第百三十話 サヨナラ、サクラメント王国
「まさに総力戦よな。そして今後は、他国との連携も重要となる。急拡大しつつあるゾフ王国に警戒する他国との協力関係か……。難しい、グレゴリー兄でも苦戦しそうじゃ」
「それでもやるしかないさ」
現に、ゾフ王国以外の国を見れば容易にわかることだ。
どの国も貴族たちも、異邦者に対し連携して事に当たろうとしていない。
以前は領地や利権で争っていた相手もいるから、なかなか相手を信用できないのだ。
だから対異邦者で同盟を組むことは言うは易く、行うは難しであった。
「他国に対し対異邦者同盟を呼びかける前に、ゾフ王国が割れるリスクをグレゴリー兄は減らしたいのか」
「そういうこと」
リリーは為政者には向いていないが、頭が悪いわけではない。
自分の兄が予定を早めて、サクラメント王国を畳もうとしている理由を理解していた。
「グレゴリー王は、サンデル公爵を名乗るそうだ。役職は内政関係のものになる予定だ」
グレゴリー王ことサンデル公爵は、操者としては微妙だったが、優れた内政家だ。
宰相として急拡大するゾフ王国の内政を担当しているアリスが大変そうなので、彼女を助けてもらおうと考えている。
ゾフ王国はどんどん大きくなっているので、アリスの仕事が増える一方だからだ。
「グレゴリー兄には適任じゃな。それにしても、ラーべ王国奪還か……。ケイトは喜びそうだが、随分と早いな」
「ゾフ王国が世界一の大国であることを、ラーベ王国奪還をもって世界中に知らしめ、その力で、対異邦者同盟及び連合軍を組めないか。サンデル公爵はそう考えているんだ。なるべく早くにラーベ王国も国土に組み込み、世界の国々に対し対異邦者連合軍結成を呼びかける」
世界一の大国と言われていたマーカス帝国がまったく振るわないから、どこかの国が声をあげる必要があるが、ゾフ王国は復活したばかりの小国扱いだ。
呼びかけに耳を傾けてもらえるほどの大国になる必要があると、グレゴリー王は考えていた。
「いまだ、異邦者に奪われた国を取り戻せた者はいない。これを成し遂げれば、ゾフ王国の言うことを聞く国や貴族も増えるというわけか。今は口で言うだけでは誰もついてこない。実績が必要じゃな」
「グレゴリー王はそう考えている。サクラメント王国を早く畳もうと考えたのも同じ理由からだ」
もしサクラメント王国が残っている状態でラーベ王国を奪還すると、一番の功績はサクラメント王国だと思う他国の為政者が出てしまうかもしれない。
新興のゾフ王国とは違いサクラメント王国は歴史の長い魔晶機人大国なので、だ。その知名度は抜群だったからだ。
「今のサクラメント王国は、実質ゾフ王国の属国に過ぎぬ。そのくらいのことを調べられぬのか? 他国は」
「異邦者の襲来によって、人間と物だけでなく、情報の流れも悪くなったからね。小国や遠く離れた貴族の領地ほど最新の情報が入らないのさ」
それにゾフ王国は持っているが、他国は無線通信機を持っていない。
だから他国及び独立心の強い貴族が送り込んでいるスパイたちは、苦労して他国に移動し、そこで獲得した情報を再び長い距離を移動し、所属する国に持ち帰らなければいけなかった。
魔法通信機はあるが、これは元々通信可能な距離が短く、さらにキャリアーとエア・トランスポート、魔晶機人改など兵器への搭載が最優先される。
また非常に高額なので、他国で捕まるかもしれないスパイに預けることはないはずだ。
なによりかなりの重量で、人間一人では簡単に運べない。
「とにかく今は、ゾフ王国の完全な統合と、旧ラーベ王国領奪還の準備が最優先だよ」
「サクラメント王国がなくなり、旧ラーベ王国領を奪還し終えたら、いよいよ妾も嫁入りかぁ。楽しみよな」
リリーは、サクラメント王国に未練はないようだ。
もうすぐ私も成人(肉体年齢は)なのだが、彼女との結婚はサクラメント王国の消滅と、旧ラーベ王国領の奪還が終わってからということになる。
新しく生まれ変わったというか、ゾフ王国が真の大国になったと世間に知らしめ、対異邦者対策の旗頭として動くためであった。
「(本当はそんなことやりたくないんだけど、ゾフ王国だけで人間が生き残れると思えないからなぁ……)」
