第百三十四話 進化する異邦者
「こちら、強行偵察部隊。もうすぐ、ラーベ王国の王都が見えてくるはずです。視認でき次第、偵察を開始します!』
『了解した、無理はしないように」
「こちらは少数です。ヤバそうならすぐに逃げますよ」
総旗艦ゾフからの遠距離通信にそう答える私だったが、やはり魔法通信とは比べ物にならないほど新型の通信機は性能がいいな。
旧ラーベ王国領の奪還は順調だった。
最初は、兵士クラスの異邦者が進化して遠距離攻撃能力を得ていたことや、小隊長クラスの体が一回り大きくなって防御力が増したことで撃破に苦戦するケースもあったが、貫通力を増した新型五十七ミリ銃により、戦況は有利に進んでいる。
ただ、さすがにこちらも無傷とはいかなかった。
撃破される機体が増え、すでに二桁の戦死者を出している。
それでも後方からの補給は潤沢で、魔晶機人改Ⅱの整備と修理体制も万全だったので、すでに旧ラーベ王国領の半分以上を取り戻すことに成功していた。
残念ながら取り戻した土地の多くが、設置されていた水晶柱が破壊されていたり、魔力切れとなって魔物が入り込んでいたので、これを駆逐しなければ復興を始められない状態であったが。
ただ水晶柱は新型が続々と生産されており、現在留守部隊がゾフ王国各地で魔物を駆逐した後に、水晶柱を設置して人が住める土地を増やしている。
旧ラーベ王国領が解放されたらすぐに復興は始まるだろう。
そんなゾフ王国軍が次に狙うのは、王都の奪還であった。
王都を取り戻してその都市機能を復活させ、そこを拠点に旧ラーベ王国北部を奪還。
旧ラーベ王国領から完全に異邦者を叩き出す、というのが大まかな作戦であった。
我々は、そのための偵察をしているというわけだ。
『隊長、王都が見えて……なんだ? アレは!』
「確かアレは……」
無人の王都は静まり返っていたが、事前にケイト様から渡された地図によると王城のあった場所に、例の巨大な蟻塚のような塔が立っていたのだ。
「異邦者は、王都を恒久的に拠点にしようとしているのか……」
王都の蟻塚は、ゾフ王国とラーベ王国の間にある未開地に作られていたものよりも遥かに巨大で、よくぞこの短期間に作れたものだと感心してしまった。
「王城は、蟻塚の材料にされてしまったのか……」
『隊長、王都と蟻塚の撮影が終わりました』
『隊長、化け物たちがこちらに気がついたようです』
「では、急ぎ戻るとしよう」
こちらは、たった四機の偵察部隊だ。
異邦者の大群に勝てるわけがないし、ここで数体の異邦者を落とすよりも、今はこの情報を持ち帰る方が遥かに重要なのだから。
現に今、蟻塚から多数の異邦者が湧き出してこちらに向かってきつつあり、逃げるのが最優先だ。
「飛行パックのブースターを吹かして、一気に化け物との距離を空けるぞ!」
『今からブースターを使うんですか?』
「絶対に、撮影した写真を持ち帰る必要があるからな。安全策を取る」
私の機体に取り付けられたカメラ……『しゃしん』を撮影できる機械だそうだが、魔法道具にはこんなものは存在しなかった……で王都と蟻塚の様子はバッチリと撮影した。
これを持ち帰らなければ強行偵察の意味がなくなるので、早くブースターを吹かして逃げてしまうに限る。
『『『了解しました』』』
うちの小隊員たちは隊長である私に性格が似ている者が多く、即座にブースターを吹かして逃げることに賛同してくれて助かった。
ベテランと新人操者の中には、『せめて一体でも敵を倒してからでないと撤退したくない』なんていう者も珍しくなかったからだ。
もしそれをして多数の異邦者に囲まれ、強行偵察に失敗したら目も当てられない。
私たちの目標は、旧ラーベ王国王都の偵察と撮影なのだから。
『それにしても、同じ任務に就いている小隊が見当たりませんね』
「王都は広い。別方向から探っているんだろう」
実は強行偵察部隊は複数出ており。それに王都偵察は危険な任務なので、未帰還になる機体が出ることを想定してのことだった。
我が国にはフィオナ様が管理する、遥か上空から目標の様子を探れる大型のカメラがあるが、異邦者は『ていさつえいせい』による撮影を妨害する手段を持っているようで、この度の強行偵察隊の派遣となったわけだ。
『新型のれーだーを積んでいれば、探知できたかもしれませんけど』
「噂では、そのれーだー探知も進化した異邦者によって妨害されるかもしれないそうだ。だからカメラもあなろぐだとヒルデ様がおっしゃっていた。それにしても、アーミストやケルンの小隊は、無事に王都の撮影を終えて撤収したのかね?」
