第百三十八話 政略結婚必要論?
「ちっ! 本当においでなすったな! ウェルド隊の諸君、緊急スクランブルだ!」
「はぁーーーあ、了解」
「眠い……」
「ちゃんと目を覚まさないと死ぬぞ」
夜中、就寝していたら警報が鳴り響いた。
この辺境基地に設置されたレーダーに、異邦者の反応が出たようだ。
ここは旧ラーベ王国領最北部にあった国境警備隊の駐屯地であったが、現在はゾフ王国の基地となっている。
陛下が王都で異邦者の親玉を倒している間に、アリス様の命令を受けて急ぎ最低限の整備が整備されたが、今も工事が続いている状態であった。
これより北にはいくつもの国や貴族領が点在するが、その間には広大な魔物の棲家が広がっていた。
そして、その魔物の領域に我が物顔で居座り、時おりゾフ王国領に侵入をはかる異邦者たち。
我らゾフ王国軍は、陛下のおかげで旧ラーベ王国の奪還に成功したが、早速嫌がらせのように異邦者たちが、少数で侵入を図ろうとするようになった。
それを撃退するのが、我ら国境沿いに配置された魔晶機人改Ⅱ部隊というわけだ。
「見えた! やはりレーダーってのは便利だな」
「隊長、基地もこの機体も明るくていいですね」
「異邦者がこちらに引き寄せられるという欠点もあるけどな。その方がわざわざ探さずに済むから都合がいいとも言えるが」
これまでは、魔晶機人で夜間に戦うどころか、動かすことすらしなかった。
ごく少数、夜目が利く操者たちが他国の夜間偵察や間諜の送り迎えなどに使われることもあったが、あまりに少数すぎて、私はそういう任務をしている操者と会ったことがない。
そして、夜目が利かない普通の操者による夜間行動は灯りの確保が難しく、機体を破損しやすい。
その分経費がかかるので、よほどやる気がある国や貴族以外は運用すらしていなかった。
なにより灯りとなる巨大松明は用意が面倒で使い勝手も悪く、魔法使いの『ライト』は、魔法使い自体の確保が難しい。
夜に魔晶機人を動かすためだけに、わざわざ貴重な魔法使いを招集し、機体に同乗させるなんてそう簡単にできないからだ。
その点、この夜間用のライトは使い勝手がよくてありがたい。
点灯、消灯も操縦席からスイッチ一つでできて、松明のように火の様子や薪の状態を気にする必要もないからだ。
それに加えて、魔晶機人改Ⅱから標準装備となった機体レーダーのおかげで、真っ暗な夜間でも異邦者の場所がすぐにわかるようになった。
レーダーは大型で性能が良いものが基地にも配備されており、異邦者の位置を通信機で教えてくれるのもいい。
最新鋭の通信機は異邦者の妨害を受けることもあったが、妨害を受けない旧来の魔法通信機も改良されて引き続き搭載されているので、数十キロ圏内くらいなら問題なく通話が可能だった。
『隊長、情報どおり五体の異邦者です。兵士クラスですが……』
「大きさがバラバラだな」
『進化している個体もいるってことですか?』
「みたいだな」
旧ラーベ王国を守っていた異邦者たちは、以前より体が一回り大きくなって防御力が上がったり、タンの射程距離と攻撃力が上がっていたり、撃破された機体に寄生して魔晶機人ように戦ったり。
ついには、巨大な魔晶機神になって陛下ですら苦戦させたと聞く。
まるでこちらに対応すべく、進化しているようだ。
『こちらが戦力を増せば、向こうも対抗してくるんですね』
「異邦者とて、我々に一方的にやられたくないだろうからな。撃ち落とせ!」
『『『了解!』』』
幸い、陛下とアリス様が国境沿いの基地に優先して新型機と新装備を配備してくれたので、犠牲ナシでゾフ王国領に侵入を図った異邦者を全機落とすことができた。
「残骸の回収は、明るくなってからだな。位置を報告しておいてくれ」
『わかりました』
魔晶機人の残骸に寄生する異邦者の存在が確認されたため、異邦者の残骸は極力回収するようにとアリス様から命令を受けていた。
木や岩に寄生している異邦者もいるのだが、まさかすべての木や岩を回収するわけにもいかず、こちらはそれほど強くないので回収の指示は出されていない。
『頻繁というわけてまもないですが、たまに来ますね』
『一昨日は、隣の基地が夜中に迎撃に出たと聞いています』
『昼に迎撃をしたこともありますし、本当の昼夜問わずですね』
「そうだな」
魔物には夜間に行動する種もいるが、水晶柱が設置された土地に侵入してこない。
逆に異邦者はこれまで夜間に活動することはほとんどなかったのに、こちらの隙を突くべく夜間行動もするようになったということか……。
「基地に戻ったら、報告をあげないとな」
『新型の57ミリ銃は効果抜群でしたね』
「今後、異邦者がさらに進化したらわからないがな」
