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第一話 私の前世がエリート軍人にして、機動兵器のエースパイロットだったって話を、あなたは信じますか?(前編)

「こちらは、汎銀河共和国宇宙軍特務隊所属ケンジ・タナカ上級大佐。これより降下作戦を開始する」


『上級大佐殿自らですか?』


「それが私の任務なので。ところで、そちらの戦況はどうですか?」


『作戦は順調に進んでいます』


「(嘘つけ!)了解した」




 地球のみに住んでいた人類が宇宙に出て、すでに三万年。

 銀河系には数多の惑星、星間国家が生まれ、そして滅んでいった。

 現在、人類の故郷である太陽系を領有している汎銀河共和国は全銀河の三分の一を支配する強大な星間国家とされていたが、その内情はといえば、常に支配下にある惑星国家の反乱鎮圧に奔走させられていた。

 今もとある惑星で発生した反乱に、その宙域を担当する特務隊ケンジ・タナカ上級大佐……つまり私のことだ……が鎮圧作戦を実行しようとしている。

 私は戦闘用の『コンバットスーツ』に乗り込み、母艦である特殊航宙強襲艦『アマギ』を管理する高性能アンドロイド『フィネス6687』に現場の状況を聞いた。


「フィネス、惑星サントナムの反政府勢力の戦力はわかるか?」


 私は、アマギの格納庫内にある共和国軍最新鋭コンバットスーツ『レップウ改強襲タイプ』のコクピット内から、フィネスの報告を受けている。

 見た目は十八歳くらいに見えるフィネスは、共和国軍最新鋭の科学技術を駆使して開発された高級軍人サポート用の高性能アンドロイドだ。

 美少女そのものといった外見と、抜群のスタイルのよさ、艶やかな黒髪を腰まで伸ばしていて、噂では開発者の趣味と言われていた。

 高性能アンドロイドは、軍が少数の戦力でテロと反乱勢力を鎮圧するため、共和国軍特殊部隊には必ず配備されるものだ。

 もはや慢性的となった、軍の人手不足を補うためという理由が一番大きい。

 本星からわざわざ艦隊を派遣するよりも時間と経費がかからないので、コンバットスーツという人型機動兵器、その母艦、サポート用の高級アンドロイド、そしてパイロット、艦長、司令を兼任する特殊部隊員は、汎銀河共和国全土に分散して配置されていた。

 分散して配置されてはいるが、その担当エリアが非常に広く、とても忙しいのも事実であったが。


『大まかにはですが』


「教えてくれ」


『宇宙用の戦闘艦艇はありません。比較的重火力の地上部隊が約五百人に、我々に比べると二世代旧式の装備。最後に、コンバットスーツが三体確認されています』


「陸兵たちは、惑星政府軍の下げ渡し品を手に入れたのか」


『大方、惑星サントナムの政府関係者が横流ししたと思いますが……』


 国の中枢を抑える汎銀河共和国軍は常に最新の装備を使用し、装備更新時に余った旧兵器を支配下の惑星政府に売却・援助するという方式を取っている。

 今回のような反乱になった時に備えて、惑星政府には常にワンランク、下の兵器を使わせるのだ。

 ところがその政府関係者の中に、懇意にしている民間警備会社、いわゆる傭兵やテロ予備軍のような連中に装備更新で余った二世代前の武器を売却してしまう連中がいる。

 お金になればいいと短絡的に売却して、それが反政府組織なりに渡って自分たちを苦しめる。

 愚かだとは思うが、人間とは、お金のためならそういうことを平気でしてしまう連中がいるというわけだ。

 そして、その火消しで私は出撃しようとしている。

 あまり建設的な仕事とは言えないが……。

 だから軍人は人気がないというのもあった。

 特殊部隊員ともなればかなりの高給取りではあるが、休みも少ないし、たまに休めても宇宙空間を遊弋している軍艦の中ではどこかに出かけることも不可能で、使う機会のない金が貯まっていく一方であった。

