第百三十五話 魔晶機神改Ⅱ
「なるほど。異邦者が、撃破された旧ラーベ王国の王族や貴族たちが操っていた魔晶機人と魔晶機神に寄生した結果、それ以上の性能を持つに至ったのか。じゃが、妾は負けるわけにいかぬ!」
エルオールは、強行偵察に出た味方を討った謎の異邦者を排除すべく、小規模の艦隊を率いてラーベ王国の王都を窺う様子を見せた。
すると、それに反応した異邦者たちが王都の中心部にある蟻塚から続々と出撃してくる。
この艦隊に配属された操者は、エルオールとアリスが選んだ精鋭ばかりであり、さらに試作量産されていた魔晶機神改Ⅱを与えられている者も多かった。
以前、機体が大きいくせに魔晶機人改とあまり性能が変わらない魔晶機神不要論が出て、それが受け入れられた結果、一部の試作機以外は既存の機体を改装するだけとなっていた。
ところが、異邦者が徐々に進化していくことが確認されたため、これからは拡張性のある魔晶機神ベースで新型機も開発をした方がいいという流れに変わってきていて、既存機の改修ながら魔晶機神改Ⅱが一部のエースに支給されるように。
妾は魔晶機神に慣れているので、一番に支給された。
サクラメント王国時代に自分が使っていた機体の改修機だが、その性能は段違いじゃ。
やはり、高出力で魔力消費量も少ない高性能魔導炉の製造では、ゾフ王国が独走状態じゃの。
魔導炉の性能を上げるには工業力と技術力を上げる必要があり、そう簡単に他国には真似できないというのもあった。
「リリー様、いいなぁ」
「僕も将来、魔晶機神改Ⅱに乗れるようになるといいなぁ……」
「今、最低魔力量が低くても動かせる魔晶機神の試作が進んでいると聞く。じきに乗れると思うぞ」
魔晶機神は、魔力量が多い王族、大貴族、一部の例外しか動かせない。
その常識すら、エルオールはなくそうとしておる。
最終的には魔力量が1000あれば乗れて、さらに高性能、多武装の魔晶機神を量産、配備し、高性能化する異邦者に対抗していく計画だと聞いた。
同時に魔晶機人も、魔力量が低くても……まずは500で動かせる機体……を開発中だとか。
とにかく足りない操者を増やすためだ。
ようやく異邦者に対抗する体制を構築しつつある他国では操者の奪い合いが始まっており、醜い引き抜き合戦まで始まったとか。
ゾフ王国も難民から登用したりしているが、それでも足りず、それなら魔力が低くても動かせる魔晶機人と魔晶機神を作ればいいという話になった。
技術力があるゾフ王国ならではのやり方であろう。
だが今の時点では完成しておらず、マルコとネネは魔晶機人改Ⅱに搭乗しておるが、異邦者には魔晶機人に寄生したものの数の方が多い。
『ネネ、いくよ!』
『はい! マルコ様!』
二人はペアを組み、魔晶機人型の異邦者を蜂の巣にし、長剣で斬り刻んでいく。
彼らはエルオールの指示どおり、数の多い魔晶機人に寄生した異邦者を優先的に落としていた。
そして妾たちは、魔晶機神改Ⅱで魔晶機神に寄生した異邦者たちと戦い、これを撃破していく。
『さすがはリリーだ』
「このくらいはな。じゃが確かに、異邦者が寄生した機体は、ヘボが操縦する魔晶機神よりも強いの。そして味方が落とされると、容易に補充されてしまう」
『そこが、これから問題になるだろうな』
人間が搭乗している機体が落とされると、それに異邦者が寄生してしまい、敵になるケースがこれから増えるからだ。
異邦者は、どこかから獲得した魔晶機人の動きを真似して戦う。
多分、異邦者の中に人間の戦い方のデータを集め、他の異邦者と共有する仕組みがあるのだろう。
さらに異邦者が寄生している影響で、魔晶機人と魔晶機神の残骸はリミッターが外れた状態のため、機体性能が元より上がっていた。
壊れた部分を自分の身体の組織で補っているため、よほどバラバラにならなければ、行動不能にならない。
今後魔晶機人、魔晶機神型の異邦者は増え続けるだろう。
よく見ると壊れた機体だし、一部異邦者の不気味な赤黒い肉がハミ出ているので見分けもつくが、夜間などだと味方と間違えて落とされてしまう味方機が出そうだ。
エルオールに対策を進言しなければ。
「くっ!」
一度倒されている機体なので損傷は激しいが、豪華な装飾と胸部の家紋を見るに、大貴族が乗っていた機体だろう。
やはり過剰に装飾された剣を振り下ろしてきた。
「異邦者が、まだ見様見真似で拙いながらも剣を振るうとは……」
エルオールが言っていたとおり、徐々に人間の行動を学習しているとしか思えなかった。
剣速も従来の魔晶機神では考えられないほど速く、やはり機体のリミッターを無視して異邦者が機体を動かしている証拠だと思う。
振り下ろされた異邦者の剣を、頭上で横にした剣で防ぎつつ鍔迫り合いをするがパワーも強い。
妾は押し切られないように力を入れ、上手く押し返すことに成功した。
「ビシッ!」
「……なるほど……」
寄生した魔晶機神を超える性能の代価は、関節部分の異音や、腕の内部にある人工筋肉が断裂した音だった。
限界を超えないように機体にリミッターがかかっているのに、それを無視して全力で攻撃すれば人工筋肉の繊維が切れ、関節がダメージを受けて当然だろう。
ところがそれでも、魔晶機神に寄生した異邦者からの強力な攻撃はやまず、壊れた部分を自分の肉体で補っているので、完全に破壊されなければ長時間の稼働も可能ということか……。
