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第百八話 57ミリ銃

「ラーベ王国出身のみなさん、あらためて最新の情報ですが、かなりの広さの領地を異邦者たちに落とされてしまいましたが、まだ王都も陛下も健在だそうです」


「ケイト様、長距離の魔法通信が阻害されているのに、どうしてそれがわかったのですか?」


「陛下が確認のために送り出した、ゾフ王国軍の強行偵察部隊がラーベ王国の王都に辿り着き、陛下からラーベ王国の状態を聞き、無事に戻ってきたそうです」


「よかったぁ……」


「みなさんは、いつ出番があるかわからないので、それぞれ腕を磨き、知識と技術を習得しておいてください」


「僕たちが、ラーベ王国救援へ向かう日が近いんですね」


「いつかは断言できませんが、必ず私たちがラーベ王国を救援する日がきますから、それに備えてほしいのです」


「わかりました。みんな、頑張ろうぜ!」


「「「「「「「「「「おおっーーー!」」」」」」」」」」




 絶望の穴から大量に飛び出してきた異邦者たちにより、ゾフ王国とサクラメント王国は、他国と連絡が取りにくいというか、ほぼ不可能な状況に陥っていた。

 異邦者の大群は、結界すら無視して続々と人間の住む土地に侵入。

 村、町、畑などを無差別に破壊し、そこに住む人たちを食い殺した。

 すでに首都や領都を落とされて統治不能となり、そこに住む人たちが逃げ出す羽目になったり、他の土地で亡命政権を作って異邦者に対抗している国や貴族も少なくない。

 難民も多数いて、彼らの扱いが世界中で問題になっていた。

 幸いにも、ゾフ王国に逃げ込めた難民たちは、魔物を駆逐して結晶を発動させた土地が余っているので、そこで生活を再建させている。

 いつ故郷に戻れるか不明なので、定住させるつもりで土地の開発を任せていた。

 彼らが一日も早く生活を立て直し、せめて食料くらいは自給できるようにしてもらわないと、ゾフ王国とサクラメント王国も外に目を向けられないからだ。

 ラーベ王国も、三割もの領地を異邦者に落とされた状態だ。

 それでも、ゾフ王国に留学しているラーベ王国出身の生徒たちの学園生活は、普段どおり続いている。

 唯一変わったのは、第三王女であるケイトが隊長となって、ラーベ王国出身の操者、船員、整備士たちを率いるようになったことだろう。

 ゾフ王国とサクラメント王国は、このままジリジリと人間の住む土地が異邦者たちに落とされていくと、最後に両国が異邦者の大群に包囲、殲滅されることを恐れていた。

 たとえアマギがあっても安全とは言い切れず、まずは他国との連携を図って人間側の戦力を強化し、異邦者たちを駆逐、奪われた土地を奪還することを決めている。

 同じ人間相手なら停戦、和平交渉をする手もあるのだろうが、異邦者に話が通じるとは思えない。

 そこでまずは、両国に一番近いラーベ王国と連絡をとることにした。

 改良した飛行パックを装着した魔晶機人改四機で編成された強行偵察部隊を、定期的にラーベ王国を目指させる。

 そうすることで、常に最新のラーベ王国の情報を得ることができた。

 操者たちにも、いい実戦訓練になる。

 単機でラーベ王国に向かわせると、あちこちにウロウロしている異邦者たちに襲撃される可能性が高く、小隊編成としたのは私の考えだ。

 もし異邦者たちと遭遇しても、新型飛行パックを全力で吹かし、スピードを落とさずに振り切って目標に辿り着く。

 長距離魔法通信が異邦者によって妨害されている以上、この方法で他国と連絡を取るしかなかった。

 彼らは無事、ラーベ王国に到着した。

 異邦者たちに奪われた土地は少なくないが、他国とは違ってそこに住んでいた人たちもすぐに避難したので犠牲者は少ないと、強行偵察部隊の面々はラーベ王から報告を受けたそうだ。