今はゾフ王国が安全だからと、他国が異邦者によって蹂躙されるのを無視していると、最後に残ったゾフ王国が多数の異邦者に四方八方から袋叩きにされ、人間が滅んでしまう可能性が高い。
人間が滅べば、私のプチリッチな隠居スローライフ生活が夢と消えるので、今は働くしかなかった。
「(こうなったら早く終わらせて、私は傀儡の王としてノンビリ、プチリッチに暮らすんだ)」
「グレゴリー兄がウェディングドレスを準備してくれているので、今度試着がある。一生に一度のことだから楽しみじゃの」
普段は凛々しく、操者として精進することが最優先で、他のことにあまり興味はないと思われがちなリリーであったが、ウェディングドレスの完成を楽しみにしているところを見ると、普通の女の子なんだなと思ってしまった。
「姫様いいなぁ……」
「ライム、もうすぐ妾は姫ではなくなる。それに備えて、他の呼び方にしてくれぬか」
「他の呼び方ですか? リリー様」
「なんでもいいが、姫様は駄目だからな。妾はもう王女ではなくなるのだから。そして、エルオールの良き妻となるぞ」
「一応祖国がなくなるので、少しは悲しそうにした方がいいですよ」
「別に滅ぼされたわけではないからの。吸収合併みたいなものではないか。それに過去の歴史を振り返れば、国などいつか滅ぶものよ。サクラメント王国の歴史は長かったからの。妾としては、魔晶機人改が動かせて、エルオールの妻になれればなんの問題もないぞ」
笑顔でそう語るリリーは本当に祖国に未練がなさそうで、満面の笑みを浮かべていた。
「それにしても、エルオールはどんどん出世していくの。初めて会った頃は郷士だったのに」
「私は、死ぬまで郷士のままでも一向に構わなかったんだけど……」
郷士にしては広い領地を治めながら、自由に魔晶機人に乗って暮らす。
それで十分だったのに。
「妾はエルオールほどの男だからこそ、上に引き上げねばならぬと思っていた。そのせいで迷惑をかけたこともある。申し訳ないと思うが……」
「思うが?」
「結局、その力量に見合う地位に就くことになったではないか」
「私は王の器じゃないよ」
私が王としてそれなりに振舞えているのは、前世の軍人としての記憶があるからで、リリーのようなカリスマ性は持ち合わせてないのだから。
「相変わらずそなたは、自分の評価が著しく低いの。なんの能力もないのに、自分が万能だと思っている者よりはいいと思うが。妾はアリスやフィオナ、ヒルデのようにゾフ王であるエルオールを支えることはできぬが、守ることはできる。リンダも同じじゃが、彼女は妾よりも指揮官向けなのが羨ましいの」
リンダは、リリーよりも操者としての腕が落ちるが、魔晶機人改部隊と艦隊の指揮に長けていると、アリスとフィオナから報告を受けており、このところ、ゾフ王国貴族になった父であるフィーレ伯爵の助けを借りて、旧サクラメント王国南部に領土がある貴族たちから操者を集め、艦隊を編成、訓練していた。
。
「妾はマルコと共に近衛騎士団を編成して、エルオールを守る。じゃが、そこまでしても……」
「えっ? なにか不安でもあるの?」
リリーが私の警護をするとなれば、そう簡単に不覚を取るとは思えないのだけど。
「エルオールの地位と立場を考えると、今後も妻が増えることは確実。妾では防ぎきれぬゆえ、できれば控えめにしてほしいところじゃ」
「そっちの話! いやあ、さすがにこれ以上はねぇ……」
ヒルデ、リンダ、アリス、リリー、ケイト。
すでに五人も婚約者がいるので、これ以上増えるのは、中身が現代人的にどうかと思うのだ。
前世では、軍人が不倫すると叩かれる文化があったので、奥さんは一人という常識が叩き込まれて……そんな私に軍人時代、彼女すらいた試しがなかったのだけど。
「とはいえ、異邦者殲滅で他国が快く手を貸してくれるのであれば、妻を迎えるくらい仕方ないかもしれぬ。今は、ラーベ王国奪還が優先だがの」
その前に、本当にサクラメント王国を終わらせることができるのだろうか?
下手な騒ぎになられると困るのだけど、リリーもグレゴリー王が急ぎ進めているから止めるわけにもいかない。
今は、ラーベ王国領奪還の準備を進めることにしよう。




