第百二十七話 エア・トランスポート
「どうだ、ラウンデル。乗り心地は」
『これなら魔力量が三百あれば動かすことができるので、確実に戦力増強に繋がるでしょう。魔晶機人を運搬できるのもいいですね。固定武装ながら火器も装備されているので、魔物と異邦者を倒すことが可能なのもいいです』
「現在量産中だ。まだそんなに沢山は造れないけど」
『我々のような魔力はあっても、魔晶機人改に乗れない者にとってはありがたいですよ』
「ラウンデルには、この『エア・トランスポート』の部隊運用を任せる予定だ」
『出番をいただき、ありがたく思います。私は若様のお付きだったのに、魔晶機人改に乗れないので歯がゆく思っていたのです』
コンバットアーマーには、航続距離を延ばすためのサブフライトマシンが存在した。
板型の飛行機で、その上部にコンバットアーマーを載せることができ、コンバットアーマーを載せなければ爆撃も可能だったが、制空権がないとただの的でしかない。
なので普段は、コントロールをコンバットアーマーに渡して、無人で運用するのが常だった。
現地で乗り捨てる構想だったが、もしそんなことをすれば戦費が増す一方だし、制式採用はされたが訓練以外で使われたことがない。
訓練なら、乗り捨ててもあとで回収できるからだ。
そんなサブフライトマシンだが、コンセプトは悪くないので試作、先行量産を開始した。
ただ、コントロールを魔晶機人改に預けて無人で運用するには技術の問題があったので、このフライトマシンを動かすのは魔晶機人改を動かせない魔力持ちとしている。
なるべく魔力量が少ない者でも動かせるよう、フィオナとバルク、ヒルデ、ゾフ王国技術部が総力を結集した結果、魔力量が三百あれば動かせるフライトマシンが完成した。
早速試作品の試験を始めたのだが、その責任者にはラウンデルを任じた。
彼は今も私のお付きということになっていたが、こうも私の立場が変わってしまうと、元郷士の家臣にあまり出番はない。
そのため、このところは猟師たちを率いて魔物狩りを続けていたのだが、ようやく出番がきたと張り切っていた。
問題であるこの手の兵器への適性だが、ラウンデルは運動神経も動体視力も抜群なので、すぐに乗りこなすことに成功している。
「このエア・トランスポートには火器もついているから、単体でも魔物と異邦者を倒すことができるが、魔晶機人改に比べると戦闘力は低い。だから、集団、編隊での運用が必要になる。そこもしっかりと覚えてほしい」
『他の操者たちも魔力量の多い猟師が大半なので、連携に関しては慣れています。あとは訓練を繰り返すだけですね』
「魔晶機人改を乗せて、遠方に移動する訓練も必要だ。位置を見失わないようにコンパスと位置測定装置の扱い方も……」
『魔物の棲む領域で活動するベテラン猟師は、それらのものがなくても、星や太陽を見て自分の位置を把握できます。万が一に備えて、若い操者たちにもそれを教える必要がありますね』
「ラウンデル、そっちも頼むよ」
どうやら、エア・トランスポートの部隊運用もラウンデルに任せることができそうだな。
私の地位と権限が急激に上がったため、元グラック家の家臣たちの扱い方が難しくなった。
私の生え抜きの家臣なのに郷士家の家臣なので、ゾフ王国の要職を任せる能力が足りない者たちが大半なのだ。
仕方がないので、名誉職に就けて子弟の成長に期待したりしていたが、ラウンデルがいてくれて助かった。
私は適材適所を実践しているが、やはり生え抜きの家臣が近くにいた方が安心するのも確かなのだから。
「私も試乗してみようかな」
『お供します』
実は、すでに何度も飛行試験に参加しているが、念のためってやつだ。
さらに言うと、飛行パック装備の魔晶機人改ともまた違った感覚を味わえるのが良かった。
『『我々もお供します』』
ラウンデルの他、彼の部下二名を連れて、四機一組で試験飛行を開始する。
私とラウンデル、彼の部下二名でペアを組み、ペアを二つで四機を最小単位として部隊を編成する。
エア・トランスポートは魔晶機人改よりも戦闘力に劣るので、単独で異邦者とも戦うとなると、このような編隊を組むのが基本だった。
軍人時代、コンバットアーマーは特殊部隊の運用を除き三機一小隊で組むのが基本だったが、ペアを二つで四機一組の運用がいいと強く主張するパイロットも少なくなく、よく論争が起きていたのを思い出した。