 その代わり、養いきれない民衆の流出は他国と似たような状況であったが。

 救援を急ぎたいところだが、ラーベ王国と両国との間には元々かなりの距離があり、大半が魔獣の住む土地であった。

 今ではそれに加えて、大量の異邦者たちが占拠しており、どうにか三ヵ国が連携を取れるようにしなければならない。

 ケイトが自国の留学生たちを纏めているのは、その手伝いをするためと、彼女たちが上手くラーベ王国に戻れた際は、ラーベ王国の主力部隊とするためだ。

 ゆえに士気を保つべく、ケイトは強行偵察部隊が持ち帰った、最新のラーベ王国情勢を同胞たちに伝える役目を請け負っていた。


「次からは、新方式の通信機材で最新のラーベ王国情勢が手に入るようになりました」


「新方式? 魔法通信とは違うのですか?」


「はい。ゾフ王国の技術だとか」


 新方式の通信機とは、アマギで量産した衛星通信機のことだ。

 フィオナが追加で数基の衛星を打ち上げ、まだ近距離では使える魔法通信と併用して使う予定だ。

 そしてサクラメント王国に続きこれを、急ぎ教育した通信兵たちと共にラーベ王国に送り出した。

 彼らの教育は最低限だったため、衛星通信機の操作と簡単な修理くらいしかできないが、そう簡単に壊れるものではないから大丈夫だろう。

 これでお互いに連絡が取れるようになったので、あとはラーベ王国とどうやって物理的に連携が取れるようにするかだ。

 それを今、私、フィオナ、アリス、ゾフ王国軍の幹部、参謀たちで考えているところだけど。


「ラーベ王国組の士気は高いようだね」


「これも陛下が、ラーベ王国と連絡を取れるようにしてくれたからです。ありがとうございます」


 一見金髪縦ロールなので、ちょっとお高い雰囲気のあるケイトだけど、実は気さくで柔軟性もあり、ラーベ王国からの留学生たちをよく纏めていた。

 リリーほどのカリスマ性はないが、人気のある王女様だとラーベ王国の人から聞いたことがあった。


「ケイト、ここは学園内だからエルオールでいいよ」


 私はそう呼ばれるのが嫌だったから、ゾフ王とグラック男爵の二役を演じていたというのもあったのだから。


「そうだったのですか?」


「なんの運命か、サクラメント王国の郷士だった私が、なぜかゾフ国の王様なんだから」


「エルオールさんは大変優れた、いえ優れたなんてレベルではない操者なので、王様でもおかしく感じませんわ」


「そうかな?」


 王族や大貴族は、魔力量が多いから魔晶機神を動かせるけど、全員操縦が上手というわけではない。

 操縦技術なら、しっかりと軍などで訓練をしている下級貴族の方が上だったりする。

 だから余計に、優れた腕前を持つ大貴族や王族は世間から評価されやすいということか。


「みなさん不思議なことに、腕のいい操者ほど爵位が高いと思い込む癖がありますから。リリーさんやアリスさん、私のように恵まれた環境ゆえにしっかりと訓練を積んできた、王族の操者もいますから」


 王族や大貴族にも下手な操者は多いが、上手い人もいて目立つから、一般庶民ほど優れた操者イコール王様や大貴族と思い込むわけか。


「イメージの問題か」


「はい」


「納得いった」


 グレゴリー王のように、操者としてはかなり下手な人も少なくないけど。


「ところでラーベ王国組って、意外と人数が多いよね」


「はい。ラーベ王国は小国ですけど、サクラメント王国の隣です。魔晶機人大国であるかの国に対抗するため、ゾフ王国に多くの留学生を送り込んだのです。私も留学したのは、あとに続く人たちを増やすためでした」


 王女様が留学すれば、あとに続く人も増えるからか。


「世界一の大国ではありますが、魔晶機人技術が遅れているマーカス帝国は、留学生の人数こそ多いですが、人口比でいえばラーベ王国よりも少ないです。大貴族の子弟は誰も留学していませんから」


