第百三十七話 心臓を探せ
「こっちだ、デカブツ! 他のみんなは下がって、こいつの心臓を探して破壊するんだ! アリス! ゾフだけでなく、各艦に搭載してある探知機器をすべて動かして心臓を探してくれ。必ず王都かその周辺にある!」
『夫君、そのデカブツの気を散らすのであれば、他にも囮が必要なのでは?』
「これ以上犠牲は出したくないし、こいつの全力攻撃をすべて回避できる腕前があるのは私だけだ。言っておくが、自惚れじゃないぞ」
『それは余も含めて、誰もがわかっている』
「デカブツの心臓探しの指揮はアリスが執るように。ヒルデ、なんでもいいから火器を射出してくれ」
『わかりました! 射出時に、アラームが鳴るようにしておきます』
「ヒルデは気が利くな」
大剣の一振りで多くの味方を落とした巨大魔晶機神型の異邦者と、私との戦いは続く。
だが、どれだけダメージを与えても復活してしまうので、今は時間稼ぎに終始していた。
操縦席内でアラームが鳴った。
ヒルデが総旗艦ゾフの魔導カタパルトから火器を射出した知らせなので、タイミングよくそれを回収しつつ、巨大魔晶機神型の剣撃をかわす。
なかなかの綱渡りだが、前世ではたまにあったことだ。
体が成長するにつれて念波を長時間使えるようになってきたので、それも駆使して剣撃を回避していく。
「試作品の、散弾を発射する大型ショットガンか。まあ弾が出ればいいか……」
向こうの剣撃は大振りなので、回避すると隙ができる。
装甲がない首の後ろに向けてショットガンを放つと、そこにいくつも穴が開き、赤黒い体液を吹き出した。
「……駄目か……」
が、すぐに穴は埋まってしまった。
かなりのダメージを与えたはずだが、やはりすぐに回復してしまう。
心臓を破壊しなければ、永遠にこいつは動き続けるはずだ。
「異邦者に、こんな性質の個体がいたなんて……」
『可能な限り過去のデータを調べてみたが、ダメージを自動回復させる異邦者というのは記載されていなかった』
「独自の進化に至ったのか……」
「これまでの異邦者は、絶望の穴の周辺ですべて撃破していた。でも今は、世界中に散らばっている。魔物や無法者と共存とまでは言わないが、不思議と大きく争っているという報告もない。もしかすると……」
「繁殖するようになって、新たな進化を遂げた?」
「その可能性はなくもないと余は思っている」
「ううむ」
さすがはアリス。
すぐに異邦者が短期間で進化を遂げた理由を予測するなんて……。
確かに、魔物や無法者にとっても異邦者は侵略者のはずなのに、どういうわけか争った形跡が少なかった。
もしかすると、異邦者と魔物、無法者とで繁殖が始まったのかもしれない。
異邦者の繁殖力は低いのに、巨大魔晶機神型の異邦者の出現が早かったのは、異邦者が魔物や無法者の性質を繁殖で取り入れた可能性が高かった。
「それは調べてもらうことにして! ふう危ない」
あまり余裕をもって回避を続けると、私と戦うのを諦めてしまうかもしれない。
あと少しで目前の敵を剣で真っ二つにできると、巨大魔晶機神型の異邦者が思い込む動きが必要だ。
もし心臓を探しているリリーたちに、こいつが襲いかかるとまた犠牲者が増えてしまう可能性が高いのだから。
「おっと!」
巨大魔晶機神型の異邦者は、急ぎ私を殺そうと大剣を連続して振るい続ける。
その威力はすさまじく、風が発生して王都の破壊された建物の残骸を吹き飛ばし、街路樹をなぎ倒していった。
私はその攻撃を、ギリギリ回避しているように見せかけ続ける。
『エルオール! 大丈夫か?』
「もうすぐ倒せそうに見せかけているだけだ。それよりも……」
『デカブツの心臓を見つけて破壊しなければ、さすがのエルオールも逃げざるを得ぬか……。わかった、 急ぎ心臓を探そう』
「任せた」
私は人間なので、徐々に疲弊する。
全力で戦って体の筋が切れても、気にせず全力で戦える異邦者に持久戦で勝てるわけがないので、撤退を決意する前にリリーたちがデカブツの心臓を見つけてくれることを願うしかない。
