第百四話 単機突撃
「さぁ、行くわよ!」
ついに、王都防衛戦が始まった。
上空から多数の異邦者たちが攻め寄せ、それに対し、まずは四十ミリ銃を構えた魔晶機人が攻撃を開始する。
四十ミリ銃の威力は、異邦者の兵士クラスには十分で、次々と落とされていく。
だが、その数はあまりにも多く、いくら落としても減る気配はなかった。
「弾が切れた! 補充してくる!」
「次は俺だな」
「じゃあお先に!」
魔晶機人は交代で、後方の荷駄に載せてある新しい弾倉を補充し、再び射撃を開始する。
グレゴリー王子に従っている操者たちはプロの軍人たちが多く、効率よく異邦者たちを落としていた。
王都周辺に大量の異邦者の死骸が積み重なっていき、それを乗り越えるようにして無法者も迫るが、これも順番に撃破されていった。
「リンダ、いくぞ!」
「はい!」
新型の魔晶機神改に乗る私たちは、新型火器の実験、という名の虐殺を始める。
「この銃、弾は小さいのね」
「その代わり、貫通力と発射速度は桁違いだそうじゃ」
まずは、『二十ミリガトリング砲』なる新型試作火器を異邦者たちに向けてぶっ放す。
この火器は非常に大きくて重く、魔晶機人だと複数機でしか運用できない。
新型魔晶機神改に乗る私と姫様は一台ずつ預けられ、データ収集も兼ねて容赦なくぶっ放した。
「これ、発射時の衝撃も凄いわ!」
「肩こりが治りそうじゃの」
未成年の姫様が肩こりになるとは思わないけど、その気持ちはわかるわ。
暴れる銃身を異邦者たちからズレないよう、機体を制御していると、銃弾で穴だらけにされた異邦者たちが次々と地面に落ちていく。
「凄い威力だけど、弾が早く切れちゃうわね」
「……そうよな」
「姫様?」
「こんな凄い威力の火器を、サクラメント王国の操者たちが受けぬことを祈るしかないの」
当然だけど、ガトリング砲はゾフ王国しか作れなくて、今はサクラメント王国とゾフ王国は共闘しているけど、将来両国が争う未来が訪れるかもしれないと考えたら、姫様の顔色が優れなくて当然か。
「妾はこれまで、強い操者になることだけを目指しておったが、サクラメント王国の王女としてやらねばならぬことがあるようじゃの。グレゴリー兄に相談してみるか」
などと憂いを帯びた声で言いつつも、さすがは姫様。
ガトリング砲での射撃は止めず、恐ろしい数の異邦者を落としていく。
「弾切れか」
「私もです」
ガトリング砲は非常に効果的だったけど、試作品なので二丁しかなく弾薬も撃ち尽くしてしまった。
加熱したガトリング砲を後方に下げ、次の試作兵器を持ってきてもらう。
「次の試作火器は?」
「散弾銃ですね」
「一定の範囲内に弾を発射する銃か……。サクラメント王国には作れぬの」
これはガトリング砲ほどの威力はないけど、一発で密集している異邦者を数体ずつ落とせるのがよかった。
なにより、こいつの弾薬はガトリング砲よりも多くあるのがいいわね。
次々と撃って、異邦者を落としていく。
「全滅させるつもりで落とすわよ!」
「弾はまだ十分にあるからの」
私たちは順調に異邦者を落としているけど、徐々に城壁に配置された魔晶機人の中に撃破される機体が出てきた。
とにかく異邦者の数が多すぎて、迫りくる異邦者を倒しきれない機体が出始めたのだ。
「操者は生きているかしら?」
「それを願うしかあるまい」
「王都の外壁はもう守りきれない! 放棄して、第一防衛ラインまで下がれ!」
全軍を指揮するサムソン子爵から、一段防衛ラインを下げるように通信が入った。
幸い王都は無人なので、外縁の壁を放棄して次の防衛拠点に下がっても住民が異邦者に襲われることもなく、さほど問題はない。
王都の施設や建物は壊されるけど、異邦者たちを退けないと復興を始められないのだから。
「リンダ、下がるぞ!」
「はい!」
味方の後退を支援しながら散弾銃を連射しつつ、視界に入る範囲内で、味方に脅威となる異邦者から落としていく。
王都の建物を盾にして異邦者たちの攻撃を防ぎ、お返しとばかりに散弾銃をぶっ放す。
王都に、異邦者たちの死骸が大量に積み上がっていった。
「あとで片付けが大変じゃな」