ゾフ王国の軍事技術は他国を大きく引き離して世界一なのに、陛下とアリス様は、フィネス様とヒルデ様、バルク様に命じて、常に新型の開発、量産、配備を進めている。
それは、ゾフ王国最大の仮想敵が他国ではなく、短期間で進化を遂げる異邦者だからであろう。
「他国はオンボロで戦っている。それに比べたら、我々はツイているな」
『おかげで命拾いしていますよ。まさに陛下様々ですね』
操者としての腕前もそうだが、元は他国の郷士であった陛下がゾフ王国人たちから絶大な支持を得ているのは、常に犠牲者を出さないように動いてくれるからだ。
その過程で、ゾフ王国は四ヵ国を併合して大国の仲間入りを果たしたというのもあるのだけど。
「しかし、今後はわからないがな」
今のところゾフ王国は順調で大国となり、貴族も民も家族も生活が良くなったと喜んでいるが、倒しても倒しても出てくる異邦者の存在は不気味で、人間が異邦者によって滅ぼされてしまう未来がないとは決して言えなかったからだ。
他国では、異邦者によって祖国を追われた人たちも少なくない。
ゾフ王国に逃げ込む難民があとを絶たず、難民の保護も我々の仕事の一つになっているほどだった。
大局的にいえば、人間は異邦者に負け続けているとも言えるのだ。
「(だがそれでも、他国と比べたら我々は幸せなんだろうな)」
操者として最新鋭の機体を与えられ、国を守るという名誉も与えられている。
今はこの基地で一体でも多くの異邦者を落とし、民たちを守ることを続けようと思う。
できれば艦隊に配属されて戦いたい気持ちはあるのだけど、艦隊に種族されるのは選りすぐりの凄腕ばかりだ。
選抜されるように頑張らないと。
まだまだ異邦者との戦いは続くので、きっとチャンスはあるはずなのだから。
「本当に王城がなくなってしまったのですね……。何度も機体のスクリーン越しに見てはいましたけど……」
旧ラーベ王国の王都では、早速片付けと再開発が進んでいた。
王都の象徴であった王城は蟻塚の材料にされてしまい、そのあとラウンデルのエア・トランスポート 部隊によって爆撃され、瓦礫の山と化してしまった。
王城跡に新たに政庁を建設する予定のため、現在急ピッチで瓦礫の撤去が進んでいるが、その作業をケイトが物悲しそうに見ていた。
ラーベ王国の象徴である王城が破壊されてしまったことにより、本当にラーベ王国がなくなったのだと実感しているのだろう。
実の姉に毒殺されかけるし、最後は色々とグダグダだったが、祖国がなくなるとなれば悲しくなって当然だ。
「私は祖国をなくしたことがないから、慰めの言葉も見つからない。だけど、多くの人たちは救えた。それでプラマイゼロと考えて、今後、この王都はゾフ王国の都市として再開発も進むから大幅なプラスになると考えよう」
「そうですわね。じきにこの『ラーベランド』も多くの人たちで賑わうでしょうから。ゾフに戻りましょうか?」
「そうだね。まだ王都にお店がないのが困りものだ」
「王様が買い食いをなさるのですか?」
「そんな王様がいてもいいと思わないか?」
「そうですわね。『王様が買い食いなんて!』と言いそうなラーベ王国貴族の多くが滅びました。なんでもそれが昔からの決まりだと言ってなにも変えなかった結果、国を滅ぼしてしまったのですから」
ケイトはザ・王女様という見た目をしているのに、柔軟な考えを持っている。
だからラーベ王国は滅んでも、ラーベ王家の血と民を残せたのだと思う。
「エルオールさん、もうすぐ結婚式ですわね」
「そうだねぇ」
ヒルデ、リンダ、アリス、リリー、ケイトと。
随分と花嫁が多い結婚式だけど、旧ラーベ王国領を加えた新たなゾフ王国をアピールするため、かなり盛大にやるとアリスから聞いていた。
なおどんな結婚式なのかは、当日のお楽しみだとアリスが言っていて秘密になっていた。
花嫁たちは、それぞれ花嫁衣装の準備だけしておくように言われているらしい。
「あれは……」
そんなことをケイトと話しながら歩いていたら、彼女がなにかを見つけたようだ。
そちらに視線を送ると、マルコとネネが楽しそうに話をしながら歩いていた。
「随分と仲が良さそうですね」
「まあ、なるようになったようだな」
マルコはネネのことが好きで、結婚したいと思っているのが丸わかりだった。
それにしても我が弟ながら、姉さん女房とはやるじゃないか。
私も年上の婚約者が複数いるけど、私の場合中身がオジさんなので、あまり姉さん女房感がないというか……。
今後マルコが当主になるグラック家は公爵家となり、王族としてゾフ王国を支える存在となる。
だから、ゾフ王国、旧サクラメント王国、旧ラーベ王国、旧リーアス王国貴族たちも、マルコに娘を嫁がせたくて仕方がないらしい。
だからネネは遠慮しているのか、実は他に好きな人がいるのか?
