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第二十七話 非常徴集

「ルルルゥーーー、遠い戦場にて、私は故郷を想うーーー」


「エルオール、なによその歌?」


「今、即興で思いついた」


「エルオールに、歌のセンスがないのはわかったわ」


「リンダが酷い言いようだ」


「いいじゃない。エルオールは操者で、歌手じゃないんだから。それにしても、酷い有様ね……」



 田舎郷士は、お上が沢山参加している連合軍に縁なんてないと思っていたんだが、突如リンダと共に呼び出されてしまった。

 その理由の一つに、普段よりも早まった大異動において、想定以上の異邦者が絶望の穴から湧き出て、連合軍は壊滅的被害を受けたからであった。

 魔晶機神と魔晶機人が異邦者によって多数落とされ、操者に多数の死傷者が出てしまった。

 でも、それだけなら王国軍の精鋭を補充すれば済む問題だ。

 サクラメント王国のみならず、各国の政府もバカではないので、そういう事態も想定して備えている。

 子爵の三女と、田舎郷士が呼ばれるはずがないのだが、もう一つの理由。

 以前出会った、第三王女リリー様の推薦だというのだから困ってしまう。

 どうやら彼女、私の動向をずっと追いかけていたようだ。


「(リンダ?)」


「(私はオマケでしょう。王女様がいきなり郷士を呼びつけるなんて無理だから、私の従者扱いってわけ。私は子爵の娘だから、騎士扱いで郷士を引き連れても問題ないのよ)」


 リリー様は、私を呼ぶためにリンダも呼び寄せたのか。

 田舎郷士なんて気にしないでいいのに。


「久しいな、グラック卿。なかなかの面構えになったではないか。活躍しているとも聞く。妾が目をつけた操者が予想どおり大活躍する。妾の操者を見る目は曇っておらぬようだな」


「光栄にございます」


 どうやらリリー様は、私はあくまでもリンダの付き添いという建前を気にしていないようだ。

 いきなり私に話しかけ、周囲の者たちを驚かせていた。

 というか、私に注目しないでほしい。


「さて、早速実戦だな。困ったことに、第二王子である私の次兄が、魔晶機神ごと派手に破壊されて大怪我をした。死ななかっただけ幸運と言える。我が軍は、魔晶機神十四機が完全破損。七十七機が戦闘不能だが修理はできる。操者は十八名が戦死、負傷者は治癒魔法で早期に復帰できるので問題あるまい。魔晶機神は要修理だが、予備機の魔晶機人で出撃すればいいのだから。ああ、魔晶機人の方だが、機体も操者もざっと十倍の損害と死傷者が出ている」


「大損害ですね……」


 サクラメント王国において稼働状態にある魔晶機神と魔晶機人の五パーセントほどが使用不能なのだから。

 五パーセントと聞くと少ないと思う人もいるかもしれないが、次に戦えばもっと犠牲が増え、ついには全滅してしまうかもしれないのだから。


「どうして私たちが? 王国軍にはもっと精鋭がいるでしょうに」


 彼らは勇んで戦うだろうし、ここで部外者である田舎郷士がいたら、彼らも怒ると思うのだが……。


「この状況で戦力の確保を怠れと? リンダはなかなかの腕前だと、妾は以前戦って感じていたぞ」


「(リンダ、姫様と戦ったことあるんだ)」


「(お父様に言われて、王都にお遣いに行った時に)」


 この姫様、ずっとそんなことをしていたのか。

 この三年で、さらにお美しくなられたというのに……。


「ところでグラック卿よ」


「はい、なんでしょうか?」


「三年前だがな」


「はい?」


 あの模擬戦闘が、どうしたというのだ?


「あの時、郷士である貴殿を見て、余と模擬戦を行うのは相応しくないとほざいていた、家柄自慢の連中な」


「彼らがどうかしましたか?」


「大分死んでしまったな。妾が要塞クラスをなんとか落とした時にな。彼らは次兄のエスコート役に進んで転身し、武運拙くというやつだな。おっと、妾は止めたのだぞ。お前らの技量では生き残れないと。その忠告は聞いてもらえなかったが」


 私が郷士だから、姫様と模擬戦をするのに相応しくないと言っていた連中。

 その多くが死んでしまったのか……。

 可哀想に……。

 私は、自分を姫様から引き離そうとしてくれた彼らが嫌いじゃなかった。

 そのため、思わず頭の中で黙とうしてしまった。

 貴族の名誉とか、そういう曖昧な理由で勝てない敵に挑む。

 上級貴族は大変だなと思ってしまったのだ。


「妾の次兄もそうだ。共に戦う仲間を家柄で選んでこの様だ。人間の敵兵ならともかく、相手は魔物や異邦者だ。妾たちの身分に斟酌してくれるとは思えぬ。本当に愚かな……」


 姫様は、実力がない操者は前線に出るな。

 死ねば終わりなのだからと言いたいようだ。

 優しい性格をしているのであろう。


「よって、妾は身分など気にせずお主たちを招集した」


 私からすると、それが非常に困るんですけど……。

 しかし、そんな私の気持ちを無視するかのように、姫様は私に顔を近づけ、そっと耳元で囁いた。


「(三年前、随分と手を抜いてくれたようだが、よもや妾の目を誤魔化せると思うたか? まあいずれ実戦でお主の実力はわかるので問題あるまい)」


 バレてた!

 模擬戦で思いっきり手を抜いていたのを。

 やはりこの姫様は、操者として侮れない実力を持っているな。


「ここに下手はいらない! 妾の親衛隊に選ばれた諸君! 今回の大異動、これで終わったとは思えない! 次の戦いにおいて奮戦を期待する! それと死ぬなよ! 妾たちは生きていてこそ、脅威となるのだから」


「「「「「「「「「「ははっ!」」」」」」」」」


 戦場に呼び出されたと思ったら、いきなり姫様の親衛隊に入れられてしまった。

 安寧の日々が遠ざかっていく……。

 いや、これは臨時的な処置のはずだ。

 とっとと異邦者を倒し、領地に戻っていつもの生活に戻らなければ。

 

 マルコはちゃんと訓練をしているかな?

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― 新着の感想 ―
予想的中 なう(2025/10/01 03:34:49)
姫があんまりにも、バカ 身分が余りにも違けりゃ故も無い者を自分の我儘で死地に置いた挙句顎で使う事になんら躊躇も無いとかどんな教育受けてんの? 封建主義ってそんなに王族の自由(我儘)が利かないだろ しか…
この姫様下の者の立場を理解してないしかなり強引ではあるけど善良で真っ直ぐで確かな実力があるな。振り回される主人公はたまったもんではないけど。
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