「これは厄介じゃの……」
今後人間は、撃破された魔晶機人と魔晶機神の残骸に寄生した異邦者とも戦わなければならないのじゃから。
妾は、振り下ろされた大剣の強力な一撃を防いでも傷一つつかない、特別製のエストック風の剣で、魔晶機神型の異邦者を突いていく。
魔晶機人型の異邦者の弱点はやはり心臓であり、それは常に鼓動しているので、場所の特定は容易じゃった。
「操縦席部分に心臓があるとは、人間が乗っていた頃と弱点が変わらぬの」
妾は正確に、魔晶機神の操縦席部分にエストックを突き入れた。
すると、魔晶機神型の異邦者は操縦席から大量の血を噴き出しながら、そのまま落下していく。
「相手が悪かったの」
妾は新型の魔晶機神改Ⅱに乗っており、エルオールに追いつこうと厳しい鍛錬をしておる。
異邦者が人間の操者の動きを真似し、多少無理をして性能を高めたところで、妾たちに勝てるとは思わぬことじゃ。
妾だけでなく、リンダ、ケイト、クラリッサ、リック、マルコ、ネネ、ライム、ユズハのその他。
エルオールが選んだ精鋭たちは、次々と魔晶機人と魔晶機神に寄生した異邦者を撃破していった。
「エルオールは……なんと!」
妾と同じく、先行改良型の魔晶機神改Ⅱに搭乗したエルオールは、右手に剣を、左手に57ミリ銃を持ち、最高速度をキープしたまま敵の眼前に移動、向こうが反応する前に57ミリ銃を操縦席に向けて連射した。
魔晶機神型の異邦者は、操縦席から大量の血を噴き出しながら落下していく。
そして息つく暇もなく、次の目標に全速力で移動し、今度は剣を別の魔晶機神の操縦席に突き入れた。
「あっという間に二匹の異邦者を落とすとは、さすがはエルオールじゃ。さすがよのぅ……」
このところ王らしく、総旗艦ゾフの艦橋にある玉座に座っていることが大半であったが、やはりエルオールは素晴らしい操者じゃ。
「(無駄のない動きに惚れ惚れするの)」
旧ラーベ王国領奪還に成功し、成人したら妾はエルオールの妻になる。
一操者としても、女性としてもこれほど嬉しいことはない。
「早く正式にエルオールに嫁ぎたいものじゃ」
そうすれば、もっと一緒に鍛錬ができる。
そして、妾とエルオールはさらなる高みに上がれるはずなのだから。
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「なるほど。これまで、ラーベ王国が所有し、異邦者に落とされた機体のすべてが異邦者になったわけではないのか……」
リリーたちが善戦している戦場を最短の動きとスピードで飛び回り、魔晶機神型の異邦者を優先的に倒していく。
途中、何機もの魔晶機人型に邪魔をされるので、それらも剣で切り裂き、57ミリ銃で操縦席を撃ち抜いて倒した。
「わざわざ操縦席に心臓を置かなくてもいいのに……」
多分、魔晶機神の内部に異邦者が体を置く余剰スペースが少ないので、心臓を外付けにするくらいなら、操縦席に仕舞った方がマシだと思ったのだろう。
「魔晶機神に寄生した異邦者は、ほぼ落としたようだな。魔晶機人も残り少ないようだ」
すでに犠牲者がゼロという戦いはなくなっていたが、私が腕のいい操者を選んで連れて来たおかげで、損害は軽微といったところか。
「ラウンデル!」
『陛下、お任せください』
そして、蟻塚から出てきた異邦者と私たちが戦っている間に、ラウンデルが率いるエア・トランスポートの部隊が高高度から王都中心部の蟻塚に対し、搭載していた『試作火炎ナパーム弾』を投下した。
この科学と魔法を組み合わせたナパーム弾はアマギで先行量産され、数日前に後方から補給された試作兵器であり、対蟻塚、穴や障害物に篭っている異邦者を効率よく焼き払うための新兵器であった。
そしてラウンデルだが、私が率いている艦隊から出撃すると目立つので、王都から少し南にある平地に造成した臨時の滑走路から離陸。
私たちと異邦者が戦っている隙を突き、無事ナパーム弾の投下を成功させた。
まだ数が少ない魔晶機人と魔晶機神に寄生した異邦者が我々に対し著しく不利なので、援軍として通常の異邦者たちが蟻塚から出てきたところで火炎ナパーム弾が炸裂し、奴らを一気に焼き尽くした。
火炎ナパーム弾の一部は蟻塚の外壁をぶち破って中に飛び込んだところで炸裂し、蟻塚の内部を超高温の火炎で焼き尽くしていく。
「効果的ではあるが、数が少ないから蟻塚を完全に焼き尽くすことはできなかったか……。成果は十分だ! 一旦下がるぞ!」
今日は多くの異邦者を、それも脅威度が高い魔晶機人と魔晶機神に寄生した異邦者たちの大半を討つことができた。
さらにラーベ王国北部では今、アリスが指揮するゾフ王国軍艦隊が暴れ回っているので、王都の蟻塚に援軍を送る余裕はない。
異邦者の繁殖力が低いことに変わりはなく、援軍ナシで今日の損害を回復させることは難しかった。
「明日も、王都の蟻塚に攻撃を仕掛ける。数は減らしたけど、王都の完全攻略はアリスたちがラーベ王国北部を奪還し、王都にやって来てからだな」
旧ラーベ王国領奪還作戦のクライマックスは、蟻塚の攻略か破壊になるはずだ。
とにかく明日も、蟻塚の異邦者を狩って数を減らす作戦を続けるとしようか。




