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第百十話 塔(蟻塚)

「どうだ? フィオナ」


「どうやら、この魔獣の死体に寄生した異邦者ですが、こちらの世界で生まれた異邦者のようですね。細胞の年齢を調べてみましたが、かなり新しいので」


「魔獣の死骸に寄生したってことは、異邦者は非生物にしか寄生しないのかな?」


「そうとも言い切れません。もしかすると、魔獣が生きている時に寄生している可能性もなくはないので」


「この前、新型火器の試験も兼ねてラーベ王国方面に強行偵察をした時、異邦者と魔獣は同じ場所にいた。両者は共闘関係とまでは言えないけど、敵対していないように見える。せめて仲が悪ければ、もう少し人間も楽だったのに……」


「異邦者がこの世界でどうやって、どのくらいのスピードで繁殖するのか、調べてみます」


「頼むよ、フィオナ」




 私、マルコ、ネネは学園もあるので一旦王都に戻ったが、ラーベ王国との連携に向けて、新型火器の試験を兼ねた強行偵察は続いていた。

 マルコとネネも、十分第一線で戦えることがわかったのは収穫……本当は、マルコを戦場に出したくないのだけど……。

 とにかく、両国が一日でも早くラーベ王国と連携できるようにするため、異邦者についてもっとよく知り、それを生かしたいところだ。

 そう思っていたら、西部国境で異邦者の侵入を防いでいる基地から、これまでにない異邦者の死骸がサンプルとして送られてきた。


「異邦者は寄生生物であり、絶望の穴から出てくる個体はすべて、宇宙空間で宇宙船、それも軍艦、戦闘機の残骸と思われる金属塊に寄生しているようです。おそらくは、戦闘により撃沈、撃破されたものに寄生しているのでしょう。回収した金属塊にビームによる被弾の跡が確認できましたので」


「宇宙空間で、破壊された軍艦の塊に寄生しているのか。異邦者に呼吸は必要ないのかな?」


「解剖した異邦者には、捕食するための口はついていますが、呼吸を司る器官がありません。宇宙空間でも窒息しないでしょう」

 

「異邦者って、人間よりも進んだ生物なのかもしれないな」


 なにしろ、酸素がないのに生きていけるのだから。


「それに加えて、寄生している側の接触面に謎の器官がついておりまして、これを調べたところ、寄生した物を少しずつ削り取って食べ、それをエネルギーに変える能力もあるようです」


「魔獣の死骸と大木はわかるが、巨岩と金属塊からもエネルギーを作れるのか? つまり無機物からもエネルギーが得られると?」


「生きた異邦者を解剖したわけではないので、あくまでも推測ですが、以前艦長にお話ししたとおり、寄生したものを少し削り取り、体内で核融合をしてエネルギーを得ているようです」


「生物なのに、核融合を?! やはり信じられないな」


 SFの世界だよなぁ……。

 そんな生物は。


「はい。ただ、核融合で作ったエネルギーだけでは体を構成できないので、その材料として人間や魔獣を捕食するようです。生きていくのに必要なエネルギーと、体を作る有機物を別々に摂取するため、長らくなにも食べなくても飢え死にしないでしょう。大変エネルギー効率がいい、進化した生物と言えます」


「そうか……」


 これは、この世界から異邦者を駆逐する、もしくは人間の脅威とならない状態にするのは大変そうだな。


「ただ、高度な生物であるため、繁殖スピードはかなり遅そうです」


「それだけが救いだな。ネズミのように増えられたら、人間は異邦者によってすぐ滅ぼされていたはずだ」


 異邦者たちが、絶望の穴から大挙してやって来てから数ヶ月が経っている。

 もっと繁殖していてもおかしくなかったが、現時点でこっちで繁殖したと思われる異邦者は十体も確認されていない。

 これから増えるだろうが、繁殖スピードもそこまで速くなく、多産でもないようだ。


「ですが、最初の勢いはありませんが、続々と絶望の穴からこちらの世界にやって来ています」


「それなんだよなぁ……」


 どうして、これまでは連合軍で対処可能な数しか絶望の穴から出てこなかったのに、大量に湧き出てきたのか?

 そもそも、絶望の穴はどこに繋がっているのか?

 どうやら別世界の宇宙空間らしいが、いつかは異邦者が穴から出てこなくなるのか?

 もしくは、こちらで絶望の穴を塞ぐ必要があるのか?

 考えなければならないことが多い。


「ああ……。田舎の領地で、たまに魔晶機人改を動かして遊びながら、プチリッチに生きていきたい」


「それは無理ではないでしょうか?」


「……」


 フィオナ、それは私もわかっているんだ。

 こうなったら、なるべく若いうちにゾフ王を退位して、第二の人生を楽しむ方向にしていこうと思う。






「ところで、偵察衛星を用いてラーベ王国に向かうルート選定をしていたのですが……」


「これは……泥のタワー?」


「ゾフ王国とラーベ王国の間にある森で、突如異邦者たちがこれを建設し始めたのです。他にも世界中に数十箇所、これと同じような塔を作り始めました」


「手足もないのに、随分と器用なものだな」


「夫君、これはついに異邦者たちが拠点を築き始めたということか?」


「さすがに、ずっと空中に浮かび続けるのは辛いのかもしれない。休む場所、繁殖に必要な場所が必要ということか……」


 異邦者には謎が多い。

 絶望の穴と別世界の宇宙が繋がっているかもしれないという話を私とフィオナ以外が聞いてもチンプンカンプンだろうし、私の正体を知られるのも都合が悪い……信じてもらえない可能性の方が高いけど。