 ある程度務めて金を貯めたら辞めてしまう人も多く、それゆえ残存者が余計に忙しくなるという悪循環となっていた。


「反政府軍のコンバットスーツは?」


『ハイネケン社製のレオパルド17改です』


 旧ドイツ系の流れを組むコンバットスーツ製造メーカーの老舗で、常に高性能な新型機を世に送り出し続けている。

 たまに奇をてらったような製品を世に送り出すこともあるが、基本的には造りが堅実でバランスが取れた機体が多いので、軍人からの評価も高い。


「何十年前の機体だっけ?」


『正式採用は五十七年前です』


「ハイネケンとフジイインダストリーのコンバットスーツは丈夫だよなぁ……」


『しかしながら、よほどの手練れが搭乗していない限りは大丈夫だと思います』


「そんな手練れが、こんな辺境惑星の反乱に参加するとは思えないな」


 コンバットスーツとは、宇宙、空中、地上、水中、深海などのありとあらゆる環境で最強の戦闘能力を持たせようと開発された、全高十五メートルほどの金属の巨人である。

 その名前からして最初は歩兵用のパワードスーツが元になっているのだが、時代と共に改良が加えられて、今では強化スーツの頃の名残は残っていない。

 その名前くらいであろう。

 兵器運用技術の高度化によって軍事予算における人件費の割合が増えると、共和国軍における歩兵の割合は著しく減少していた。

 その代わりを、ロボットの兵隊で行えるようになっていたからだ。

 ロボット兵は導入価格が高いが、維持費は安く、人間の兵隊を定年まで養うよりは安い。

 人件費のみならず、軍人を一人前にするにはお金がかかるというのもあった。

 その点ロボットならば故障しても修理すればまた使えるし、人間の軍人のようにもの凄い天才が現れるということもないが、平均的に任務をこなせる。

 元々軍人の仕事は人気がなくなっているし、兵隊が戦死すると見舞金と遺族年金で経費が嵩む。

 反戦団体から目の仇にもされるので、現在の共和国軍ではロボットに置き換えられる部署にはすべてロボットが配置されていた。

 実際、アマギにも約千体のロボット兵たちが配置され、艦の運行、修理、保全が完全に行われていた。

 私の下で、ロボット兵たちを統括する高級アンドロイド『フィネス6687』もいる。

 彼女はコンバットスーツで出撃する私の代わりに、アマギの管理とロボット兵たちの指揮も担当していた。


「サントナム惑星政府軍の降下部隊はあまり当てにしないように」


『なぜ出しゃばるのでしょうか?』


「脛に傷があるからだと思うよ」


 間違いなく、私を助けるためにという善意からではないだろうな。

 特殊部隊の参加を縄張り荒らしだと言って嫌う、惑星政府軍も多いのだから。


「反政府軍に武器を横流しした連中が、政府中枢や軍にいるのだろうと思う。先に証拠隠滅したいのが人情じゃないか」


『世も末ですね』


 アンドロイドは不正なんてしないからな。

 彼らの行動がよく理解できないのだと思う。


「自分たちで口を塞がないと、気が済まないんだろうな」


 惑星政府の汚職に、いくら特殊部隊とはいえ共和国軍が口を挟むことはない。

 こちらに害があれば例外であったが、所詮は惑星サントナム内の出来事だ。

 直接彼らの悪意を受ける私からすれば迷惑であったが、これも仕事のうちだと割り切るしかない。

 特に気にも留めず、いつでも大気圏降下が可能なように準備は万端に整っていた。


『サントナムの惑星政府軍が、反政府軍と交戦を開始しました』


 助っ人である私は大気圏降下で反政府軍の基地を急襲する予定になっていたが、先に惑星政府軍が反政府軍の基地がある山岳基地に地上と空から攻撃を仕掛けていた。


「戦況は?」


『膠着状態です』


「なぜそうなる?」


 サントナムの惑星政府軍はもの凄く弱かった。

 反政府軍の二十倍以上の戦力を準備したにも関わらず、苛烈な抵抗を受けて敵基地の内部にすら入れていなかったのだから。


「コンバットスーツ部隊は? サントナム軍には『ベアキャット4』が配備されていたはずだろうに」


 共和国軍では三十年近くも前に採用された機体であったが、少なくともレオパルド17改よりは一世代あとの機体だ。

 数も政府軍の方が多いはずなのに、なぜか苦戦していると報告を受けて、私もフィネスも困惑していた。


『政府軍のベアキャット4は三機が完全破壊され、四機が損傷して後方に下がりました』


「実は、反政府軍の連中は精強なのか?」


『いえ。退役軍人である可能性は高いですが、技量は普通かと。むしろ政府軍の練度の低さが問題です』


「それは、子供が見てもわかる」


 どういう基準で鎮圧部隊を選んだのかは知らないが、二十倍の戦力で攻めて一方的に負けているのだ。

 地の利以前の問題としか思えなかった。


「もういい。降りるぞ」


『なぜ上級大佐殿が呼ばれたのかはわかりましたね』


「ああ」


 この程度の反政府勢力の掃討にわざわざ共和国本星から特殊部隊が呼ばれたのは、サントナムの政府軍が著しく頼りないからなのであろう。

 諜報部の成果なのだろうけど、私の仕事が増えて面倒でしかない。