 確かに、男爵家の三男であるリックが、マーカス帝国組の纏め役だからなぁ。

 騎士、郷士の子弟が多く、整備科なんて平民が大半だと聞く。


「マーカス帝国は大国ゆえに、古き伝統に拘る貴族が多いのです。ラーベ王国は小国なので、そんなことを言っていられませんわ」


「ラーベ王国とどう連携を取るか、もうすぐ具体的な作戦が決まると思う。それに備えておいてほしい」


「それでしたら、私は操者ですが、軍人ではありません。少し部隊編成で相談に乗ってほしいのです」


「いいよ。じゃあ、食堂で」


「はい。あっ、ささやかではありますが、おごらせていただきますわ」


「ありがとう。遠慮なくおごられるよ」


 私とケイトは、学園内の食堂に移動して話を続ける。


「学園の食堂のスイーツは、お値段以上の美味しさですわ。エルオールさんは、甘い物が好きなんですね」


「未成年で、お酒を飲んだことがないからね。特に飲みたいとも思わないし、パンケーキうまぁ」


 私は、ケイトにおごってもらったパンケーキを食べながら、彼女の質問に答えていた。

 学園の食堂で出される料理やスイーツはアマギで製造しているから、美味しくて当然なんだけど。

 なお、前世の私はお酒を一滴も飲まない究極の下戸であった。

 体質的に飲めないわけではないが、特に飲みたいと思わないのだ。

 そして、コンバットアーマーの操縦者となってからは、意図してアルコールを取らないようにしていた。


「お酒を飲んでから魔晶機人に乗ると、酔っぱらいやすいしね」


 体に激しいGがかかると、血中にアルコールが一気に流れて酩酊しやすくなる。

 私はそう聞いていたので、前世ではお酒を飲まないようにしていた。


「そうなんですね。初めて聞きましたが、とても為になる知識でしたわ」


「気をつけた方がいいよ」


 だから私は、お酒を一滴も飲まないように心がけていたのだから。


「私も、特にお酒が好きというわけでもありませんし、さすがはエルオールさん。そこまで注意して生活してこその、その腕前なのですね」


「そんな大それたものじゃないけど。ところで相談とは?」


「はい……実は……」


 その後は、ラーベ王国組の魔晶機人改部隊の編成について、特にケイトの下に置く小隊長の人選についてなど、私は学園の成績などを参考に候補を出したりして、午後の時間を過ごすのであった。






「ネネ、試しに撃ってみてくれ」


『了解!』


 反乱を起こしたイタルク公爵を討った際に戦ったネネが、ゾフ王国領とラーベ王国との間にある魔物の領域で新兵器を試していた。

 スクラップと生物の融合体のような異邦者を二十ミリ、四十ミリ銃で倒すには多くの弾丸を当てなければならず、ラーベ王国と連絡を取れるようにするには火力が足りない。

 そこで、さらに口径を大きくし、弾丸の素材、形状、火薬の量を見直した試作五十七ミリ銃を試作、先行量産を始めており、その性能試験をネネに頼んだのだ。

 ゾフ王国、サクラメント王国とラーベ王国の間にある広大な自然は魔物と異邦者の天国になっているが、いつも大勢で集まっているわけではない。

 新兵器の試験には、もってこいであった。


「ネネ、だいぶ腕前をあげたって聞いたぞ」


『ボク、陛下には全然勝てないですよ』


「将来、私に勝てるようになるかもしれないじゃないか。それに今は、魔物と異邦者を倒せれば問題ない。なあ、マルコ」


『はい、兄様』


 成人と同時に、近衛騎士隊隊長とグラック伯爵になる予定のマルコも、急遽学園に編入となった。

 まだ若いなどと言っていられる余裕が、ゾフ王国にはなくなってしまったからだ。

 現在のマルコの魔力量は1800で、魔晶機神には乗れないが、魔晶機人改を巧みに扱えるようになっていた。

 少し前から、ゾフ王国では学園に入学する前の幼い操者たちを集め、魔晶機人改の操縦を教えていたが、マルコは同年代の中でも群を抜く成績だ。

 いわゆる、飛び級ってやつだな。


「マルコ、すまない。まだ幼いマルコに重たい責任を負わせてしまって」


 マルコは可愛いので、彼を新型火器の試験名目とはいえ、異邦者と戦わせたくなかった。

 同年代の子供たちは、まだ訓練を続けないとお話にならないレベルで、結局マルコだけ飛び級させてしまったのだから。


『兄様、気にしないでください。僕は自分の意思で、人々を苦しめる異邦者たちと戦う覚悟をしたのですから』


「マルコ……」


『それに、兄様にあてにされるなんて、とても嬉しいです』


 マルコは、なんていい子なんだ!