 フィオナとの話を終えた私は、今度はアリスも加えて、ラーベ王国との連携をはかるための作戦会議を始めた。

 偵察衛星については、アマギに搭載された超古代文明の遺産ということにしているので、アリスとゾフ王国の限られた者たちだけには知らせてある。

 はるか上空から、すべてを見渡せるなんてオーパーツだ。

 特に他国の人間に知られるわけにいかなかった。


「異邦者が巣を作り繁殖するとは、正直初耳よな」


「サクラメント王国でも、そういう話は聞いたことがないな」


 私は絶望の穴に二回出陣しているが、サクラメント王国でも連合軍でも、異邦者の習性についての話を聞いたことがなかった。

 絶望の穴から飛び出した直後、すべて倒されていたからだろう。

 ところが今回、この世界への侵略に成功した異邦者たちは、定住のための住処を作り始めた。

 『異邦者って巣を作るんだ!』という、驚きだが、異邦者も生物なので巣くらい作るだろうという考えに至り、問題はこれをどう破壊するかという話に入っていった。


「兄様、とりあえずこいつを破壊しないと、ラーベ王国との連絡と行き来が困難になりますよね?」


「またちょうどいい位置に作りやがって……」


 ゾフ王国とラーベ王国とほぼ等距離、中間点にある魔獣の住処である森の中で塔は作られていた。

 しかも、ゾフ王国とラーベ王国との交渉が纏まり、第一回の連絡艦隊を出そうという時に、その予定ルート上にこんなものが見つかってしまうなんて……。


「偵察衛星の映像から分析すると、塔は、泥と異邦者の体液……唾液と思われるもので作られているようです」


 塔は横幅も広く、蟻塚っぽくも見える。

 ここに、数百、数千の異邦者たちが休み、多分繁殖するための住居が作られていた。

 他の場所では、この塔がいくつも連なって作られてる場所もあるとか。


「やはり、塔ではなく蟻塚だな」


 餌(人間)を食べて体を作る栄養を得た異邦者が、塔で繁殖を本格的に始める可能性が出てきた。

 私たちに一番近い場所にある塔が一つで済んでいるのは、これまでゾフ王国軍とサクラメント王国軍が多くの異邦者たちを倒してきたからだろう。

 ただ、遠方にある塔がいくつか連なった状態の場所では、今後大量の異邦者が出現する可能性が強い。

 他国は私たちほど、異邦者を倒していないからだ。


「これからも全力で戦力の強化を続けないと、今後人間は、異邦者に押し切られる可能性があるのか……」


「とはいえ夫君よ、ゾフ王国とサクラメント王国だけでは限界です」


 この世界には多くの国があり、いくらゾフ王国にアマギの技術と生産力があっても、全世界を一国で救えるわけがない。 

 どうにかして人間の力を結集させ、異邦者に立ち向かう必要があった。

 ただ、これまでも安全な土地を巡って同じ国の貴族たちが争うような世界だ。

 言うは易く行うは難しだと思う。


「(それでも、たとえ少しずつでも前に進めないと)とにかく急ぎこの塔を破壊し、異邦者たちも駆逐して、ラーベ王国と連絡を取る必要がある」


「いつ両国の国境に、異邦者たちの大群か押し寄せるかもしれません。あまり多くの戦力を出せないのではありませんか?」


 マルコの言うとおりで、ラーベ王国に多くの戦力を出した結果、ゾフ王国の守りが薄くなり、異邦者に攻め込まれたら意味がないのだから。

 かといってあまりに少数だと、蟻塚破壊で多くの犠牲が出るだけでなく、ラーベ王国との連携に失敗してしまうかもしれない。

 どの程度の戦力を出せばいいのか。

 ゲームやシミュレーションでは失敗してもやり直せばいいが、現実はそういうわけにはいかないのだから。

 ラーベ王国に向けて、どのくらいの戦力を出すのか?

 この判断が難しいのだ。


「ケイトたちは出す。ゾフ王国軍もそれなりの数の戦力を出すが、サクラメント王国にそんな余裕があるかどうか……」


 ラーベ王国との連携は、サクラメント王国の課題でもある。

 戦力を出してくれるといいけど、無理をした結果サクラメント王国領内に異邦者を入れてしまえば、本末転倒な話になってしまうのだから。


「どのみち、ラーベ王国派遣艦隊を出すには準備が必要だ。ケイトも、派遣艦隊に選ばれた者たちも準備を怠らないように」


 

 限られた者だけ参加した会議が終わり、私はケイトにラーベ王国に出撃する艦隊に参加してくれと要請。

 当然彼女はそれを受け入れた。


「祖国を救援する。胸が高まりますわ」


「あてにしているよ」


「お任せください」


 その後正式に、『ラーベ王国救援艦隊』の参加者が発表され、編成と訓練、物資の積み込みを終えた艦隊が、ラーベ王国を目指して出発するのであった。

 その前に、異邦者たちの巣を破壊しなければならないのだけど、なるべく犠牲者が出ないように祈ろうと思う。

 たとえそれが難しいことでもだ。





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― 新着の感想 ―
ハンターハンターのキメラアント編を思い出しました。 今後の展開が楽しみです。
 蜂・アリの巣って、ある程度できると一気に兵隊が、増殖しますからね~
地球防衛軍を彷彿とさせる
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