その際、デカブツが味方の艦艇や機体に襲いかからぬよう、私が殿でその動きを食い止める必要があり、実はもうあまり時間は残っていない。
リリーたちが一秒でも早く心臓を見つけてくれることを願いつつ、私はデカブツの攻撃をかわし、挑発を続けてその気を惹き続けるのであった。
※※※※
「リック、蟻塚の残骸の下及び地下はどうだ?」
『聴音機で探っているけど、心臓の鼓動は聞こえないね。もしあのデカブツの心臓がかなり地下にあったら、この聴音機でも聞き逃すのでは?』
『アマギで試作された最新機器だから大丈夫だって、フィネスさんが太鼓判を押していたわよ。となると、王都の地下かしら?』
『王都は広いので、手分けして探しましょう。大まかな、分担表を作って送信します』
『マルコ様、もう『せんじゅつこんぴゅーたー』を使いこなしているんですね。ボクはまだよくわからなくて……』
「安心しろ、ネネ。妾もよくわからん。アリスとマルコしかまだ使いこなせておらぬ」
『私も基礎を教わってますが、覚えるのに時間がかかりそうですわ』
『私もです。マルコ様とアリス様が頭良すぎる。リリー様は……安心しました』
『ですよねぇ。私たちと同類で』
「ライムとユズハは、真面目に探せ!」
『『はいぃーーー!』』
『むむっ、無念。戦術コンピューターにも長い鍛錬が必要だと思うのだ。アーベルト連合王国にはそんなものなかったのでな』
『クラリッサさんとリリーさんが一番覚えが悪いって、アリスさんがおっしゃっていたのを思い出しましたわ。ただ私も、マルコさんに王都のデータを送ることしかできませんでしたけど……』
エルオールが命がけで巨大魔晶機神型の異邦者の気を引いている間に、妾たちはゾフから持ってきた試作品の聴音機を使って心臓を探していた。
『心臓だけを別の場所に置き、それを破壊しないといくらダメージを与えても回復してしまう。生物としてとんでもない無茶をしているので、本体から遠方にあることはあり得ません。多分、王都のどこかにあるはずです。そして心臓を探すには、その鼓動を探知できる聴音機を用いるのが最適ですから』
アマギで留守を守るフィネスの考察は正しいと、妾も思っていた。
心臓を離れた場所に置くとなると、異邦者の生命活動に著しい負担がくるはず。
それはあのデカブツの性能を大きく削ると思うので、必ず心臓は本体の近くにあるであろう。
妾たちは、マルコが即興で探索範囲を割り振ったデータを受信し、それに従って聴音機を動かしていた。
マルコはすぐに新しい装備や機械を使いこなせて羨ましい限りじゃ。
若いからかの?
「蟻塚の中及びその地下ではなかったか……」
『違法者は、俺たちが爆撃をすることを学習したはずだから、そこはあり得ないと思うな』
「であろうな」
もしかしたらと思ってリックが聴音機で探っておったが、やはりなかったか。
妾たちも聴音機を動かして、王都の建物の中や地下の音を探っていく。
あれだけの巨体を維持する心臓なので、さぞや鼓動も大きいはずじゃ。
「エルオールが疲れて撤退を決断する前に、心臓を見つけて破壊するのじゃ!」
妾なら、あのデカブツの攻撃をかわして逃げることはできよう。
じゃがそのせいで、デカブツは他の味方に襲いかかるはず。
エルオールはそれを防ぐべく、常にあのデカブツを挑発しつつ、わざとギリギリで攻撃を回避して、デカブツに自分を撃破可能だと思わせておる。
こんなことを下手クソがやれば、すぐに大剣で斬り裂かれるか叩き潰されて終わりじゃ。
「やはりエルオールは凄い」
妾も相当腕を上げたが、まだまだエルオールには叶わぬ。
いつかエルオールに勝てるよう、今は急ぎあのデカブツの心臓を見つけなければ。
「……反応があった!」
『どこだ?』
「王都メインストリートにある巨大な噴水の下じゃ!」
噴水が止まっていて、心臓の鼓動を探知しやすいのが幸いじゃった。
それにしても、こんな場所に心臓を置くとはの。