私は四機一組の方がいいと思っていたので、こちらの世界では四機一組を採用している。
『若様……じゃなかった。陛下は、魔晶機人改も同じような編成にする予定だとか?』
「一応な」
今のところ、優れた操者が個人で無双するケースが少なくない魔晶機人改だったが、今後の異邦者との戦いを考えると、集団戦術の確立も必要だと痛感しており、今のうちに小隊編成を進めておこうと考えていたのだ。
火器を用いる戦闘が増えているので、集団戦で火器を集中させて一体でも多くの敵を絡め取る戦法も増えるだろうからだ。
「ベテラン操者には、なかなか受け入れてもらえない考えだけど……」
ベテランの操者ほど単騎で戦いたがるし、一騎打ちを名誉と考える。
異邦者相手に一騎打ちもクソもないと思うのだけど、以前私が単騎で大要塞クラスを落としたことがあるので、自分も同じように戦果を挙げたいと考える操者が若手・ベテラン問わずに一定数存在すると、前にリリーが教えてくれたのだ。
仕方がないので、まずは学生と新人からということで、私とフィオナが作った訓練カリキュラムに従って、今後も増え続ける魔晶機人改の操者を訓練し始めていた。
『年寄りは融通が利きませんからね』
「戦争が変わりつつあるのだから、早く受け入れてほしいものだ」
領地や利権の争い程度なら、それに参加する魔晶機人はせいぜい数機だ。
一対一で戦うケースが大半で、味方機と連携して戦う必要なんてない。
だが異邦者の数はとても多く、これを効率よく倒すには味方機との連携が必要だ。
攻撃に夢中になって、別の敵の攻撃で不覚を取るというミスも減らせる。
「魔晶機人改の再生、新規量産には目処がついたが、操者はそう簡単に増えない。極力犠牲者を減らす必要があるんだ」
そのための、ペアなり小隊編成、連携技術の向上なのだから。
『エア・トランスポートの方はこれから訓練なので、最初から編隊行動や集団戦を教えられます』
「教本は用意するから、それも参考にしてくれ。またか……」
ラウンデルたちと編隊飛行を続けていたら、少し離れた前方に五体の異邦者が飛行していた。
「ラウンデル、ライリー、ブルガ。もう一度しっかりと編隊を組みなおせ」
『『『はっ!』』』
先行量産機の操者に選ばれただけあって、三名の腕前は訓練時間が短い割にはかなり上手だった。
四機がピッタリと機体をくっつけながら横並びとなり、俗にいうアブレストという状態になった。
「火器の安全装置を外すんだ」
『『『了解!』』』
「今の横並びの態勢を必ず維持するように。搭載されている五七ミリ機関砲の照準は合わせなくていい。私の合図と共に前に向けて撃てばいい』
『『『了解!』』』
私が機体を動かして、前方で浮遊する異邦者の真正面に位置を合わせると、ラウンデルたちも横並びの編隊と距離感覚を崩さないように機体を操作した。
「(この三人はかなりやるな)今だ! 撃て!」
私の合図で、エア・トランスポートの左右に一門ずつ装備されている五十七ミリ砲から太い火箭が発射。
それが四機で合計八門となり、こちらに気がつき襲い掛かろうとした五体の異邦者を穴だらけにしてしまった。
異邦者たちは大量の体液を吹き出しながら、バラバラになって地面へと落下していく。
「隊長機が照準をつけ、他の三機は横並びのまま、隣の機体との距離を保ちながら五十七ミリ砲を撃つ。そうすれば、こうやって一度に数体の異邦者を落とせるのさ」
『さすがは陛下。エア・トランスポート操縦の腕前も見事ですね』
コンバットアーマーの訓練課程で戦闘機の操縦も習っていたので、ちゃんと覚えていてよかった。
「エア・トランスポートは、魔晶機人改を載せている時も、載せていない時も四機一組での行動を基本とする。四機小隊なら、今みたいに一撃離脱戦法を繰り返せば複数の異邦者を落とすことができる。しっかりと訓練してくれ」
『お任せください、陛下』
『俺も隊長になれるように頑張ります!』
『俺もです!』
エア・トランスポートは、性能と操者の魔力量の問題があって魔晶機人改のサポートメカ扱いされてしまうだろうが、戦い方を工夫すれば十分に主役を張れる。
なにより、エア・トランスポートが十分に配備されれば、ゾフ王国軍の戦力はさらに増強されるのだから。
こうして十分実用に耐えると判断されたエア・トランスポートは量産、配備されるようになり、作戦行動範囲の拡大、火力の増強、戦力アップに貢献していくのであった。