「そうですね」
王都の周囲も、王都の外縁部も、王都の中も、異邦者と無法者の死骸で埋まっていく。
無法者はともかく、異邦者の死骸は使い道が少ない。
金属部分は使えなくもないけど、色々な金属が混じっているそうで、これを再利用するのは大変だってエルオールが言っていたのを思い出す。
ゾフ王国なら再利用できるみたいだけど、ゾフ王国に侵入しようとした異邦者の死骸が大量にあるみたいだし、ここからゾフ王国に異邦者の死骸を運ぶのは大変そうね。
「(異邦者の死骸って、早く片付けないと腐って疫病の原因になるだろうし……)」
これは、魔物や無法者の死骸でも同じなのだけど、両者は素材として使えるから。
一方、見た目がグロテスクな異邦者の謎肉なんて食べたい人はいないので、これだけの死骸があると片付けが大変そうね。
「(それを考えるのは、あとのことね!)」
とにかく火器をぶっ放し続けて、一体でも多くの異邦者を倒していく。
恐ろしい数の弾薬を消費したけど、ゾフ王国軍はちゃんと補給があるから弾薬切れがないのが凄いと思う。
その地区の防衛が難しくなったら、また一段後ろに下がると次の防衛拠点が用意されており、予備の弾薬が置かれていた。
「やはり、魔晶機人の損失が大きいの……」
姫様の声に悲しみが混じった。
魔晶機人は魔晶機人改に比べると性能が落ちるので、撃破されてしまう機体が多かった。
それでも、支給された四十ミリ銃のおかげで、だいぶ損害は抑えられてると思う。
それにいくら高性能とはいえ、魔晶機人改の損失がゼロというわけでもない。
訓練期間が短いサクラメント王国軍人の機体から撃破されていった。
「そういえば、エルオールは?」
エルオールが、あの特別な魔晶機神改で戦えば大きな戦果を挙げられるはずなのに、まだ姿が見えないのは不思議ね。
「なにやら、サムソン子爵と作戦について話しておったから、切り札として投入されるかもしれぬ」
「切り札ね」
「妾たちも、もうひと踏ん張りじゃの」
その後も戦い続け、ついに王城とその周辺の最終防衛ラインにまで下がった。
上級貴族たちのお屋敷を盾として、異邦者たちを次々と火器で落としていく。
たまに、流れ弾が屋敷に当たって壊れてしまうけど、そのくらいは我慢してほしい。
「あとで屋敷の持ち主から、『修繕費を出せ!』って怒られたりして」
「そういうセコい貴族はいるであろうな。無視するだけのことよ。味方の損害は、およそ一割といったところか……」
「学生たちの損失はないのね」
「散々、魔晶機人改で訓練してきたからの」
魔晶機人改だけど、様々な試作用の火器を使って、リック、ケイト、クラリッサを始めとして、Aクラスの全員がまだ戦っていた。
最初は学生なので心配されていたけど、今ではゾフ王国軍にもサクラメント王国軍にもあてにされていた。
学園での訓練って、効率的に操者と軍人を育てられるのね。
「しかし、火薬臭くなりそうだな。弾薬を撃ち放題なのはいいが」
「死ぬよりはいいと思いませんこと?」
「その意見には賛成だ」
「普段の魔物狩りで、これだけの弾を使って素材やマジッククリスタルの成果がナシだったら、叱られるなんてものじゃないですね」
「本当だよ。異邦者ってのは、この世界に優しくないな」
リック、ケイト、クラリッサは、Aクラスの中でも頭一つ抜けているみたいね。
「姫様が心配だが、これも命令だから仕方がない」
「姫様の新型魔晶機神改と、私たちの魔晶機人改で連携を取るのは難しいですからね」
ライムとユズハも無事で、ペアを組みながら試作火器と四〇ミリ銃を交互に撃ち続けていた。
もはやこの戦いに参加している操者で、エースではない者は一人もいないだろう。
他も学生組は、みんな無事でよかった。
でも、やっぱりエルオールの姿が見えない……。
「リンダ!」
「あっ!」
と思ったら、王城の近くに置かれた旗艦から、一体の魔晶機人改が姿を見せた。
しかもよく見ると、全身針鼠といった感じで多数の火器を持っている。
さらに……。
「リンダ、あれは?」
「ゾフ王家のマークだから、エルオールね」
でもどうして、魔晶機人なんだろう?