今の二人を見ると、そういう雰囲気でもないか。
私に言わせると、マルコがネネと結婚したいのなら、それでいいと思うのだけど。
「マルコの好きにすればいいし、私はそれを応援するよ」
「私は一応元王女なので少し違和感を覚えますけど、政略結婚に拘った姉様たちと彼女を支持していた貴族たちの多くが滅びましたしね」
「異邦者に対し政略結婚なんて意味がない、とまでは言わないけど、それよりも実際に力をつけないと異邦者に勝てないからなぁ」
娘を誰に嫁がせるか考えるよりも、国力と戦力増強を優先した方がいいに決まっている。
それに、グラック家は元々郷士にしか過ぎない。
家柄とか言われても困惑してしまう。
私やマルコの子供や孫たちは政略結婚の運命から逃れられないかもしれないけど、初代である私たちは好きにすればいいと思うのだ。
「だから私もアリスも、他の政略結婚を断っているし」
というかみんな、そんなに私の奥さんを増やしたいのかって思うほど、多くの貴族たちがアリスにお見合いの話を持ってきすぎなのだ。
私はハーレムに興味なんてない。
それなのに現時点で五人の美少女たちが婚約者であり、前世の非モテぶりから考えたら十分すぎるだろう。
そういえば前世で、軍の少ない休暇を利用して婚活パーティーに出席したことがあるけど、あれは不幸な結末だったな。
結婚相手としての軍人があまりに人気がなさ過ぎて、全然女性が話しかけてこなかった。
あの時に支払った会費ほど、無駄だと思った出費はない。
それが今は、私の婚約者候補が大勢押しかけてきているのだから、まさに隔世の感がある。
「ですが、さすがにゾフ王であるエルオールさんの奥さんが五人で終わりとは思えませんけど……」
「そうなの?」
「今後ゾフ王国は、他国と連携しながら異邦者の殲滅を目指すのです。他国の姫たちと婚姻関係を結ぶことによって、連携がスムーズにいくのであれば、それを受け入れる必要があるのではないでしょうか」
「それは普通の同盟でよくないかな?」
そのために、フィネスとバルク、ゾフ王国の技術者たちが、現在王都郊外に広大な工房群を建設、大量の兵器を生産しているのだから。
「異邦者と戦うために必要な火器や兵器を売ってあげたり供与することで、向こうも同盟関係を維持する努力をすると思うんだ」
そこに血の繋がりは必要ないと思うのだけど……。
「ええと……。それはそうなのですが……。たとえば、ケイトさんとか」
「ケイト?」
ケイトかぁ……。
向こうもそんなことを意識しているのが丸わかりだけど、これ以上婚約者を増やすのか?
という思いはある。
いい友達ではあるのだけど。
「アーベルト連合王国長年鎖国しており、これまでどこの国とも同盟を結びませんでした。今はそんなことを言っていられませんけど、ケイトさんと結婚すれば、アーベルト連合王国との同盟なり共闘の話もスムーズに進むのでは?」
「ケイトはそれでいいの?」
これ以上、私に奥さんが増えるのは嫌じゃないのかな?
あまり奥さんが多すぎると、全然相手にされない奥さんとかが出そうだし。
「ケイトさんとは戦友ですから。考えてもらえませんか?」
「考えておくよ」
「ありがとうございます」
ケイトは銀髪縦ロールでゴージャス系な見た目なのに、気さくで優しいよなぁ。
そんな彼女だから、私も婚約したのだと思う。