『わかりません』
私と一緒に強行偵察任務に指名された同僚たちだが、彼らは私たちとは違う経路と方角で王都近くに辿り着いたはずなので、その姿を確認することはできなかった。
「大勢に追いかけられる前にブースターを点火するぞ」
『『『了解!』』』
私の小隊には隊長に似て慎重な部下が多いせいか。
即座の撤収と、安全策を取ってブースターを使うことに反対する者はいなかった。
飛行パックに取り付けられたブースターに点火するとみるみる機体が加速していき、一気に蟻塚から出てきて我々に向かってくる異邦者たちを引き離してしまった。
「なんだ? 随分と速い兵士クラスだな!」
さすがにブースターに点火した我々の機体には追いつけないが、飛行パックを全力で吹かしたくらいでは追いつかれてしまいそうだ。
「ラーベ王国から脱出する際に、恐ろしいスピードを出す異邦者がいたが……」
蟻塚から出てきた兵士クラス全個体が高速というわけではないので、こいつらは我々のような偵察部隊や奇襲攻撃に対応する、速度重視の異邦者なのかもしれない。
同じ兵士クラスでも、遠距離攻撃能力を獲得したり、速度を増したりと、色々なタイプに分かれつつあるということか。
『隊長、無事に引き離しました』
「助かったな」
速度が出る異邦者の数は数十を軽く超えていたので、我々が欲を出して戦っていたら、包囲されて逃げられなかったかもしれない。
早くにブースターを吹かして逃げる決断をしてよかった。
我々は偵察任務に成功し、陛下に旧ラーベ王国王都の写真をお渡しすることができた。
「まさか、この短期間で王城が……」
私たちが撮影した写真を基に、簡単に王都の様子を報告すると、ケイト様が悲痛な表情を浮かべておられた。
自分が育った王城が、異邦者の棲み処にされてしまったのだ。
ショックでないはずがない。
「異邦者たちは王都を拠点とすべく、王城を蟻塚に変えてしまったのですね……。ミルトン男爵、よくぞ情報を持ち帰ってくれました」
ケイト様からお礼を言われたが、私たちは撮影以外なにもできなかったので、少し複雑な気持ちだ。
「フィオナの偵察衛星で上空から王都の様子を探ろうとしたら、異邦者にジャミングされてしまってな。報告にあった速度重視の兵士クラスといい、異邦者は確実にこちらに対抗すべく進化を続けている」
「はい。魔物とも無法者とも違う、恐ろしい敵です」
こちらの強さに合わせて進化してしまうとなると、魔物や無法者のようにデータを集めても、すぐにあてにならなくなってしまう可能性が高い。
戦いにおいて情報がない敵と戦うことが一番危ないので、今後も異邦者との戦は命がけということだ。
「異邦者が蟻塚から湧き出てきた直後、すぐにブースターを吹かした判断は的確だった。実は、残り二隊が未帰還なんだ」
「えっ! アーミスト卿とケルン卿が未帰還なんですか?」
旧ラーベ王国王都への強行偵察任務は危険なので、腕のいい操者が選ばれていた。
アーミスト卿とケルン卿はゾフ王国でも古参のベテラン操者であるが、沈着冷静で蛮勇を誇るようなタイプではない。
だから強行偵察任務に指名されたというのに……。
「どうやら進化した異邦者に襲われたようだ。それがどの形態なのかは不明だ」
「二人は通信機で報告を試みたと思われるのですが、やはり妨害されました」
アリス様によると、進化した異邦者は範囲は限定されるものの、はるか上空から写真を撮る偵察衛星や、魔法通信機よりも遠距離まで通信できる通信機まで妨害することができるのだとか。
そのおかげで、アーミスト卿とケルン卿を倒した異邦者の正体はわからずじまいだった。
ただ、その異邦者も魔法通信は妨害できないそうで、最初の計画ではすべての艦艇と機体に搭載するのは新型の通信機だけにする予定だったものが、改良して通信距離が少し延びた魔法通信機も搭載する計画に変更したそうだ。
ただ多少、通信可能距離が伸びたところで、魔法通信機の性能は低い。
今後いかに、多数の異邦者を相手に集団戦闘をスムーズに行えるようにするか、課題は山積みとなっていた。
「とにかく敵を知る必要があるが、その方法を考えないとなぁ……。ミルトン男爵。貴殿はゆっくりと休んでくれ」
「はっ! 次の任務に備えて休みます! 次の強行偵察任務の際にも、ぜひご指名を」
私たちの小隊は、一度だが王都の偵察に成功している。
次の強行偵察任務の際にも立候補する旨を伝えて、陛下とアリス様、その他陛下の婚約者の方々がいる艦橋を辞した。
それにしても、陛下とアリス様はこの未知の強力な異邦者に対し、どう対応するのであろうか?
