第二十一話 開発
「一つだけ、ヒルデに聞きたいことがあるんだ」
「なんでしょうか?」
「マジッククリスタルのことなんだが……」
無事に水晶柱のペンタグラムを発動させることに成功したグラック家は、広大な領土を得ることに成功した。
標準的な騎士が領有している領地の二十五倍ほど。
郷士は五百人ほどを養える村と領地を持つのが標準で、騎士爵だとその倍の千人くらいか。
元々郷士ってのは、騎士の横についている従者を半貴族化したような身分で、騎士に郷士二人がつきそうのが、古の戦の常識だと聞いた。
だから騎士であったキューリ家は、グラック家とワルム家を寄子にしていたのだ。
今のグラック家には、寄親なんていないけど。
グラック領がある南部辺境は田舎なので郷士ですら少なく、他の地域だと騎士が郷士を四人から六人くらい面倒見ているらしい。
おかげで、騎士は郷士よりも貧乏な人が多かったりする。
寄親になると負担が大きいからだ。
これが、準男爵になると様子が大分違ってくるそうだ。
騎士が持つような領地の五倍~十倍の領地を持っており、それでいて本当の貴族扱いではないので負担が小さい。
逆に男爵は、準男爵の一.五倍から二倍くらいの領地を持つが、抱えている寄子の数も多く、最下級ながら本物の貴族なので上級貴族たちとのつき合いがある。
当主は必ず魔晶機神を操れないと駄目なので、魔力量が下がるような婚姻もできず、必ず上級貴族家から奥さんを迎え入れるので、経済的に苦しい家が多いそうだ。
子爵はもう少し余裕があって、伯爵はその地域の顔なので責任が重い。
辺境伯は、他国と国境を接しているので紛争を抱えていることが多く、これが大きな負担となる。
公爵は王の血縁なれど、領地が王都の近くに設定され、意外と狭かった。
流通路と被っていれば美味しいらしいけど。
法衣貴族は、在地貴族よりも負担が小さくて楽だそうだ。
役職がないと貧乏らしいけど、魔晶機神と魔晶機人に乗れれば職がないなんてことはないのだから。
その代わり家臣の数が少なく、動員できる兵力は郷士にも劣った。
魔晶機神があるから、大勢の兵士なんていらないのかもしれないけど。
ようするに、我がグラック家が与えられている郷士という爵位は美味しいのだ。
領地を富ませることができれば、という条件が付くけど。
実際、ペンタグラムを成功させて王国に領地の地図を差し出しても、王国はなにも言ってこなかった。
私が成したような功績を三代続けてようやく騎士になれるそうなので、またも昇爵できなかったのだ。
騎士になると面倒なので、父は大喜びだったけど。
まるでサンドウィッチのように、騎士と男爵は貧乏クジだからなぁ……。
今の領地開発に成功した郷士の方が美味しいと思っているのであろう。
「マジッククリスタルって、結界の維持に使えないの?」
水晶柱を用いて結界を張るには、人間の魔力が必要である。
一方、人間の魔力でも動く魔晶機人は、同じく魔物から採れるマジッククリスタルでも動く。
結界の維持にマジッククリスタルを使えない理由を聞きたいのだ。
それができていれば、この世界はもっと魔物の住む領域が減っているはずなのだから。
「水晶柱は、比較的新しい時代の魔導技術なのです。そのため、人間が出す純粋な魔力が必要なのです。一方、魔物から採れるマジッククリスタルには、魔物の悪い気、邪気のようなものも含まれています。これを水晶柱に用いても結界が発動しないのです。魔晶機人の魔導炉は古の優れた技術で作られているので、マジッククリスタルでも問題なく燃やせますから」
魔物から採れるマジッククリスタルには、不純物が入っているという考えでいいのかな?
魔物の悪い気かぁ……。
気が結晶化してしまう。
この世界ならありなのかもしれない。
「マジッククリスタルで水晶柱に魔力を篭められたらよかったのに」
「研究はしているそうですよ。成功すれば、結界の維持が簡単になりますから」
領主や代官の魔力不足、無法者の襲撃などでせっかく開発していた領地を失うこともないから、研究はしていて当然か。
「それにしても、機体が増えたなぁ……」
現在、グラック家が所有している魔晶機人は十二機まで増えていた。
放棄地で水晶柱を回収した際に、魔晶機人も放棄されているのを目撃したので、予備部品やパーツなどと一緒に拾って持ち帰ったのだ。
ただし、マルコが十歳になるまで魔晶機人に乗れるのは私だけであった。
予備機が随分と増えてしまった。
あって困るものじゃないからいいけど。
百年以上も放棄されたのに、ヒルデが整備したら使えるようになる魔晶機人って整備性が凄いと思う。
ヒルデの腕がいいというのもあるのだけど。
「今日は、どの装備を使いますか?」
「スコップで」
「わかりました。エルオール様が考えた装備は便利なものばかりですね」
魔晶機人はみんな同じ五メートル級なので、最悪部品の共食いも可能であり……魔晶機人を作った古の技術者たちは品質管理も超一流だったようだ……それはよしとして。
意外と見つからなかったのは装備品であった。
飛行パーツは一つだけで合計二つ。
あとは、剣、槍、大斧、盾しかなかった。
魔晶機人も魔晶機神も、メインは格闘戦だから仕方がないのか。
巨大な弓などもあるようだが、威力はイマイチらしい。
飛び道具というと魔法らしいが、魔晶機人に乗れない魔力しかない魔法使いが魔晶機人に魔法を放っても効果が薄い。
それだけ、魔晶機人が万能というわけだな。
そんなわけで、私は領内開発にも使うので、スコップとか、ツルハシとか、トラクターの刃物に似た形のものとか。
これを魔晶機人が使えば、一度に広範囲を耕せる。
機械化した方が少ない人数で広い田畑を耕せるからな。
魔晶機人と、できれば魔法道具で農業機械や作業用車両があれば、グラック領での農業生産量は飛躍的に上がるであろう。
試しにバルクとヒルデに、簡単な図面でも渡してみるから。
とりあえず魔晶機人で、馬で引くような刃物をつけて畑を耕してみた。
思っていたほど重たくないので、わずかな時間でかなりの面積の畑を耕せたな。
あと、魔晶機人と大きな農機具を入れやすいよう、畑を四角く区画整理しておいてよかった。
当初、結構反発が大きかったんだが、畑の面積が増え、農作業が楽になると、私が領民たちを粘り強く説得したのだ。
「既存の畑を耕すのはこんなものかな。次は、結界の範囲内に入った土地を一日でも早く開墾して畑にしないと」
せっかく土地があっても、使われなければ意味がない。
私は、結界の範囲に入って魔物がいなくなった土地の木を大斧で斬り倒し、切り株を引っこ抜き、土を起こして畑を作っていく。
「案外、いい訓練になるなこれ」
「エルオール様、魔晶機人を使うと農作業も便利なんですね」
「マジッククリスタルのコストが高くて、普通の操者はこんなことしないけど」
私は、マジッククリスタルなしで魔晶機人を動かせるので問題ない。
田畑が広がり、農作物の収穫量が上がれば、私の領主としての地位も安泰というもの。
頑張って未開地の開墾を進める私であった。