第百四十三話 迷惑な結婚祝い
「花婿、花嫁の入場です!」
司会役の貴族が、拡声器で結婚式を案内していく。
総旗艦ゾフの広い甲板には、着飾った大勢のゾフ王国貴族とその家族、軍人、商人が集まっていた。
さすがに披露宴は別の会場で行うが、軍艦の甲板で、しかも花婿、花嫁たちが装飾した魔晶機神改を操縦しながら甲板に降り立つのは、今が戦時であるからというのもあった。
新しいゾフ王国は四ヵ国で構成された連合国家で纏まりが悪く、いまだゾフ王国に対し異心を持つ者も少なくない。
そのため今日の結婚式は彼らの度肝を抜き、その謀反心をへし折るためでもあった。
参列者の中には他国の王族、貴族も多数参加しているので、ゾフ王国の軍事力を見せつける目的もある。
私たちの機体だけでなく、ゾフを守るようにマルコが団長を務める近衛騎士団の魔晶機人改Ⅱが護衛をしていたし、ラウンデルが指揮するエア・トランスポート部隊の精鋭がゾフの上空でアクロバット飛行をしながら空にカラースモークで新しいゾフ王国の国旗を描くと、参列者たちから歓声があがった。
「そんなわけで、こんな風変わりな結婚式になったのさ。機体の装飾と整備、大変だっただろう」
「いえ、それほどの手間ではなかったですよ」
ヒルデは操者ではないので、ウェディングドレス姿で私のレップウ改に同乗していた。
私は国王なのでタキシード姿ではなく、王冠を被って正装しているが、普段まったくこういう服装をしていないので肩が凝ってきたかもしれない。
『ヒルデ、いいなぁ』
『そうよな、妾もエルオールの機体に乗せてもらいたいぞ』
『リリーは自分で操縦したい人だと思っていました。余こそ、夫君の機体に乗せてもらいたいです』
『エルオールさん、あとで乗せてくださいね』
『ケイト、抜け駆けはナシじゃぞ。妾も乗せてくれ』
「みんな、わかったから。あとで順番にね」
リンダ、リリー、アリス、ケイトから、ヒルデだけ私の機体に乗せてもらって羨ましいという通信が入ってきた。
羨ましいのかぁ……。
自分で操縦できるから、無理に私が動かす機体に同乗する必要はないと思っていたのに……。
「エルオール様は、女心が理解できていないと思います」
「そうなの?」
「整備や改良を終えたあと、私もエルオール様の機体に同乗することがあるじゃないですか」
「あるね」
ヒルデ曰く、『近くでエルオール様が機体を動かす様子を見た方が、自分の整備と改良の成果がわかりやすく、今後の整備、改良プランを考えやすい』のだそうで、別にデートではないのだけど……。
「それでも、なかなかエルオール様と二人きりになる機会なんてないですから。その辺はちゃんとフォローした方がいいですよ」
「なるほど。参考になった」
私は前世でも恋愛経験が少なかったため、ヒルデのアドバイスがありがたかった。
さすがは姉さん女房といったところか。
『陛下、所定の場所に降りてください』
「了解」
特設ステージの真ん中に私のレップウ改が降り立ち、その左右の両脇にアリス、リリー、ヒルデ、ケイトが魔晶機神改で降りると、参列者たちからの歓声があがった。
そして操縦席のハッチから、王の正装姿の私はウェディングドレス姿のヒルデの腰に手を回しながら、リリーたちもそれぞれウェデイングドレス姿のまま昇降用のロープで機体から降りる。
すると、参列者たちからさらに大きな歓声があがった。
「魔晶機神を用いた結婚式か。まさに王の結婚式に相応しい」
「陛下も奥方たちも凄腕の操者揃いだ。これでゾフ王国も安泰だな」
型破りな結婚式ではあるが、このようなご時世と政情なので仕方がない。
でも思った以上に盛り上がっていた。
戦時とはいえ、みんな娯楽を欲しているのだと思う。
「私は豪華なウェディングドレスを着ることができて満足です」
「ヒルデの言うとおりじゃ、これはこれで記憶に残るいい結婚式じゃからの」
「他国から招待した王族、貴族たちは度肝を抜かれたようですね。余も楽しいです」
「エルオール、早く結婚式を進めましょう」
「みなさん、心待ちにしていますからね」
私と五人の花嫁は、設置された祭壇の前で待ち構える神父の前に立つ。
すると神父が早速結婚式を始めた。
「汝、エルオール・グラック・ゾフは……」
ゾフ国王になった私であったが、正式な名前が決まったのは実は先週だった。
元はしがない郷士家の跡取りではあるが、その家名をミドルネームに残すことで、そのルーツであるグラック家を称える。
アリスがそれを提案し、父と母は『素晴らしいお嫁さんだ』と喜んでいた。
それと同時に、結婚式が終わったらマルコも『グラック公爵家』の家督と領地を継承し、父は『グラック大公』、母は『グラック大公妃』という名誉称号を死ぬまで名乗れることに。
もっとも両親たちは、今日は結婚式に参列しているが、普段はずっとグラック領で領地の開発を進めていた。
近衛騎士団長になったマルコは王都にいることが多いので、彼の代わりに領地を開発する役割を担っているのだから。
周辺の広大な土地も与えられたグラック公爵領には多くの難民たちも住み込み、現在急ピッチで開発が進んでいた。
「ヒルデ・フォン・フラフト、リンダ・フォン・ファーレ、リリー・フォン・サンデル、アリス・ゾフ、 ケイト・フォン・デルファイを妻とし、生涯愛することを誓いますか?」
「誓います」
まさか、一度に五人の妻を迎えることになるとは思わなかった。
もしかすると、前世ではまったく女性に縁がなかったのでバランスを取っている?
