第百三十六話 魔晶大機神?
『夫君、命令どおり旧ラーベ王国大半の奪還に成功したぞ。本国から追加で送られてきた援軍に守備を任せてある』
「さすがだな、アリスの指揮ぶりは。それで異邦者の様子はどうだ? 王都に封じ込められた同胞の救援を試みているのか?」
『いや、こちらが置いた守備戦力とにらみ合いを続けているが、王都の味方を救援する気配はない。たまに小競り合いがあると報告が入るくらいだ』
「さすがに、王都の残存戦力は見捨てざるを得ないのかな?」
『油断はできぬが、今のところ王都にいる異邦者以外で、撃破された魔晶機神、魔晶機人に寄生する個体は確認されておらぬ。いきなり出現されても困るので、旧ラーベ王国内で撃破された味方機と、残骸が放置されていた旧ラーベ王国軍の機体の残骸はすべて回収させている。再利用できるので悪い話でないではないか』
「撃破された機体への寄生は、王都を守る異邦者のみの特徴なのかな? いや、じきにその特性も広がるはずだ」
王都周辺以外の旧ラーベ王国領奪還に成功したアリスが、総旗艦ゾフ以下の艦隊と共に戻ってきた。
ここ数日で、王都防衛の主戦力であった魔晶機神、魔晶機人に寄生する異邦者の大半を倒したはずなので、あとは大戦力で包囲殲滅するだけだ。
幸いにして、旧ラーベ王国領に隣接する土地には異邦者の数が少なく、たまに数体単位で侵入してくるが、守備戦力として置いた魔晶機人改Ⅱ部隊がすべて撃墜していると報告を受けていた。
それと、魔晶機神、魔晶機人に寄生するタイプの異邦者は、まだ王都以外には出現していないようだ。
だが、王都の異邦者を殲滅したら二度と出てこないなんてことはあり得ないだろう。
急ぎ各種兵器と武器の性能アップと量産を続けないと、ゾフ王国でも異邦者によって滅ぼされてしまう危険があった。
「ラウンデル、エア・トランスポート部隊で蟻塚を完全に破壊するんだ」
『わかりました、陛下』
総旗艦ゾフに移った私の命令で、まずはラウンデルが率いるエア・トランスポート部隊が王都の中心部にある蟻塚に爆撃を開始する。
爆弾はアマギで作られたものだが、数が少ないので腕のいい操者だけが参加していた。
「王都は無人だから、外れても問題ないんだけど」
どうせ王城は蟻塚にされてしまったし、あちこち戦闘の影響で破壊されていたので、戦後は大規模に再開発を進め、ゾフ王国の北の要衝にする予定だったからだ。
『投下だ!』
ラウンデル以下エア・トランスポート部隊が蟻塚をめがけて爆弾を投下する。
外れたものもあったが、命中率は初めてにしては良好で、蟻塚は派手に吹き飛ばされていく。
それと同時に、蟻塚の中にいる異邦者も吹き飛ばされていた。
「もはや戦力がないのかな?」
「いや、出てきたぞ」
「応戦!」
破壊された蟻塚から生き残った兵士クラスが数十体出てきたが、応戦した味方機が放つ、改良された57ミリ銃で次々と蜂の巣にされていく。
「改良した57ミリもいつまで通用するか……」
異邦者の進化が確認された以上、こちらも貫徹力に優れた火器の開発は常に続けていかないと駄目だな。
すでに旧式の20ミリ機銃は異邦者相手には使わないことが決まり、新人操者が射撃訓練がてら魔物駆除に使っていたのだから。
「夫君、この数十体は、蟻塚に籠っていた残り少ない異邦者ということでいいのかな?」
「油断はできないけど。しっかりと生き残りの敵がいないか確認してくれ」
『陛下、了解しました』
爆撃で破壊された蟻塚と、瓦礫の上に落ちた穴だらけの数十体の異邦者たち。
これで王都は完全に取り戻したはず。
そう思った味方操者、兵士たちが歓声をあげるが、私は職業病なのだろう。
異邦者が全滅したと完全に確認されるまで気を抜けず、魔晶機人改Ⅱ部隊が土煙の晴れた、完全に崩れている蟻塚の探索を始めた。