 今はお互い魔晶機人改に乗っているので不可能だが、そのまま抱きしめたくなるほどだ。

 将来はイケメンになりそうだが、今はまだ女の子のように可愛らしいからだろう。

 そういえばマルコは、幼年訓練所では女子は勿論、男子にも大人気だったそうだから。


『兄様、リリー様たちは参加していないんですね』


「みんな、忙しいからだよ」


 他国出身の留学生たちは、祖国帰還と領地奪還、ゾフ王国とサクラメント王国と常時連携を取れるようになるための軍事作戦に参加できるよう、魔晶機人改部隊を編成、訓練を続けていたからだ。


『キャリアーと魔晶機人改で構成した独立部隊ですね』


「ああ」


 学生たちの多くが他国出身者なので、形式上はゾフ王国軍の指揮下に入る。

 だが、彼らを祖国に関わる作戦以外で使い潰すことはできず、今は練度の向上が最優先だった。

 練度を上げるため、魔物と異邦者の戦いには参加してもらうことになっているが、みんな素人なので現在は戦力化で精一杯のはずだ。


『リリー様のサクラメント王国とは、ちゃんと連携できていますよ』


「リリーたちはグレゴリー王の命令で、魔晶機人改部隊の編成と、運用データの収集をしているんだ」


 突然リーアス王国へ侵攻してその統治機構を粉微塵にした直後、異邦者たちに襲われて王と多くの貴族を失ったサクラメント王国は、現在実質的にゾフ王国の属国扱いとなっていた。

 侵攻していたリーアス王国を併合したのはいいが、かの国の貴族や民たちからすれば、サクラメント王国は侵略者でしかない。

 統治に協力的なわけもなく、それでも反抗しないのは、ゾフ王国軍が自国を襲った異邦者の大群と、その指揮官を討ち取ったからだ。

 サクラメント王国は急ぎ戦力を立て直す必要があり、魔晶機人改の装備を進めていた。

 所持、発掘した魔晶機人をゾフ王国に無料で差し出し、その代わり魔晶機人改を安く売ってもらう。

 ただ、サクラメント王国軍に際限なく魔晶機人改を渡すと、魔晶機人改を装備したゾフ王国が攻められる危険がある。

 そのため交換条件は、魔晶機人三機と魔晶機人改一機で、しばらく交換は、サクラメント王国軍のみ。

 この条件はサクラメント王国には有利なものの、同時にサクラメント王国がゾフ王国の属国扱いになるに等しいか、少なくとも他国からはそう思われてしまい、これに反発している貴族たちが多いと聞いていた。

 他にも、一部を除いて魔晶機神も差し出す。

 キャリアーも同様。

 さらに、研究中に放棄された魔法道具なども、サクラメント王国はゾフ王国に差し出している。

 これを屈辱的だと考えるサクラメント王国貴族が多くて、両国の連携を深めるには時間がかかると予想されていた。


『この期に及んで、まだそんなことを言っている貴族たちがいるんだ。本当は今すぐ、サクラメント王国とゾフ王国を合併させたいが、この状況でバカな貴族たちに反乱でも起こされると困る。時間をかけてやるしかない』


 以前グレゴリー王は、私に衛星通信でそう愚痴っていた。

 私とリリーの子供を次のサクラメント王とし、俺とアリスの子供が次のゾフ王になる。

 そして両新王の子供同士が結婚して、生まれた子が両国統合の象徴となる。

 気が長い話だけど、性急にやればサクラメント王国貴族とリーアス王国貴族の反乱祭りになってしまうから仕方がない。


『そんなことまで決まっているんですね』  


「マルコもこれから色々と大変になるから、それは申し訳ないな」


『安心してください。僕が兄様をお守りしますから』


「ありがとう、マルコ」


 本当にマルコは可愛いよなぁ。


「というわけなので、マルコもネネも遠慮しないでぶっ放して、しっかりとレポートを書いてくれ」


 そうすることで、五十七ミリ銃は実用的な火器となり、大量に配備することができるのだから。


『私も、派手にぶっ放すかな』


 他にも、ゾフ王国軍の操者が多数参加して、視界に入った異邦者を五十七ミリ銃で撃ち落としていく。


『兄様、二十ミリ銃の三倍近い口径ですけど、思ったよりも反動が少ないですね  


「貫通力も段違いだな」


 兵士クラスの異邦者だと容易に貫通するので、一番数の多い兵士クラスを沢山倒せそうだ。

 それでも異邦者の数が多すぎて、我々人間は異邦者たちに滅ぼされるリスクが間近にあるのだから困ってしまう。


 とにかく、戦力強化を続けていかなければ。

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