あの新型で戦った方がいいのに。
「なにか作戦があるのかしら? デカっ!」
エルオールの機体が、足元に置かれた長い棒……巨大な火器を持ち上げ、その先端を上空の異邦者たちに向けた。
そしてその直後、凄まじい音と共に弾が……弾だと思うけど、あまりの速さで確認できなかった。
銃身の長い火器による射撃の威力はすさまじく、命中した異邦者のみならず周囲数十メートル内にいた異邦者までハチの巣にしてしまい、さらにその後ろにいた異邦者たちにまで貫通した弾が当たり、そのまま地面へと落下していく。
「リンダ!」
「凄いわね」
エルオールが新型試作火器を放った場所だけ、ポッカリと穴が空いてしまった。
『今だ! 突撃!』
エルオールは、その長い新型火器を甲板に置くと、そのまま全速力で飛び上がり、自らが開けた穴から突入した
『邪魔だ!』
とっかかり部分のような穴から突入したエルオールは、両手に持った四十ミリ銃で進路を防ぐ異邦者たちを薙ぎ払いながら、スピードを落とさずに異邦者の大群へと飛び込んでいった。
「エルオール、さすがに無茶じゃないかしら?」
「もしや、異邦者たちの統率者を目指しているのか?」
『はい、実はこれら膨大な数の異邦者たちを操る存在を確認しました』
「「ビックリした!」」
突然、遠く離れたフィオナから魔法通信が入ったので、私も姫様も驚いてしまった。
「つまり、後ろに要塞クラスでもおるのか?」
それにしては、私とリリーどころか、この戦いに参加している操者は誰も確認していないはずだけど……。
『いえ、それなら目立ちます。この恐ろしい数の異邦者を統率する指揮官の目は兵士クラスで、どうやら、前回と前々回で大要塞クラスが立て続けに落とされてしまったので、指揮官が目立つと狙われると学習したのでしょう』
「異邦者たちが学習?」
まさか、あの不気味な異邦者にそんなことができるなんて……。
でもよく、はるか遠方にいるフィオナが……。
これだけの火器を生産できるアマギを有しているのだから、そのくらいのことはできてしまうのでしょうね。
『このままでは、派遣軍が異邦者の大群に磨り潰されてしまうことが判明しました。私は艦長に撤退するよう提案しましたが、同時に異邦者の大群を指揮する指揮官を討てば勝利できると報告したところ……』
「エルオールは、指揮官を討つことに決めたのね。でも、他の異邦者と同じ見た目だと、どれが指揮官かわからないのでは?」
「特徴のありそうな異邦者は、妾の視界には見えぬの」
『当然それは発見して、艦長に伝えてありますので』
どんな方法で?
それはあとで聞くとして、今の私たちができることって……。
「とにかく派手にぶっ放して、異邦者たちの大群の興味をこちらに惹く!」
異邦者の指揮官が過去の戦訓を学習しているとすると、自分を狙う単機の魔晶機人改に振り向ける戦力は最低限のものとして、残りはゾフ王国軍殲滅に集中させる判断をする。
エルオールはそう考えたから、単機での突入なのね。
「エルオールの腕前がないと、ただ死にに行くだけだけど」
「ならば、妾たちは目前の敵を落とせるだけ落とし、指揮官が妾たちの殲滅に集中するようにしなければならぬ」
「じゃあ、試作品の大披露といきますか!」
「おうよ!」
サムソン子爵にも同じ命令が出されていたようで、ゾフ王国軍はまるで後先考えないような弾薬の雨を異邦者たちに叩きつけた。
短時間で恐ろしい数の異邦者が落とされ、その損害を埋めるかのように前線に出る異邦者の数が増えた。
もはや大半の異邦者たちは、単機で指揮官を目指すエルオールよりも、ゾフ王国軍の殲滅を急ぐはずだ。
「エルオール、失敗してもいいから生きて帰ってきて」
「エルオールは冷静だから、駄目ならすぐに戻ってくるであろう。妾たちは目前の敵を落とすのみよ」
双方が死闘を尽くし、王城を巡る防衛戦はいよいよ終盤を迎えることになった。
私たちもエルオールも、無事に生き残れればいいけど。
だって、成人する前に未亡人になるのは嫌だから。