第四十九話 掌握
「フィオナさんは人間じゃないの? どう見ても人間だと思う」
「はい。私は、人間の手によって作り出されました」
「魔法使いが作るゴーレムとは大違い。大昔の文明って凄いのねぇ……」
「兄様、この船も凄いですね」
「マルコ様、お菓子とジュースもとっても美味しかったですよ」
「本当ですか? 僕も食べたいなぁ」
「ヒルデ、大切なのはそこじゃないから……でも、私も欲しいかも」
無事、アマギの掌握に成功したので、私はゾフ湖の底に沈むアマギを水面に浮上させた。
そして、上空で待機していたリンダとマルコも呼び出す。
二人も、私がアマギの掌握に成功した事実に驚いていた。
さらにフィオナが人間ではないことも知り、ヒルデと合わせてまた驚いている。
三人はアマギと合わせて、フィオナを大昔に栄えた超古代文明の遺産だと思っていた。
実は違うのだけど、それを私が教えるわけにはいかず、そう違いもないと思うことにしておく。
「兄様、凄いですね。魔晶機神ですよ」
マルコは、アマギの格納庫にあるコンバットスーツを魔晶機神だと思っていた。
大きさ的にはほぼ同じなので、間違えるのも無理はないか。
「しかも、結構な機数ね」
ケンジ・タナカ上級大佐時代の愛機に、予備機、あとは任務で鹵獲した機体も十数機ある。
そのままにしておくとまた反政府活動やテロで使われてしまうので、特務隊の任務としてこれらの機体の回収も大切な任務であった。
そこまで苦労しても、なぜか次々と旧式のコンバットスーツが反政府軍やテロリストに流れてしまうのだけど。
それに、鹵獲すると露骨に現地の政府に嫌がられるのだ。
横流しできないから、という救えない理由でだけど。
「(フィオナ、全部直してあるな)」
「(時間がありましたので……)」
鹵獲品を無理に修理する必要なんてないのだが、この三年、フィオナはよほど暇だったそうだ。
コンバットスーツの整備状態は全機完璧であった。
「兄様、それでどうしますか?」
「秘密で」
「ですよねぇ……」
「マルコは理解が早くて助かるよ」
この世界のルールとして、誰の領地でもない場所で拾ったものは、拾った人のものになる。
さらに私は一応貴族なので、得た成果をたとえ王国でも奪う権利はなかった。
上納金を支払っているか、うちの場合はこれまでの功績で私が死ぬまで免除だが、支払っているのと同じなので、義務を果たしている貴族から成果を奪うことはできない。
だが私は郷士なので、貴族でもっとも身分が低い。
王国が手を出してくる可能性があるので、隠しておいた方がいいのだ。
「特に、あの姫様には言えないわよね」
「ですね」
「父上に報告して、ここにいる人たちだけの秘密にした方がいいと思います」
さすがはマルコ。
可愛く賢い弟よ。
実に的確な判断ではないか。
「姫様たちが戻ってくるまではしばらく通って調査をして、あとは夏休み後でいいかな」
「そうね」
「私も賛成です」
「僕も賛成です。あっ、待っている間、あの無法者からマジッククリスタルだけは回収しておきました」
あの巨大サメかぁ……。
サメの肉は時間が経つとアンモニア臭がするので、必要ないかな?
皮は確か、滑り止めの効果があるから刀剣の柄に使われたり、防具に用いられたり、あとはヤスリやおろし器かぁ……。
そこまで価値はないし、運ぶのも面倒だな。
「自然に戻すか」
「そうですね」
結局、巨大サメは他の魚の餌となるべく、そのままゾフ湖に放置された。
マジッククリスタルは、さすがは無法者ということもあって、とても高品質だったけど。
「このジュース美味しい。なんの果物だろう? クッキーも美味しいわ。フィール子爵家が正式なお茶会やパーティーで他の貴族たちに出すものよりも」
「甘さ控えめで、上品な味ですね」
「この船も、貴族の持ち物だったのかしら?」
「かもしれないね(ただ単に、軍人の肥満が問題になっていて、軍艦で製造できる甘味は甘さ控えめで、カロリーも少ないだけなんだけど……)」
アマギの管理はフィオナに任せ、今日はこれで戻ることにしたけど、リンダもマルコも、アマギの艦内食品工場で製造されたオレンジジュースとクッキーを美味しそうに食べながら飛んでいた。
ヒルデも気に入っているけど、実は人工光合成と食品用3Dプリンター、原子合成技術を用いたものによる、オーガニック風合成食品だとは言えなかった。
せっかく美味しいと言っているので、水を差すことになるからだ。
おかしな添加物などを用いず、とても安全な食品なのは事実なんだけど。