そんなわけないか。
「ヒルデ・フォン・クラフト、リンダ・フォン・ファーレ、リリー・フォン・サンデル、アリス・ゾフ、 ケイト・フォン・デルファイ。あなたがたは、エルオール・グラック・ゾフを夫とし、生涯愛することを誓いますか?」
「「「「「誓います」」」」」
「それでは誓いの口づけを」
順番に五人の妻たちと誓いの口づけをすると、多くの人たちが歓声をあげた。
これでゾフ王国も安泰……だと思うのかな?
続けて用意していた指輪を妻たちの薬指に嵌めてあげて、これで結婚式は終わり……と思った瞬間だった。
『兄様、突如王都近郊の上空に、要塞クラスが出現! ネネ!』
『落としに行ってきまぁーーーす!』
ゾフの周辺を警戒していた近衛騎士隊が、王都郊外へと全速力で飛んでいく。
要塞クラスなので、多数で落とさないといけないという判断なのだろう。
そちらはマルコたちに任せるとして……。
「まさか、異邦者がゾフ国王の結婚式を狙って奇襲、テロを目論んだのか? ますます知恵がついたの」
「そもそも、どうやって大要塞クラスが突如王都郊外に出現したの? 国境付近ですぐに見つかってしまうはずなのに……」
いきなり出現した異邦者、それも要塞クラスに、リリーとリンダは驚きを隠せないでいた。
瞬間移動でもしなければ国境付近で気がつかれ、強化したゾフ王国軍によって落とされてしまうからだ。
「それはわからないが……。いくぞ!」
「エルオール様、会場の端に設置されたラックに新しい武器があります」
「ありがとう、ヒルデ。すぐに戻ってくるから」
これは元軍人の勘というか、私はすぐに自分に機体へ乗り込み、会場の端に置かれたラックに収容されていた武器を手にした。
「(日本刀か?)」
『エルオール様、先日、ラーベ王国から撤退する時に戦った超高速異邦者の体を構成していた特殊な金属を加工したんです。とても硬くて加工に時間がかかるので、まだその一本しか完成していませんけど』
「これがあれば。出るぞ!」
『エルオールさん、どうして近衛騎士隊だけに任せないのですか?』
と、私に聞きつつも、さすがは凄腕の操者だ。
すでにケイトも自分の機体に乗り込んでいた。
リリー、リンダ、アリスも同様であったが。
「突如、王都郊外に要塞クラスが出現し、近衛騎士隊がそれを倒しに行く。すると、ゾフ周辺の守りが薄くなるだろう?」
『まさか……』
「そのまさかだ。ほら!」
私の予想は正しく、今度が突如ゾフの上空に大隊長クラスの異邦者が出現したからだ。
私たちを討つ本命はこの大隊長クラスの異邦者で、王都郊外の要塞クラスは囮ということになる。
『エルオール! 異邦者が瞬間移動をしたぞ!』
「凄いけど、万能な能力ってわけじゃないな」
新しい刀を構えながら、私は全速力で大隊長クラスへと突進していくが、すでに大隊長クラスはボロボロだった。
どうやら瞬間移動は体に大きな負担がかかり、万全な状態とはいかないらしい。
それでもタンを連発するが、それらはリリーがラックから取り出して撃つ大型ショットガン、リンダとアリスが協力して放つガトリング砲により、私に当たる前に落とされていく。
続けて、すでにボロボロの大隊長クラスが爆発し、爆風と煙が晴れると大きな穴が開き、体液が大量に流れ出ていた。
ケイトが、大型のロケットランチャーで大ダメージを与えたのだ。
『早速ながら、夫婦の共同作業でございます』
「アリス、司会役ってルペン子爵だったっけ?」
『お調子者で、結婚式の司会をよく頼まれるのです』
「わかるわぁ、落とす!」
あとはトドメとばかりに、無事大隊長クラスに接近した私が新しい刀で思いっきり斬りつける。
すると金属の塊に寄生しているはずなのに、まるで紙を切るかのように大隊長クラスが真っ二つに斬り裂かれ、そのまま王都郊外の森へと落下していった。
「ふう……。ヒルデ、これ凄い斬れ味だな。量産したいな」
『材料の金属はまだ解析中でして、それがわかっても製造技術を獲得するのに時間がかかると思います。材料も手に入るかわかりませんし。サンプルで使う分以外の超高速異邦者の死骸でなるべく多くの武器を作りますね』
「お願いね。じゃあ、結婚式と披露宴を続けるか」
『兄様、要塞クラスは落としましたけど、最初からボロボロでした」
「そっちもか」
異邦者が任意の場所に瞬間移動できるようになったとはいえ、一度に送り出せる戦力には限りがあるようだ。
しかも、瞬間移同だけでダメージを受けてしまう。
要塞クラスと大隊長クラスがあんなにボロボロになるということは、それ以下の大きさの異邦者は瞬間移動に耐えられないのだとも予想できる。
だが、突如中枢に奇襲をかけられる瞬間移動は非常に厄介だ。
ゾフ王国なら対応できるが、他国は厳しいかも。
なにより、攻勢に出ることが難しくなってしまう。
ますます異邦者は手強くなるが、今日はめでたい結婚式だ。
護衛はマルコとラウンデルたちに任せて、披露宴に臨むとしようか。