お二人のことだから、きっとアーミスト卿とケルン卿の仇を討ってくれるはずだ。
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「旧ラーベ王国の王都の中心部に、王城を材料に作られた巨大な巣、通称蟻塚に潜む謎の強敵の正体をどう暴くのか。現地に行って相手を挑発し、勝負を挑めばいい」
「なるほど、確かにそれが一番手っ取り早いの」
「だから私たちが、新型の魔晶機神改Ⅱに乗って王都を強行偵察しているわけね」
「エルオールさんと私たちは選ばれた凄腕操者ということですか。名誉に思い、全力で戦わせていただきますわ」
「アーベルト連合王国の名誉のため、私も全力で戦おう」
「エルオール、アリスはどうしたんだ?」
「作戦が変更になったので、全軍の指揮を任せているんだ。最初は王都を落としてから、ラーベ王国北部の攻略を行う予定だったけど、先に北部を落として王都を孤立させる作戦に切り替えた」
「兄様、それって北部の敗残兵力が王都に逃げ込みませんか?」
「アリスには極力北部の異邦者を殲滅するように頼んでいるし、王都の蟻塚に逃げ込むと孤立すると考えて、ラーベ王国から逃げ出す異邦者の方が多いはずだ。なにより、すでに王都には異邦者の餌となる人間も、魔物も、無法者もいない。包囲すれば容易に孤立させられるはずだ」
「それと並行して、僕たちも王都を防衛している戦力と未知の異邦者を倒して戦力を削り、異邦者たちによる王都籠城を不利にしていくんですね」
「(さすがはマルコ、よく気がついた!)ラーベ王たちや、二王女のシンパの貴族たちは、最後王城に籠城して自滅した。いかに異邦者でも孤立した状態で籠城すれば、先がないのは同じだからだ」
「だから陛下は、アリス様にラーベ王国北部の攻略を命じたんですね。遠大な包囲殲滅作戦、凄いなぁ。ボクも頑張ります」
「だが、その作戦を成功させるためには……」
「未知の強さを持つ、謎の異邦者たちを先に倒す必要があるんですね」
私はアリスにラーベ王国北部攻略を任せ、一部の戦力を率いて旧ラーベ王国王都を窺える位置に陣取った。
アーミスト卿とケルン卿の小隊を全滅させた謎の異邦者たちを、私たちで討ち取るためだ。
私と、えりすぐった精鋭操者たちで編成された艦隊が、旧ラーベ王国王都を視認できる位置に着くと。すぐに異邦者たちが蟻塚から飛び出てきて、どうして強行偵察部隊が倒されてしまったのか、私はすぐにわかってしまった。
「王都が陥落した時に倒された、魔晶機人と魔晶機神か……」
「魔晶機人と魔晶機神の異邦者……」
リンダが絶句するのも無理はない。
異邦者が、自分たちが倒した魔晶機人と魔晶機神に寄生して、それに比した性能を発揮したから。アーミスト卿とケルン卿というベテラン操者たちが、簡単に落とされてしまった理由がわかったのだから。
「……父上……」
「あれは、討ち死にしたラーベ王の機体か!」
ケイトが、魔晶機神型の異邦者を見て絶句していた。
擦り切れたラーベ王国の紋章が肩に描かれている魔晶機神は、亡くなったラーベ王の専用機だったらしい。
異邦者は、寄生した魔晶機神の欠損している箇所を自身の体で補い、まるで魔晶機神のように動いていた。
異邦者が、撃破された魔晶機神の残骸に寄生することで、その性能を再現できたとしたら。魔晶機人改Ⅱを倒せたとしても不思議ではないか。
私なら、ノーマルの魔晶機神に魔晶機人改Ⅱで負けることは万が一にもないが、アーミスト卿とケルン卿は初見で動揺してしまった可能性が高かった。
もしくは……。
「兄様、異邦者が寄生したことで、魔晶機人の性能が上がっている可能性もあるのでしょうか?」
「それもあるかもしれないな」
マルコの推論が正しいのだとしたら。破壊された味方の機体は極力、回収しないと異邦者か強くなってしまう危険があるのか……。
「だが、戦場で破壊された味方の残骸を、すべて回収するなんて物理的に不可能だ」
それは努力目標であり、今後増え続けるであろう、味方の残骸に寄生した異邦者たちは見つけ次第倒す必要がある。
「マルコとネネは魔晶機人改Ⅱなので気を付けてくれ。他のみんなも油断するなよ! アタック!」
蟻塚から続々と出てくる、魔晶機人、魔晶機神型の異邦者の数は百を超えるだろう。
思ったよりも少ないのは、最低限原型が残っていないと寄生できないからだと思う。
『と、思ったら……。気持ち悪!』
リンダが、上半身、下半身のみ残った魔晶機神に寄生した異邦者を目撃し、生理的嫌悪感を抱いたようだ。
「どのみち進化した異邦者たちを倒さないことには、旧ラーベ王国王都の奪還は難しい。一体でも多く落とすんだ!」
『『『『『『『了解!』』』』』』』
リリーたちと、さらに選りすぐられたベテラン操者たちが、魔晶機人改Ⅱ、魔晶機神改などに乗り込み、キャリアーから出撃。
早速、蟻塚から出てきた魔晶機人型と魔晶機神型の異邦者たちと戦い始めた。
「(なるべく犠牲を減らすためにも……)私も出るぞ!」
「エルオール様、調整はバッチリですよ」
「ありがとう、ヒルデ」
私も完全武装したコンバットスーツで出撃し、魔晶機神に寄生した異邦者を優先して攻撃を開始する。
旧ラーベ王国領奪還が成功するかどうかは、この戦いの結果次第であった。