妾は上空に浮かぶと、持っていたレールガンで噴水を撃ち抜く。
噴水が粉々に吹き飛び、地面をえぐっていき、大量の土や石片が舞い上がった。
丁寧に地面を掘っている余裕などない。
どうせ無人じゃし、噴水や道などあとで直せばいいと、妾はすでに噴水があった場所となった地面に向けてレールガンを連射した。
「やはり弾数が足りぬの」
その前に、もう銃身が壊れて弾が発射できぬ。
あとでヒルデに、レポートを提出せねばの。
昔の妾ならレポートの提出など面倒臭がったであろうが、そのせいでエルオールや仲間や部下たちが死ぬのは堪らぬ。
『リリーは、武人ではなく軍人にならないと』
エルオールがそう言うので、妾は操縦訓練以外も頑張るようになっておった。
あと二ヵ月で妾は成人となり、エルオールと結婚できる。
旧ラーベ王国奪還と、このデカブツの討伐を成し遂げて、しっかりと嫁入りの準備をせねば。
『リリー、追加のレールガン参上! 』
『そこだな。どのくらい深い場所に埋まっているか知らないが、撃って撃って撃ちまくって、心臓を破壊してやる!』
『王都の中央メインストリートにある噴水は、平和を象徴したものでした。それが完全に破壊されることで、旧ラーベ王国が平和になるかもしれないとは皮肉なお話ですわ』
『これ、相当深い場所にありますね。ネネ、なるべく同じ場所を連続して撃ち貫くんだ』
『任せてください』
『私たちもいますよ』
『レールガンの弾の在庫がもう終わりなので、駄目なら私の試作品バズーカ砲で掘り進めます!』
みなが集まり、上空から心臓が埋まっている地面をレールガンやバズーカ砲で掘り進めていく。
そして、最後に……。
『試作品のクラスター爆弾が一つ余っているとアリス殿が教えてくれたので、これをぶち込む!』
クラリッサが急ぎゾフから持ってきたクラスター爆弾を機体の両腕で抱え込み、上空からすでに深い穴が開いた噴水跡めがけて叩きつけた。
土に深く潜ったクラスター爆弾が盛大に爆発するのと同時に、土と一緒に赤黒い物が空に舞い上がってきたのが確認できた。
どうやら、心臓を破壊することに成功したようじゃ。
『リリー様! あのデカブツが!』
ネネの声が聞こえたのでエルオールと戦っている巨大魔晶機神型の異邦者を見ると、まだ激しく剣を振るってエルオールを叩き切ろうとしていた。
もしや、まだ心臓は動いておるのか?
しかし聴音機で探ると、完全に鼓動を止めている。
爆弾でバラバラにされてしまった心臓が、まだ動いているわけがない。
そう思った瞬間、突然巨大魔晶機神型の異邦者の動きが止まり、そのまま地面に倒れ伏す。
その際に多くの王都の建物を破壊したが、アリスと兄上が王都は大規模に再開発するから、多少壊しても問題ないと言っていたのを思い出した。
「わずか十数秒ほどとはいえ、心臓がなくても動き続けるなんて、やはり異邦者は恐ろしい生き物じゃな」
『ふう……。上手く時間を稼げたな。リリーもみんなもご苦労様』
さすがのエルオールも疲れたようじゃな。
とにかく無事に巨大魔晶機神型の異邦者を倒し、王都の奪還に成功した。
ゾフに戻ったらエルオールも疲れているであろうから、膝枕でもしてやろうかの。
と思っていたら……。
『撤収開始! 大任を果たして疲れたエルオールを癒してあげないと』
『リンダさん、抜け駆けはいけませんわよ! それに私の膝の方が柔らかいと思うのです』
『そんなことよりも、急がないとヒルデとアリスに先を越されるわよ!』
『そうでしたわ! ヒルデさんは格納庫にいたんでした! そしてアリスさんはブリッジに!』
「……」
随分とエルオールと共に二人きりで時間を過ごす競争率が高くなってしまったが、妾とて負けるわけにいかぬ。
幸い今妾が搭乗しているのは、最新鋭の魔晶機神改Ⅱだ。
全速力で機体を飛ばし、あっという間にリンダとケイトを追い抜いて、ゾフへと帰還するのであった。
王都の後始末は、部下たちに任せて問題あるまい。