「降りるぞ。一応、誤射は控えるように言っておけ。まあ、言っても無理だろうが……」


『一応伝えておきます。妨害波で届かないでしょうが……』


「では、出してくれ」


『了解』


 私の命令で、フィネスはアマギからケンジのレップウ改強襲タイプを射出した。

 空中・地上戦闘用に外付けの装備が換装されたレップウ改強襲タイプは、私の操縦で滑らかに大気圏に突入し、そのまま反政府軍の基地上空で飛行用のウィングを広げる。


「全周波帯にジャミングが入っているな」


『妨害波多数。頼りは視界と念波のみとなります』


 フィネスからの報告によると、反政府軍は各種妨害波を盛大に発生させているようだ。

 電波、音波、磁気、熱探知と、ほぼすべての探知機器が封じられ、通信もできず、頼りになるのは目視だけという、大昔では普通だった目視戦闘のみの状態に戻っている。

 唯一の例外である念波は脳波の一種で、これは選ばれた人にしか使えない。

 人が宇宙に出るようになってから発生した、昔の古典アニメで出てくるような超能力に類する力であったからだ。


「酷いものだな……」


 私は、念波を出して戦場の把握に入る。

 サントナムの政府軍と反政府軍の戦闘は、廃鉱山を改造して造られた山岳基地の入り口を中心に行われていた。

 最重要防衛拠点である基地のメインゲートに、反政府軍のコンバットスーツが三体配置され、攻め入る政府軍を相手に有利に戦闘を進めている。


「反政府軍は、地形を上手く利用して戦っている。政府軍のコンバットスーツパイロットたちも腕は悪くないな」


 共和国軍のパイロットに比べればどちらもイマイチではあったが、地方の惑星政府が抱えているパイロットならこれで十分であろう。

 下手に凄腕だと、鎮圧する私が面倒なのでこれでいいのだ。


『訓練度Cプラス、反応速度は推定0.43です』


 妨害波多数で通常の通信機器は使えないが、私の念波を利用した戦闘映像がフィネスに送られ、それを元に彼女が、即座に反乱軍パイロットたちの技量を算定してくれた。


「悪くはないかな」


 共和国軍では、標準的な新人期間が終わったパイロットたちといった感じだ。

 地方惑星政府軍の基準だと 彼らでも一流の扱いになると思う。

 優れたパイロットを育成するには金と時間がかかるし、彼らの敵は大半がコンバットスーツを持たないテロリストや宙賊、反政府組織なので、要は普通にコンバットスーツが動いてくれれば用が足りるからだ。

 今回のケースは、滅多にない例外と言えよう。


『サントナムの政府軍は、わざわざバカ正直に正面入り口から攻め込んで、一方的に犠牲を出して負けているのですね』


「そういうことになる」


 現状ではサントナム政府軍の犠牲ばかりが多く、そのせいで士気の低下が著しいようだ。

 それに加えて、爆撃のために上空に達した空軍機も、廃鉱山に設置された無人対空ミサイルとビーム機銃によって次々と落とされていた。

 自分たちが出している各種妨害波のせいで命中率には期待できないが、各ミサイルランチャーと機銃台により担当するエリアを決めてぶっ放しているため、ノコノコとそこに入り込んだ政府軍の空軍機に予想以上の犠牲が出ていたのだ。


「入り込むか? あんな危険な空域に?」


『どうやら各機同士の通信まで阻害されているようですね。爆撃続行のため、高度を落としすぎたのでしょう』


「そこは一旦中止しておけよ」


『通信ができないので、多分空軍の司令部も混乱しているのでしょう』


 せっかくの近代兵器なのに、指揮官がバカだと案外呆気ないものだな。


『こちらトレボー3! 無人の対空ビーム機銃が多数設置されている! 隊長も副隊長もすでに落とされた!』


『司令本部! 事前に伝えられていた作戦続行命令では全滅してしまう! 撤退の許可を! もしくは飛行バージョンのコンバットスーツを応援に寄越してくれ!』


 すでに、反政府基地上空を飛んでいる航空機の数は少なかった。

 軍隊の悲しい性で、彼らはたとえ通信途絶状態でも、事前に命令されていた山岳基地の空爆を中止できず、山岳基地の各所に設置された無人対空火器の攻撃を受けて壊滅状態になっていたのだ。

 生き残りが通信機で懸命に撤退の許可を求めているが、届かなければ意味がない。

 私は念波でそれを傍受していたが、それをサントナム空軍の然るべきところに伝える術がなかった。


「全滅されたら後味が悪い。先にあれをやる」


『了解しました。サポートに入ります』


 私は、愛機を廃鉱山の山腹に設置された無人対空火器群へと向けた。

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― 新着の感想 ―
多分だけど男性型:アンドロイド、女性型:ガイノイドじゃないかな
[一言] ハイネケンなのにオランダじゃなくてドイツなのかw
[一言] ロボットの場合、コンピューターに使用されるICチップとかプログラミングとかアプリなどのソフト面を改良すれば回避率とか銃&ミサイルなどの射撃兵器の命中率を上げられて戦力の強化をしやすいでしょう…
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