万が一にも生き残りがいると、大変なことになるからだ。
『今のところ、生き残りの異邦者の姿は確認できず』
「私の心配し過ぎかな?」
そう思った瞬間だった。
『陛下! 生き残りがいました!』
瓦礫の下に生き残りがいたようで、蟻塚を調べていた魔晶機人改Ⅱ部隊が57ミリ銃を構えた。
しかもよく見ると、魔晶機人の残骸に寄生している異邦者であった。
「しかし一体だけか」
これならすぐにトドメを刺せるはず。
そう思った瞬間だった。
突如異邦者は、とてつもない速度で上空に逃げた。
『撃ち落とせ!』
慌てた魔晶機人改Ⅱ部隊の隊長が撃墜命令を出すが、ボロボロの魔晶機人に寄生した異邦者があまりにも素早く、射撃をする前にかなりの高度まで飛んでいってしまった。
「逃げるのでしょうか?」
「……いや! 違うぞ! 全軍、奴を撃ち落とせ!」
私の命令で、多数の魔晶機人改Ⅱが逃げた異邦者を射程圏内に収めるべく上昇していく。
そして大量の57ミリ弾が発射されるが、それが命中する前に異邦者が光の円球『バリアー』に包まれ、57ミリ弾をすべて弾き返してしまった。
「新しい武器か? 進化か?」
『バリアー』は激しく光り、それと同時に王都周辺の地面に落ちていた異邦者の死体、魔晶神人、魔晶機人の残骸が宙に浮がびあがり、続々と『バリアー』の中に吸い込まれていく。
そのあり得ない光景に、魔晶機人改Ⅱ部隊の操者たちはただ機体を宙に浮かせながら、呆然とそれを眺めるのみであった。
『エルオール、これはどういう?』
よほど驚いたようでリリーが通信を入れてきたが、残念ながら私もこれはどういうことなのかまったく理解できなかった。
だが、前世と合わせた過去の戦闘経験から、とんでもない敵が出現することだけは理解できた。
なので、宙に浮かびその場に留まっている味方に急ぎ警告を発する。
「こんな異邦者に遭遇したことは……。っ! 魔晶機人改Ⅱ部隊! 下がれ!」
嫌な予感がしたので、急ぎ上空で『バリアー』に包まれた異邦者から離れるように命令したが、残念ながら間に合わなかったようだ。
光球が消えると同時に、その場に全高五十メートルは優に超える巨大魔晶機神が出現、背中に飛行パーツは背負っておらず落下してきた。
それと同時に、その体に埋め込まれた57ミリ銃と20ミリ銃が火を噴く。
光球に見とれていた魔晶機人改Ⅱが数機が弾幕に絡め取られ、ボロボロになって落下していった。
続けて、手にしていた巨大な剣を一振りする。
さらに数機の魔晶機人改Ⅱが真っ二つにされ、地面へと落ちていく。
「あっという間に、新型の魔晶機人改Ⅱが八機も……」
蟻塚の残骸から生き残りの異邦者を探していた魔晶機人改Ⅱ部隊は全滅してしまった。
「夫君?」
「窮鼠猫を噛むか? 最後にとんでもない異邦者が出現したな」
巨大魔晶機神型の異邦者の出現を確認すると同時に、私は全軍に向けて叫んだ。
「私が戦う! 腕に自信がない操者、艦隊も全速力で下がれ!」
幸いにして、巨大魔晶機神型の異邦者はその巨体ゆえに飛行できないようだ。
私はこれ以上味方の損害を増やさないよう、全軍に後退命令を出してから格納庫へと走っていった。
すると、すでにヒルデが新型試作機である魔晶機神改Ⅱをいつでも動かせるように準備してくれていた。
「エルオール様、武器はどうしますか?」
「試作品のレールガンを頼む」
「あれですか。数発撃つと撃てなくなりますけど」
「こちらが合図したら、試作品をどんどん射出してくれ。あとは、成形炸薬弾装備のバズーカ砲もだ。大丈夫か?」
「準備はしてあるので使えます」
「さすがはヒルデだ、ありがとう」
「エルオール様、無事のお帰りを」
私はヒルデを抱きしめてから、その頬にキスをした。
