に辿り着くまでに無法者に襲われるリスクがないわけでもないからじゃ。特に、開拓で拡張中の西部とグラック領の間には、よくわからない土地もあるのだ」


 結界が張られた場所はいいが、そうでない場所に無法者が潜んでいる可能性もある。

 グラック領まで、姫様は船を護衛していたわけか。

 グラック領から北上して王都を目指す分には、あまり危険はないからな。

 私たちも通学しているのだから。


「燃費がもう少しマシになれば。軍で運用できるのじゃが……研究もあまり進んでおらぬと聞く」


 やはりネックは燃費か……。

 軍でも正式に使用していないのに、コスト重視の民間での運用は不可能かな。


「(フィオナに魔導炉の解析と生産方法の研究を頼んだから、もしかしたらイケる?)」


 燃費が上がってくれたら、魔晶機人を運んで移動できるキャリアーとして採用してもいいか。

 貿易や運航に使う輸送船として使うのもアリかな。


「して、エルオールたちはなにをしておったのだ?」


「グラック領の開発です」


 まさか、旧ゾフ王国領に結界を張ったなんて言えないからな。

 なんとか、あと一か月半ほど誤魔化さなければ。


「リリー様たちも戻ってきたことだし、私たちも休みなく働いたので、明日は休暇でレドノ湖に行くかな。バーベキューとかして」


「いいわね、それ」


「私、材料とかを用意しますね」


「兄様、楽しみですね」


 姫様は、普段ピクニックやバーベキューなどしないはず。

 それに興味を持たせて、なるべくゾフ湖の話を出さないようにしなければ。

 あれから行っていないので問題ないと思うが、用心に越したことはない。


「ライム、ユズハ。明日はピクニックとバーベキュー? 初めて聞くな」


「外で、魔物のお肉を焼いて食べるんですよ」


「そうなのか。それは楽しみだな」


 リリー様は、やはりお姫様だな。

 初めてのバーベキューが楽しみなようで、ゾフ湖の話題を一切出さなかった。

 魔物の肉は沢山あるし、旧ゾフ王国領のことで疲れたので明日はお休みとしよう。

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― 新着の感想 ―
つくづくこの世界の魔法兵器は燃費が悪いよな。 ここで自信を持ってリンダを妻にして幸せにすると言えず、まるで嫌だけど無理やり結婚させられますみたいな反応をする主人公ちょっとなぁ…って思うわ。リンダとヒ…
[一言] 古代文明は普通に運用していたのだから効率的にマジッククリスタルを入手する方法があるはず。
[良い点]  コスパの悪さ全開!・・・という輸送船ですね。  装飾過多だったら「貴族が所有を自慢する船」になるんでしょうけど。 [気になる点]  もう二つぐらい、ばれるリーチがかかっているような・・…
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