第百十六話 二王女の本性
「私は、カーラ姉さんと次の王の母を巡って争っているんでしょう? どうしてケイトの人気が高いのよ?」
「それは、ケイト様が自ら操者として戦場に立ち、多くの戦果を得ているからでして……。特に兵や操者たちからの支持が厚く……」
「いくら私たち王族が魔晶機神を動かせても、あんな化け物と戦うのは男性の仕事よ!」
「ゾフ王陛下の傍には、リリー王女を始めとして、多くの前線で活躍している女性操者たちがいますし、整備などでも活躍しております。エステル様、せめて前線に視察して兵士たちの士気を高めることに協力していただきたく……」
「嫌よ! 私は、ゾフ王陛下の妻になるのだから、日焼けしたり、汗臭くなったら、ゾフ王陛下に嫌われてしまうわ」
「……」
困ったことになった。
ラーベ王国で人臣位を極めるべく、エステル様を次の王の母とすべく動いてきたが、姉のカーラ様と同じく民たちにまったく人気がない。
特に、直接異邦者と戦っている軍と操者たちの支持が皆無で、自らも優れた操者で前線で多くの戦果を出しているケイト様の人気は上がる一方だ。
そしてこのことが気に食わないエステル様が、私に手を打つように命じてきた。
カーラ様も同じような状況らしいが、それは三王女すべてが異母姉妹で、決して仲が良いわけではないからだろう。
ケイト様の母親はすでに亡くなっており、身分も低かったので、本来王の母になれる方ではなかった。
だからこそ陛下は、ケイト様が操者として腕前を磨くことに集中してもなにもおっしゃらなかったし、ゾフ王国への留学も許可した。
だが、現在国土を異邦者に奪われている今のラーベ王国において、血筋の良さや長幼の序だけで次の王の母を選べなくなった。
ましてや、ケイト様は優れた操者でもある。
民たちも、貴族たちだって、王は異邦者を倒せる強い操者の方がいいに決まっているだから。
陛下の操者としての腕前が微妙であり、これまで一度も前線に出たことがないというのも、人気がない理由の一つなのだから。
「手を打てと言われましても……」
エステル様が次の王の母に相応しいと、民たちから、貴族たちから思われるには、操者としてケイト様以上の実績をあげるしかない。
いつ異邦者がラーベ王国の土地を奪いに来るかわからない現状では、たとえ王女でも優れた操者であった方が支持を得やすいのだから。
「エステル様には、優れた操者となるべく訓練を始めていただければ。ゾフ王陛下はまだ未成年です。今から頑張れば、ケイト様よりも優れた操者になれる可能性はあります」
「嫌よ! どうして私がそんな汗臭いことを。私はゾフ王陛下に寵愛されるから問題ないわ」
「恐れながら、ゾフ王陛下は優れた女性操者を好む傾向にりますので」
「嫌なものは嫌! 他に手があるじゃない。母親の身分が低いくせに生意気で、私がなかなかゾフ王陛下とお話できないのに、いつも仲良くしている出しゃばりケイト。あいつを殺しなさい」
「エステル様……」
「ボーマン子爵、この私が世間知らずのお姫様だと、ずっと勘違いしていたの? 兄様たちが亡くなられた瞬間、私はそんな風に生きられなくなったのよ」
「……」
「ボーマン子爵、今からケイトに尻尾を振るの? それもいいけど、もしケイトが次の王の母親になったら、あなたに居場所なんてなくなるわよ。私と同じく、ろくに魔晶機神を動かせないくせに」
「エステル様……」
「ケイトがいくら優秀な操者でも、所詮は一人。私が次のラーベ王を生む母になってしまえば、今は反発している軍人や貴族たちも落ち着くわ。ゾフ王陛下とて、国を奪えば反発は必至。私と子供を作り、次のラーベ王にするしかない。あっ、そうだ。カーラも殺してね」
「カーラ様もですか?」
「元々は、カーラの方がライバルだったんだから突然でしょう。どうせカーラも、私と同じことを考えているわよ」
「どうして確信できるのですか?」
「だってカーラは、私と性格がよく似た異母姉なのだから」
確かに、次の王を生む母がケイト様になったら、エステル派を仕切る私は、出世からは縁遠い存在となるだろう。
「(このまま三人の王女たちが争っていられるほど、ラーベ王国に余裕などない。ゾフ王国の介入を防ぐためにも、三派に属する者たちが殺し合いを始める前に、カーラ様とケイト様を殺す……暗殺するしかないか)」
これも、ラーベ王国のためだ。
ここは非情の覚悟で、二人を暗殺する準備を進めよう。
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「少しばかり魔力が多いからといって、姉を姉とも思わないエステル。この私を差し追いて、ゾフ王陛下と仲のいいケイト。二人とも、死んでもらいましょうか」
「カーラ様!」
「ゾフ王国としても、ラーベ王国の後継者争いに口を出すのはルール違反だと理解しているはず。唯一生き残ったのが私だとしても、ゾフ王陛下はなにも言わずに婚姻関係を結ぶはずよ」
「カーラ様……」
「確かにケイトは優れた操者だけど、一人いなくなったところで、ラーベ王国の戦力が大きく減少するわけではない。ゾフ王国としても、ようはラーベ王国が異邦者の盾になればいいのだから。私が次の王の母でも、気にしない……文句は言えないでしょう」
「……」
「無言というとこは、肯定するってことかしら? それとも恐ろしくなった? もしケイトが次の王を生む母となった時、私についている貴族たちは冷や飯食い確定ね。特に優れた操者ではないあなたにしても、永遠に出世の芽は絶たれるでしょうね」
確かにカーラ様の言うとおりだ。
今の情勢では、ケイト様が次の王を生む母になるのが相応しいが、もしそうなれば出世できるのは優れた操者だけになる可能性か高い。
異邦者との戦争とはいえ、ただ優れた操者だけいれぱ勝てるという話ではなく、たとえ次の王を生む母がカーラ様だとしても、ゾフ王国はラーベ王国を援助するはずだ。
「いくらゾフ王国でも、内政干渉はよくないわ。父上は誰が生き残ってもそれを認める。認めざるを得ないのだけど。私の下で出世したかったら、エステルとケイトを殺す算段を立てなさい」
「わかりました」
三派による殺し合いが始まる前に手を打たなければ、ラーベ王国は滅んでしまう。
急ぎ、カーラ様とケイト様を暗殺する算段を立てなければ……。