ヒルデは操者ではないが私の機体の整備を完璧にこなすし、フィオナから色々と教わって技術者、研究者としても活躍し始めていた。
今となっては私の大切なパートナーであった。
「では、いくぞ!」
右手に試作品のレールガン。
左肩に同じく試作品のバズーカ砲を背負い、私は全速力で後退する総旗艦ゾフから魔晶機神改Ⅱを緊急で発進させた。
すぐさま飛行パックを吹かして巨大魔晶機神型の異邦者に接近しつつ、バズーカ砲を右肩目掛けて連射する。
バズーカは特別仕様の成形炸薬弾を装備しているため、弾数はわずか三発のみであったが、すべて巨大魔晶機神型の異邦者の右肩と右脇の部分に命中。
魔晶機人の残骸でできた外装部分を貫通し、内部に侵入したあとに特殊な砲弾が爆発。
右手を吹き飛ばして、振り回していた巨大な剣を落とすことに成功した。
続けてレールガンで、左右の胸部を撃っていく。
巨大魔晶機神型の異邦者には操縦席がないので心臓の部分がわからないため、多分そこだろうと思ってレールガンを連射。
見事に貫通するが、残念ながら胸部には心臓がないようだ。
「……試作品だから、数発撃って壊れるのか……。ヒルデ、追加をくれ!」
『わかりました』
レールガンが暴発しないのは、ヒルデの整備士としての腕前もあるのだと思う。
私はゾフの甲板から打ち出された新しいレールガンをキャッチし、次は腹部を。
それでも駄目なので、頭、腰と次々と新しいレールガンで撃っていくが、どれだけボロボロになっても巨大魔晶機神型の異邦者は健在だった。
体に埋め込まれた57ミリ銃、20ミリ銃が発射され、私は回避に専念することになる。
「57ミリ銃と20ミリ銃は撃破された機体が落としたものだから、すぐ弾切れになると思うけど……」
まさか、巨大魔晶機神型の異邦者の心臓が見つからないとは。
さらに、多数のロケット弾とレールガン攻撃を食らって血まみれ、穴だらけになったはずの巨大魔晶機神型の異邦者が急速に回復しつつあった。
「回復までするのか?」
数十秒で元に戻ってしまった巨大魔晶機神型の異邦者は再び剣を拾い、私を斬り捨てようと剣を振り回した。
大振りなので回避はしやすいが、問題はこいつをどう倒すかだ。
『夫君、巨大魔晶機神型の異邦者が回復する時、治癒魔法の反応があったそうだ。従軍治癒魔法使いが探知した。それと、そのデカブツの心臓はその巨体の体内ではなく、どこか別の場所にある可能性が高い。つまり心臓を破壊せねば、そいつは永遠に回復し続けるかもしれぬ』
「……また異邦者が進化したのか?」
まさか、治癒魔法を使える異邦者が出現するとか。
この世界でそれを習得した可能性が高い。
「では、私は可能な限りこいつを足止めする。その間に、こいつの心臓を破壊してくれ」
『了解した。みんな出番だぞ』
『『『『『『『『『『了解!』』』』』』』』』』
私とアリスの命令を受け、リリーたちが巨大魔晶機神型の異邦者の心臓を探し始めた。
すると、それを察知した巨大魔晶機神型の異邦者はますます激しく攻撃するようになり、回避が段々と難しくなってくる。
「なるべく早く、このデカブツの心臓を破壊してほしいよな。おっと!」
それまで私は、巨大魔晶機神型の異邦者の気を惹き続けないといけない。
巨大魔晶機神型の異邦者の心臓が破壊されるまで、私が生き残っていれば私の勝ち。
逆に私がその前に落とされてしまえば、異邦者の勝ちだ。
危険ではあるが、こいつを野放しにすると旧ラーベ王国どころかゾフ王国まで滅亡してしまう。
「異邦者も知恵を絞るようになったなぁ……」
私は巨大魔晶機神型の異邦者が振り回す剣を回避しながら、リリーたちが心臓を見つけてくれるまで、命がけの囮役を続けるのであった。




